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第一章「秘め事」

 身を隠している輸送コンテナの陰から、ゆっくりと夜空を仰ぐ。

 頭上を覆う雲からは、いまにも淡雪がこぼれ落ちそうだ。

重度のシャブ中は、白い雪が覚せい剤の粉に見えるらしい。こんな、すぐに消えてしまうものに、彼らは何度も手を伸ばしたのだろうか。

 吐息が白く霞んで、二月のつめたい夜の港風に溶ける。

 震えをぐっと堪える。

 少しでも身じろぎをすれば、足音がコンクリートに響いてしまいそうだ。

 細心の注意をはらい、こっそりと隙間から目の前にそびえ立つ古い倉庫を見る。

 動きはない。

 静かに息を殺してインカムを付け直し、まつりは耳をすませた。

 これは耐久戦だ。焦ってはいけない。

 今日のために全員が、〝やつら〟を追い詰めるための準備を積み重ねてきた。少しでも判断を見誤れば、この半年の苦労が全て水の泡になってしまう。

 ここから熊ケくまがや課長の姿は見えないが、そろそろ指示が来る。そんな予感がした。

ノイズ交じりに、低めでよく通る声がインカムに入る。

現物(ブツ)の受け渡しを確認。踏み込むぞ。佐藤(さとう)久住(くずみ)。配置は大丈夫か?」

「はい。打ち合わせ通りです。正面に待機してます」

 凛としたやや掠れた声は先輩である佐藤妃早(さとうきさき)のものだ。数日間の張り込みを終え、そのままこの現場に合流した彼女の声は、疲れているはずなのにいつもと変わらない。この張り込みにつく前に、まつりのことを気遣い、話しかけてくれ、彼女の余裕はキャリアの深さの違いを感じさせた。 

「久住、裏口は本当にお前だけでいいんだな? 相手(ホシ)は全部で七人だ」

 エースの自負を含んだ低い声で「五人くらいまでなら余裕ですね」と久住が返す。

氷田(ひだ)

 名を呼ばれ、まつりは耳を傾ける。

「君は佐藤と俺のバックアップだ。大丈夫だと思うが、一人くらいは相手をしてやってくれ」

「……はい!」

「状況を確認する。相手は笠洋会(りゅうようかい)傘下の三次団体、三橋組の組員。中ではMDMAをさばいているはずだ。七人のうち二人は三橋組。一人は三橋組に売買する密輸人だ。アメリカ国籍を持ち、何度か密輸を繰り返している。ほかの四人が販売するための売人だ。全員俺たちで逮捕する」

 そうだ。今朝も聞いたことを再度、頭の中で整理する。

 連携がとれなければ、自分たちの命ももちろん。たくさんの人が麻薬を手に取る危険性もある。

 まつりは目の前の二人の背中を見る。

 この背中を傷つけさせはしない。

「いま、取引中だ。合図の後、正面から俺と佐藤が踏み込み、組員と男を確保。バックアップは氷田だ。売人の四名は裏口に回るだろう。それは久住が担当してくれ。やりすぎるなよ」

 ポジションの確認を終え、残るのは肝心な捕り物だけだ。まつりはすうっと息を吸い込む。

 大丈夫だ、と自身を落ち着かせる。「行くぞ」と、熊ケ谷の声が響いた。

「3、2、1――」

 先ほどの手はず通り、ベテラン勢が奥へと踏み込む。まつりがそっと様子をうかがうと、明らかに堅気ではない鋭い目が一斉にこちらを向く。

(うっ……さすがに迫力がある)

 怯むまつりに「なんだおめえらは!」とドスの効いた声がした。びくっと肩を震わせたまつりとは違い、堂々と立ち構える熊ケ谷の声が室内にビリっと響く。

「関東信越厚生局麻薬取締部だ! 麻薬取締法違反の現行犯で、ここにいる全員を逮捕する!」

 招かれざる者の乱入に、場の空気が張り詰めたのは、一瞬。

 すぐさま男たちは慌てたふりで四方八方に散らばる。混乱に乗じて、取引していたブツを手早くバッグに入れた四人が裏口に向かう。

百戦錬磨の麻薬取締部――マトリに、そんな手は通じない。

新人のまつりは身を隠していた陰から駆けつけ、入口付近を見張る。

中ではベテラン勢が目を光らせていた。

「ガサです。動かないで! 抵抗をやめ、すみやかに――」

 妃早が叫ぶ。

 いつもよりわざとらしく高めの、軽い声。

 その前には、見た目通りに強い熊ケ谷がいる。

(演技派ですね、妃早さん)

 裏口と入口に分かれて突破を図ろうとする男たちの見る目のなさに、まつりはこの作戦の成功を確信した。

 裏口には、細くて中性的な見た目の久住。しかし彼こそ、うち一番の武闘派のエースだ。

 三人が返り討ちに遭い、あっけなく倒れる。

 言葉を失った残りの男たちは、全員、がむしゃらにこちらに向かってきた。

 まず、大柄な男が、まつりたちの先頭に立つ熊ケ谷に体当たりして活路を開こうとする。

(課長は強い、けど……ここは、かわす)

 するりと素早くかわした熊ケ谷は、男に続こうとした者たちに銃を向け、まとめて制圧する。

 大きな男はバランスを崩したままふらりと前に出たが、次にいるのが女性だとわかり、目の色を変えた。その華奢な身体に全力で突進する。

(あ、詰んだ)

 凍るような美貌を崩すことなく、妃早は冷静に男の体をいなすと、息を呑む間に足をかり、腕を捻りあげた。身動きがとれなくなった男の首元に、銃口が押し当てられた。

「観念なさい」

 冷ややかな低い声に、男の額が汗で滲んだ。

 その間にも、まつりの仲間は流れるように男たちを捕まえていく。

 鮮やかな捕り物に感心して見入っているまつりに、妃早が指示を出す。

「まつり! そっちに一人!」

 いつも先輩たちが優秀なおかげで、こうした局面にはほとんど遭遇しない。

 ニット帽の男が一人、ナイフを手に突っ込んできて、目の前で止まった。

(気づいてますよ、妃早さん)

 まつりは小さく笑うと、男が動くまで息をひそめて待った。

 間合いが詰まった一瞬。

 そっと身をかがめて、迷いなく膝に蹴りの一撃を入れる。

(……逃がさない!)

 よろめいた男の手に、すかさず二撃めのハイキックを喰らわせ、ナイフを飛ばす。

 そのままの勢いで、三撃め。

 きれいにこめかみに入った蹴りに、男は白目を剥いて卒倒する。

(……気絶しちゃった、か)

 心の中だけでつぶやいて、まつりは少しの油断も見せず、男に体重をかけながら拘束する。

「一人確保です!」

 その声を聞き、熊ケ谷たちの顔に笑顔が浮かんだ。

 ――こうして、半年に及ぶ覚せい剤の密売組織を壊滅させ、取引を阻止することに成功した。



「犯罪がなくなれば、残業もないのに……」

 事件の報告書がまとめられた青色の分厚いバインダーを閉じ、棚に戻しに行く。捕り物が終わったからと言って仕事が終わるわけではない。所持品、麻薬、これまでの犯罪経歴のリスト化はまつりの仕事だ。ほかの先輩たちは聴取や、並行している事件の捜査に追われている。

 時刻はすでに23時を超えていた。

「お疲れ、まつり」

 大好きな声に笑顔で振り返ると、聴取を終えた妃早が、まつりのマグカップを持って立っている。優しい笑顔の傍で、たっぷり注がれたコーヒーが揺れている。

(ああ、眠ってはいけないと。仕事しろと。その心遣いが胸に痛いです……)

 あつあつのマグカップに手を伸ばす。

「ありがとうございます」

 コーヒーに口をつけながら、先輩である佐藤妃早の顔を見つめた。

 深夜というのに疲れもみせず、迫力のある美人。小顔に日本人らしさを残しながらも、はっきりとした目鼻立ち。厚労省すべてを探しても、こんなに素敵な人はいない。

「あまり根詰めすぎないようにね」

「大丈夫です! 明日はお休みですし」

 コーヒーの香りが、ふわりと二人の顔のまわりを包む。

「ゆっくりできそう?」

「はい。夕方から、実家でパーティーがあるので。それまでは」

 そう、ちゃんと休んでね。と妃早の優しい言葉を想像した。が。

「……そういうところが世間知らずなんだよ」

 割って入ってきた声。奥のデスクで厚生局ナンバーワンの検挙率を誇るエース、久住明(くずみあきら)がにやにやとこちらを見ている。

 中性的な整った顔立ちで、陰を含んだ美男子。

 その危うさが女性の心をくすぐるらしい。

 霞ヶ関らしくないチャラいスーツを着こなし、バレンタインにはチョコが事務机からこぼれ落ちる。

 色んな意味で悪目立ちする男の顔を、まつりは静かに睨んだ。

「もしかしてパーティーも、豪華客船とかですか。お嬢様」

 からかうような口調に、妃早からも嘆息が漏れる。

「明。良いじゃない。まつりの家ではそれが普通なの」

「ったく、なんでこんなお嬢様がマトリになったんだか」

「実家とマトリは関係ないです!! 船ですけど、豪華ではありません。招待客のみの小さな……」

 噛みつくように反論するまつりに、ほら、やっぱり船じゃん、と久住は嬉しそうに笑った。

 久住は好きな人をいじめるタイプだと、妃早から聞いていた。なのに、かつて恋人の関係だったという妃早と久住は全くと言ってもいいほどに職場で絡まない。二人が仕事上で口論することも、最終的に久住が謝るのも見たことがあるのだが。

 本当にぴったりなのだ。男女の危うい関係というより、ベストパートナーとして。

「きさ、この間の……」

「何? あぁ、あの医大のメスカリン――」

 職場で普通に下の名前で呼ぶ久住。書類を渡され、さっと目を通す。

 流れるような二人のやり取りに、まつりは目を輝かせる。

(素晴らしい。熟年夫婦のような会話です。私には全くわかりません!)

