告白
石山駅で待ち合わせをして、石山寺に行った。
彼女は先週の日曜日に俺に貸りた「世界のはてはて」のDVDボックスのケースの話から始まり、一話から十三話まで一話づつ丁寧に感想を述べてくれた。
初めて異性と一番好きなアニメの話をしているのだから本当なら最高に嬉しいはずなのに俺はこの間からの答えの出ない問題に悩むばかりで、この俺にとって都合のよすぎる展開についていけないでした。
彼女は青野椿の多重人格縁起の幅に驚いていたし、上坂君演じる主人公が最後まで敵であろうとも助けようとする高潔さに驚いていた。
こんなにはまってくれるとも思ってなかったので「世界のはてはて」を評価してくれる人が増えて良かったと思うことにしようと思い、余計なことを考えるのはやめようと思ったが上手くいかなかった。
頭の中を買い占められたようにそればかり考えた。
石山寺のすぐ傍の和菓子屋でお土産を買い駅に向かう道を並んで歩く。
俺は美人が好きだ。
この感情は青野椿に対するそれと全然違う。
俺は青野に恋愛感情など終ぞ抱けなかった。
だからこれは本物だ。
でも矛盾と許せないような不純がある。
これをクリアしない限り俺は彼女に言うことはできないと思う。
「あの、青柳さん?」
「はい」
「あの、こうして毎週お会いできるのすごく嬉しんですけど、あの、青柳さん。青柳さんは私のことどう思ってますか?あの、付き合ってもいいと思ってくれてたりしますか?」
「え?」
「あの、その、選択肢に入ってたりします?」
「選択肢」
「はい。あの、青柳さんの一番は青野さんだってわかってるんですけど、その、あの、どう、ですか」
どうも何も。
美人は何を言ってるのだろう。
こんなに気を使わせて申し訳ないと思った。
俺みたいな顔も良くない。
勉強は人並み以上にはできるとは思っていたが結局AIを作る人間にはなれなかった。
社交性もない。
芸術性もない。
何も生み出すことが出来なくて唯消費するだけで遠くから批判しているステージには決して上がれない人間。
一人大好きと自負していても本当の孤独なんか知らない。
こんなつまんない人間。
そんな俺のためにそんな顔見せてくれることない。
躊躇い俯く彼女はこの世界の誰よりも美しい。
尊重されるべきだ。
誰よりも大切にされるべきだ。
幸せになるべきだ。
病める時も健やかなる時も、これを愛しこれを敬い、死が二人を分かつまで共に生きることを誓いますか?
これを彼女と誓い合うのは俺のような人間じゃない。
でも、もし、もし。
「あの、佐藤さん。結婚しませんか?俺達。あの、勿論偽装で」
「え?」
「あの、もう結婚相談所に登録されるの一年切ってますよね?だから、その、俺と結婚してから探したらどうですか?俺はいつでも別れてくれてもいいんで、佐藤さん本当に好きな人見つかるまでそうしませんか?そうしたら俺も登録されずに済むし、佐藤さんなら結婚してようがバツイチになろうが関係ないですよ。
佐藤さんのような人が恋愛結婚できないなんておかしいです。自然の摂理に反します。だから、俺とじゃ嫌かもしれないけど、どうですか」
俺達はいつの間にか立ち止まっていたらしい。
彼女は微動だせず俺と向かい合ている。
いつの間にかもう夏はすっかり終わっていて、来週には九月ももう終わる。
彼女の装いも薄手のグレーのニットに黒のプリーツスカート、黒のタイツともう夏の名残は感じさせなかった。
長い黒髪も風に自由に遊ばせている。
黒い瞳が蜃気楼のように揺れた。
「あの、少し。考えさせてください」




