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最優先する青  作者: 青木りよこ
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好き

私は生まれてから今まで人を好きになったことがない。

そんな人いくらでもいると思うから本当のところ特に悩んでいるわけでもない。

ただ自分は特別思いやりのない人間なのだろうかと思い時々ふと怖くなる。

それだけだ。


両親と姉は自力結婚だったが、姉は離婚して娘を一人連れ実家に帰って来た。

原因は旦那さんの浮気。

五歳上の姉が生まれたばかりの姪を連れて帰ってきたのは私が十七歳の時だった。

だからといって姉の離婚が影響を与えたと言うことはまるでない。

私は子供の頃から二十四歳になろうとする今まで一度も異性を見てカッコいいなとか素敵だなとか思ったことがなかった。

これは二次元、三次元全てを含んでも、だ。

テレビに出ている女優さんやアイドルを見て可愛いなとか、綺麗だなとか思えているのだから、美的感覚が狂っているわけではないと思う。

幼少期に男性によってトラウマになるような出来事を植え付けられたと言うこともない。

潔癖症で他人に触れないと言うこともない。

そんなんじゃ看護婦なんてできない。

学生時代もこれといって嫌な思い出などなかった。

部活は中学高校とバレー部で楽しかったし、たまに告白され付き合って欲しいと言われることはあったけど、断っても嫌がらせされたり、それによって怖い思いをしたことはなく、両親は優しく、姉とも喧嘩はしたことはなく、友達もいて、穏やかで平和な子供時代だったと思う。


私は食べることが好きで眠ることも好きだから欲望がないわけじゃないし、体感として好きは知っていると思う。

食べてる時の幸せな気持ち。

朝少し寝ぼけた覚醒していない時間が堪らなく好きで愛しい。

あの時間を得るためならばいくらでも頑張れる。

特に食べるのは大好きだし、食べ物を見るのも大好き。

でもこれも自己愛の塊なようで自己嫌悪にいつも陥る。

だって食べて美味しいと言うのは自分だけで完結している。

同じものを食べてたって同じようには感じれない。

舌が違う、身体が違うのだから。

本当の意味では誰も共有できない。

美味しそうって声を揃えても同じものを見てても違う目なのだから、これだって自分だけだ。

でも例えば同じアイドルを好きだったとして皆自分の目でしか見れないのだから同じことなのかもしれない。

好きは酷く個人的で、美味しいも凄く個人的。

食べてる間は幸せ。

ケーキ屋さんや和菓子屋さんに行くのは行くと決めた日からワクワクするし、行きも帰りも嬉しくってたまらない。

雑誌やテレビの甘いもの特集は絶対に見るし、甘いものじゃなくても今話題のお店とか美味しいとか絶品とか究極のとか書いてあったら必ず見ている。

自分が食べられなくてもいい。

目だけで幸せになれる。

でもそれも自分を喜ばせてくれるから。

私は自分しかない。

それが怖い。

こんなに自分勝手で生きていけるのかと不安になる。

両親と姉と姪っ子と五人で仲良く暮らしていけたらと思うけどこの国はそれを許してくれない。

せめて一度でもいい、一瞬でもいい。

テレビでしか会えないアイドルでもスマホの中でしか会えないゲームのキャラクターでもいいから、誰かを好きになれたら。

そうしたらもう冷たい人間だなんて思わなくて済むのに。

心がちゃんと動いているとわかるのに。

でもそれもほんとうのところ身勝手、なのかな。

 

明日穂乃果に紹介してもらう男の人はオタク、らしい。

何のオタクかはわからないけれど、オタクと言うのは特定の対象に傾倒している人ということだろうから、少なくとも私と違って情念は深いものがあると推察される。

だって食べ物はどうしたって消費するものだ。

一瞬のきらめきの跡の少しの余韻を残すのみ。

潔くてさらっとしてる。

美味しいものは私を憶えていてなんて女々しいこと言わない。

そこが好き。


私は何か期待してるのだろうか?

青柳という名字を持つ人に。

青柳美青。

何て騒がしい名前。

さっき別れたはずなのに次の曲がり角で又会うみたいな、夢の中で一度会ったことがあるみたいな。

もう寝よう。

明日は美味しいもの食べようと言っていたから楽しみ。

ベッドに体を預ける。

眠るのが好きなのはネグリジェが好きだからかもしれない。

ゆったりしていて身体がどこも縛られてない。

自由だ。

部屋の明かりを消して瞳を閉じる。

明日もあの甘い微睡を得るため私は眠る。

本当は私の望みなんてこれだけだと思う。

夫に望むのはそれだけ。

美味しいものを食べて、休みの日には好きなだけ眠る。

それだけでいい。

でも、それこそが究極の贅沢で最も困難なのかもしれない。

異性に対する想像力が欠如していて良かったと本当に思う。

私は青柳さんを少しも想像しなかった。

穂乃果の幼馴染の佐々木さんが送ってくれた写真は青柳さんだけ隠し撮りの横顔で、社員食堂で一人、席について水を飲んでいた。

真正面からの顔はどんなだろうと思って、この人を紹介してと言った。

私は想像ができないから。

かろうじて美味しいんだろうなは想像できる。

今まで生きて食べてきた味を総動員して朧な輪郭を掴むことはできる。

でも人を想像することができない。

結局のところ興味がないからだ。

それに尽きる。

明日私は青柳さんと会う。

でも何も起こらないだろう。

真正面からの顔を見たらきっと満足する。

それだけは私でも想像できる。

簡単にいくらでも。

それでも少しだけ落ち着かないのは、初対面の男の人と会うのに憂鬱じゃないのは美味しいものを食べれるせい。

本当に唯それだけのこと。























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