 羨ましい、と思う。妃早が彼のことを信用しているのも、久住が妃早を信用しているのもわかる。いつになったら、そこまでたどり着けるんだろう。早く妃早の役に立ちたい。

 まつりの視線に気づいたのか、くすくすと妃早が笑いはじめた。

 外見はクールビューティーという言葉がぴったりの彼女だけれど、さりげなく優しい。大好きだ。

「さ、仕事に戻りましょ」

 まつりは、きりっと前を向いた。


   *


 強い夜風と共に暗い波がざわざわと騒いでいる。

 客船のデッキの上で、まつりは黒い海が波打つ様子を見ていた。

 昔は、なんでも呑み込みそうな海の暗いうねりが怖かった。それは秘密めいた大人たちが裏でしていることのようで、海も船も人も、全てが黒く暗く感じられた。嫌だった。大嫌いだった。

 だが、実家は大病院で、秘密を守れる船は何かと都合がよいらしく、いつしか慣れてしまった。

 成長してみれば華やかなドレスアップは楽しいし、夜の海を見て落ち着くようにもなった。

(海って、生きてるみたい)

 強い風が吹いて、Aラインのワンピースの裾が持ち上がる。

 すると後ろから、両手で前腿を押さえるまつりの肩にコートがかけられた。

 コートがうまいこと、浮き上がろうとする裾をおさえてくれた。

「冷えるでしょ? それ着ときなよ」

 少し甘い、覚えのある男性のフレグランスが香って、まつりは身を固くして振り返った。

「久しぶりだね、まつりちゃん」

 低めの、心地いい声。騙されそうになる。人の好さそうなその男を、まつりは昔から知っていた。

佐久真(さくま)さん――何しにここへ?」

「着てて。このバルマンのコートは風をよく遮ってくれる。風邪ひいたら……また大変でしょ?」

 光沢のある黒シャツと灰色のネクタイ。そこに、さらっと淡い黒のスーツを合わせている。祝宴の参加者に配られる赤いバラが一輪、胸ポケットに。きざったらしい服装が、不思議と絵になる。

 彼は甘いマスクを一瞬崩すと、煙草を取り出して、ゆっくりと口に含む。

顔に似合わない、きつい匂いのたばこ。毎日付き人が磨き上げているであろうシルバーのジッポライターを取り出す。そのライターは十万円近い。普通のサラリーマンでは手に入らない特注品だ。

「ただ、君の父上に招かれただけだよ」

「お姉ちゃんもいないのに? よく堂々と私に顔を見せられますね」

 彼はうっとうしそうに、風にあおられている長い前髪をかきあげた。

「しおりが失踪した事件は、とても残念だった」

「あなたなら探せたはずです。それをしなかったのは、どうしてですか?」

 問いただしても、彼に焦る様子はない。しばらく、白い煙が宙を舞っていた。

「お金と交渉で解決できることなら、何だってするけど?」

 そう言ってまつりに視線を送る彼の目には、何かに気づいたような好奇の色が滲んだ。

「もう二十歳は越えたんだよね。後で一緒に乾杯しよう」

 船の上で律儀にも彼は携帯灰皿を取り出し、吸い終えた煙草を消した。こういう廉潔なところもヤクザらしくない。こういうところを一つ知るたび、姉はそこが好きだったのだろうかと思う。

(カシラ)、そろそろ」

 付き人に呼ばれて去っていく彼を睨むことで、まつりは精一杯だった。

(お姉ちゃん、どうしてヤクザと付き合ったの? お父さんの決めた人なら安心だったのに)

 この人がいいと、姉のしおりが連れてきたのが佐久真だった。佐久真はもともと、実家の病院によく出入りをしていた。ヤクザものだと思いきや、国立大の医学部を首席で卒業し、いまは表向きだが会社を立ち上げ、独自のルートで外国の医療器具を安く売買している。

 それに加え、まつりの病院は一度だけ、大きな医療ミスを起こしてしまったことがある。それは、担当看護師がある患者の薬を間違えて投入したのだ。しかも薬を取り違えたもう一人も死亡。続きざまの死亡に、記者たちが気付くのも時間の問題だった。

 そんな病院の不祥事の後始末も進んで手伝い、記者たちを追い払った彼に父親はすっかり信用していた。

 だが、彼が自分の娘に、しかも可愛がっているしおりに目をつけたのには心底驚いたらしい。

 まだ一六だったしおりは初めての彼氏に夢中だった。

 そんなしおりを父親はヤクザなんかと、と叱りつけた。仕事はよくても、娘がヤクザと付き合うことには抵抗があったらしい。それを知ったまつりは、姉の背中を押した。

「佐久真さんなら良いんじゃない? 優しいし。お父さんは、私がいれば大丈夫」

 その一言。たった一言を、まつりは今でも後悔している。

(あんな風に言わなければよかった。失踪することもなく、今日も隣に居てくれただろうに)

 ぎゅっと肩にかかったコートを握る。そこから、佐久真の甘い香りが漂ってきた。

 彼は昔から変わらない。姉が十六の時、佐久真は二十歳だった。

 あの頃からそうだった。冷めたような、優しいような不思議な眼差し。

「……あ、コート!」

 返し忘れてしまった。だが、これは好都合と思い直す。左右を見渡す。人はいない。海しかない。万が一失敗したらおわりだ。それでも――行くしかないと頬を叩いて駆けだした。



 船の中で最も揺れにくい後部に、VIP用の来賓室がある。

 商談や小規模のカジノの場でもある。海上なら法律にかからない、というわけではないのだが。

 まつりは、商談の内容を掴むため、あらかじめ佐久真の貴賓室にカメラとマイクを仕掛けていた。下船時の回収では父やスタッフに気づかれてしまうおそれもあった。そこでコートを口実にして、佐久真の不在時に貴賓室に入り、機材を回収することにしたのだ。

 佐久真は三人の部下と乗船したが、いまの時間帯はそれぞれが船の上で取引相手に付き合わされていて、あと二十分は余裕があるはずだ。スピーティーに回収だけすれば、五分もかからない。

 意を決して、コートを着たまま、まつりは部屋の中に踏み込んだ。

 設置場所は、部屋の奥の正面にディスプレイされた鷲の剥製。

 父に機材が発見されたときのため、背が低いまつりが仕掛けられない位置に、椅子を2つ使って設置した。だが、いま再び椅子を動かそうとしたとき、何かが変だと思った。

 ふいに背後から声をかけられた。

「高いところなら、僕に言えばいいのに」

 にっこりと笑った佐久真は、まつりの髪を引っ張り、ソファに引きずり倒した。

「いたっ――」

「見つけたのが僕でよかった。取引相手のほうだったら、君は失踪、いや、オモチャにされたあと、薬漬けにされて売り飛ばされるかもね。でも、僕は優しいから」

 佐久真は、まつりの首元に手を伸ばし、わざとゆっくりとソフトに締めあげる。佐久真の肘と脚で組み敷かれているまつりは、得意技の蹴りを繰り出すこともできない。

 そもそも、蹴りを教えたのは、佐久真だ。これができれば、たいていの奴は近づく前に倒せると。

 無力なまつりを、佐久真は、ただ、にっこりと笑って眺めている。

 その異様さにぞくりとした。自分も姉のように消されるのかもしれない。

 だが、何かが引っかかる。必死にあがいて、声を出す。

「お姉ちゃんと……私は……、違う! 一緒にしないで!」

 にやりと佐久真が笑い、身体を離した。

「知ってる。自分で脱ぎなよ」

 座り直したまつりは、借りていたコートを脱いで、佐久真に投げつけた。

 口元の笑みはそのままに、佐久真の黒目がじろりと一瞥した。様子をうかがう――彼らしい目。

 さっきまでの出来事などなかったように、発信器がつけてあることくらい気づけよ、と、コートの衿の裏側をわざわざ見せ、着て去ろうとした。

 そんな佐久真を引き留めるように、まつりは口を開いた。

「どうして、あなたは私に甘いの? あなたは情けをかけるタイプではないでしょう?」

 佐久真はいつも通りの笑みのまま、言う。

「君に価値があるからだ。利用価値。そうでなければマトリだと分かった時点で手を下している。君は僕にとって、家族や組なんてチープなものよりも、よっぽど大事な存在、サンプルだよ」

 恋人に愛を語るような、熱っぽさを秘めた言葉なのに、どこまでも冷たい。彼は、まつりをよく知ったうえで、調べ上げたいのだ。隅々まで。それが生かされた価値だ。

「まつりちゃん、マトリなんかに行ったのは、僕への反抗かな。でも、君と僕は、誰よりも――そう、君と僕しかこの世界にはいない。そうだろう?」

 問い詰めるような佐久真の言葉は、確信を持った余裕を匂わせた。

(つながっているとでも? いや、捕まえるのは、私だ。でも、一人では無理だった)

