表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/34

その22

 王妃も七海もそう思ったとき、


「早くこちらへ!」


 続きの間への扉があき、間一髪、王妃と七海は向こう側へ逃げ込むことができた。


 国王の廷臣が、扉をたたく音に気づいてくれたのだった。


 国王はすぐそばまで出てきていて、妻の無事を確かめると、次に子供たちを迎えに行き、国王一家は国王の寝室に集まり避難することができた。


 宮殿の中は暴徒で埋め尽くされ、暴徒に惨殺された近衛兵の首をやりの先にさして「パリへ、パリへ!」と叫んでいた。

 市民はどうしても国王をパリへ連れて行きたかったのだ。


(ここでまた、余計なお世話のプチ解説。通説では、この10月事件で、国王一家は市民の監視のもとに置くためにパリに送られた、と書かれていることが多いのですが、これはあくまでジャコバン派の思惑でしかなく、暴動に参加していた市民には、そこまで深い考えはなかったのではないか、と思われます。その頃、パンが値上がりして生活に困窮していた市民が、「国王がパリにいさえすれば何とかなるのでは、何もかもうまくいくのでは」と考えた、という説もあります。言ってみれば、国王の力というものを信じていたからこその行動である、というこの説が、もっともふさわしい様な気がします。当時は王権神授説が信じられていた時代であり、日本の第二次世界大戦中の天皇への無限の信仰にもつながる気持ちのような気がします。あくまで作者個人の見解です。ご了承~♡)


 国王は最初尻込みしていたが、暴徒を鎮めるため、とラファイエット将軍に説得されてバルコニーへ出た。


 すると、それまで騒いでいた民衆が国王の姿を目にした途端、


「国王万歳!」と歓喜の声を上げ始めたのだ。


 だが、民衆は続いて王妃の登場を求めた。その声は


「オーストリア女を出せ!」という敵意と憎しみに満ちたものだった。


「だめです!出たら殺される!」


 先ほどの恐怖がまだ去っていなかった七海は、そう言ってアントワネットを必死に止めた。そして七海だけでなく、その場にいる誰もがそう思っていた。アントワネットがバルコニーに出たら、狙撃されるだろう、と。


 だが、王妃は、


「このままでは、静まらないでしょう」とバルコニーへ出ようとした。


「そうだ、王子様と王女様をお連れになっては!」七海は王妃を止めようと叫ぶように言った。


「そうだ、そうだ。子供たちが一緒なら、彼らも手出しはしまい!」ルイ16世も汗まみれになりながら王妃に提案した。国王も、どこからか王妃を狙うスナイパーの存在に恐れ、おびえていた。


 だが、アントワネットが、子供たちの手を引いてバルコニーへ出ようとすると、民衆は、

「子供はいらない、王妃だけだ!」とまた騒ぎ出した。


 その声を聞いて、アントワネットは意を決して、一人でバルコニーへ出た。


 一瞬、あたりがシンと静まった。


「オーストリア女め!」またヤジが始まったがアントワネットは胸の前で両手を組み合わせると民衆に向かって深く一礼をした。


 民衆はその気品と覚悟に打たれて静まった。


 そしてラファイエットが、民衆の見守る中、王妃の手に恭しく口づけをし敬意を表したことでヤジは「王妃万歳!」という声に変わり、騒ぎは静まったのだった。


 だが、市民は依然として王家をパリに移すことについては譲らず、この翌日、国王一家はパリ、テュイルリー宮殿へと移されることとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