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その23

 翌日の午後1時過ぎ、七海も一家と同じ馬車へ乗り込んだ。七海がふと馬車の窓から目を外に向けると、市民の群れの間に、何か槍の先にマネキンの首のようなものを刺して高々と掲げているのが見えた。


「なんだろう……人形?」と七海はそれを見つめ、一拍をおいて、それが昨日惨殺された近衛兵の首であることを理解した。


 その瞬間、七海は、王子を、窓の外を見ることができないように抱きかかえ、王女に向かって「見ちゃダメ!」と叫んでいた。


 道中、「オーストリア女!」「贅沢夫人!」と罵詈雑言を浴びせられながら進む馬車から王子は身を乗り出し、民衆へ向かって「ママを許してあげて!」と叫び続けていたと言われている。


(またまた、余計なお世話のプチ解説。この時パリの女たちが「あたしたちはパン屋の主人と女将と子供たちをパリに連れてきたよ!」と叫んだと言われていますが、そもそも、行進を始めた時点では、本当にパンがなくて困っていたパリの女たちは、行進途中のパン屋を襲って、そこの主人夫婦を殺した、という記録があります。主婦を中心とした、その行進に参加した者たちの大部分の目的は、本当に、『その日のパン』を手にいれることだった、と言われています。

 ルイ16世一家を「パン屋」と言い出したのも、ジャコバン派の後付けのような気がします。こちらも作者の主観です。ご了承~♡)




 テュイルリー宮殿は荒れ果てていたが、それでも、七海は、ついてきた家臣や女官とともにできるだけ住みやすく、清潔に、と気を配った。そして、


 …………できるだけ、子供たちに心配顔をさせないであげたいにゃん。


 と必死に、相手をした。


 だが、この宮殿に移ってから王女は何やら明るさを失い、いつも半分扇で顔を隠すようにうつむいている。そればかりか、アントワネットもふさぎ込んでいるのだ。


 親しくなった女官に、


「王女様はいつもあんな風でしたか?以前一緒に遊んだ時は別人のように明るかったのに」と問うと、


「お子様方は基本的におつきの侍女が決まっているから、私たちは遠くからお姿を拝見するだけなのよ」との答えだった。


 遊んだと言っても一回きりだし、身分のある人たちというものはそんなものかなあ、と一応納得した。が、王家というものはこんなにも親子の間が遠いものなのだろうか、と思う光景にも出くわすことがあった。


 一度、馬で出かけたアントワネットが落馬したが、大きなけがはないと知らせがあった時だ。


 王女がこう言ったのだ。「あの人が死ねば私は自由になれたのに」


 七海は「なんてことをいうんですか!」と王女を叱ったが、以前の王女ならつんと澄ましていても、こんなひどいことは言わないだろう、と悲しくて七海の方が泣いてしまった。


 あの日の恐怖が王女の心に深い傷を残し、王女を変えてしまったのかもしれない。そう思うと七海は


 …………絶対、癒してあげるにゃん!


 と決意を固くし、嫌がられても笑わせようと食い下がる日々だった。



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