 追おうとしたまつりの耳に、アナウンスが聞こえてきた。

 誕生日のケーキカットをするから、全員イベント会場に集まるように、という、父からの連絡。主賓であるまつりの姿が見えず、戻らないことに業を煮やしての放送のようだ。

「またね、まつりちゃん」

 佐久真はにっこりと笑うと、誰よりもきれいな表情で、夜の闇へと同化し、船から姿を消した。


   *


 翌朝。登庁すると、窓に近い奥の席で、熊ケ谷課長が朝日を浴びながら誰かと電話をしていた。

 彼が誰かより遅くきたり、誰かより早く帰ったりしたことはない。実直で、人のよさそうな顔の課長を、意外に腹黒だと評する人も周囲にはいるが、まつりはそう思わない。切れ者だが、根本的には優しい人だと思っている。

「どうした、氷田」

 彼が電話口を手で覆い、まつりに声をかけた。見つめていることを不審に思ったのだろう。

 普段のまつりなら登庁してすぐに、自家製のみそだれをつけたおにぎりを食べているところだ。

「あの……熊ケ谷さん、昨日、在原(ありはら)組の佐久真と接触しました」

 彼の目が一瞬、険しくなった。目の奥の鋭い光がまつりをロックして、離さない。

 すぐに彼は電話を切り、まつりを見つめ直した。怒られるのでは、と怯えているまつりを気遣うように、近くにあった椅子をゆっくりと引いた。

 まつりは、事実のみを述べた。佐久真は失踪した私の姉の恋人で、実家主催の船上パーティーに招かれていたこと。参加者のリストを事前に見たが、佐久真の名前はなかったことも。

「どうして事前に俺たちに知らせなかった。場合によっては処分ものだ。犯罪を助長させるような捜査は違法にあたる。内規にもあるだろう」

 違法――になるのだろうか。

 まつりは犯罪を助長させる目的で行ってはいない。だが結果として、自分が主賓のパーティーで何らかの取引が行われていたことは事実だ。まつりはゆっくりと重い口を開いた。

大沢(おおさわ)光明(みつあき)の名がありました。前々から薬の売買を噂されています。しかし、うちの病院の関係者か家族、もしくは紹介者しかいない場です。私は過去一度も誰一人、連れていってません」

「急に連れていけば怪しまれるか」

 熊ケ谷は頷き、尋ねた。

「首尾はどうだった?」

「佐久真に逆に感づかれ、忠告されました」

 熊ケ谷はため息一つこぼし、優しくまつりの頭を小突いた。

「報告だけでもしてくれたら、対策は打てる。なるべく君の意見を汲み、最善を尽くしたい」

 大変申し訳ありませんでした、と深々と頭を下げるまつりに、かけられたのは怒声ではなく、「手を出して」と変わらぬ優しい声だった。

 手錠でもかけるのかと顔を上げて手を差し出す。そんなまつりの掌に彼は銀の包みを乗せた。

「怖い思いをしたか? 君はたった一人で、生きてここへ帰ってきた。そんな君への敬意だ」

「……はい! すみませんでした」

 もう一度、頭を下げたまつりに彼は笑う。

「君は俺の大事な部下だ。失いたくない。ひとりで行くな。規則だからじゃない。わかってくれ」

 それは情熱的な愛の告白にも似て、まつりの心にぽうっと熱を灯す。

 彼が取り調べをした被疑者は必ず落ちる。こんな穏やかな顔で、声で、目で。こんな熱い言葉を言われたら――落ちてしまうに決まっている。

「以上だ。席に戻れ。今日も一日、新人は新人らしく、元気に働くように」

 明るくいう熊ケ谷に一礼すると、まつりは椅子を戻し、自分のデスクへと向かう。

 まだ胸がドキドキしていた。顔は赤くないだろうか。不自然なところはなかっただろうか。

 手の中にある銀紙をあけると、チョコレートが顔を出す。

 口の中に放り込むと、苦くて甘い味がした。

 

  *


 課長が差し入れたおにぎりを昼休みの給湯室で食べながら、まつりは話題の中心にされていた。

「はー、世の中狭いもんだなあ」

 在原組の佐久真と接触したと知り、情報通の久住も驚いていた。妃早も目を丸くしている。

 その驚いた顔の中に、久しい顔があることにまつりはどっかほっとした。

 前回の捕り物の際、横浜分室に駆り出されていた先輩・五条(ごじょう)玲央(れお)だ。元々は前回のやつらと神奈川のやつらは繋がっていて。横浜分室にわざと情報を先流しにしていたらしい。

こちらの注意をそちらへ向けるためだ。実際の情報は手に入れたものと違い、実際に横浜分室が押さえた覚せい剤の量は情報よりも少量だった。

 まあ、そのために踏み込まれたとしてもなんとかいなせるだろうと思っていたやつらの隙が、今回の捕り物の成功につながったのだが。

「マツリのパーティー、人脈が広いですね。エキサイティングです。美女は大勢いましたか」

 丁寧な日本語で、ズレた反応を示す玲央。イタリア人の祖母と日本人の祖父がいるクォーターの彼は、大手製薬会社に勤めていたが、特別枠でマトリにスカウトされた薬のエキスパートだ。

 イタリア語も英語もカタカナも完璧。女性を愛しすぎるところも、血筋か。

 それより怪我はなかったかと心配する妃早に、少し首をさわられたと、ぼかした表現でまつりが答えると、久住と玲央が、揃ってぷっと噴き出した。

「なんだ! さわられた? って、首か!」

「僕も首にさわりたかったです!」

 セクハラですよ、という妃早の言葉に玲央は頭を抱えた。

「あー、日本はコンプライアンスが厳しいです。これはただ、親愛を表す……そう、愛情表現で」

 愛情と聞いて久住は、それは人類等しく万国共通だなと肩を揺らして笑った。

(いやいや、愛情も表現も等しくないから)

 今でこそ、久住は気兼ねなく接してくれるが、最初の頃は酷いものだった。仕事のフォローは完璧にしてくれていたが、それ以外の絡みを一切拒絶された。

「あんた、大病院のお嬢様だって? 課を間違えてるよ」という棘のある第一声。

 まつりをコネ入庁だと思い、それで最初は嫌っていたのだと、後から知った。

 本来なら、こちら側というより、捕まりそうなあちら側にいそうな印象。

 正義やルールに執着があるタイプでもない。けれど、彼は誰よりも犯人を捕まえることに熱いということを皆分かっている。ときおり、ルールを逸脱した調査をしていることも周知の事実だが、誰も何も言わない。かかさずに磨いている肉体や、ずばぬけた洞察力、そして他に比べて圧倒的に多い情報量。それらは、紛れもなく彼がエースであることを示していた。

 そんなことを思い返していたまつりをよそに、もう1つもらうぞと言う久住と、日本のおにぎりは最高と言う玲央の手がふざけながらぶつかり、そのはずみでおにぎりが床に落ちてしまった。

「ああ!」

 まつりは、ころんと床に落ちたおにぎりを見つめる。

 わたしを食べて――といっている気がして、飛びつく。

「三秒ルール!」

「うわ、きたねぇ!」

「何を言うんですか! あれほんとですよ! 私、調べたことありますから!」

「くだらねえことに顕微鏡使うんじゃねぇ!」

「僕もやったことはありますよ。製薬会社の同期みんなで盛り上がりました」

 玲央の援護を受け、遠慮なく大口を開ける。おにぎりを頬張ろうとしたまつりに、忍び笑う声が聞こえて、固まる。

 見れば熊ケ谷が口を押えて笑っていた。

「すまない、三秒ルールが懐かしくて」

 本気でツボにはまったらしい。頬に熱がこもる。

「いや、いいことだと思う。それだけおいしそうに食べてくれたら、作り手だってうれしい」

 熊ケ谷の実家は新潟で、近所の農家から直接お米を買っているのだという。

「俺たちマトリにとっては、新潟は密輸のイメージだがな」

「密輸……?」

 ぽかんとするまつりを見て、ああ、そうか。と納得したように熊ケ谷が呟いた。

「海沿いで他県と近い。特に日本海側は薬の密輸が多いんだ」

 まだ二年目のまつりがキャリアの浅さを感じるのは、こういう時だ。

「だが、氷田、本当に平気か? 佐久真が君を狙わないという保証は?」

 まつりには確信があった。佐久真は、自分を観察して楽しんでいる。だが、うまく説明できない。「しかも実家暮らし。佐久真に居場所も知られている。独身寮もすぐには無理だろうな」

 熊ケ谷の目は妃早に向けられる。

「そういえば。佐藤はまだ久住と住んでいるのか?」

 慌てたようにこちらを見る妃早よりも先に、久住の声が上がる。

「いや、熊ケ谷さんそれはまずいっつーか」

 困ったように妃早は久住を見る。久住も何かを感じ取り、頷いていた。

 まつりは、以前、妃早の忘れ物を部屋に届けたとき、部屋に上がれなかったことを思い出した。外で彼女と飲むことになったのは楽しかったが、妃早に拒まれたようで、悲しかったことも。

 それぞれの思いが交錯する中、しびれを切らしたように妃早が言う。

「……わかりました。安全だという確証がもてるまで、私の家におきましょう」

「――ありがとう。お嬢を頼む」

 そう言ったのは、意外にも久住だった。二人にだけある、確かな信頼。

(すごいなあ)

