第12話 砂漠のオアシス
「…………で?未来から来た殺人アンドロイドなのか、異世界から来た魔法使いか、悪の秘密結社の改造人間か、それとも宇宙人か。一体どれなのかね、君は」
「あー…………たぶん最後のだとおもいます…………」
神戸での夜の訪れは早い。ほとんどの店舗はすぐに閉まる。
その例外である、深夜営業の牛丼屋の席で向かい合っているのは二人の少女。
遥と鶫だった。
両者ともラフな格好。泊まり込みの予定だったためにスウェットである。
「…………なら。その宇宙人を襲ったのは何者だ?」
「さっぱり分かりません」
問いかけに対して正直に応える鶫。少なくとも、あんな刺客に襲われる覚えはない。
「あ、でも。あいつ、ひょっとしたら私のメールボックスを見て、うちまできたのかも……」
「メールボックス?」
怪訝な顔の遥に、鶫はざっと説明した。太陽系の各所にメールボックスを設置してあること。そこには自分の住所氏名等を書き込んであること。それは他の恒星間種族が地球を訪れたときに備えてのものだと言うこと。などを。
そこへ、注文の料理が来た。遥は牛丼とポテトサラダ。味噌汁。鶫は同じく牛丼と生卵、けんちん汁である。
「ちょっと待て。じゃあ、何か。君は太陽系を自在に往き来できるのか」
「はい。試した範囲では、十光年先までは遠出したことあります」
「――――もう一度聞く。君は何者なんだ」
「分かりません。十年前、この星に漂着した時より前のことを覚えていないんです。
分かっているのは、自分が機械でできたある種の生命体だという事。人間とはかけ離れた姿と巨体を備えていること。明らかにこの星の水準を越えた科学知識を持っていること。ひとりぼっちなこと。
この姿は遠隔操作しているロボットです。本体じゃ、人前に出られませんから」
「――――それがなんで、女子高生を?」
「この星に骨を埋めるなら、学歴は必要でしょう?それだけじゃ、ありませんけど」
牛丼の真ん中にくぼみを作ると生卵を落とし、箸でかき回す鶫。
上手でしょう?練習したんですよ?と呟いてから、彼女はそれを口へ運んだ。
人間そのものの姿。そして振る舞い。
「君に骨があるのかね」
「骨のある方だとは思いますけど」
遥も、ポテトサラダを口へと運んだ。旨かった。
「先輩は、砂漠のど真ん中にあるオアシスにたった一人、記憶喪失で放り出されたらどうしますか?外の世界に誰かが住んでいる可能性に賭けますか?」
「オアシスに留まるだろうな。外の世界に出ていっても野垂れ死ぬだけだろう。砂漠を探索するにしても準備が必要だ」
「それと同じです。せっかく星一つ分の生産力と人手があるんですから。まだ見ぬ同族や故郷を探すのに、協力を仰がない手はないでしょう?どうせ利用するなら内に潜り込む方が合理的ですし」
「違いない」
やがて、口数も減ってきた少女たち。
二人は黙々と箸を進めていった。
◇
夜の神戸市。その中心とも言える三宮の東にある牛丼チェーン店で、二人の少女が腹ごしらえをしていたとき。
彼女らを取り囲む幾つかの人影があった。
休息を取っていた二人はまだ気付いていない。危険が迫りつつあったことに。




