1 おわりのはじまり
――クリスマスイヴの夜、サンタさんに会いに行こう。
クリスマスを数日後に控えた雪の降りつもる静かな夜。
そんなことを言い出したのは父親だった。
とある小さな町に住んでいる4人の家族。
父親、母親、そして幼い2人の兄弟。
一家はとても貧しく、その日に食べるものを確保していくだけでも精一杯だった。
しかしそれでも他の周りのどの家庭よりも、優しく暖かく身を寄せ合って生きてきた。
幼子たちはサンタクロースを信じていた。
毎年この時期が近づくと、枕元にプレゼントが置かれるクリスマスの朝の訪れを心待ちにしていた。
プレゼントは他の子供たちのようにゲームソフトやおもちゃが置かれているわけでもなく、たとえばチョコレートや靴下など本当にささやかなものだった。
それでも彼らにとっては嬉しかったのだ。
サンタクロースはこんなに貧しい自分たちのことだって見ていてくれる、この1年いい子にしていたねとご褒美をくれる。
その事実こそが彼らにとって重要なのである。
「パパ、サンタさんに会わせてくれるの!?」
真っ先に反応したのは弟だ。
サンタクロースの訪れを家族で毎年一番楽しみにしているのは紛れもなくこの子である。
「おいおい落ち着けって。父さんってサンタと本当に知り合いだったんだね、びっくりしちゃった」
思わず前のめりになる弟を窘めつつも、やはりわくわくしているのを隠しきれていないのは兄。
年齢にしては多少落ち着きがあるものの、やはりサンタクロースのことを信じているのだ。
「ああ、もちろん。いつもは世界中の子供たちにプレゼントを配りに行くのが忙しくて全然会えないんだけどね。
今日はパパが特別にお願いして、君たちに会いに来てくれることになったんだ。
ここから東に進んだところにある山のなかで待ち合わせしているから、家族みんなで会いに行こうか」
「やったー!!クリスマスが楽しみだなぁ……!」
父親が笑顔でそう答えると、弟もその顔にぱっと笑顔の花を咲かせた。
「お兄ちゃん、サンタさんってどんな人なんだろうね?」
「えっいや、いろんなお話にあるとおり真っ赤な服を着て白いおひげを生やして……」
「それもそうだけど!ほんとにトナカイのお鼻は赤いのかなーとか、世界中の子供たちのプレゼントをあんな小さいソリで運べるのかなーとか、あとねあとね……」
兄弟2人はさっそくサンタクロースとの奇跡とも言える出会いに心を躍らせる。
この世界で実際に彼に会ったことのある子供なんてきっと少ない。
自分達はなんて幸せなんだろう、サンタクロースはいったいどんな人なんだろう、と2人の心は期待でいっぱいだった。