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最優先する青  作者: 青木りよこ
10/35

見ることを許可された美人

まじまじと見ることを許されていると思う。

何というか神様的なものに。

俺はできるだけ人の顔を見ないように生活している。

まあ大概の人間は自分に余程の自信がない限りそうだと思う。

ましてや俺は男だから女性の顔をじっと見ていたら不審者扱いされてしまうし、別に見たい顔なんか見れる範囲に存在しない。

だから俺は今人生で初めてぶしつけに掛け値なしに見ることを許可されていると感じるのだ。

この美しい顔を。


店員さんが京漬物を運んできて、美人の前に六つ仕切られた重箱を置く。

滋賀県で京漬物ってと思ったが、美人が心なしか嬉しそうに顔を輝かせたのでそっちの方が気になって京漬物だろうが、奈良漬だろうが、守口漬けだろうがどうでも良くなった。

美人は控えめだが喜んで見えた。

漫画とかだったら後ろにぱああと後光がさすくらい。

もしかして凄くお腹が空いているのだろうか。

だとしたら彼女の分だけでいいから早く持ってきてあげてほしい。


美人は小皿に京漬物を菜箸で全種類少しづつ取る。

自分の分だけ。

俺は密かに今日川島さんに感謝していた。

皆で飯を食うと言うから大皿を皆で取り分けて食べるのだと思っていた。

俺の行ったこともない合コンの知識がそれなのだ。

女性がサラダを取り分けてくれるという。

小説で何度も見たシーン。

俺はそれが嫌なのだ。

フライやおでんやらの煮物にサラダやら焼き鳥がどーんと大きな皿に盛られていて皆で食べると言うのが。

この間読んだ小説に主人公は合コンが終わるまでずっと枝豆を食べていた。

飲めもしないからウーロン茶と一緒に。

恐らく自分もそうだと思う。

まあ枝豆は大好き大好きだから別にいいのだが。


美人がゆず入り大根を緻密に計算されつくしてこの形に最後なったであろう唇に運ぶ。

その大根の白さまで彼女がそうさせたように見える。

彼女には白が良く似合う。

白いワンピースの襟は小さく装飾品のように繊細だ。


「美味しい」


そう彼女は言った。

何の計算もなく心から出たそれは俺の鼓膜を軽く揺らした。

表情と声がピタリと一致した瞬間。

俺はこれを知っている。

これができるのは俺の中で女性では青野椿だけだった。

アニメ化の際原作を先に読んでいたりするとキャラクターと声のかみ合わなさに戸惑うことが多々ある。

見ていくうちにそのずれは段々修正されていくことが多いし、最後まで一致しないまま最終回を迎えることもある。

声優さんはプロだ。

その誤差は一ミリくらいのもので、針に糸を通すような小さな話だ。

でも俺はその誤差がいつだって気になるのだ。

俺が青野を追いかける原因となった「世界のはてはて」はライトノベルで友達が面白いからと貸してくれてアニメ化する前から知っていた。

俺は最初からメインヒロインの一人であり本作のラスボスヒロインでもある銀髪ロングヘアの多重人格ヒロイン高峯しおんが好きだった。

アニメの第一話の放送の時は密かに緊張した。

いつもアニメから原作を読んだりのパターンが多かったのでこんな風に先入観を持って見るのは初めてだった。

青野椿の声は正しく俺が想像していた高峯しおんの声だった。

嫌違う想像を軽く凌駕する高峯しおんの声だった。

境界線を軽く超えられてしまい取り残されて様な恍惚と恐怖にも似た感情。

今俺は目の前の声優ではない看護婦だという女性の声にそれを感じた。

青野の時と違って一人で震えたりはしなかった。

十代の子供じゃない、もう二十四になろうとしている大人だ。

怖くなんかない。

それに一致しただけだ。

青野のように超えて行ったわけじゃない。

俺も漬物を小皿に取り輪切りにされた山芋の漬物を食べた。

美味しいと思ったが声には出さなかった。

俺のつまらない声に彼女の声がかき消されないように黙っていた。











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