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その21

 朝の6時にアントワネットに起床時刻を告げるオルゴール時計が軽やかに鳴り響いた。


 その約一時間ほど前からベルサイユの庭園内では不穏な動きが起きていた。雨は上がっていたが、宮殿内に入り込んだ暴徒が庭園内をうろついていたのだ。


 アントワネットもオルゴール時計の音に目覚めたとき、その窓の外のざわめきに気づいた。


 屋外では大変な騒ぎが起きつつあった。


 王家を警護していたスイス兵が迫りくる市民に発砲し、一人が命を落としたのだった。


 仲間を殺されたことで暴徒と化した市民たちは、宮殿内に入り込もうとし、阻止する近衛兵二名を惨殺した。大けがを負った一名が、それでも王妃の元に急を知らせようと駆けつけてきた。


 控えの間にいた七海は、ドアの外の物音に気づき、ドアを開けた。そして、息をのんだ。


 全身血まみれで、行きも絶え絶えの、近衛兵が「王妃様、お逃げください………」と言いながら倒れこんできたのだ。


 七海は慌てて王妃の寝室の扉をたたいた。騒ぎを聞きつけて、タレーラン司祭も駆けつけた。


 王妃の部屋の扉があいた。そこには、ほぼ下着姿の王妃がいたが、なぜかそのそばにフェルゼン伯爵がいた。フェルゼン伯はそのまま司祭に一礼をすると王妃の部屋から出て行った。


 王妃はたじろぐことなく、


「これは何事ですか?」と問いかけた。


 その間にも、暴徒は宮殿内の調度品を壊しながら王妃の寝室へと向かっていた。


「王妃様、今すぐお隠れください!」


 司祭も七海も騒動が起きていることを王妃に告げた。


 驚いた王妃は下着の上にスカートをはき、慌てて靴下をはいた。そしてショールを羽織ると、部屋の隅の隠し扉から出た。その先に続きの間から、国王の寝室へと続く抜け道があるのだ。そこを通れば、まず安全に国王の元へ行ける。城にはいざというときのためのこんな仕掛けが用意してあるのだ。


 だが、隠し扉から出たところで、思わぬ出来事が。


 七海がいくらドアノブを回そうとしても動かない。押しても、引いてもびくともしない。


「王妃様、向こう側からカギがかかっています!」


 普段使うことなどない、隠し通路、誰かがいつか鍵をかけて、それっきりなのだろう。


 だが、背後には、もうすでに暴徒と化した市民がが王妃の寝室のドアを斧で割る音が聞こえてきた。


「開けて、ここを開けて!」


 王妃と七海は力の限り扉をたたいた。だが、国王の部屋は、この間にある続きの間の向こう側なのだ。この音が届いてくれるだろうか。二人は必死にたたき続けた。


 一方、逃げ出してきた隠し扉のすぐ裏側からは、王妃の寝室に入り込んだ暴徒が、寝室の調度を壊しながら王妃を探し回っている声が聞こえてきた。「出てこいオーストリア女!」「どこに逃げた!」「パリへいこう!」


 隠し扉は壁と同じような装飾で隠れてはいるが、もし向こう側から叩いてみれば音の違いですぐにばれてしまう。


 ――-もうだめだ。

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