その25
翌年の10月になって、かねてよりルイ16世が信頼していたラファイエットの態度の変化、その次の年の4月のミラボーの死や、復活祭に向かおうとした王家一行がテュイルリー宮殿を出ることができなかった事件などにより、ルイ16世も、自分たちが完全に囚われの身であるということをやっと自覚した。
「これであとは実行あるのみ、ですね」アントワネットは最初に国王を見、それから、この計画の功労者ともいえるフェルゼンを見てにっこりとほほ笑んだ。逃亡計画が最終的に決定したのだった。
今、ここに集う者たちは完全に志を一つにするものばかり。その安心感から、いつもふさぎ込みがちな王妃も今日は笑みを浮かべていた。皆が部屋を順次出ていき、国王と王妃、フェルゼンだけが残った。
「後一つございます」フェルゼンが立ち上がった。
「なんですと?」国王が怪訝な顔をした。
「はい陛下」フェルゼンは、国王に向き直ると、顔色一つ変えずにある計画を打ち明けた。
その顔は冷酷な軍人の顔になっていた。
「なんと!ノン!そのようなこと、できようはずがない!あの娘は子供たちによくしてくれているではないか!」
王妃のほうも、フェルゼンを激しく睨みつけて言った。
「ノン!あの子は、もうすでにただの侍女ではなく、私の友人の一人です!」
その視線から目をそらすことなくフェルゼンは言い放った。
「何をおっしゃるのですか。何のためにあの者を、今までおそばに留め置いたと思っておられるので?」