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敗北

 ドサッと言う音を立てて、地面に倒れ込んだ。

 視界いっぱいに広がる青空に目を細め、大して痛くもない衝撃に身体を起こそうとすると、切りつけられた左腕が凄まじく痛んだ。

 じくじくと、少しずつその痛みは傷から広がっていき、今はもう既に肩まで痛みが進行している。

 ……毒か。まずいな。

 ぐっと息を飲んで肩を押さえていると、バタバタと足音が聞こえた。


「リド!?リド!ねぇ返事して!!」


 キンキンとした声を上げて、ステラが涙を目に浮かべていた。

 俺は死んだのかと聞きたくなるほどに取り乱しているステラの頭を撫でてやりつつ、なるべくゆっくりと呼吸を整える。


「……うるさい。生きてるから」

「リド!あぁ良かった!!リドにもしもがあったら私!!」


 もしもってなんだもしもって。今まさに毒が回って死にかけてんだけど。


「いいから、さっさとこれ治して」

「あっ、そうね、そうよね」


 慌てて杖を握りしめたステラに腕を見てもらいつつ、周りに目を向ける。

 すぐ側ではローウェンに支えられたミリアンが、鳩尾の辺りを押さえて呻いている。彼女を支えるローウェンも、その男前な顔にいくつも怪我をし、左手は銃すら握れないほどに負傷していた。

 その隣にはフレッドが大の字で倒れており、パッと見ただけでも痣や切り傷が多数。顔は頬と額に擦り傷。走って戻ってこれたのは、足に大きなダメージを食らってなかったのが幸いしたか。

 その反対側には、木に凭れてノックスが荒い息を繰り返していた。ここまで俺達を転移させた魔法により、彼の魔力はほぼほぼ底を尽きているだろうし、軽傷ではあるが怪我も少なくない。

 真剣に腕を治してくれているステラも、あと少し遅かったらここに居なかっただろうし、息が荒いことから、魔力もあと僅か。それはそうだ。戦っている間、ずっと治癒魔法を発動し続けていたのだから、当然であると言える。

 仲間から視線を外し、空を見上げる。

 人間側の森だろうここは、大抵の魔族は入ってこない。俺達にとってあちら側で息がしづらいのと同じで、魔族もこちら側は生きにくい。

 じくじく痛んでいた腕も、ステラのおかげでだいぶ収まり、もう少しで傷も塞がるだろう。

 しかし、この治癒でステラの魔力が尽きてしまえば、ノックス達の治癒が出来なくなってしまう。

 ぐっと、治癒されていない方である右腕で強すぎる陽射しを遮る。


「ステラ。もういい」

「えっ、でも……」

「解毒はしてくれたでしょ?後はいいから、ノックス達見てやって」

「………うん」


 淡々と告げると、心配そうな声音を残して、ステラは離れていった。


「…………めちゃくちゃつえーじゃん……」


 ぽつりと零れた声は、掠れ、蚊の鳴いてるような声だった。

 ………………惨めだ。

 魔王を倒すどころか、傷一つつけられなかった。

 それどころか、魔王に会う前に仲間の大半が重症。俺はもうすぐ出血多量か毒で死ぬとこだった。

 ステラの杖は落としてきてしまったし、ミリアンの弓は回し蹴りを食らった時に弦が切れた。背負っていた矢も折れ、ノックスの杖は傷がつきすぎて魔力を上手くコントロール出来てなかった。ローウェンの銃は一丁が弾切れ。もう一丁は壊され、その時に左手を負傷した。フレッドの鎌は刃が欠けており、途中から格闘になっていた。そして自分の大剣は真っ二つ。

 武器の強化もさることながら、男達は武器に負担をかけすぎている。

 …………今のままじゃ、ダメじゃん。

 自分の腕を過信していた。

 人間の中で最強になっても、魔王には手も足も出ないってか。


「しんど…」


 目を閉じると、あの女が瞼に浮かんだ。

 倒れ込んだ彼女を見て、魔王の目の色が変わった。明らかに、魔王にとって彼女は特別だということか。

 やっぱり、普通じゃない彼女。

 敵とか味方とかなしに、興味がある。

 あわよくば、魔王の弱点となればいい。

 そう思ってしまった自分に吐き気がした。

 なんだ、魔族の癖して少女を助けた彼女よりも、俺の方が余程魔族らしいじゃん。

 ……………。

 ……好きだとか言っといて、刃を向けた。拳を入れた。……最低過ぎて笑える。

 黒い思考回路を隠すように、長く息をついた。

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