揚げ物
「揚げ物お好きですか?」
食事も終盤に差し掛かると美人が俺に聞いて来た。
わりとハキハキした声で。
初めての美人からの質問だった。
「はい。好きです」
俺は何も考えず素直に答えた。
揚げ物は好きだ。
というより基本的に好き嫌いなどない。
何でも美味しく食べられる。
母親がいつも家にいると何か食べたいものあると聞いてくる。
何でもいいと答えると考えてよと文句を言われるが何を食べても美味しいから何を食べたっていい。
毎日鰯の丸干しでも文句なんて言わないし、カレーが一か月続いても文句は言わない自信がある。
揚げ物。
これは何かのテストなのだろうか?
ひょっとして美人は揚げ物が大好きで夫になる男の条件が揚げ物好きであることなのだろうか。
だとしたらほとんどの日本人男性は大丈夫だろう。
今だかつて俺はは揚げ物が嫌いだと言う人間を見たことがない。
健康のため摂生していて食べられないとかいうのは、食べられないだけで嫌いとわいわないので、揚げ物嫌いはこの世に存在しない。
こんな美味いもの嫌いな人間がいるわけがない。
美味いコロッケとかなら俺は百個くらい食べれるのではないかと思ったりもする。
まあ、次の日動けなくなりそうではあるが。
「美青食べるの大好きなんですよ」
川島さんが美人の言動を補足するように言う。
目の前の美人は茶碗蒸しを食べるような匙でカツのなくなった卵ご飯を掬っている。
かなり大きなカツが何個も入っていたのだが美人はぺろりと食べてしまった。
「揚げ物とかお家でなさいます?」
「いえ、俺は実家暮らしなので。母はしますけど」
「お母様お家で揚げ物されるんですか?」
「はい。しますね。揚げたてが食べたいって言うので」
「お母様がですか?」
「母と祖母が。特に祖母がうるさくて。スーパーのお総菜コーナーのは味が濃いって」
「そうですか」
この質問は何だろう?
家で料理する家が嫌なのだろうか?
それともいいのだろうか?
それにしても揚げ物ってここまで掘り下げる話題だろうか。
美人はシジミ汁を飲み干す。
「ごちそうさまでした」
美人は急須のほうじ茶をお替りする。
食べたものがそのまま血肉となったようにバラ色の頬が完成し、夜道でも太陽がさし目が覚めるような美しさになった。
俺もほうじ茶をお替りし、ごちそうさまでしたと手を合わせる。
「青柳さん、揚げ物では何がお好きですか?」
美人の中でまだ揚げ物トークは続いていたらしい。
「鶏のから揚げかコロッケですね。あと大根おろしとポン酢で食べるとんかつ」
三つも言う必要あったのだろうか。
一番といわれなかったからまあいいのか。
この年になっても今まで何度食べたのかわからないほど食べていても家に帰り鶏のから揚げがあると遂テンションが上がる。
俺は冷めてても平気だが揚げてるとこに出くわすと遂一つ摘まむ。
「牡蠣食べられます?」
「牡蠣フライですか?」
「はい」
「大好きです」
「チキン南蛮は?」
「大好きですけど・・・」
これが最後の質問になった。
店が混んできたので俺達はお会計を済ませ外に出た。




