青柳恭
同僚に女の人を紹介してやると言われた。
それも美人。
勿論丁重に断った。
美人なんてとんでもない。
「なあ、マジ頼むって。穂乃果に何言われるかわかんない」
「嫌だ。行かない」
「頑なだな。そんなんじゃ一生結婚できないぜ」
「結婚はできるだろ。国が勝手に決めてくれるんだから。自力結婚できないだけだ」
「嫌、自力結婚したいだろ」
「別に」
「別にじゃねえわ。したいだろって」
「休みの日は忙しい」
「忙しいってアニメ見てるだけだろ」
「イベントもある」
「今週はないだろ?青野椿のスケジュール俺調べたんだからな。今週の土日イベントはない」
「確かにないが、休みの日はゆっくりしたい」
「じじいか。そんなもん結婚してからしろよ」
「結婚はする、だろう。強制なんだからいずれ。それなら今から焦って相手を見つけてする必要なんかない」
「あのな、マジ最高の相手だって。美人だし。巨乳だし。看護婦だし。俺が結婚してーわ」
「したらいじゃないか」
「俺既婚者。二人の子持ち。あと個人的に髪長い子は苦手。女の子はショートって決めてるの。あと巨乳も苦手。重そうじゃん」
「そんな美人を何で俺になんか紹介するんだ?佐々木なら顔広そうだし紹介できる相手がいくらでもいるだろう?」
「合コンとか苦手なんだと。いいじゃねえか?お前だって苦手だろ?そういうの」
「そもそも誘われない」
「それだよ。そう言う男をご所望なんだよ。その美人ちゃん」
「兎に角断る。他を当たってくれ」
「嫌無理。もう相手がお前だって言っちゃったもん」
「勝手にか」
そう言えばこいつにこの間何の脈絡もなく聞かれたな。
彼女、もしくは意中の女性はいるのかと。
勿論いないと答えた。
本当にいないからだ。
「だって断るとは思わなかったから。なあ、会うだけ会ってみろって。その上で無理ですっていやあいいじゃねえか」
「断ったら失礼じゃないのか?佐々木の幼馴染さんに」
「じゃあ付き合えばいいだろ?」
「無理だ。俺は忙しい」
「でもさ、一回現実世界の巨乳美人会ってみたくね?このチャンス逃したらお前の人生に一生ないぞ。こんな僥倖」
「ないだろうけど、女の人と何を話せばいいのかわからない。まして初対面。絶対に無理だ」
「そんなもん俺と穂乃果が何とかするって。その子もさあ、まあもうすぐ二十四歳で焦ってんのよ。学生時代にさぼってたつけってやつだな。出逢おうとしなかったんだからまあしょうがねえよ。今相手決まって余裕かましている奴らは毎日頑張ってきたわけだから」
「それだけ美人なら合コンとか行かなくても出逢うことなんか簡単にできそうだが」
「そう、そこだよ。彼女は美人だ。しかも巨乳。しかも看護婦と男の夢ばかりを集めた様な奇跡のような女性だ。おまけに控えめで料理も上手らしい。最高じゃないか?おまけに今まで彼氏がいたこともないんだぞ。お前にとってはこれ以上ない物件だ。これを逃すのは悪魔の所業だ。きっとよくないことが起こるぜ、な?」
「何が、なだ」
「取りあえず会うだけ、な?」
「嫌だ」
「強情すぎるだろ、何でそんな頑ななわけ?」
「美人とか怖い」
「怖くねーよ。普通の暖かい人間だよ。巨乳の」
「看護婦なら医者とかに見初められたりしないのか?」
「彼女が勤めているのは総合病院とかじゃなくって開業医でもういい年の爺さん先生で勿論結婚して孫までいるよ。あと同僚は全員女。患者くらいしか男との出逢いなんてないよ」
「金持ちでイケメンの患者が来るかも」
「なあ、考えすぎじゃね?普通に飯食うだけだぜ?」
「考えるだろ。普通男女は飯など食わない」
「食うだろー。飯くらい食うだろー」
「もういいか。休憩時間終わりだ」
「真面目だねー」
「先行くぞ」
「なあ、その子、みおって言うんだぜ。美しい青って書いて美青。運命的じゃね?」
「どこがだ?」
「だー。鈍すぎ。お前の名字が青柳だろ?青柳美青って青と青で挟み撃ちじゃねえか。オセロだったらひっくり返せるだろ」
何を言っているんだか。
俺は佐々木を置いて社員食堂を出た。
美青という名前は特に何とも思わなかったが、オセロならひっくり返せるといわれたことがいつまでも残り、帰り際もしつこく彼女の話をしてきた佐々木に根負けして結局土曜日の夜食事に行く約束をしてしまった。
そして家に帰る電車の中で猛烈に後悔した。