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第六章「こゞろ」

 少し離れた場所に車を止める。

 研究施設につくと、まつりたちは各々ワイヤレスのインカムをつけた。小型カメラを入れたポーチを腰に巻き付け、まつりは外に出る。

 熊ケ谷が麻耶から聞き出した内容と内偵からの情報を整合すれば、セキュリティは指紋認証から始まるらしい。セキュリティは厳重だ。

「ここまで警備体制をちゃんとしていると、逆に怪しいな」

「どうやって指紋認証を?」

「佐久真自身は警戒しているだろうが……部下の指紋まで毎日削ったりはしていないだろう。この研究施設に出入りしている人物で前科マエがあるものを探して、その指紋をOHPに複写した」

 そう言って取り出したのは、シートが三枚。すべて異なる指紋が写っていた。

「パスワードと静脈認証は?」

「そこからは物理的に行くしかない。パスワードは緊急用の非常ボタンを使ってすぐに戻す。静脈認証も同じくだ。ロックを解除するしかないな」

「警報が鳴りませんか?」

「鳴る。防衛省の友逹が言うには鳴るだけだ。警備の者は来ない。佐藤も同じような手口を考えているだろうが、下手をしたら、指紋認証の段階で」

 ブブーッと大きな音がなり、まつりたちは顔を見合わせる。

 ――恐れていたことが起きているらしい。

「いくぞ」

「ええ!?」

「待っていたら、きさがやられるだろ。早くしろ!」

 弾けるように駆けだした久住の後を、まつりも追う。

「氷田!」

 鋭い声に足を止める。熊ケ谷は何かを堪えるように、目線を彷徨わせた。彼は微笑んで、まつりの目をまっすぐに射抜く。

「何があるかわからない。四ツ原さんが到着次第応援にはいくが、久住、佐藤のことを頼む」

 玲央と熊ケ谷は、佐久真が帰ってきたときに備えて待機と指示を出す役目だ。

 二人に見送られ、まつりは中へと侵入した。

 銃声が聞こえて声を呑み込む。応戦するような音の後、悲鳴が聞こえた。

 まつりたちは急いだ。「Ⅱ」と入口に書かれた部屋に到着する。そこに入ると――女性の研究員に銃を向ける妃早の姿があった。

 もみ合った時に負傷したのだろう。肩を押さえて座り込んでいる女性がいた。

 彼女の首筋につうっと汗が伝っている。首にある大きな黒子の上を汗が滑って落ちていった。

 妃早を止めなければ。まつりも銃を握った。

「言いなさい。あんたたちが何の研究をしているのか」

 妃早に詰め寄られた女性は、笑みを浮かべている。

「怖い人。私は研究員じゃないわ。将さんを待っているだけなのに」

 のんびりとした声に、まつりは耳を疑った。

 まさか、と思った。顔も、身体も、記憶とは違う。

 けれど、その声と、そして首筋の黒子は間違いなく、まつりが探していたものだ。

「将さんって、佐久真? あんた、佐久真のなんなの?」

 女性は妃早の詰責を笑みで受け流す。

 いつか見た、とろりとした濃密な、蜜のような――甘い笑みに、眩暈がする。

「何かしらね。一応、婚約者だったはずよ」

 銃がうまく構えられない。

「おい、お嬢どうした?」

 久住の問いに答える余裕なんてない。まつりはなんとか全身の震えを止めようと思考を巡らせた。

「婚約者って……佐久真の婚約者は一人だけ。しかも、生きてないはず」

 女性が喉奥で笑った。向けられた銃に臆することなく、笑って答える。

「たしかに、戸籍上は一度死んだわ。私は氷田しおり。将くんの婚約者」

 花が咲くような綺麗な顔で笑いながら、のんびりと話す。

 その見た目は、記憶の中のしおりとは似ても似つかない。それでも。これはしおりなのだと。

「まさか……」

「まつりちゃんがお世話になってるみたいね。佐藤妃早さん」

 場に相応しくないのんびりとした声。

 それは正しく、姉のものだ。優しくて、温かな、日向みたいな姉。別人の顔になっても、それは変わらない。

「似てない姉妹ね」

「昔からよく言われたわね。私たちはよく比べられていた」

「顔じゃないわ。性格よ。まつりは、そんな風に人を弄ぶような子じゃないもの」

 しおりの笑みが消えた。目の奥に怒りの鋭い光が見える。

 それを隠すように、彼女はくすりと笑った。

「……あなた、まだ気づかないの?」

 妃早が警戒し、銃を向ける。

「――三年前、会ったわよ。覚えてない?」

 妃早が何かを呑み込むように、喉を動かす。明らかに動揺していた。全身が震えて、銃の照準もぶれている。それを必死に合わせようとしているのがわかった。