 別れてからもお互いを信用し、毎日顔を合わせるなんてまつりには考えられない。こんなことを思っていると、夢を見すぎだと久住に怒られそうだ。

「なんだよ、お嬢」

 視線に気づいた久住が不思議そうな顔をして訊ねた。

「横暴です! 頼むとか、何とか。私をモノみたいに」

 ごまかしたまつりを問い詰める声は、熊ケ谷の声で阻まれる。

「氷田、一応、ご実家には連絡しておくんだ。何か言われたら俺が対応する」

「美しい女性二人。禁断の園ですね」

 微笑んだ玲央に、久住がムッとした口調で、何が禁断だよ、と。

 まつりをちらと横目で見て、言葉の代わりに深い息を吐く。

「お前……後悔するぞ」

 意味深に言い残して、久住はコーヒーを淹れに給湯室へ向かった。

 もうすぐ昼休みが終わる。まつりは小首をかしげて、仕事に戻るために席に着いた。


   *


 早めに仕事を切り上げ、まつりは妃早と一緒に彼女の家についた。

乃木坂の2LDKの高級マンションとは思えない。久住の、後悔するという言葉の意味を早々に理解した。

 入った瞬間に見えた、脱ぎ捨てられた洋服。積み崩れた本。

 リビングには宅配便の段ボールが散乱。キッチンのシンクには缶やペットポトルの山。

 ぽつり、とシンクの水道から水が滴り、山のような食器に当たる音がして、肩を強張らせた。

「妃早さん、これって……久住さんのいやがらせですか?」

 少しぽかんとした後、彼女は得心したように笑った。

「明はきれい好きよ」

 まつりは真横にある冷蔵庫を見て、開けていいかと聞いた。

 返事の代わりに、妃早は少し屈んで冷蔵庫を開け、ペットポトルに入った水を取り出した。それ以外にはパックのゼリー飲料がぎっしり。ほかには何もなかった。

 冷蔵庫の横にある食器棚には丁寧に磨かれた食器たち――おそらく出されていない。

 シンクの脇に設置された水切りかごは乾いていて、空だった。

(久住さんのほうがご飯に無頓着なイメージだったけど)

 調理器具や調味料、食器。久住はわりと料理をしていたのではないかと思う。ローズマリーや香辛料、自分で挽くミルに入ったブラックペッパーまでちゃんとある。

 シンク上の収納棚にはタッパーや、冷凍密封用の袋まである。作り置きもしていたに違いない。

「まつり、がっかりした?」

 不安げな声を聞いたまつりは、収納棚を閉め、着ていた白いニットの袖をめくる。

「びっくりはしました。お世話になりますから。理想通りの妃早さんのお部屋に戻しましょう!」

(ゴミは少ない。ものを整理すればいい)

 まつりは玄関に向かい、洋服たちをたたみ、すべてをたたみ終えると、本や散らばったDVDも本棚の近くに運んでいった。

「並び順とかありますか?」

「ない、けど……」

 並べ始めたまつりに、妃早が驚いて言う。

「どうして? 嫌じゃないの? がっかりしたりしないの?」

 まつりはふるふると顔を横に振った。

「がっかりなんてしません。この二年で培われた妃早さん愛、なめないでください!」

 笑いながら黙々と作業をしていると、「ありがとう」と声が聞こえた。

「私はこっちをやるわ」

 一生懸命、不慣れに床を片付けはじめる妃早。

(全く、もう)

かわいいなあと、まつりはその顔を見て微笑んだ。

「あ、妃早さんの好物ってなんですか? 終わったら買い出しに行きます」

「好物っていうか、すき焼きがいいわ。お祝い事の時にしか食べられないじゃない。あなたが来たお祝いにすき焼きにしましょう」

 きゅっと胸の奥が震える。まつりは嬉しくなって、全力で頷いた。

 それを見た妃早が柔らかに微笑する。そんな妃早に、まつりはますます自分の顔がにやけるのを感じ、どうにかそれが漏れぬように掃除に精を出した。


   *


「おはようございます!」

 寒くなった手をこすり合わせながら登庁する。

 隣にいた妃早は優雅にコートと黒い皮の手袋を外しながら席に着く。

 立ったまま、オフィスの角でコーヒーを手に談笑している男性陣がこちらを素早く見た。

「おはよう」

 熊ケ谷がいつも通りブラックのコーヒーを飲みながらこちらを見る。

「その様子だと、大丈夫そうだな」

 まつりが返事するより早く、珍しく妃早が軽口を返す。

「安心して、ラブラブよ。昨日は反省して、一緒に片付けをした後。すき焼きも食べたんだから」

 久住は驚き、まつりに本当かと確認した。五年間付き合って三年間一緒に住んだけど、あいつが自分で部屋を片付けたことなんか一回もない、と。

 思わぬほめ言葉に目を丸くする。

「すごいな、お前。まさか、あいつ肉よそってくれた?」

「はい! たまにですけど」

「食べてなんか言った?」

「美味しいって褒めてくれました。妃早さん優しいです」

「ちょっとまつりそれは禁句……」

 久住の驚きは、さらに高まった。

「俺のときは自分の好きな具だけ取って、しかも俺がきいたときしかうまいと言わなかったよな」

 妃早は、こともなげに言う。

「当たり前でしょ、まつりとあんただったら、まつりのほうがかわいいんだから」

「あ、こらふざけんな。俺の五年間返せ!」

「そういう小さいとこ、ほんっと直したら? みっともないったら」

「はあ? おいお嬢聞いたか? これがこいつの本性だぞ! お前よりも多い仕事と家事をこなして献身的に尽くしてきた俺に、こいつはなあ」

 場を十分に温めた二人の会話を遮るように、こほんと咳払い。

「男女共同参画社会の実現、いまは働き方改革か。いいねぇ。――では、朝礼を始める」

 いつもと変わらぬにこやかな顔で、熊ケ谷が言う。

 妃早と久住は有無を言わさぬその顔に頷いて、大人しく席に着いた。


  *


 昼休み。机の上に楽しみにしていたお弁当を広げると、ほんのり甘い香りが漂った。

妃早が甘い卵焼きを入れてと言ったので、作ってみた。

 まつりのいつもの卵焼きは甘くない出汁派だったから、甘いのは初めて作った。少しドキドキしながら、箸で割ってかけらを一口食べてみる。レシピ通りだが、うっすら甘い味で美味しい。

 妃早はどうだろう。期待を込めた目に気付いて、彼女が口を開いた。

「ありがとう。どれも美味しいわ」

「卵焼き、どうですか?」

 身を乗り出して聞いてみる。妃早は困った顔を隠すように笑った。

「そうねぇ。これはこれで美味しいわよ?」

 妃早は言葉を足さず、口を動かして黙々と食べている。まつりがそんな彼女の表情を眺めていると、食堂から戻ってきた久住が通りかかり、卵焼きを勝手に味見した。

「おっ、甘い卵焼きじゃん。きさ好きだろ、良かったな」

 そうか、と腑に落ちた。同時にムカムカした。妃早が欲しがっていた卵焼きは久住のだ。

 私の怒りに気づかないのか、気づかないふりをしているのか、久住は少しだけ首を捻った。

「んー、うまいけど。もう少し空気を入れる感じで軽く混ぜて、水もいれろよ。蜂蜜もいいぞ」

 のんびりと自分の味を押し付ける久住に、まつりも言い返す。

「卵焼き殺人事件が起きますよ」

「はあ? 人がアドバイスをくれてやってるのに」

「欲しくないです。いまは敵です」

「おまっ、先輩に向かってなあ」

「じゃあ、いまはライバルです!」

「なんのだよ!」

 妃早の、といったら子どもっぽいと言われるだろうか。ぐっと唇を噛むまつりをぎゅっと柔らかな感触が包み込んだ。

 ふと見れば、妃早の整った顔がある。抱きしめてくれていた。

「どうせ明が何か余計なこと言ったんでしょう? 気にすることないわよ」

 そこへ、玲央の声が入口から届き、一斉に見る。

「――アキラ!」

 小綺麗な恰好をした女性が立っていた。

 肩を出したタイトな服を着こなし、ピンクに染めた髪を巻いている綺麗な女性。細い顎と大きな釣り目のせいか、棘のある雰囲気か、きつい印象を受ける。顔は厚化粧できれいに整えられ、元も美人のはずだ。年齢はそこそこいっているようにも見えた。ただ、その独特の雰囲気で――わかる。

「水商売の方、ですよね?」

 まつりが小声で妃早に問うと、妃早は目で頷き、囁くように言う。

「もしくは、風。ね」

 風俗、という選択肢を忘れていた。

 視線を向けると、女性はきっちりと入庁許可証を首から下げていた。あらかじめ久住が手配し、受付に来ることを伝えていたのだろうか。

 まつりの視線を気にすることなく、女性は室内に入って辺りを見回した。

「ここが厚生労働省、ね」

 意外と普通なのねという顔をしていた女性に、久住が「ようこそ」と告げる。

「えーっと、苗字が八神(やがみ)で……もえちゃんだっけ?」

「それ、あの時出したシャンパンの名前じゃん」

 細い肩を揺らして、彼女が笑う。

「もあだよ。百の愛って書いて、百愛(もあ)

