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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第一章 大事件は春風と共に
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第11話 玄関の攻防戦

 扉を開いた鶫は、眼前の警察官に違和感を覚えた。頭一つ分大きいがっしりとした体格に。人間ではないものが無理に人間のふりをしている、というか。自分も人の事は言えないが。

 されど、その服装は正規の制服である。腰に下げた拳銃も質量分析した限りでは実物に見えた。

 もしもこの時点で彼女が警察官の肉体を詳細にスキャンすることができていれば、普通の人間ではないことが明らかになっていただろう。されど、今ここにいるサイバネティクス連結体にそこまでの知覚能力は与えられていない。

 だから鶫は、相手が動き始めた時も行動に移る事ができなかった。

「失礼」

 警察官の言葉。それと同時に伸びた腕は、鶫の胸を正確に貫いた。

「――――え?」

 事態の把握が遅れる。致命的な隙。

 鶫の構成原子。それを正確にすり抜けた腕は、即座に内部の解析と制圧を開始。神経系が速やかに制圧され、どころか制御中枢。そして通信経路を通じ、ここにはいない鶫の本体にまで侵入が進んだ。

「――――あ……ぁ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!」

 思考がエラーを起こす。躯体が異常挙動。制御できない。どころかこれはなんだ。私の心に押し入ってくる、こいつはなんだ。駄目だ。訳が分からない。助けて。誰か。

 鶫の内に広がるのは、混乱。それ以上に、絶望。

 救いの手は、背後から差し伸べられた。頭上越しに突き出された掃除機の先端は、鶫への侵入に忙殺されていた警察官、いや、その死体の顔面を痛打したのである。

 警察官が仰け反り、腕が抜ける。その拍子に跪いた鶫の体は、コントロールを喪失したことにより自動的に安定した姿勢へと移行したに過ぎない。しかしその場にいた唯一の人間に対しては、異なる解釈を与えた。

「大丈夫か!?」

 人類史上初めて異星人に攻撃を加えた遥は、そんな事実を知ることもなく追撃を加えた。掃除機の本体を警察官へとぶつけ、さらに後退させたのである。

 続いて扉を閉めると、鍵をかけ、チェーンロック。

 ひとまずの安全を確保した彼女は、茫然自失(しているように見える)する後輩へと駆け寄った。胸を貫かれていたはず。急いで救急車を呼ばなければ!

 そこで、奇怪な事実に気づく遥。後輩は胸を貫かれていたはずでは?たが彼女の胸板には傷一つない。何が起きている?

 しかし、そんな遥には混乱する余裕すら与えられなかった。

 背後。すなわち扉よりの金属音を聞き咎めた彼女は見た。

 扉から生えている、一本の腕。濃紺の制服を身に付けたそいつが、チェーンロックを外す光景を。

――――なるほど。鶫の胸もああやってすり抜けたのか。

 あまりに現実感のない光景に、遥の頭はむしろさえ渡り始めた。

とはいえあんなものを相手にどうすればいい?まもなく鍵も開かれるであろう。警察を呼ぶ?いや、こいつは警官だぞ!?

 高速で思考を進める遥。その傍らで、彼女が後輩と認識する人形が再起動しつつあった。

「――――あ。ぁぁっ、かはっ!?」

 息を吹き返した(・・・・・・・)鶫。彼女も、混乱こそしてはいたが先輩よりはましだった。何が起きているかの技術的知識を備えていたからである。

だから彼女は踏み込むと、今にも開こうという扉に手を当て、そして体内に蓄えていた電圧を解放した。

 迸る電流。それは、閃光となり、扉の内にいる者たちの目を焼くほどの威力を発揮する。

 発光が収まったとき。

 ぼとり

 扉から落下したのは、制服に包まれた腕。

 透過は、物質に働いている電磁力学的メカニズムを無効化する事で行われる。そのバランスが崩壊したのだ。

「なんだ…………なにが」

「こいつはドローンです!かなりチープですが」

 困惑している先輩に最低限の説明を与えると、鶫は次なる行動にでた。遥を抱き上げ、靴を掴み、そのまま窓へと突進する。

「え!?ちょ、待て、ここは9階――――」

「大丈夫、信じて!!」

 窓が開かれ、そして。

 二人の少女は、夜の闇へと飛び出していった。


  ◇


 閉じられた扉の外。そこに佇む、片腕のない警察官は。いや、それを操る者は驚愕していた。相手に逃げられたことが、ではない。

 ここに治療の必要がある同朋がいたことに。

 突撃型指揮個体は、地中に潜みつつ考える。

 回線経由で侵入したことで、相手が何者か把握できた。あれは自分たちの同類。金属生命体だ。だが、その精神は著しく損傷を受けている。傷つき、記憶を失った状態でこの星に漂着したに違いない。恐ろしかったろう。心細かったであろう。

 なんと痛ましい。

 元来が群知性から進化した金属生命体は、情け深い種族だった。同胞に対しては。

 彼女は通信回線を開くと、今後について仲間と協議しはじめた。

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