 さらに、追い打ちをかけるようにしおりが口を開く。

「あなたの恋人のお葬式いかせてもらったわ。(あん)さんだったかしら?」

「思い出した。あなた……あのとき、笑って」

「そう。いまでも思い出すわ。よっぽど酷い死に方だったのね。情報とは違って、死体はきれいに丁寧に、治されてたみたいだもの」

「やめて!」

 妃早の怒声が、ピリッと空気を揺らす。

 しおりはがっくりと跪いた妃早を、嬉々とした目で見下ろしていた。

「そうよ。そういう顔が見たかったの。……どういう気分だった?」

 しおりは力ない彼女の手から、そっと銃を抜き取った。そして奪い取った銃を、妃早に向ける。

「薬物を取り締まっているのに、恋人が薬物に苦しみながら死んだのは、どんな気持ち?」

 明らかなる嘲笑に、妃早は歯を噛みしめ、怒りで握りしめた拳を振り上げて立ち上がる。

 しおりは笑ったまま、引き金に指を添えた。

「――っダメ!」

 まつりは叫んで前に飛び出した。庇うように妃早の前に立ち塞がる。

 しおりと対峙し、見つめ合う刹那。

 彼女の瞳が冷たさを増した。いまにも嚙みつくような目が、まつりを見据える。

(お姉ちゃん……!)

 まつりの祈りとは反対に、彼女の指先は躊躇なく引き金を引こうとしていた。

 足が竦んで動けないまつりの代わりに、久住が飛び出た。しおりとの距離を一気に詰めると、滑り込むように彼女の手を蹴り上げる。

 銃を手離したしおりは悔しそうに顔を歪めた。銃を拾おうとしたその隙を、まつりも見逃さない。

「動かないで!」

 急いで彼女の背中に回り、腕を締め上げた。痛みに顔を歪めるしおりに、胸が痛む。

「痛いわ、まつりちゃん」

「お姉ちゃんどうしてそんなこと。それにその顔、どうして……」

 あんなに綺麗だったのに。まつりが投げかけた言葉を、しおりは鼻で笑った。

「あなたって、本当におめでたいのね。人を憎んだことも、羨んだこともなさそう。麻薬には絶対、手をつけないタイプ」

 高笑いをするしおりは、記憶の中でほほ笑む優しい姉とは重ならない。

 悲しみを堪えて、まつりはしおりを捕らえる力を強めた。

 さらなる苦痛にしおりの額にはじっとりとした跡が浮かんでいた。

「将くん、あなたに夢中だし……ほんとにむかつく。だから私、将くんが開発してたシュガーに手を出してみたの」

 全員が息を呑んだ。

 つと、インカムが入る音がして、まつりと久住の体は緊張で固くなる。だが、雑音しか流れてこない。 まつりはあることに気がついた。佐久真は用心深い男だ。だとしたら、――侵入者が入ってきたときの妨害を考えてないはずがない。

 足音が遠くから聞こえてきて、まつりの胸が緊張ではち切れそうになる。

 扉を開け入ってきたのは、やはり予想していた通りの人物だった。

「おや、消毒もせずこの研究施設に入ったのかい?」

 にやりと口元を歪めて笑う佐久真に、背筋が凍り付きそうになった。

「将くん!」

 嬉しそうに、しおりは佐久真に駆けていく。佐久真の冷たい目が、腕を絡め、愛情を示すしおりに向けられる。その目は赤くなったしおりの腕に気付き、停止した。

 いつも通り口元だけ笑って、佐久真はしおりに話しかけた。

「怪我が痛そうだ。すぐに診てもらいなさい」

 佐久真の付き人が、しおりを奥へと促す。一度もこちらを見ずに去る彼女を、必死に呼んだ。

「待って、お姉ちゃん。どうして!」

 追いかけようとしたまつりを、佐久真が許さない。

 彼の後ろに控えていた付き人が、まつりに銃を向ける。まつりは歯を食いしばって、応戦体制をとろうとした。

 そんなまつりを、佐久真が見ている。

「まつりちゃんには指一本触れるな。後の二人は、どうなっても構わない」

 返事をした付き人たちは、久住と妃早に銃を向け直す。

「……止めて! 二人を傷つけたら絶対許さない!」

 庇うように手を広げ、銃の前に躍り出たまつりを佐久真が嬉しそうに見ている。狂気さえ感じるその笑みに、まつりの心臓が早鐘を打つ。

「よし、取引をしよう。まつりちゃんが来てくれるなら、今回は特別に全員見逃してあげる」

 ふざけるな、と久住が後ろで吠えたが、その声を佐久真は無視し、まつりにだけ語りかけた。

「一緒に、ゼロを完成させよう。あれは多くの人や国家が必要とする薬だよ」

「ゼロには危険性もあります。中毒者を助けるためだけじゃない。警察や私たちの目から逃れるために、検査をクリアするためだけに、使用する。中毒者を悪化させる可能性もある。佐久真さんのお仕事柄、その可能性のほうが高い気がしますけど?」

