その14
ヴェルサイユまでの道のりは約2キロ、王妃の馬車を追う形で、女官たちとともに七海もヴェルサイユへ向かう馬車に乗り込んだ。
王妃マリーアントワネットは馬車に乗り込む前にプチ・トリアノンを振り返った。そしてこれが、彼女がこよなく愛したプチ・トリアノンを目にする最後となった。
ヴェルサイユまでの通りはごった返し、何やら不穏な空気が流れていた。だが、七海にとって初めて通るパリの道。普段からこんなに混んで騒がしいものなのかどうか判断がつかなかった。
…………なんだか、ちょっと怖いにゃ…………。
七海もさすがに不安を感じていた。
ヴェルサイユへ到着し、宮殿の中に入った七海は、今度は度肝を抜かれて、声をあげた。
「おりょりょ~!!!」
これは一体……………!
あまりにも豪華な、内装だった。もちろん外から見た時も、その壮大さには驚いてはいたが、先ほどのプチ・トリアノンなどは比ぶべくもない華麗な装飾が施されていた。なんといっても天井の高さが高く、その天井に素晴らしい天井画が描かれている。金の装飾も、シャンデリアのきらめきも、先ほどのプチ・トリアノンとは格段に違った壮麗さだった。
…………さっきの宮殿も結婚式場みたいにきれいだと思ったけれど…………。
ああ、庶民の子、七海よ。
七海は2か月ほど前に参加したいとこの結婚式の式場が豪華さの『基準』だったのだ。
七海はこのフランス王家というものの力を、やっと今頃、ほとんど何の予備知識もなく(授業で今習っている箇所のほんの数ページ前の項目だというのに)、肌身で感じているところだった。
「国王陛下はどちら?」宮殿に着くなり王妃は出迎えた女官に尋ねた。
「それが……狩りにお出かけ遊ばされ、使いを出しましたものの、いまだに戻っておられぬということにございます」
女官も、顔の色を失っていた。もうヴェルサイユの門の前には群集が集まりだしており、その数はどんどん増えているようだった。
「ああ、なんということ、なんということ…………」
王妃は突然のこの状況の意味が呑み込めず、すっかり動転しているようだった。
「王妃様、フェルゼン様が!」
女官の一人が歓喜の叫びをあげた。
フェルゼンはごった返す民衆の間を馬を飛ばし、危険も顧みず駆けつけてくれたのだ。
フェルゼン伯が扉から姿を現すと
「おお、フェルゼン、フェルゼン!」