「あーそうだ。ごめん。飯食った? まだなら一緒に食べようよ」

 気障ったらしい黒い革ジャンを羽織り、久住は親しげに彼女の肩を抱いて出ていった。



 その直後、給湯室。

 怒りがおさまらないまつりがゴシゴシと空の弁当箱を洗っているところに、特に気にしていない様子の妃早がコーヒーを手に、くすりと笑った。

「怒ってるわね」

「だって酷くないですか? いくらなんでも妃早さんの前で」

情報提供者(エス)でしょ? 明らかに」

 エス――一般人の情報提供者だと、妃早は説明した。自らも薬物や違法なことに手を染めている者が多い。

 だが、マトリは泳がせ捜査ができる。ある程度まで法の下に許される。ただし、結果的に犯罪を助長させるようであれば、それは違法だ。エスの扱いには十分に注意しなければいけない。

「だとしても、です!」

 妃早はまつりの返事を聞いて、くすりと笑みを零した。まるでまつりが自分のために怒ることを喜んでいるようだった。

「まあ、明のエスの扱いは皆あんな感じよ。今回はましなほう。酷いときは、家のベッドに二人で寝てたときもあったわ。いまさら、ね」

 ため息をついて淹れたばかりのコーヒーに妃早は口づけた。

「でも。あの子は珍しいわね。明に惚れてる感じもないし……なんか、やばいことに巻き込まれていなければいいんだけど」

 コーヒーをひと口飲み、渋そうに顔をしかめた妃早だったが、まつりが洗い終えた弁当箱を水切りに置くのを見て、今度は「いつものまつりの卵焼きも食べたいわ」と、にっこり笑った。

 そう言われては、もう怒れない。

 まつりが席に戻り、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るとほぼ同時に、扉が開いた。

 熊ケ谷の緊迫した表情に、全員が立ち上がった。後ろには久住と、先ほどの女性が控えている。

 皆を集め、熊ケ谷はゆっくりと百愛に笑いかけた。

「この女性は八神百愛さん。歌舞伎にあるキャバクラ・アンジェラに勤めている。明や玲央はこの店に暴力団体が頻繁に出入りしているとの情報を受け、調査に行き、百愛さんに出会った」

 熊ケ谷の説明のあと、久住は落ち着いた口調で話しはじめた。

「店の最年長で歌舞伎勤めも長い。何回か会って信用できる人物だと判断した。マトリということを教えると、恋人が暴力団であることと、違法薬物の関与の可能性を相談してくれた」

 まつりは驚き、百愛を見た。

 涼しい顔で、百愛がこちらを見て笑う。どきっとして、思わず目を逸らした。

「百愛ね、あいつと薬だけはやらないって約束してたの。悪い人を殺すのは仕方ないよ。金を借りて返さないやつもだめ。でも、薬は違う。薬はちゃんとした人もダメにしちゃう――でも、あいつ、なんか怪しくて」

 すごいと感心した。

 笑顔ではいるが、ここに踏み入るのにも相当な覚悟があっただろう。

「いま歌舞伎で問題のシャブと、どう関係があるんですか?」

 妃早の核心を突く答えに、熊ケ谷は首肯する。

「ああ。今回のシャブは新宿にあるピンク映画館でさばかれている。五条、おそらく黒なのは?」

「まだ裏は取れてませんが、麻生(あそう)組かと」

 久住と同じく担当している玲央が控えめに答えた。

「彼女の恋人は、麻生組の若頭・梧原(ごはら)だ」

 熊ケ谷は言う。麻生組が笠洋会傘下の三次団体で、ご法度とされている覚せい剤には過去一度も手を出していないこと。ルートの確保が難しいはずで、多分、裏で誰かが糸を引いていると。

「百愛さんの安全が第一優先だ。バックにいる奴らに気付かれぬよう、最新の注意を払え」

「「「はい!」」」

 返事をした全員を見回して、険しい顔のまま熊ケ谷は続ける。

「久住と五条はそのまま麻生組を。佐藤と氷田は組対のよつはら四ツ原さんに会って、捜査協力を依頼しろ。もう一度言う。百愛さんの安全が最優先だ。いいな」

「「「「はい!」」」」

 思ったより、大きな捜査になりそうだ。

 緊迫した空気の中、微笑を崩さぬ百愛をまつりは横目で見つめていた。

 

  *


 百愛には、送りの車を準備するまで応接室で待ってもらうことになった。

バッグから化粧道具を取り出す。机を埋め尽くしそうな量に、まつりは目を疑った。

「すごい量ですね」

「百愛もう三十五だもん。ちゃんとしようと思ったらそれくらい必要なの」

 そういうと、携帯用の鏡を机の上に置き、アイメイクを直しはじめた。

 改めて顔を見る。夕焼けの優しい光に映し出されたその顔は、くっきりとしていてきれいだ。

 化粧は濃いが、とても三十を超えているとは思えない。

「ねえ、お嬢って、名前なんて言うの?」

「え……」

 突如話しかけられて驚くまつりに、百愛は続けた。

「お嬢って、明くん呼んでたから」

(普段は苗字しか教えないのに)

 男は本当に美人に弱い。まつりは静かに肩を落とした。

「氷田まつりです」

「まつりちゃんね。新人なんだって?」

「はい。とはいっても二年目ですが」

「そう。そんなに珍しかった? こういう仕事してるとさ、キャバクラの子って結構会うんじゃない? 百愛の顔、じっと見てたでしょ?」

気づかれていた。驚いて目を見開いたまつりを、マスカラを塗り終えた百愛がじっと見つめてくる。大きな吊り目は、夕暮れの色を纏って妖しく輝く。

 何かを見極めようとしているその目に、まつりは正面から向き合った。

「百愛さんはすごいな、って。恋人を告発するなんて、考えられないです」

 その言葉に、百愛は軽く驚いて、少しだけ考えるような素振りを見せた。

 そして迷いのない声で答える。

「百愛も考えてなかった。いまもそんなに深く考えてない。でも、百愛が止めないと終わらない」

 話すときの、彼女の憂いを帯びた表情に、まつりは思わず息を漏らした。

 強い女性だ、と思った。彼女も辛くないわけではない。それに耐える覚悟をしてきているのだ。

「百愛さんは素敵な女性ですね」

「どうしたの? あなたはあの美人マトリさんにぞっこんってアキラくんから聞いたけど」

「妃早さんはもちろん素敵ですよ! でも、百愛さんも素敵です」

「もちろんって、どんだけ好きなのよ」

「いっぱいです! 表せません!」

 呆れたように笑う百愛。その勢いを借り、やっと絞りだすように、薄い唇から震える声を出す。

「ね、覚せい剤ってどれくらい捕まるの?」

 その問いには、彼女の精一杯の強がりと、不安、そして何より彼への愛情が込められている。

 まつりはどう答えるべきか少しの間逡巡し、素直に答えることにした。

「五年ほど懲役がつくかもしれません。ただ、別件でも引っ張られた場合はもっとかかると思います。保釈と罰金も、それによって異なります」

「短くて、五年ってこと? 長かったら?」

「一番長くて無期懲役がありました。ただ、それは量が桁外れだったし。罪の重さは密輸か、運び屋か、売人かにもよります。今回はおそらく運び屋なので、長くて――十五年未満だと思います」

「十五年……そっか」

 彼女は何かを堪えるように目を左腕で覆う。その薬指にはきらりと、指輪が光っていた。

「ご結婚、されてるんですか?」

「するつもり。十六から付き合って、もう二十年だよ? いい加減お互い腹くくるよ。でも、笑っちゃうね。付き合ってた年とほぼ同じだけ、牢屋に入るってことでしょ?」

 確かにそうだ。そして、そのもしもを危惧しないほど、百愛は浅はかではない。ばかな幼い喋り方には似つかず、冷静に物事を見ている。それは夜の経験で得たものだろう。

「ねえ、まつりちゃん。百愛、どうすればいいかなあ」

 目を覆っていた腕をどけて、外の夕日を、彼女は眺める。

 夜用につけたアイシャドウのラメがきらきら輝いていて、まるで涙のようだった。彼女の代わりに泣いているように見えた。

「ごめんね、気にしないで」

 一言、感情を押し込むように沈んだ声で彼女が言った。

「百愛。こういうとこあるの。こういう言い方をすれば、同情するって分かっちゃうの。まつりちゃん優しいから」

 そういって見せる笑顔は、気丈に振る舞っているだけのように思える。

 けれど――もしかしたら、これもそういう演技なのだろうか。

 まつりはふと彼女を見た。なぜだろう、と思う。

 百愛の天真爛漫な雰囲気が好きだ。

 なのに、こういう悲しい、物憂げな表情だと彼女の本来の美しさが際立つ。

 悲しい輝きを肌に纏う彼女に、まつりは目を奪われていた。


   *


 百愛を家に送り届けて向かったのは、ホテルのラウンジだ。

 ヒールを鳴らして歩く妃早は、一見モデルかと思うほど華やかで、独特のオーラを放っている。だがその目は鋭い光を放っており、見る者が見ればそういう職種だと気付いてしまいそうだ。