 まつりは銃を構えた。それは拒絶と同意だ。

「残念だ。もっとも……僕は君のそういうところが好きなんだけどね。頑なで、自分の力を把握しながらも、愛や味方をとる。君の魂は美しい」

 佐久真はまつりへと、手を伸ばした。

 まつりはそれを振り払い、銃弾を放つ。外すことのない距離だった。なのに、銃弾は佐久真の頬を掠めただけだ。

 綺麗な顔の輪郭を、赤い血がなぞる。佐久真は冷静にその血を指ですくいとった。赤い血が指を汚したことに、わずかだが顔を顰める。

 それを合図に、付き人の男たちが動きだした。

 妃早と久住も臨戦態勢に入る。

 ――そのときだった。

 佐久真たちの背後から銃声が聞こえ、付き人の一人が倒れた。

 驚いて注目するまつりたちの前に、人影が飛び込んでくる。

 付き人の何人かはこちらに銃を向け、残り二人は飛び込んできた人物に応戦しはじめた。

 人影は肉弾戦をうまくかわしながらも、隙を見て一人を銃で撃ち落とす。

 そしてそのまま、こちらに駆け込むと、まつりを守るように前に立った。

 その後ろ姿には、見覚えがある。何度も現場で見た、強くて真っ直ぐにのびる、背中。

「氷田、何を呆けている」

 銃を構える熊ケ谷の姿に、ようやく張り詰めていた緊張が少しだけ解かれた。

「熊ケ谷さん!」

 熊ケ谷はこちらを見て笑ってくれた。それから、険しい顔で佐久真を睨む。

「佐久真、俺の部下を返してもらうぞ」

「ああ。君か。熊ケ谷一族にも君みたいなのがいるとはね。まつりちゃんは貴重なサンプルだから、こちらにいるほうが価値はある。マトリだけで乗り込んで――ただで帰れると思っているのか?」

「俺たちにも矜持はある。部下を売るようなマネはしない」

 はっきりと言い切った熊ケ谷にまたしても胸がときめいた。

 熊ケ谷はまつりから、素早くその後ろにいる妃早に目を移す。

「佐藤。お前は本当に無茶をする」

「課長……私……」

「早く帰ってこい。始末書を提出してもらう」

 茶化すような言葉を交えつつ、油断はしない。熊ケ谷は佐久真との距離を確実に詰めていく。

 付き人の数はそう多くはない。上手くいけば切り抜けられる。

「お嬢」

 久住の声がして、後ろからぐいっと肩を掴まれた。

「俺と熊ケ谷さんが時間を作る。だから、お前は姉貴を追え」

 惑うまつりの背を久住はぽんっと押した。いままでにないくらい力強く、そして何よりも優しい激励のように感じられ、まつりはびっくりして彼を振り返る。

 現場には似つかわしくない、とびきり優しい顔つきにまつりは目を奪われる。

「決着つけて来い。そしてきさがやりすぎないように、お前が見てろ」

 久住と熊ケ谷が目で頷きあう。

 佐久真はその言葉を鼻で笑う。

「俺たちを切り抜ける? できるわけないだろう」

「やってやるさ。うちは少数精鋭なんでね」

 久住は佐久真に蹴りかかった。

 部下の一人が前に出てかわす。

(いまだ!)

