4 真実
父親の言っていた時間よりやや遅れ、2時間半が経った頃にようやく彼らは山のふもとまでたどり着いた。
依然として雪は降り続けている。
すっかり日も暮れて、あたりに明かりのひとつもなくなってからかなりの時間が経過していた。
はじめのほうこそはしゃいでいた子供たちだったが、今では歩き続けたことで疲労の色がかなり濃くなっていた。
それでもサンタクロースに会いたいという気持ちが揺らぐことはなかった。
サンタクロースに会ったら、毎年プレゼントをくれてありがとうと伝えたい、
世界のことについていろんな話をいっぱい聞かせてもらいたい。
そう思うことで、疲れきっても兄弟で励ましあって頑張ってここまで歩いてきたのだ。
あと少し、この山を登ればサンタクロースに会える。
子供たちはそんな希望を胸にして、そして両親はその様子を静かに見つめながら、
4人は山に足を踏み入れた。
当然ながら山を歩くのは街中を移動する以上に体力を消耗する。
特に雪の積もった真冬の時期であれば尚更だ。
父親が先頭を歩き、母親、兄、弟とそれに続く。
視界も悪く、少し遠くへ目を向ければ景色は白で染まっている。
寒さでかじかみ手の感覚がどんどん鈍くなっていく。
体全体が凍え、雪を踏みしめている地面の感覚も遠ざかる。
それでもなんとかはぐれないようにと子供たちは先を行く父親を後を必死に追っていた。
変わり映えのない風景。体全体を刺すような雪混じりの凍てつく風。
長い長い、永遠にも思えた山登り。
「さあ二人とも、着いたぞ。」
弟の意識が遠くなりかけてきた頃、ようやくそれは終わりを迎えた。
到着した場所は、雪と夜の暗闇とで覆われている高原。
しかし兄弟に何日も前からしていた話と現実が決定的な矛盾をその景色は見せている。
そこに家族4人以外の人影は見当たらない。見当たるはずもなかった。
「ねえパパ……サンタさん、どこにもいないね。」
「まだ着いていないんじゃないかな。……あ、サンタも雪とか疲れとかできっと来るのが遅れているんだよ。僕らがそうだったように」
不安げに疑問を口にする弟、そしてその疑問に対して自らの推測を言い聞かせる兄。
「いや――違うよ」
そして兄の推測を即座に否定したのは、父親。
「サンタさんなんて、本当はどこにもいないんだよ。この世界のどこにもね」
「……」
「……」
突然父親から告げられた内容に言葉を失う子供たち。
呆然とする弟と、次第に表情を曇らせる兄。
沈黙を打ち破ったのは、兄だった。
「……父さん、僕たちに嘘をついたの?」
「あぁ。すまないね、どうしても君たちをここに連れてくる必要があったんだ」
「じゃあなんでわざわざサンタに会いに行くなんて言う必要があったんだよ、意味が分からないよ」
「……」
父親に嘘をつかれたショック、自分たちの歩いてきた意味が無駄だったことへの怒り。
様々な感情が混ざり合い、その声は震えていた。
父親は黙ってその言葉を受け止める。
サンタクロースはこの世に存在しない。
そんな平凡な現実も知らない無垢な魂。
兄と弟も、間違いなくその一部なのであった。
「……神よ。この愚かな子羊めを、どうぞお赦しください」
誰に向けて言うわけでもなく父の口からぽつりと零れる懺悔の言葉。
次の瞬間、父親が兄に向かって歩みを進める。
兄の目の前まで来たところで、ずっと忍ばせていた鋭利なナイフを振りかざし、そして。
兄の体から、真っ赤な鮮血が噴き出した。