「――四ツ原さん」

 ホテルのカフェラウンジ。おしゃれなその空間には似つかわしくないしかめ面で、新聞を広げて座っている大柄の男に、妃早は声をかけた。

「おー佐藤。久しぶりだな。そっちは?」

「初めまして、昨年から麻薬取締官として勤めさせていただいています。氷田まつりと申します」

 頭をさげると、あーっと彼は納得したように声をあげた。

「あんたが噂のマトリのお嬢様、か」

「実家は関係ありません。どうぞよろしくお願いします」

「ははっ、随分な挨拶だな。で、俺に何の用だ? 生憎、暇じゃないんだが」

 妃早は真剣な表情でゆっくりと胸ポケットの写真を取り出した。

「新宿のピンク映画館で偶然撮れたやつよ」

 まつりも初めて見るその写真には、ばっちりとブツの受け渡しをしている様子が映っている。

「売人がどこのやつかを知りたいわ」

「……どうやってこの写真を撮った? あそこは在原組がやってる。俺たち警察やそれ関係はマークされていて入場できないだろ」

「関係ある?」

「お前んとこの狂犬ぼうやだな、綺麗な顔をしている割に――危ない世界に首突っ込み過ぎだぞ」

 笑っていた四ツ原の目が鋭く光る。自然に新聞が置かれた下で、彼の大きな手が、妃早の手首を見えないように掴み上げていた。

「自分たちの領域を出るんじゃねぇよ、厚労省の犬どもが」

 低い声には重みがあり、まつりの全身を震え上がらせた。

 それでも、まつりは声を上げる。

「妃早さん!」

 まつりの動きを、妃早が目で制す。

 手首を絞められたまま、喘ぐように言葉を出す。

「うちの久住が独断でやったことは謝ります。本来であれば組対がすでに別件で動いているものを捜査協力要請もせずに動きました」

「全くだ」と忌々しそうに舌打ちをした後、彼は妃早から手を退けた。

「一年かかってるんだぞ。これで逃げられたら全てパーだ」

 空気を読み、臆することなく、まつりが前に出る。

「ただ、こちらは別にもう1つ重要な切り札を持っています。けっして無駄にはしません。今回の一件に限り捜査協力と情報共有を要求します」

「……切り札だあ?」

「この運び屋をやっている麻生組・梧原の恋人、八神百愛さんがこちらと協力関係にあります」

 意外そうに四ツ原がまつりを見る。

「あと少しで掴めそうなんです。教えてください。受け渡している人物は誰ですか?」

 四ツ原が渋っているようだった。

 まつりの真剣な目から、彼の力強い目が逃れるようにそっぽを向く。だめか、と肩を落としかけたその時だ。

「――組対がずっと追っている、あのスポーツ選手」

 すっと入ってきた妃早の声に、四ツ原が目を向ける。

「あれ、鹿児島張った方が良いわよ」

「……なんでだ? 鹿児島とは、なんの所縁も」

「やつは出張の度に恋人を作っているでしょう? 殆どの女は何年かで終わりだけど、切れなかった女が何人かいる。鹿児島はそのうちの一人よね」

 有無を言わせぬ強い口調に、まつりはああっと納得した。

 妃早が組対にいた頃から追っている案件なのだ。

「鹿児島の女の家は張った。何も出てこなかっ――」

「それ鹿児島の家でしょう? その子は元々、福岡の子のはずよ。そして、過去に結婚して、分かれた旦那に福岡のマンションを一つ与えられている。そこに、福岡の愛人が出入りしているわ」

「な!」

 名義が違うから分からなかったのだろう。けれど、きちんと調べ上げれば分からないことではなかった。

(むこうの警察が、切り上げたんだろうな)

 協力要請をしても、向こうが追っている大きい案件と重なれば協力体制が上手くとれないのはたまにあることだ。

「福岡の愛人はそこから持ち出した麻薬を、自宅でやつに渡しているわ」

「でも、あいつの家のゴミからは出ない。貯め込めるほどの、家じゃないぞ」

「そこでしているとは、限らないでしょう? やつは鹿児島に行くまでは車での移動よ。もちこんで、近くのコンビニで捨てるわ」

「そんな危険なこと」

 まつりの言葉に妃早は静かに頭を振った。

「するのよ。ジャンキーは」

 憐憫が込められた声に、何も言えなかった。

 中毒者の異常なほどの薬物への依存性。正常な判断ができなくなる人々を、まつりはここ二年の間にたくさん見てきた。それでも、きっと妃早が見てきた異常さとは比べ物にならないほど優しいものなのだろう。妃早の言葉はそれほど重く沁み、まつりの心を締め付けた。

「情報は確かか」

 四ツ原の言葉に妃早は「ええ」と言葉少なに頷いた。

「そこまで調べ上げたってことは、お前も追ってた案件だろう」

「――そうね」

「あっさり、渡したな」

「安いもんよ。四ツ原さんがくれる情報に比べたら」

「そんなに、その事件にこだわる理由はなんだ。まさか……〝シュガー〟が関わっているのか?」

 聞きなれない言葉を手繰り寄せるように、まつりは妃早に目線を送る。そしてぎょっとした。妃早が、今まで見たことのない冷たい表情で、そこに立っていたからだ。

(妃早さん……?)

 妃早はまつりの視線に気づくと、取り繕うように言葉を足した。

「関係ないわ。ただ、今回の案件の方に本腰を入れたいから。それだけよ」

「やつがシュガーとは関係ないと分かったからだろう? お前はいつだってそうだ。若い女が被害者だと、すぐあの事件を」

「昔の話はやめて!」

 少しだけ声を荒げた妃早に、場が静まり返る。

 青い顔をした妃早を、冷静に四ツ原が見ている。こんなに感情をむき出しにした妃早の姿を視たのは初めてだった。

 まつりが寄り添うように、妃早の傍に立つ。静かに四ツ原を睨めると、彼はため息と共に言葉を吐き出した。

「……その写真の売人は、都郷連合(とごうれんごう)のシマの風俗グループの幹部だ」

 妃早を見ればとても話せるような状況ではない。代わりにまつりが頷いた。

「百愛さんは、都郷連合のシマグループのキャバクラの子ですよね? なぜ、恋人である梧原のシマの店にはいかないんですか?」

「歳だろ。八神百愛はもう三六だぞ。最初は笠洋会傘下の店だったらしいが」

 そこで四ツ原は何かに気付き、言葉を呑んだ。

「そうですよね。百愛さんはナンバーにも入ったことがある人気の嬢です。笠洋会がみすみす逃したとも思えません。二年前まで確かに彼女は笠洋会でした。そして都郷連合に移っています」

 まつりの出した答えに四ツ原は深い息を吐いた。

「……気付く女は嫌われるぜ」

 からかうようにそう言った後、四ツ原は固い声で続きを言う。

「つまりこういうことか? 梧原が都郷連合と親しくしているのも、八神百愛が笠洋会の紹介で都郷連合の別の店に移ったのも――別の思惑で動いているやつがいるって?」

 その答え合わせに、まつりは頷いた。

「百愛さんが元々いたお店は、佐久真が率いる在原組ですよね?」

 重なる追及に四ツ原がソファにもたれる。大きなため息を漏らし神妙な面持ちで話しはじめた。

「笠洋会は最近会長が死んで、トップがごたついてる。それからだな、佐久真が都郷連合と仲良くしているのは」

 そこで四ツ原は言葉を止めた。

 だが、まつりも妃早も気付いている。彼はまだ何かを隠している。

「それだけじゃ、ないですよね?」

 そのひと言を覚悟していたのか、彼は少しの間を置いた後、口を開く。

「内部分裂があっても不思議じゃない。俺はそう思っている」

「二つに分かれるってことですか?」

「ああ。下手したら真っ二つに別れるだろうな」

 都郷連合は芸能界を主軸とした半グレ団体だ。

 提携している大手事務所の少し売れてきたけれど、これ以上見込みがない女の子を接待と称して、性的な行為を薦める。病んだ時に薬を渡して、いつしか快楽の依存症にさせる。そしてそのまま、AVや風俗に堕とす――AV・風俗業界とも密な繋がりのある団体だ。

 ただその団体が大きすぎて手を出せない。

 捕まえるとしたらマトリでは無理だ。けれど、様々な事情があり、警察は動けない。

「佐久真は曲者だ。ヤクザ者だが高学歴で、頭も切れる。昔公安の林道がやばかった時、匿ったことがあり、まあまあ良い関係だ。下手したら日本国内で逮捕できるやつはいないかもしれないな」

 そう告げる四ツ原の目の奥がぎらぎらと光る。実際には彼はまだ諦めていないのだ。

「佐久真は、薬のルートを使って、都郷連合の若頭の子弟を一人、香港経由で逃がしている」

「逃がした?」

「殺しだよ。……だいぶ昔のだがな。別件で逮捕されてげろったやつがいた。だがそいつは連合がやばかった時に、命がけで薬のルートを作って若頭に金を作ってやった。一番の愛弟子だ」

「それを助けた時に、佐久真と連合との結びつきができた、と?」

 げろった奴は、すでに埋められたという。そういう時だけ仕事が早ぇと四ツ原が呟く。

 だが、まつりには納得いかない点がある。佐久真が分裂させる気だとは思えない。

「メリットが少ないと思います。佐久真はトップに立ちたい人ではない。お金にも困っていない。都郷連合と一緒に分裂したところで、何かメリットがあるんでしょうか」

 佐久真が合理主義であることは、四ツ原も知っている。事実そこまでは予想済みだったようで、特に驚いた様子も見せずに聞いている。そして試すように、問うた。

「もし都郷連合と結びついて、佐久真にメリットがあるとしたら?」

「一つ、トップにたてる。二つ、面倒ごとは都郷連合が引き受けてくれる。三つ、今回を機に分裂することで、組に反対されていた、もしくはできなかった何かができる。ですか?」