 空いた隙をついて抜け出そうとした。そんなまつりを佐久真は見抜いている。

 彼の手は、まつりを捕まえようと伸ばされた。それを、熊ケ谷の手刀が弾き落とす。

 不機嫌を顕わに、佐久真が熊ケ谷を見る。

 心配で見つめていると、熊ケ谷は険しい顔で言った。

「何をぼうっとしてる。……氷田、行け!」

 頷いて、まつりは妃早に手を差し出す。

「妃早さん!」

 彼女は躊躇う素振りを一瞬みせた。

「一緒に、行きましょう。早く! そこはあなたがいる場所じゃない!」

「でも、私……」

「早く!」

 熊ケ谷と久住もまつりたちをかばいつつで余裕がない。この陣形は長くはもたない。

 叫ぶまつりに、熊ケ谷と久住の顔にも緊張が走っていた。

「きさ! 迷うな! まつりの手を取れ!」

 迷っている様子の妃早に業を煮やし、久住は敵が一人伸びたことを確認すると、、妃早の元へ駆けた。そして、妃早の手首を掴み、まつりのもとへと連れていく。

「お前が求めてたのは、これだろ」

 久住の声に妃早は顔をあげる。まつりと向き合った妃早はそれを受け入れるように、悲しく笑い、コクリとした。

「ええ――そうね」

 そして、自らまつりの手を取った。

 全員の顔に笑顔が広がる。久住は再び、まつりたちを守るために戦闘に飛び込む。

 まつりは妃早と目を合わせた。彼女もわかっていた。熊ケ谷と久住の戦い方はよく知っている。隙を伺い、一気に駆け抜けた。

「まつりちゃん」

 佐久真の声がしたが、振り返らない。ここで足を止めるわけにはいかない。

「しおりがいるのは突き当たりにあるゼロという部屋だよ。パスコードは君の誕生日だ。君の指紋でも入れるようになっている」

 まつりは驚きで一瞬、歩みを止める。

「いずれ君に見せようと思っていた部屋だ。見るといい」

 ごくりと溜まった唾を飲んで、後ろを見ようとした。そんなまつりの手を――妃早が引っ張る。

「行くわよ」

「妃早さん……、あの……」

 何も言わずに、妃早はまつりの手を引く。

 少しだけ強引な手を、拒む理由が見当たらない。

「軽蔑したでしょう? でも、あれが私の本心よ」

 何かをシャットダウンするように、走る足を止めぬまま、こちらを見ずに妃早が言う。

「嘘です、だって妃早さんが復讐のためだけに、マトリになったなんて嘘です! それだけじゃないはずです。私はずっと妃早さんを見ていたんですから、わかります。だから忘れないでください。信じてあげてください。誰よりも誰かのために頑張っていた自分のことを」

 一番奥の部屋が見えた。「ZERO」と書かれている。

 その前で立ち止まる。肩で息をしながら、妃早はまつりに視線を送る。

「でも、もう戻れないわ」

「そんなワガママを言っても、私もう絶対に妃早さんの手を離しません。だから信じてください。自分の中にある正義を」

 祈るように妃早と繋いでいる手に、もう片方の手も添える。

 喘ぐような息の後、妃早は「ありがとう」と言い、機械に手を伸ばす。まつりの誕生日を覚えていてくれたらしい。そういえば、あの日――。あの誕生日からこの歯車は回りだした。

 回したのが自分ならば止めるも自分だ。

 覚悟しなければ――どんな真実が待っていたとしても。

 開いた扉の先には、小さな人物が一人立っていた。

 純白のワンピースを纏う少女は、こちらを訝しむような目で見ている。。

「だあれ? ここには、佐久真としおりくらいしか来ないのに」

「あなたは――?」

 まだ小学生くらいだろうか。幼い少女の胸には「0」という番号のプレートがつけられている。なんの感情も持たない虚ろな目。それでいて何にも染まっていない無垢な美しさがあった。

「私はレイ。って呼ばれてるの」

「レイ?」

「実験ナンバーがゼロだから。しおりが名付けてくれたの」

 ねっと少女が話しかけた先に、しおりがいた。

 包帯を巻いた彼女が現れる。その奥には白衣を着た男が一人立っていた。

「しおり、この人たち誰?」

「この人? 私のお友達と――かわいい妹よ」

 少し言葉を探りながら、しおりはそう言った。

 しおりの笑うような目がまつりに向けられる。そんなしおりに、レイはその小さな手で胸を叩いて不満を知らせる。

「ねえ、しおりは家族捨てたんでしょ? しおりの家族はレイだけでしょ?」

「そうよ。まつりちゃんは、私の大切なものをとってくの。いつも」

 謡うように、小鳥がさえずるような綺麗な声で、しおりは言う。

「まつり? まつりって、レイのモデルになった人?」

「そうよ。将くんが言ってたでしょう?」

 秘密を打ち明けるような、小さな声。

 胸の奥がざわつく。

「まつりちゃんに教えてあげる。レイはね、まつりちゃんと同じくフェタミン系に対する酵素をもってるの。それでね、どこまで耐性をあげられるのか、薬物の研究に協力してもらってる」

 平気で話せることが信じられない。

胸を何かで突き刺されたような鋭い衝撃が走る。

「そんな幼い子どもを、どうして」

「買ったのよ。海外の組織から。モルモットとしてね。見た目が良いから最初は奴隷にするつもりで薬を打ったんだけど、効きづらくて不気味だったって言うから調べたの」

 調べてみたら、覚せい剤に耐性がある体質だった。まつりのように一切効かないわけではなく、効きづらいというレベルらしい。だからこそ、ゼロを完成させるためにまつりとの体の共通点、そしてそれをベースに、どこまでその質をあげて覚せい剤を効かなくできるかを試しているのだ。

