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最優先する青  作者: 青木りよこ
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玄関のチャイムを鳴らし「ただいま」と言うと祖母の恭ちゃんと言う声が聞こえた。

そうだよと言うとドアが開いた。


「お帰り。楽しかった?」

「うん」


リュックからお土産の栗きんとんと柿羊羹を出すと、祖母が納得した面持ちを見せる。

その顔を少し物足りなく思う自分が少し厄介だった。

俺は美人の反応を想像したのだ。

美人からしたらとんでもないだろう。

こんなしわくちゃのお世辞にも若いころから綺麗だと褒められたことがないであろう婆さんから連想されるなど失礼極まりない。

でも俺は想像してしまったのだ。

俺が土産を渡したら、嫌俺じゃなくても食べ物を渡したら彼女はもっと嬉しそうにしてくれるし、それこそ至福の表情を浮かべてくれるだろう。

それは会心の一撃ともいうべきものだろうと思う。

それを食らってから終わりにしたい。


「有難う。疲れたでしょ。さっさとご飯食べてお風呂入んなさい」

「うん」


台所に入っていくと母が「肉じゃがしかないけどいい?」と言うのでいいと言って居間の定位置に着く。

少し遅い夕飯はしらたきばかり多く牛肉も脂身ばかりだったが、スポットライトに照らされたような顔をして味がしみ込んだジャガイモが如何にも美味そうで、美人が見たら喜ぶだろうと思った。


「枝豆もあるわよ」

「食べる」

「トマト切ろうか?」

「切って」

「納豆食べる?」

「朝食べてないから食べる」

「恭ちゃん茹でたオクラ残ってるよ」

「納豆に入れる」

「豪華になったねー」


確かに。

祖母の言う通りだ。

残り物で済ませようと思っていたが、割とちゃんとした夕食になった。

普段何にも考えず食べているが家の母の料理は美味いのだと最近気づいた。

見た目は何処にでもある家庭特有の地味なものだ。

でも中身は詰まっている。

何というか骨格がある。

俺がこの年まで特に病院の世話にならなかったのはそういうことなのかもしれない。


「朝の鮭も残ってるから食べて」

「恭ちゃんだし巻き卵も残ってるよ」

「もやしとにら炒めたやつあるけど食べる?お肉入ってないけど」

「食べる」


冷蔵庫を整理しようと二人はテーブルに小皿を並べていく。

俺は黙々と体内に入れていく。


「恭ちゃん肉じゃが美味しいでしょ。お肉いっぱい残してあげたからね」

「ありがと」

「明日今年最後の冷やし中華でいい?」

「最後?まだ暑いから食べるんじゃない?私あと二回は食べたい」

「お母さんもう九月よ。最後よ」

「いいよ」


玉ねぎはくたくたになり人参は野性的な固さが完全に失われジャガイモはてらてらに厚化粧が施され、すっかり最適な環境で飼いならされた野菜達は胃袋の底の底まで温めてくれたようだ。

美人と肉じゃがの話がしたいと思った。

美人とは木曜日に二人きりで食事をしてからメールのやり取りをしている。

本当に他愛のないことだ。

今日お昼何食べましたか?とか、夜何食べましたか?とか、さっきテレビで美味しそうな牛丼をやっていて羨ましかったです、とか。

ほとんど食べ物の話だった。

どうやら彼女は本当に食べ物が好きらしい。

それも食べるだけじゃなくて見るのも好きらしいから、ようは物言わぬ美を愛でるタイプなのだろうか?

鑑賞としての食。

それってケーキとかパンケーキとかそういったものではないのだろうか。

牛丼?