 図星を指された四ツ原が、悔しそうに舌打ちをした。

 視線が妃早に向けられる。

「随分、面倒な新人を連れてるな」

 言われた妃早はごまかすように苦笑した。

「できる子です。私も頼りにしてます」

 妃早の言葉にじんっと胸が熱くなる。

 嬉しい。いまなら、久住にこき使われてたあの地獄の日々も許せる気がする。つい、笑ってしまいそうになった。いけない、とまつりは気を引き締め直し、四ツ原を見る。

「おそらくそれは、覚せい剤ですよね」

 その返事を聞いた四ツ原は、可愛くねえ新人だな、と先走った答えを認めた。

「お誉めの言葉として受け取っておきます」

 その返事も気に入らないのか、最大のため息をこぼした。

「そうだよ。奴は覚せい剤や薬に異様なこだわりを持っている。そして、都郷連合は覚せい剤に強い。あれは海外のいくつかに支社やスタジオ、自分たちの航空機、船、さまざまなコネクションを持つ芸能事務所と多く繋がっているからだ。普通はあれだけの量を出回らせられない」

「あの芸能事務所の社長は、かつて都郷連合トップが愛人に産ませた子ですよね」

「世間には普通の音楽配信会社から独立してのし上がったことになってるが、な……」

「演出的にはそれが良いですよね」

 一般人から、のし上がった。そのほうが、夢を見るタレントたちは信じやすい。

 タレントたちは強欲で純粋だ。自分に向けられる愛情が多ければ多いほど、ときには刃にもなり、ふりかかってくる。それなのにそれを無害な愛だと信じてがむしゃらに夢を追いかける。普通の人なら諦めてしまう。でもそんな普通の人に、彼は魔法をかける。

 君も自分のようになれる、という魔の演出を――。

「まあそれはいいとして。八神百愛を都郷連合が引き取ったのは意外だった」

「え?」

「さっきも言っただろう。都郷連合のシノギは主に風俗店だ。その他だと、まあ連れ出しありきの会員制高級クラブだな。それを、八神百愛が拒否しているから、いまの店の順位は酷いらしい」

 それ、というのは連れ出しのことだ。安易に想像がついた。

「確かに。普通のキャバの子がそんなとこに行ったら、そうなるのはわかってるわよね」

 妃早も不思議そうに告げる。

「逆、じゃないですか?」

「え?」

 妃早は不思議そうな声をあげ、四ツ原は無言でまつりを睨む。

「八神百愛が行くことで、こうなって、弱みができるのは誰でしょう?」

 二人が同時にはっとした。

 まつりは唇を噛む。佐久真の考えが見透かせてしまうことに、怖くなった。

「そうだと思います。梧原に言ったんだと思います。〝お前の女の順位が酷いから、風俗店に落とそうと思う。それが嫌なら女の分をお前が稼げ〟と」

「都郷連合には敵わない。彼女を助けるにはお金を作るか、別のお店にいかせるしかないわね」

「でも、百愛さんは歳です。指名も落ちている。新しい店では確実にお荷物になる。どうしたら金が作れるのか、もしくは前の店に戻せないか。兄貴分の佐久真に相談したのでしょう」

「そして覚せい剤の運びを、持ち掛けられた。か。あり得るな」

「覚せい剤のルートと、金を手に入れたうえで自分は守れると、佐久真は見越していた」

 いざというとき、梧原は切ればいい。

 梧原が稼いだ金は一度、都郷連合に渡り、そこから佐久真に入っているはずだ。

 こうなれば、梧原の証言だけでは佐久真を責める要因にはなりえない。

「悲惨ね」

「女を好きな気持ちに、つけこんだ。か。上納金を上乗せして幹部たちを飼いならし、会長が亡くなったタイミングで独立する気だな」

 同情をするように、妃早と四ツ原が言った。

「幹部にも好都合でしょう。一番怖いのは佐久真が組内の勢力に加わること。佐久真自身は金を作るのが上手いから手放したくはないでしょうが。彼がどこにつくかで、だいぶ勢力が変わります」

 いまの時代、ヤクザで必要なのは暴力ではない。

 昔のように無理やり力でねじ伏せれば、警察は動く。そうなった時に足がつかないようにすることも大事だが、佐久真は頭がきれて立ち回りが上手く、世間にも溶け込め、自然に金を作れる。そんな男がどこかの勢力に加担すれば、頭脳戦も、金も、敵わない。

 彼が下手に誰かについて抗争を招くより、独立して平和におさまって、その上で彼が組と協力関係にあったほうが良い。

「独立して、都郷連合と組めば厄介だな」

 どこか苦い顔をして、四ツ原が苛立ちを抑えた低い声で呟いた。

「協力、するか。今回だけ」

 渋々と言った様子で言った四ツ原に、妃早も驚いて目を瞠る。

四ツ原が立ち上がり、オープンに手を差し出した。その手を、まつりは取る。

「肝の据わった嬢ちゃんだな。しかもコネもあってほぼ満点入庁の新人ときた。噂になるわけだ」

 他はともかく、勉強ができるという点では自負もある。まつりは笑って頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「改めてよろしくな。組織犯罪対策部五課課長四ツ原だ。クマが昔厄介なことをしていた時によく世話をしてやった」

「クマ? 熊ケ谷さんがそんな厄介な事件に関与を?」

「あいつ自身が起こしてたな」

 どういうことだ、とみると四ツ原は笑って濁した。

「まあ、あいつに聞いてくれ。それより、そこの売人の情報は流すから、こっちにまかせてくれ。マトリも張り込むと、気付かれるだろうからな。それと、そいつはおそらく福岡にとぶが……」

「他局のマトリには漏らしません」

 きっぱりとした声でまつりが言うと、四ツ原は肩を揺らして笑う。

「仕事ができる女はもてねぇぞ。な、佐藤」

「心配いらないわ。男にもてなくても結構よ。ねぇ?」

 妃早はまつりに優しく微笑みかける。

 なぜ妃早に四ツ原が話を振ったのかは知っている。

 ――妃早は、もともと神奈川県警で、四ツ原の下で働いていた。妃早がマトリになる際、彼が助力したことも庁内だと有名な話だ。

(四ツ原さん相手に妃早さんと私を選んだのって、そういう意味だよね?)

 熊ケ谷は頭の回転が速い。警察でもまつりのことは噂になっているだろうと踏んでいる。

(そうしたら、無下には扱われないもんね)

 少なくとも話も聞かず、ということはない。そして、組対の中でも四ツ原はマトリに友好的だ。何が一番事件解決にいいかを判断できる頭脳もある。

 だからこそ、まつりを仕向けた。まつりが佐久真と親しいことを踏まえ、きっと信用に至るまでの意見が言えると見越したのだろう。

 四ツ原を納得させる材料を揃えてくれた。

(こういう所が、切れ者なんだよな)

 あの一瞬でここまで考えていた、なかなかできることではない。

 ブーッと激しい音がなり、妃早が慌てて携帯を見た。

「噂をすれば課長からだわ」

 妃早は電話を取り、相槌を打ちながらこちらを気にしている。

「はい、佐藤です。いま話がまとまりました」

目で急ぐように合図をされて、まつりは頷く。

「では、またご連絡差し上げます」

 妃早の代わりにお礼を言った。

 四ツ原の目が、電話を終えた妃早を見ている。

「待て佐藤」

 頭を下げてそのまま去ろうとした妃早が、動きを止めて振り返る。

 四ツ原は、何か言いたそうに口を動かしたが、堪えるように一度閉じた。そして言う。

「……今度は署に顔を出せ。お前は来づらいだろうが、みんなはもう気にしてねぇよ。お前も随分優しい顔で笑うようになった。もう、時効だろ?」

 時効。思ったよりも重い言葉に驚いた。妃早の表情を確認しようとして、目を奪われる。

 そこには、いつもとは違う、険しい表情の彼女がいた。まるで、いまから誰かを殺しにでも行きそうな冷ややかな目をして。

「失礼します」

 四ツ原の言葉を断ち切るように、鋭い声でそれだけ言うと妃早は背を向けた。

 歩き出す彼女の背中が小さく震えていることに、まつりは気づいていた。


   *


 車に乗り、ハンドルを手に取っても、彼女はどこか落ち着かない様子だ。

「……なにも聞かないのね」

 運転しながら、妃早自身からそう切り出された。

 いつもならよく話すまつりが黙っているのが意外だったのだろう。

「聞きたい、です。いつか」

 赤信号で止まった後、妃早はこちらを訝しむように見た。

「今は聞きません。妃早さんを傷つけたくないから」

 それ、と指さすと妃早はようやく掻き痕の残った手首に気付いたらしい。

 ストレスがたまった時に出てしまう癖。妃早は一瞬眉尻を下げ、「ありがとう」と、いつも通りに穏やかに笑った。

 空気が少し和らいだ。

 まつりが笑い返すと、プーッと後ろからクラクションが鳴らされた。二人、慌てて前を見る。

「青、ですね」

「行かなくちゃ。残念だわ。せっかく、まつりはやっぱり良い女だなって思ったのに」

 からかうように言いながら、妃早がアクセルを踏む。

「まつり――ありがとう」

「お礼を言われるようなことは何もしてませんよ」

「ふふ、後でシュークリームをあげるわ」

「あ! まさか!」

「ご名答。こないだ聞き込み行ったとき、まつりが食べたいって言ってたやつ」

「妃早さん……」

 再び赤信号のタイミングがきて、まつりは妃早に寄りかかった。髪から香る少し甘い香りは、シャンプーではなくヘアオイルだ。

 一緒に住んでお風呂から上がったとき。先に風呂から出ていた妃早が、必死にヘアオイルを塗りこむ姿を見て、胸が躍った。愛しい気持ちというのはこういうことを言うのだと思った。