 まつりは唇を食んだ。

 こんな少女が、自分の体のせいで実験台になっている。そう思うと、いますぐに自分の体を八つ裂きにしてやりたいくらい憎かった。

「誤解しないでね、まつりちゃん。この子どもはどこかの奴隷になるはずだったのを引き取ったの。ここでは食事もあるし安全も保証されてる」

「そんなこと関係ない! 条件じゃないでしょ。この子は人で、お姉ちゃんも佐久真さんもこの子のことを一人の人間じゃなくてサンプルとして見てる」

「……じゃあ、まつりちゃんが育てる? この子がさらわれて、もっと危険な実験台にさせられるリスクと戦いながら?」

 しおりに浴びせられた言葉の雨に、まつりは震撼した。

「自分ひとり満足に守れないあなたが、理想だけ言うのね」

「そんな」

「そういう情けない顔で、全部取っていく。私、ずっとあなたが嫌いだった」

 顔を歪める訳でも、悔しそうな表情をするわけでもなかった。

 ただ呼吸をするように、彼女はさらりとそう言った。

 その言葉は、じりじりとまつりの心に詰め寄り、そして内側から深い傷をつける。

 鈍い痛みに、まつりは眉根を寄せた。

「そりゃあ理想よね? この子も周りも、全員が良い家庭に生まれて、良い環境で学び、良い伴侶と添い遂げて幸せな家庭を築く。でもそれは無理で、その無理をあなたはやれという。いつも、選ばれた側の顔で」

 しおりはそっと懐から取り出した銃をまつりへと向けた。思い惑う様子一つなかった。

「あなたは知らない。私がどんな思いであの家にいたか。どうして家を出たのか。どんなに惨めな気持ちで将くんと一緒にいたのか」

「お姉ちゃん」

 妃早がまつりを守るように、少し前に出た。

「お父様も、お母様も、入院したらあなたに付きっきり。あなたをどうしたら救えるのか、研究に没頭して、私はお姉ちゃんだからあなたの面倒を押し付けられて。将くんはあなたに近づくため、病院を利用するために私に近づいた」

 しおりは笑顔を崩さぬまま、妃早に目配せをする。

「私は誰にも必要とされなかった。ただ良い子で、良い姉でいることを求められてた」

 そんな彼女を、妃早は責めるように見た。

「あなたも同じよ。誰かを利用する、しない。そんな判断でしか生きられない」

「……あなたの恋人も同じことを言ったわね。だからムカついたの。偽善者みたいでイラつく子、まつりちゃんに少し似てた」

 怒りをあらわに、しおりが感情を吐き出す。妃早は、核心に迫った。

「なんで、シュガーを渡したの?」

「あの頃将くんは出来上がったシュガーに夢中でね。サンプルを取りたがってたのよ。そのころには私は立派なシュガーの中毒者で。たまたま持っていたとき、あの子にイラつくことを言われた。それだけよ」

「それだけ?」

 妃早の目が、憎悪で光る。

「そう。ゲームだったの。ムカつくあの子を、薬にはまるようにする」

 まるで悪気のないその言葉に、妃早の全身が怒りで震えている。

「バカみたいじゃない? あんだけバカにしてた薬で、最期は一人で恋人を待つ部屋で中毒症状で死んだんでしょ?」

 死人を嗤うその顔は醜かった。

 記憶の中のしおりを手繰り寄せる。おっとりとしたしおりの微笑が好きだった。優しい声が好きだった。

「お姉ちゃん、どうして整形なんて」

「シュガーのせいでね、痩せすぎてボロボロになって、海外の薬物の更生施設に将くんが入れてくれたの。ゼロの治験も手伝ってくれているところなんだけど……そこで将くんに言われたのね。いまの君は醜いって。だからまつりちゃんの顔にしてって先生に言ったんだけど。上手くいかなくて」

 たしかに一部だけ治したのではない。作り物だと明らかにわかるような精巧に作られた顔。

 まつりですら、一瞬、誰かわからずにいた。

「でも、将くんが独立するために大量の金が必要だって言うから。私がお願いしたの、お父様に。私を一回殺してほしいって。新しく人生を始めたいって。そうしたら、全財産を私にくれた」

 全身整形をした娘に、薬物で壊れてしまった娘に、父親が何を言えたのだろう。仮にも佐久真と出会うきっかけになったのは、父親が病院に佐久真を受け入れたからだ。あれだけ、しおりを気にかけていた父親の苦悩は、聞かなくてもわかる。

