美しい青
「美青、この間の男の人なんだけどね」
「うん」
「青柳さんていうんだって」
「うん」
「いいの?美青。青柳さんだよ。結婚したら青柳美青だから青と青に挟まれちゃうよ」
「考えすぎだよ。そんなに上手くいくわけないよ」
「上手くいくに決まってるでしょ。相手は彼女いない歴二十四年のオタクだよ。この話逃したら絶対恋愛結婚できないよ。来年登録されちゃうもん。美青は美人だし、巨乳だし、絶対食いつくって。前のめりで」
「そうかなぁ?」
「そうだよ」
私達の国では二十五歳を過ぎて未婚だと国の結婚相談所に登録され相手をあてがわれ強制的に結婚させられることになっている。
私はもうすぐ二十四歳になるから後一年で登録対象になってしまう。
この国の人間は大学に入ると就活と婚活を並行してやらなければならない。
皆恋愛結婚しようと必死で、出会いの場を兎に角求めている。
寧ろ婚活を大学に入ってから始めるのは遅いくらい。
勝負は高校から、嫌生まれた時から始まっているらしい。
「悪い人では絶対ないから。それだけは信用して。私の幼馴染の佐々木龍之介。あいつの同僚なの。真面目でいい人間なことは確か。オタクだけど」
「具体的に何のオタクなの?」
「ごめん。聞いてない」
「アニメとかかなぁ?」
「オタクっていわれたらそうじゃない?」
「私アニメ見ないけど大丈夫かなぁ?」
「大丈夫でしょ。真面目らしいよ。身元は確かだし。お酒も飲まないし、タバコも吸わないって」
「別にそんなのはいいんだけど」
「嫌、重要でしょ。一生一緒に暮らすんだよ」
「うん、まあそうだけど」
「気進まない?」
「そんなことないけど」
「でもさ、一回会うだけでも会ってみなよ。ひょっとしたら上手くいくかもしれないし。思ったより気が合うかも」
「うん」
「合コンとか嫌なんでしょ?」
「嫌、だね。いっぱい人来るでしょ?」
「まあそこそこ」
「じゃあだめかな。ねえ、当日穂乃果も一緒にいてくれるんだよね?」
「そりゃあね。いきなり二人っきりになんかさせないよ」
「絶対だよ。一対一なんてどうしたらいいのかわかんない」
「まあ、兎に角四人でさ美味しいもの食べよ」
「うん。その人達以外来ないよね?」
「来ないよ。大丈夫」
「その人私のことどこまで知ってるの?」
「何にも話してないよ。私の友達ってことしか。あと名前」
「その人名前なんて言うの?」
「青柳恭」
やや間をおいて穂乃果は言った。
まるでその名を聞かれるのが生まれる前からずっと決まっていたかのように。