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最優先する青  作者: 青木りよこ
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せっかくだから

約束の土曜日の朝九時に起きると母はスーパーのパートに行っていてもういなかった。

祖母は別にすることもないのに朝七時には起きてテレビを見ているので、休日の朝ごはんはいつも一人だ。

夏場には丁度いい冷めた味噌汁を飲む。

今日はワカメだ。

冷蔵庫を開け山椒ちりめんと納豆を出す。

家の山椒ちりめんは上乾ちりめんを使っているので固いが歯ごたえがあってこれで育った俺としては市販のは柔らかすぎて物足りない。

だし巻き卵が二切れ残っていたのでこれも食べる。

俺は朝ごはんは味噌汁と納豆と味付け海苔と山椒ちりめんがあれば十分だが、俺の母親は毎日朝卵料理を出さないと気が済まない。

どうしても朝は卵が割りたいらしい。

別に困るような習慣でもないので好きにさせておく。

作ってもらっている分際であれが食べたいこれは食べたくないなどというのは図々しいので気持ちよく平らげる。

そういえば父はだし巻き卵が好きだった。

今唐突に思い出した。


「恭ちゃん、今日どっか行くの?」


俺が飯を食っていると祖母は必ず話しかける。


「彦根」

「何しに?」

「知り合いと食事に」


嘘じゃない。

佐々木は知り合いだ。


「こんな朝から?」

「ついでに彦根城行こうと思って」

「へー」


今日美人さんと佐々木の幼馴染さんと彦根駅に夜の六時の待ち合わせだが、俺はせっかくだからこの機会に彦根城に登ることにした。

青野の出るイベントは大概京都大阪福岡名古屋などだが、たまに朗読イベントなどで地方のこじんまりとしたホールに行くこともある。

滋賀県では去年米原と甲賀に行ったが彦根はなかったので初めてだ。

青野のおかげで俺は行くはずもなかったところへ行くことが沢山できた。

甲賀の忍者屋敷なんてアニメのイベントでもなければ一生行かなかったと思う。

それだけでも青野に感謝だ。

青野椿は俺に予定をくれるのだ。


「恭ちゃん。彦根行ったら丁稚羊羹買って来てね」

「丁稚羊羹は近江八幡だよ」

「すぐ隣でしょ。あるわよ。駅とかに。だって八ッ橋はどこにだってあるじゃない?」


近江八幡の隣は能登川じゃないのか?

まあ確かにあるだろうし、時間もあるから探してやってもいいので、俺は快く祖母の頼みを引き受けた。


彦根市には十一時過ぎには着いた。

駅の窓からもう彦根城の天守閣が見えた。

イベントもなく早起きする必要もない休みの日に俺が昼まで寝ないでわざわざ起きたのは青野巡礼をするためである。

青野巡礼とは青野椿がプライベートで行ったことのある場所を巡る旅である。

青野は今年の春彦根城に他事務所であるが同期で仲のいい声優の高梨明日子と行ったらしい。

青野はツイッターもインスタグラムもやっていないが高梨のツイッターにはよく登場しているので有り難い。

いつまでも高梨と仲良くしてほしい。

満開の桜とお堀をバックにした数枚の写真。

これを見て来年の春は彦根城に行こうと思った。

嫌行かねばと。

本当は青野が見た桜を見たかったが別に青野がいるわけではないので夏の終わりの中途半端なこの時期に行くのもいいだろうと思い彦根の地に降り立った。

階段を降りるとすぐ目の前に待ち合わせの井伊直政像があり、左手には観光案内所があったので取りあえず入り、何枚かパンフレットを貰いリュックに入れた。

彦根城の頂上からの眺めは最高だった。

滋賀県ではお馴染みの俺の母親も働いているハトのマークのスーパーの看板が見え、あの美人だってここで買い物もするしポイントカードも持っているんだろうなと思った。

白い猫の着ぐるみはのんびりとした動きが可愛く暑い中意外と楽しませてくれた。

売店で丁稚羊羹を探したけどなかった。

青野も買った記念メダルを買い誰に見せるでもないが何枚も写真を撮った。

旅先とはそういうものだし、単純に知らないとこに行くって楽しい。

これも青野が教えてくれたんだ。

城から出て俺は青野が二つ食べたという近江牛コロッケを探した。

すぐ見つかり俺も二つ買って食べた。

美味かった。

彦根城と近江牛コロッケ後の青野と高梨のルートがわからないのが残念だ。

青野が延々と街をぶらぶらしているDVDでも出してくれたらいいのに。

六時まですることもないしコロッケ二つじゃ物足りないので目に入ったうどん屋で近江牛うどんを食べた。

これも美味かった。

青野も食べたのだろうか。

うどんを食べ終わり店から出ると俺は観光案内所でもらったパンフレットを出してみた。

天満宮北野神社や珍しい寝弘法さんが見れると言う大師寺、芸能の神様千代神社などが載っていたが青野が行ったと公表された場所ではないので行く気はわかず、抹茶ソフトを食べて近江八幡に行って丁稚羊羹を買って帰るかと思ったが、そこで今日の本来の目的を思い出した。

そうだ、彦根城がついでだったのだ。

俺は今日美人に会いに来たのだ。

しょうがないので俺は芸能の神様に青野のことを願いに行くため千代神社を目指しぶらぶら歩くことにしたが、千代神社はすぐ見つかってしまい仕方がないので彦根大仏が拝めると言う済福寺も行くことにした。

これなら少しは遠くまでいけるだろう。

千代神社もそうだが城からだいぶ離れた済福寺も観光客らしき人影はなく駅前以外はひっそりとした静かな所だった。

ここにそのとてつもない美人がいるとは俄かに信じられなかったが、そう言うもののような気もして来て美しい緑のケヤキ並木をゆっくりと歩いき、途中でソフトクリームの看板を見つけたので食べた。

俺は一人で観光地に行くのは全然平気だし、一人でコロッケも立ち食いできるし、うどん屋だって一人で入れる。

ソフトクリームも平気で一人分頼める。

そう、俺は何でも一人が好きだ。

やっぱり彼女なんか必要ない。

いずれ来る強制結婚でいい。

だってそれは税金と一緒で国民の義務だ。

それならしょうがないからやれる。

四十代になったら強制的に取られる介護保険料と一緒だ。

ただ相手が生身の人間であるだけたちがわるいが、母や姉のようにいい伴侶と巡り合えることだってある。

まあ、でもここまできたらその美人とやらを見てから帰ろう。

せっかく彦根に来た記念に。

駅へ帰る道の途中に大きなお土産屋さんがありそこに丁稚羊羹があったので胸をなでおろした。

これで義務は果たした。

もう後は本日最後の仕事を終え家に帰る。

購入した丁稚羊羹をリュックに入れると携帯が鳴る。

佐々木だった。













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