「まつりちゃん、死んでくれない? あなたがいる限り、将くんは私を見ないの」

 ここまではっきりと実の姉に死ねと言われるとは、思っていなかった。妃早の心配そうに揺れる眼差しがこちらを見ている。

 視界が歪んで、初めて――泣いているのだと理解した。

「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんが自慢だった。憧れだった。私、ずっとお姉ちゃんが羨ましかった。お父さんだって、お姉ちゃんを見習いなさいって。周りに人が集まるのは、しおりの人徳だって」

「良い人でいるしかなかったのよ、私。誰かに愛されるために」

 しおりはレイを抱き寄せた。

「でももう止めたの。そんなことをしても本当に欲しいものは手に入らない」

 銃口は確実にまつりを狙っている。

 そんなしおりに、妃早は警戒しながら銃を構えた。

「だめ、しおりを撃たないで!」

 小さなレイがしおりの前に立つ。

 罪もない少女を前に、妃早が尻込みしているのがわかった。

「あなたは私を撃てない。でも、私はあなたたちを撃てる。善良な人はいつだって可哀想だわ」

 その言葉はおそらく、過去良い人であろうとした彼女自身に向けられている。

 彼女の細い指が引き金にかかった。丁寧に手入れされた爪が赤く煌く。

 その時だ。妃早がまつりを突き飛ばした。レイのもとへ走り、距離を詰める。レイの腕を掴み上げ、足を引っかけて転ばせる。そしてそのまましおりの喉元に銃をつきつけた。

 同時に、しおりも冷静に、妃早の額に銃口を押し当てていた。

 レイが動こうとしたのに気付き、まつりは彼女に抱きついて動きを封じていた。

 まつりはまだ体の小さなレイを片手で抑え込み、もう一つの手で銃を向け、しおりを威嚇する。そんなまつりの虚勢を、しおりは笑い飛ばした。

「この人はともかく、まつりちゃんは私を撃てない。私はもう麻薬中毒者じゃないの。あなたには撃つ資格がない」

 こんな場面が以前もあった。梧原のときだ。

 そのときも、まつりは佐久真を撃てなかった。

「あなたは、撃てない。悪を知らない良い子だもの」

 引き金をしおりが引こうとする。妃早も同じくだ。

 妃早を睨むしおりの目が少しだけ、和らいだ。

「ねえあなた、行き過ぎた正義って怖いわね」

 彼女はぼそりと言った。それは先ほどのようにバカにしているというよりは少し感心しているような、そんな優しい投げかけだった。

「きっと、あなたは自分の判断で私を殺すの。正しかったという名目で。きっと世間はそんなあなたを英雄だなんて思ってくれないのに」

「なんのこと?」

「あの子も、レイも、まつりも同じ。本当の悪人を、世は裁けない。なんて無駄なことを、あなたたちはしているのかしら」

 くすりと冷笑をこぼしたしおりに、妃早も笑う。

「あなたこそ可哀想だわ。私も、まつりも、世間の評価なんて、はなから気にしてない。ただこの世界が善良であるように思ってる。そのために私はあるべき場所を選んだ。それだけよ」

 それはきっと、マトリの手帳を置いていったことだろう。

 妃早の中での絶対の悪。それを裁けないなら、という彼女の決意だ。それはまつりにもわかる。

「じゃあ、ますます可哀想だわ。無駄死にかもしれないのに」

「黙って……私はね、世間もどうもいまは関係ないの。あんたのこと、すごくムカついてるのよ」

 しおりの眉がピクリと動く。

 両者の空気が張り詰める。その空気に引っ張られ、まつりは一瞬、レイから目を離してしまった。

 レイがまつりの腕から抜け出し、妃早に抱きつく。

「だめ、しおりを殺さないで!」

 思ってもみなかった行動にうろたえたまま、二人が同時に銃弾を放った。

 二つの弾は大きく外れた。妃早の弾は天井にあたって落ちる。しおりの弾はレイの腕を掠めると、そのまま流れてまつりのほうに向かって飛んできた。

「まつり!」

 あまりに突然のことで動けず座り込んでいたまつりの体に、扉から入ってきた男が飛びついた。

 銃弾が胸元ギリギリを擦る。

 痛みに顔を顰めて、男と共にまつりは床に伏せる。

「……久住、さん」

 恐怖で固く瞑っていた目を解くと、視界で久住が微笑んでいる。

「けがはないか? お嬢」

「どうして? 熊ケ谷さんは……?」

「組対が到着して、俺たちはお前たちのほうに行ったんだよ。三十分連絡がなかったら非常事態で突入する手はずだったけど、その前に柚木が、ここがお前のいう実験目的のところだとゲロッた」

