充実した週末
暫く好きなアイスを語りあった。
二人とも共通してスーパーで買えるようなアイスが一番好きと言う結論に達した。
「あの、その、今日お電話したのは、あの、その、もう一度お会いできないかなって、あの、青柳さんの都合のいい時でいいので」
「はあ」
はあって何だよ。
何様のつもりだ。
相手はとんでもない美人だぞ。
声が平凡だからって同一線上に並べていい存在じゃない。
でもこれは仕方がない。
どんな美人がこようとも俺の一番は何があろうとも青野なんだ。
このヒエラルキーは俺が恐らく息絶えるその瞬間まで続く、はずだ。
「あの今週の日曜日はどうですか?」
「日曜日は名古屋に行くので」
青野が出ているゲームのイベントだ。
青野はトークショーの昼の部に出る。
「じゃあ、土曜日の夜お食事でもどうですか?私土曜日はお昼で仕事終わるんです」
「土曜日は岐阜に行くので、そのまま一泊する予定なのでちょっと・・・」
土曜日は岐阜で朗読イベントがある。
市民ホールの小さなイベントだが毎回出演者によるトークコーナーもあって、今回のキャストは「世界のはてはて」の主人公役の上坂大地君とイケメン執事役だった大下優君と主人公の幼馴染役だった石川南ちゃんも出て「世界のはてはて」メインキャストそろい踏みで、息の合った楽しいトークが見られるのは間違いないので今年一番くらい楽しみにしていた。
朗読イベントは三時からなのでそれまでは岐阜大仏を見たり観光もする予定だ。
充実した週末になりそうで今からワクワクしている。
「あの、じゃあ、明日はどうですか?」
「明日ですか?明日は仕事です」
「あの、佐々木さんが定時に上がれるっておっしゃってたんですけど、お仕事終わってからお会いできませんか?私が石山まで行くので」
「あの、でもそんなの悪いです、遠いし」
「そんなに遠くないです。病院木曜日お休みなので、あ、お仕事終わってからだとしんどいですか?」
「いえ、しんどくなるほど働いてないので、そんなのは大丈夫ですけど」
「じゃあ、明日お会いできませんか?」
「はあ」
「すみません。お忙しいのに。でもなるべく早くお会いしたくて」
「はあ」
「あの、名古屋と岐阜はお一人で行かれるんですか?」
「はい」
いつも一人でぼっち参戦です。
友達いないんで。
嫌、いないわけじゃないな。
青野友達がいない。
青友がいない。
「あの、ご迷惑ですか?」
声だけじゃ、この人がその名の通り理解を超えて美しいことなんて誰にもわからないだろう。
電話で相手を虜にするのはこの人には無理そうだ。
でも俺は知っている。
今どんな顔で電話をしているのか、少しくらいなら手持ちの武器で想像できる。
あの顔を知っていて迷惑などと言える男はこの世のどこにもいない。
この青い星にも、多分火星にも。
「いえ、迷惑じゃないです。でも本当にいいんですか?あの、俺が彦根行きますよ」
「いえ、私が誘ったんですし、石山行きたいです。石山でご飯食べたいです」
そっちが本音か。
まあ、いいか。
食事したらすぐ帰ってもらったらそんなに遅くはならないだろう。
この国はパトロールAIのおかげで治安は恐らく世界一いい。
女性が夜道を一人で歩いても全然平気なくらいに。
「わかりました。じゃあ、いつも五時三十一分の電車に乗って帰るので、五時四十四分に石山に着きます。駅を出ると松尾芭蕉の銅像があるんです。そこで待ってて貰ってもいいですか?」
「はい。五時四十四分の電車ですね。松尾芭蕉の銅像前」
「はい」
「有難うございます。あの、楽しみにしています」
「はい」
「すみません。じゃあ、あの、失礼します。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
わけがわからない。
何だろう、これ。
つけっぱなしになっていたアニメを巻き戻す。
電話にかかりっきりでアニメがつけっぱなしになっているのすら気づかなかった。
でもこれは青野が出ていないアニメで青野をないがしろにしたわけじゃないからセーフだ。
岐阜の土産情報を見る。
多分祖母は栗きんとんがいいと言うだろう。
栗きんとんを買って、この美味そうな輝く琥珀色の柿羊羹も買おう。
美人にはと考え、明日会うのが最後なのだろうから、土産を渡すことなどない、冷静になれと自分に言い聞かせる。
でも渡したら喜ぶ顔は容易く想像でき、明日もう一度彼女の「美味しい」が聞けるかと思うと心が一人でに弾んでくるような気がして、石山駅周辺グルメを調べ、三軒に候補を絞り歯磨きをして寝た。




