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その24

 そんな日々の暮らしの中で、宮殿の中ではフェルゼンを中心として、ある策が企てられていた。


「このままでは危険なのです。お命が、という意味ですよ」何度もフェルゼンはそう国王夫妻に訴えたが、いつものらりくらりとかわされるばかりだった。


「フェルゼン伯爵、そうはいっても…………」国王はいつも歯切れ悪く、「国民を裏切り、国王が国を捨てるなど、きいたことがない」最後にはそういって終わりになる。王妃の方は、「必ず、国王陛下にかつてのようにお力がお戻りになる日が来ます!」そういって王権神授説をただひたすら言い続けた。


 要するに、この夫妻は現実を見る目、というものを持ってはいないのだ。


 フェルゼンは本来スェーデン人であり、いくら王妃の愛人とうわさされていようが、愛人の一人、に過ぎない。すでにあまたの、取り巻き、貴族連中が国王一家を見捨て、国を離れている今となってまで、この一家になぜここまで尽くすのか。おそらく、フェルゼンの中にある騎士道精神が、彼が忠誠を誓った愛する貴婦人と、その人の愛する家族に対して最後まで忠実であり続けようとすることを強いたのであろう。つまり、とても不器用な愛し方、生き方をする男なのであった。


  一方、もう一人の男、ルイ16世にしてみれば、フェルゼンは妻の愛人、つまり浮気相手なのである。万一夫婦関係が破たんしている夫婦を例にたとえたとしても、自分たち家族の周りに妻の間男が、わが物顔でうろつく事に、快い思いをする夫などいないだろう。まして、このルイ16世夫妻は、何のかんのと言っても、夫婦の間はうまくいっていた、という記録がある。そこに、別の男が、間違いなく男の側は自分の妻に夢中の男が、自分を含めた妻の家族を『助けてやる』と、でかい面をして介入しているわけである。なにより、ルイ16世にとって、フランス国王である自分が、フランス国民から逃れるために、外国人であるフェルゼンの手を借りるなど……納得できるものではなかった。

 ルイ16世にとっては、この一連の計画すべてが屈辱に満ち溢れていたに違いない。

 後に、この国王の屈折した思いが、今、フェルゼンを中心として王党派が企てている、後に『ヴァレンヌ事件』と呼ばれる計画の失敗の一つの大きな要因となっていくのである。


 こうして、ルイ16世の政治面においての希望的な観測にひずみの出ない間はのらりくらり時は過ぎて行ったのであった。


 七海はその間、すっかり心を閉ざした王女と遊び盛りの王子の世話に明け暮れていた。元の世界のことを考えないでもなかったが、考えてどうなるというものでもない、といったん結論付けると、あとは日々の暮らしをできるだけ楽しむことに気を配った。


 七海もまた、刹那的思考の持ち主であった。

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