 まさか、あの麻耶が――。

 どれほどの葛藤があったのだろう。きっと一人で悩んでいたに違いなかった。

それだけじゃない。

 自分たちが動いてない間にも、組対が必死に揺さぶりをかけていてくれていたのだ。

「それでその容疑で佐久真を引っ張ることにしたんだよ。熊ケ谷さんは少し怪我したから治療中」

 ふと、久住の目がまつりの胸元に向けられていた。

 裂けた服の隙間から銀色に輝く蛇のネックレスが顔を覗かせている。

 それにしおりも気づいたのだろう。顔色が変わった。

「それ……」

「お姉ちゃんがくれたんだよ。嬉しかった。どんな気持ちでこれを渡したとしても」

 まつりがネックレスの真意に気付いたと悟り、しおりの顔が驚愕で固まる。

「お姉ちゃんは、いつも私の自慢だったんだよ。本当に大好きだったの。だから大事にする。どれだけ、私の魂が罪に塗れていたとしても」

「まつり……私……」

 しおりが震える唇で何かを言おうとした。

 ――その声は、一発の銃声でかき消される。

 誰もが驚愕のあまり目を疑った。そこには、静かに立っていたはずの研究員が銃を手にして倒るしおりを見下ろしていた。

「お姉ちゃん?」

 苦しそうに喘ぐしおりを見て、久住がまつりから離れてしおりの傷口を診る。どうやら肩を撃ち抜かれたらしい。右手をだらんと下ろしている。その肩が、見る間に鮮血で染まる。

「どうして? あなたここの人でしょう?」

「ボスにはあなたが最優先すべき人物だと聞いています。しおりは佐久真のステディですが、だが――あなたに銃を向けた」

 まつりは唇を噛む。しおりが苦しんでいるのが呼吸でわかる。

 まずいと思った。急所を外していてもショック死もありえる。

「ここには治療道具があるでしょう?」

「ええ。だが、しおりはルールを破った。私は」

「早く治療しなさい! そうしないと私、首をかいて死ぬわよ!」

 まつりはネックレスの尖った部分を己の首に向けた。研究員はそれを見ると、はあっと息を吐いて道具を探りはじめた。

 助けてくれる。それを確信した後、しおりに駆け寄った。

「お姉ちゃんしっかりして!」

 しおりは青くなった唇を震わせ何かを言おうともがいている。涙を流しながら、血の気のひいた手を差し出す。

「あなたが、羨ましかった。嫌いだった。でも、あなたが笑うと嬉しかったのに。いつからなのか……わからない。こんな風に」

 その手はまつりを慰めるために伸ばされたのではない。

 まつりの胸元で揺れるネックレスを掴んで、そして先ほどまつりがしたように、まつりの首へと刺そうとした。

「きらい。あなたなんか大きらい。――なのに、あなたが傷つくのが辛いなんて。こんなしんどいの、もういやだわ」

 力なくネックレスを手放して、彼女はゆっくりと目を閉じる。

 出血はあるが、量から推測すると動脈も鎖骨も外している。

 まつりは研究員に鋭い視線を送る。彼は冷静に止血の道具を持っていた。

「どいてください、処置をします」

「あの……」

「助けますから、自殺はやめてください。ボスに殺される」

 消毒をした後にテキパキと処置を施す彼に、まつりは真剣な表情で問うた。

「そのボスは、今回も逃げられると思ってるの?」

「――あなたこそ、逃げられないとでも思っているんですか? この世は、善より悪がはびこっているのが現状です」

 彼は冷静な目をまつりに向けた。

「我々は逃げ切ります。ボスは絶対に捕まらない」

 そうはっきりと言いきって、彼は恐ろしいほどに的確にしおりの治療を終える。しおりの目から大粒の涙が零れると、彼はほっとしたように息を吐いた。

「終わりました。すぐに入院させたほうが良いですが」

 それだけ言うと彼は道具を片付けに奥へと向かう。

 しばらく呆然としていた久住が、はっとして彼を逮捕しに走っていく。

 苦しそうな声が聞こえて、まつりはしおりに視線を戻す。

「ん……」

 呼吸をすると響くのか、しおりは痛みに顔を歪める。まつりは横たわる彼女の胸に顔を押し付けた。幼い頃と変わらぬ温かさ。でもそのときには、もう二度と戻れない。

 苦しい事実に胸が締め付けられた。行き場のない寂しさが喉奥から嗚咽となってこぼれてくる。

 そんなまつりの肩を妃早が掴んだ。無理やり引きはがすように、強く肩を引かれる。

 縋るように妃早に抱きついた。妃早は無言で、まつりの頭を撫ぜる。

 四ツ原が到着するまで、妃早の優しさにしがみついていた。

 まつりの頭の中で温かな記憶が揺れている。涙が尽きたころにはそれはもうぼやけて、手に届かない遠い場所なのだとわかった。どうしようもない胸の痛みとともに、まつりはそれを吞み込んだ。


