3 12月24日・クリスマスイヴ
12月24日、クリスマスイヴの夕暮れどき。
雪の降るなか家族4人は住んでいた家を離れ、予定通りそこから東に位置するとある山へと向かった。
家から山までの道のりは決して短いとは言えないものだった。
歩いているうちにどんどん日は落ちていき、やがて地平線の彼方へと光は見えなくなっていった。
山までの道の途中には市街地もいくつかあった。
それらのどの場所も例外なく街全体がイルミネーションや音楽で華やかに彩られ、家族連れや恋人たちが皆、大切な人とそこで過ごすロマンティックなひとときに酔いしれていた。
幸福に浸りきっている民衆は、そんな街を通り過ぎていくみすぼらしい4人の家族など気づくことすらない。
気に留める必要すらどこにもないのである。
「あっ、パパ! サンタさんあそこにいるよ!!」
いくつかの街を通り過ぎていくなかで、何人もの子供たちに囲まれているサンタクロースの格好をした男がいた。
彼の存在に気づき真っ先に声をあげたのは弟だ。
「まだ山に着いてないのに……サンタのほうからこっちに来てくれたのかな」
兄も平静を装ってはいるものの、そんな街中の様子を見て楽しそうな雰囲気を隠せずにいる。
目に付く人すべてが寒い中厚着をしているなかで自分たちだけ少し薄汚れた、そしてこの時期にしては幾分か肌寒い服装であることなど気にもせずに。
「いいや、あの人は違うよ。パパたちが会う約束をしているサンタさんは、別の人だ」
「なぁんだつまんないの」
弟は少しむくれてしまった。
サンタクロースと出会えたと思ったら期待はずれだったのだ。
そのような表情になるのも致し方あるまい。
「ね、あとどのくらいでそのお山に着くの??」
「そうだな……あと2時間くらい歩いたら山に着く。そこからまたしばらく登ったところでサンタさんが待っているよ」
「ほんと!?ちゃんとサンタさん待っててくれるかな……!」
弟の気持ちはすぐに目的地への期待へと移っていった。
父親も弟に向けて微笑み返す。
「よしお兄ちゃん、あの大きな交差点まで競争しよう!」
「あ、ちょっと待ってよ、そんな急に走り出したら危ないだろ!」
兄と弟は半端に融けかけた雪で足場が悪いのも構わずに仲良く走り出す。
笑顔の裏に秘められた父親の黒く冷たい覚悟に、一切気づくこともなく。
「……」
そしてそんな3人の様子を、彼ら兄弟の母親はただ眺めていた。