実用的なものが好きなのかもしれないと思うことにする。

霞を食っては人は生きられぬとか言う。

現実的なのだろうか。

まあ、夢想する必要はないもんな。


自分が夢そのものなのだから。

よくわからない。

何というかまだキャラを掴めていないと言うか、謎だ。

まあ、あれだけの美人だ。

謎があった方が面白い。

問題は謎が解ける前に俺が彼女に会えなくなるだろうことだが、それも別段問題ない。

謎とは解けないままでいる方が多分美しい。

全てを知ってしまえばもうそれ以上知る必要は無くなる。

だから何も聞かない。

一生謎のままでいい。

でも解けた時のカタルシスたるや、どれほどのものだろう。

だけど、彼女に関しては謎などどうでもよくなるだろう。

わからないと言う理解したいと言う感情。

ああ、そう言うことだったのかと言う伏線が回収され終幕へ向かう大団円に向けて。

それすらどうでも良くなるくらい彼女は美しい。

だから完結しなくても構わない。

きっと彼女はこれからも変わらず美しいんだろうな、そう思わせるラストでいい。

何の前触れもなく打ち切られる物語。

そんなことを考えつつも今から彼女にメールしてお土産を渡したいと言おうと思っている自分がいる。

きっとではなく絶対に喜んでくれる確信がある。


昨日岐阜でラーメンと餃子の写真を送るとすぐに返事が来た。

美味しそうですね。

羨ましいです。

今度はラーメン食べに行ってもいいですか?と。

いいですよと返信すると、また写真送ってくださいと言われたので、今日名古屋でひつまぶしの写真を送った。


食べ物の写真を知り合いに送るのは初めてだった。

食べ物の写真を撮ったのも、甥っ子のお食い初めの鯛の写真を撮ったとき以来だ。

こちらも反応が良かったので岐阜で撮った織田信長の金ぴかの銅像の写真や岐阜大仏のお寺の写真を送ったが、こちらは予想通り平熱感溢れる反応だった。

本当に食べ物にしか興味がないのかもしれない。


少し緊張している自分がいる。

土産を渡すと言うのは如何にも関係を継続させたいみたいではないだろうか?

関係も何も関係なんかない。

唯会って飯を食っただけだ。

それもたった二回。

うぬぼれるにも程がある。

まだ知り合いと言ってすらいいのかさえ確定していない。

飯を食う約束をしている。

メールのやり取りをしている。

今のところ食べ物の話しかしていない。

どんな関係だ?

わからん。

もういい風呂入ろう。

風呂入ってアイス食べよう。

それからメールする。


イベント帰りで、二日に渡って青野を補給してきた。

岐阜のイベントは想像通り仲のいい声優陣による息の合った掛け合い、内輪ネタ満載の楽しすぎるイベントだった。

相変わらずの仲の良さが嬉しかった。

ゲームのイベントも上坂君がいたので昨日も一緒だったんだよーと青野が言うのを聞けたのはこう言うのをファン冥利に尽きると言うのかもしれないと思い青野を好きで良かったと思った。

やっぱり青野が好きだと思った。

この人だけが俺の特別だと確信した。

なのに帰って来てからずっと彼女のことばかり考えているような気がする。

風呂に入り昨日と今日の青野を思い出す。

脳内でイベントレポをする。

でも浮かぶのはあの美しい人のことばかりで、そのたびに青野の面長の美しいとは言えないが世界一かっこいいと思っている女性の顔を思い出そうとするが、上手くいかなかった。

青野の顔に彼女がどうしても被さってくる。

まるで青野の前から知っていて記憶に閉じ込めていたものが堰を切って止まらなくなった様に。

しょうがないので俺は必死になってたこ焼きやらクレープやらみたらし団子やら屋台ものを想像することにしたがこれも上手くいかなかった。

食べ物なんかにしたら彼女が黙っていてくれるわけなかった。

もう観念し、風呂から上がりメールした。

お土産を渡したいのでいつなら空いてますかと。

恐らく一分後電話が着信を知らせた。

携帯画面に慣れない名が表示される。



佐藤美青。



俺の知る恐らく世界で一番美しい食べるのが好きな人。
























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