   *


 外で治療を受けた後、まつりは妃早にそっとマトリの手帳を渡そうとした。

「忘れ物ですよ」

 差し出したそれを見て、妃早は小さく頭を振る。

「無理よ、私。あんな……自分のために、マトリの銃を使ったわ」

 目線を落として、苦し気に吐き出す彼女の手をまつりは取る。

「二度としないでくださいね。妃早さんは世間の評価なんか気にしないって言ったけど、妃早さんが犯罪者になるのは、嫌です。正しいことを、正しさを、正しいやり方で伝えられる人だから」

 まつりが無理やり握らせた手帳。そこにある徽章の輝きに、妃早は少しだけ涙ぐむ。

「佐藤っ」

 熊ケ谷の声が、妃早を呼ぶ。

 びくりと肩を震わせて、妃早が声のほうを向く。少し怒った顔の熊ケ谷が立っていた。

 腕を怪我したらしく固定されている。

 久住を向かわせたとき、まだ何人か敵が残っていたが、まつりと妃早を心配してそれをいっぺんに引き受けてくれたらしい。

「熊ケ谷さん、この度は本当に……」

「俺が何で怒っているのかわかるか? お前は俺達を信じなかった。それが理由だ。一人で自分の闇に向き合ったところで、光はつかめなかっただろう? お前の単独行動で、どれだけの人が傷ついたと思っている」

 それはけっして大声や、なじるような言葉ではなかった。

 でも、そのやさしさが妃早の心をざっくりとえぐる。

「大切なものを守りたいなら、どれだけ辛くても時間がかかっても、正しいやり方でやるべきだ。そうじゃないと、いまあるものも見失う。お前には、過去と同じくらい大事なものもあるはずだ」

 はっと見開かれた妃早の目が、まつりに向けられる。

 その顔はくしゃりと歪み――そしてまつりを泣きそうな目で見つめる。

「戻ってきてください。妃早さん。私はまだまだ妃早さんに学びたいことがあるんです。妃早さんと一緒がいいんです」

 畳みかけるように、願いを込めていうと、妃早は泣きそうな顔で微笑した。

「まつり……久住も、課長も、玲央も……ごめんなさい。ありがとう」

 その言葉に全員が笑った。

 現場の指揮を執っている四ツ原にも、妃早は頭を下げた。四ツ原も妃早に気づき、こちらを見る。

 そして、駆け回り報告や指示を仰ぐ部下たちを手で制し、妃早に歩み寄った。

「佐藤、復讐した気分はどうだ?」

 茶化すようでもあり、諭すような憐憫も含まれていた。

「……最悪です」

「俺は復讐を目標にしたお前をクマに預けた。なぜだかわかるか? お前のその気持ちは誰を救うためでもない、自己満足だからだ。それが結果的に大勢の人を救うことに繋がっても――一個人の怨恨は悲劇を生むだけだ」

 四ツ原はそれだけ言うと、妃早に何かを差し出した。

 それを見た妃早は、まるで頬を打たれたようにはっとしている。

「二度と俺以外の奴にこんな思いをさせるな。大ばか野郎」

 その痛みを受け入れるように、妃早は唇を噛みしめ、涙を堪えている。懺悔をするように、妃早はそれをぐっと胸に抱き寄せた。

 彼女が抱きしめている書類には、退職届。と書かれていた。それと、四ツ原とともに映っている若い頃の警察時代の妃早の写真が添えられている。

 ああ、とまつりは理解した。

 四ツ原も傷ついていたのだ。妃早が辞めたときからずっと――大事な部下を自分の手で守れなかったことを、後悔していたはずだ。

「すみません……本当に、すみませんでした!」

 泣いて再び頭を下げる妃早の頭を、四ツ原はぽんっと優しく叩いた。妃早が顔を上げると、彼は笑顔で、再び現場に戻っていく。

 熊ケ谷は痛みに震える妃早にそっと声をかけた。

「帰るぞ、佐藤」

「――はい!」

 痛みを振り切るようにに大きな声で返事をする妃早を見て、まつりの心にようやく安堵の温かさが広がり、微笑が浮かぶ。

 車に乗り込むと妃早の生還を、玲央は泣いて喜んでいた。その騒ぐ姿を、熊ケ谷は苦笑し、運転席にいる久住は呆れたような顔をしている。

 そんな様子を微笑ましく見守りながら、まつりはゆっくりと星の輝きはじめた空を見あげた。

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