そのよん
王妃と呼ばれた女性はその七海を満足げに見て、
「お前は何者?ドレスのデザインでも売り込みに来た業者かしら?」
と少し、七海に興味を持ったように声をかけた。
だが、すぐに
「でも、ごめんあそばせ。わたくしは今、服飾費を以前の様に自由にできないのよ」
とさみしげに瞳を伏せた。
そして続けて
「ですが、素敵なお国の民族衣装と見事なカーテーシーを拝見でき、ようございましたわ。ごきげんよう」そういうと、七海の横を通り過ぎ去って行こうとした。
そこへ。
どこからともなく音楽が流れてきた。宮廷音楽隊が王妃を追いかけ移動してきたのだった。軽やかな調べに七海は思わずその場でピルエットをまわった。ピルエットに関しては七海は「誰にも負けない!」と思えるほど美しく回れる自信があった。「この子は音楽がかかるとどこでも踊りだすんだから」と家族にあきれられてはいたが、七海の踊りは、みんなの自慢でもあった。
1回、2回、3回、4回…………連続して回るピルエットほど七海を美しく見せるものはなかった。
ふと、気が付くと音楽が止まっていた。ピルエットを止め周りを見渡すと、楽士までもがあっけにとられ、楽器を弾く手を止め、そこにいる誰もが七海に視線を注いでいたのだった。
…………あちゃちゃ~、またやってしまったわいにゃ~~。
七海は、中学生の頃、うつらうつらしていた時に窓の外から音楽が聞こえ、条件反射で踊りだして笑われたことを思い出した。その時、学校で授業中だったのだ。
王妃も七海を見ていた。
…………やっちゃった…………。
七海は慌ててカーテーシーをして、その場を立ち去ろうと踵を返したが
「お待ちなさい!」先ほどと同じ少し甘いハスキーな声が響いた。