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最優先する青  作者: 青木りよこ
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十二月

十二月になった。

美人とは九月に石山寺に行った切り会ってもいないしメールも電話もしていない。

佐々木からは何も言われていない。

あの日、俺が美人に結婚を申し込んだ日、また連絡しますと普通に別れた。

でもそれから今日は有難うございましたというメールを最後にメールはこなくなった。

自分でもわかっている。

どう考えても俺が悪い。

美人は俺と真剣に向き合おうとしてくれてたのに勇気を出して言ってくれたのに、俺が自信がなかったからだ。

彼女に釣り合う人間だと思えなかったからだ。


美人と会わなくなっても俺の生活は変わらなかった。

平日は会社に行き仕事が終われば真っ直ぐ家に帰り家族と夕食を共にする。

休日はイベントに参戦するか、アニメを見ながらゲームをして過ごす。

何も変わらない。

何も失っていない。

なのに何で俺はこんなに心が穏やかでいられるのだろう。

水面ほどにも揺れないのが自分でもわかる。


いつも通り会社を定時で上がり飯を食って風呂に入りベッドで寝ころびながらアニメを見ていると携帯が着信を告げる。

田島だ。

あれから田島は週末のたびに奈良の寺院を巡っているらしく写真を送ってくれたりするが、その頻度に彼はやはり何かは失ったのだと思えた。

美人とのことは聞かれないので言っていない。

俺はテレビを切り電話に出る。


「もしもし」

「もしもし、大丈夫か?」


大丈夫。

何のことだ。

美人とのことを誰かに聞いたのだろうか。

嫌、そんなわけないな。

共通の知り合いなどいないはずだ。


「何が?」

「何って、青野だよ。知らないのか。引退って」

「え?」

「だあkら、青野椿、引退するってさ。子供できて、来年出産だからこれを機に来年三月で引退だって」

「は?」

「は?じゃねえよ。所属事務所が発表したから間違いないだろ。大丈夫か?」

「あー、あー、うん」

「わかるぞ。こんな終わり方もあるんだな。残酷だよな、好きなままだもんな。大丈夫か?」

「あー、大丈夫。うん」

「悪いな。慌てて電話しちゃって。何かできることあるなら言ってくれ。寺なら付き合う」

「嫌、大丈夫」

「ホントにか?」

「ああ、うん。ごめん」

「嫌。こっちこそな。落ち着いてからのが良かったよな。考えなしだった。ごめん。切るわ」

「ああ」

「こんなことしか言えないけど、時間が解決してくれるからな、な」

「ああ」

「じゃあな。電話いつでもいいから」

「ああ、じゃあ、また」


田島の電話を切ると友達何人かから電話がかかって来た。

皆二次元と三次元の差はあれどオタクなので心配してかけてきてくれたが、俺は不思議なほど落ち着いていた。

心からも身体からも音がなかった。

静かで丁度いいと思った。

時間が解決してくれるという田島の言葉に思い浮かんだのは別の青で、その色が思い出せる一番美しい色なのが悲しかった。

もう俺の最優先は変わっていたんだ。

一体いつから?

青野が生きていて嬉しいは変わりない。

感謝してるし尊敬してる。

その気持ちに嘘はない。

でも、もう俺は、一生青野の声が聞けない世界に行くより、彼女に佐藤美青に会えない世界に行く方が今恐ろしいと思うんだ。

そして今俺が生きる世界はそうなろうとしてるんだ。

まだ間に合うだろうか。

明日は金曜日。

勿論仕事だ。

彼女もそうだろう。

土曜日は彼女は午前中仕事だ。

決行は十二月二十九日。

日曜日。


まだ間に合うなら今度こそ逃げない。

当たって砕ける。

当たってもいないのに勝手に砕けたふりなんかしない。

勇気を出す。

今まで一度だって出したことないんだから、少ないながらもちょっとは溜まっているだろう。

もう全部使う。

何も残さない。

この何もない緩やかな世界から脱出する。

相応しくないとか、資格がないとか知るか。

顔が好き。

結構じゃないか。

どうだっていい。

俺は君に二度と会えない世界なんか嫌なんだ。

青野の声がしない世界よりも嫌なんだ。

どこかで幸せに暮らしていてほしいなんて祈るような気持にももうなれないんだ。

だから。

世界をこじ開けに行く。

不思議だ。

何の保証もないのにワクワクしている。

こんなの久しぶりだ。

失う物なんか何もない。

寧ろ今失っているんだから取り戻しに行くだけだ。

俺の最優先する青を。










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