彼女の美しい黒髪が作られるのがそのヘアオイルだと思うと、いてもたってもいられなくて「どこのオイルですか、私も買います」と言った。

 彼女は少し驚いた顔をしたあと、笑ってまつりの髪にヘアオイルをつけてくれた。

「一緒に住んでるんだから、一緒に使えばいいでしょう?」

 彼女の細い指がまつりの髪にオイルを塗り、優しくドライヤーで乾かしていく。「犬にシャンプーするみたいだわ」なんて妃早も少し嬉しそうだった。まつりは妃早の犬は幸せだなあと思い、自分が犬だったらという妄想を思い描いた。

 そして今、その願望を抱いた自分にばかだなと言ってやりたい。

 犬だったらこんな風に、同じ香りを纏うことはない。同じ物を自分で買うこともできない。

「一緒に……使います」

 言葉を呑み込んだ。

 その答えに妃早は不思議そうに瞬きをした後、いつも通り笑った。

「シュークリーム買ってきて良かったわ」

「餌付けされました」

 わん、と犬のふりをすると頭を撫でられた。

 冷たい指先が気持ちよくて、まつりの体の奥がぶるりと震える。まつりを見ていた優しい目がそっと目の前の信号を盗み見た。

「あ、青だわ」

 指先が離れるのを惜しむように、目に焼き付けた。

 再び車を走らせる妃早を眺める。

 鼓動が少しだけうるさくて、まつりは鎮まるように服の下にあるネックレスを祈るように掴んだ。


   *


 署に戻ってすぐ、報告のため熊ケ谷と抜けた妃早を見送った。

 一人で事務所に戻ると、机で眠る人影に気付いた。仕事中だと怒ろうとして。まつりはふと時計を見る。もう二十時を過ぎている。定時は十七時だ。

「久住さん?」

 よく寝ている。

 彼は、この後百愛のキャバクラに足を運ぶ。客としてではない、ボーイとして潜入しているのだ。

(疲れるよね、そりゃあ)

 見た目がちゃらく、女性慣れをしているが目立ちにくい、ということで久住が適任だった。

 日中は通常通りに勤務し、その後に支度をして深夜一時までボーイ、翌朝も仕事。土日の休日は張り込み。加えて、彼は書類もまつりの三倍はこなしているし、別件でも動いている事件もある。

 普通の人だったら倒れているのでは――そう思うほどに忙しい。

 仕方ない、と自分の椅子にかけてあったブランケットを取った。

(冷房あたる席だし、久住さんが倒れたらみんなも倒れる)

 ブランケットをかけながら、その寝顔を見た。

 本当に非の打ちどころがないほど、整った顔立ちをしている。だが、本人は自分の顔が好きではないらしい。女性のような顔と言われるのが嫌なのだと以前こぼしていた。

 まつりの指がさらさらの髪に触れる。

 それで起きてしまったのか、伸びをすると、彼はガラス細工のような黒い目でまつりを見た。

「すまない。そういや、四ツ原さんに会ったんだろ。大丈夫だったか?」

「久住さんの写真、めっちゃ突っ込まれましたよ。どうやって撮ったんですか?」

「俺が撮ったんじゃねぇ。あの映画館は在原組関係者しか入れねぇし、在原組の奴らはそれ代わりに使うことも多いんだよ」

「それって?」

「それって――それだよ。気付けよ」

「だからそれって何ですか! 教えてくれなきゃ、次に活かせないじゃないですか!」

 むっとしてやや声を張ると、久住は耳を貸せと言った。

 言われた通りに耳を近づける。吐息が耳に触れ、身体が強張った。

「お前が今まで行ったことない、大人の男と女がセックスするためのとこだよ」

 囁くように、いい声で言われ、内容も理解して、全身が一気に熱を持つ。

「さ、さいてぃ……」

 真っ赤になったまつりを見て、久住が正しく理解できたようで何より、と満足そうに笑った。

「それはかずみが撮ってくれた。ありがたいことだよな。本名、かずよし。俺より背の高い、ウリ専の野郎だよ。歌舞伎じゃ一番って有名だ」

「ウリ専……」

 男性客メインに体を売ってお金を稼ぐ男のことだ。

 久住の黒い噂が一瞬、まつりの頭に過り、息が詰まる。マトリ捜査一課のエースは、その美貌と身体を使って、情報をとり、検挙率ナンバーワンを誇っている。そんな、どうでもいい噂。

「命がけで写真を撮ってくれたらしい。プレイを中断して首絞められたから、治療代と、貰うはずだった金よこせって言われたよ」

 確かに命がけだ。気付かれたら、殺される確率が高い。

「やるさ。女は。惚れた男のためなら、な。あいつは心も、歌舞伎で一番の女なんだ」

 久住の、こういうところは懐が深い。そして、その和美さんは、久住のこういう部分に惚れているんだろう。そのために、女である自分の命を懸けたのだと。

 そう思うと、なんだか胸の奥がきゅっとなった。

「ちなみに、その様子だと捜査協力は大丈夫そうだな」

「はい。ばっちりです」

「良かった。正直、俺の手に余る案件だ」

「そんなに、ですか?」

 久住は頷いて、少し辛そうに目を伏せた。いつも自信満々なのに、珍しい。

「一斉摘発だ。酒に覚せい剤を溶かして保管してる。輸入会社、受け取り先の酒屋、全て怪しい」

 予想以上の規模に息を呑んだ。

「これは思ったより、やばい案件だ。見つかったら俺は間違いなく沈む」

「し、沈まないです! 久住さんは強いから、転職先で便利に使われて、活躍できますよ!」

「余計怖ぇこというな!」

 心底ぞっとした顔をした後、久住はがくっとうなだれた。精神的に限界がきているらしい。

「そっちはどういう塩梅だ?」

「……まずいですね。いま、笠洋会が揉めているのを知っていますか?」

「トップがいなくなるから、ごたついているらしいな」

「その騒ぎに乗じて、佐久真が都郷連合と手を組んで独立しようとしています。今回梧原が橋渡ししているのは、そのための資金です」

 一瞬打ち驚いた顔をしたが、すぐに繋がったのか、久住は「なるほど、手切れ金か」と呟いた。

「はい。百愛さんは、彼の弱みにさせられたんです。無理やり」

 だろうな、と静かに言いながら、久住は百愛の情報を話し出した。

「百愛ちゃんは前の店の奴に、いままで頑張ったから独立しないか、知り合いの店がそういう相談に乗ってくれると言ったらしい。だが実際はどうだ? 独立の話は出てこない。仕事内容も違う。それと同時に、自分の男が怪しい」

 本人も店に対する不信感があったのだ。それが今回告発に踏み切った大きな要因だろう。

「百愛ちゃんがランクが落ちるのも当然だし、歳も歳だ。新しい店に移るのは厳しい。騙された上にスナックや熟女キャバクラに移るのは、プライドが許さないだろうな」

 かつてナンバーワンをキープしていた彼女のプライドを考えると、難しいことなのだろう。

「そして、そのツケを梧原が今払っている」

 久住には、そこまでお見通しだったらしい。

「あの、それなんですけど。実は――」

 言いかけたまつりの声を遮るように、慌ただしい足音が聞こえた。

 それと同時に、まつりの携帯が鳴る。相手先を見ると、実家からだった。歩きながら電話をとる。

(なんだろう。やなことなんだろうな)

 電話越しの母親の声は震えていた。姉が。失踪していた姉が遺体で見つかったのだという。

 ニューヨークで事件にあい、顔が判別できない状態だったと。父が確認にいき、うちのカルテにあった歯の治療痕と合致したと。

 悲しいほどに、笑顔しか浮かばない。いつも穏やかな姉の顔を思う。

 事務所に戻り、熊ケ谷に報告する。そうか、と重みのある相槌をうった熊ケ谷は、まず、久住に話しかけた。

「ご苦労だった。情報通りなら五日後に店の酒が輸入される。念には念を入れて裏付けして、大丈夫ならガサだ。顔が割れているから、久住には、外れてもらう」

 それから、熊ケ谷はまつりに目線をやった。

「それと、氷田はしばらく休んでいい。今回のことで何かあるといけない。護衛に久住をつける。一連の事件が終わるまで休んでくれ。お姉さんのところについていろ。君は佐久真に顔が割れているからもとより外すつもりだった」

「休み……?」

「良かったなお嬢。有休、たまりにたまってるだろ」

 からかう久住になにか言い返したかったが、そんな元気も出なかった。

 ふと、こちらを見守る目に気が付いた。

「まつり」

 優しい声に、引き寄せられる。妃早がいつも通りの優しい顔で笑っていた。

「もう、帰りましょう」

 頷いたまつりに、熊ケ谷がコートとマフラーを着せてくれた。

 久住もなんだかんだで世話を焼いて、椅子の下に引っ掛けてあった鞄を取って渡してくれる。

 妃早に手をひかれて、熊ケ谷と明に見送られる瞬間。

 ふと、玲央の机が目に入った。そういえば、玲央がいない。

 けれど、事務所からの帰途。どんなことを考えても――姉の美しい顔が頭の中から消えなかった。

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