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弓兵は嫁(仮)を迎えに行く  作者: オーブピアー
7/8

6 愚者を供物に

少し長くなりました。

残酷な描写(人によっては残酷に感じないかも)があります。

前話と同様に一部、変更した箇所があります。

 その場は凍りついた。

 途轍もない威圧感に誰も動くことができなかった。

 この時になってルベレオは気付いた。いや、気付いてしまった。

 自分がとんでもない化け物に喧嘩を売ってしまったことに……


 「あ……うあ……」

 「【イモータル・サンクチュアリ】」


 宗隆がそう呟くと空間全体に緑色のドームが展開された。

 それを確認するや否や宗隆は一瞬でルベレオに肉薄し上に向かって蹴り上げ天井に叩きつけた。


 「アガッ!」


 ルベレオはあまりの衝撃に意識を失いそうになったが何とか耐えることができた。

 しかし意識を失っていた方が良かったかもしれない。地獄の時間はまだ始まったばかりなのだから。


 「痛かったか? だが安心しろ、このドーム内に居ればどんな致命傷を受けても死ぬことはないからな」


 そう、死ぬことはないのである。

 【イモータル・サンクチュアリ】、ドームの範囲内であれば発動者の指定した者のみ致命傷を受けてもHP1の状態で生き続けることができる神聖魔術である。ドームの範囲は消費MPによって異なり、発動中はMPを消費し続ける。

 このようにドーム内であれば死ぬことはない、死ねないのである。


 「さぁ、まだ始まったばかりだぞ?」

 「ひっ!」


 これから自分に降りかかる災厄を察したルベレオは洞窟の出口に続く通路へと走り出した。

 しかし、灰色の弓兵は逃がしてくれない。


 「おいおい、逃げられると思ってんのか? 【バインド】」


 ルベレオに向かって鎖が放たれ巻き付いた。


 「っ! おらっ!!」


 だが、一瞬動きを止めたものの直ぐに鎖を振りほどき再び通路に向かって走り出した。


 (どうしてこうなった! あと少しだったのになんであんな化け物がいるんだよ!)


 「振りほどくとは甘く見過ぎたか……【革の戒め(レージング)】」


 ルベレオに先程とは違う鉄鎖が巻き付いた。

 再びルベレオは振りほどこうとしたが鎖はびくともしない。


 「くそっ! なんなんだよ!」

 「まったく、手間をかけさせてくれるな」


 宗隆は鎖の端を持ちルベレオを自分の前に引き寄せた。


 「た、助けてくれ! さっき言ったことは冗談だったんだ!」


 そうルベレオが命乞いをすると宗隆は笑顔を浮かべた。

 見た目が見た目だけにその笑顔は非常に華麗なものであった。


 「例え冗談だったとしてもお前を殺すことは決定事項だ」


 その言葉はルベレオにとって絶望そのものであった。


 「待っ……」

 「スペル・アロー【蛇王の猛毒(デドリ・ポイズン)】」


 毒々しい色の矢が放たれルベレオの胸に突き刺さる。


 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「猛毒魔術のお味はどうだ? わざわざ矢にして放ってやった特製だからな、とくと味わうがいい」


 弓星という職業との相乗効果によって、より凶悪なものとなった毒がルベレオの身体を蝕む。


 「があぁぁぁぁぁぁぁ!! やめで……ぐれ……じ……ぬ……」

 「死なないから安心して苦しめ」

 「だず……けで……じに……たぐない……」

 「何言ってるか分からないな……ああ、そうだ。この世界に来てからまだ試してないスキルとか魔術が沢山あるんだよ。丁度いいから手伝ってくれ」

 「あぁ……あぁ……」


 ルベレオは目の前の化け物に喧嘩を売ったことを今になって激しく後悔した。

 地獄の時間はまだ続く。






 「あ……ぐぅ……うぅ……」

 「どうしてこうなった」


 ルベレオとかいう畜生の処刑を開始してから数時間ぐらい経過しただろう。

 視界内には白目をむき微かに呻き声をあげているルベレオにテュクスを膝枕しながら恍惚とした表情でその様子を見ている女性の姿があった。

 ルベレオを実験台にして数あるスキルや魔術を使ったせいで周囲は血の海に染まっている。

 まさに地獄絵図と言うに相応しい惨状になっていた。

 テュクスは疲れていたのかいつの間にか眠っていたので、この惨状に至った経緯などは見ていないと願いたい。


 「ヤバイな……流石にやり過ぎた……」


 怒りに身を任せたらとんでもないことになってしまった。

 なるべく視界に入れないようにしないとSAN値がゴリゴリ削られてしまう。

 取り敢えずテュクスの母親と思わしき美人さんに話しかけてみるか。


 「あの~」

 「はい! 何でしょうか!!」

 「…………」


 笑顔で元気に返事してきたよ……

 この状況でなんで嬉しそうなんだ……


 「あの、どうかしましたか?」

 「いや、なんか嬉しそうだな~と思って……」

 「それはそうです! 私のかわいいテュクスちゃんを痛めつけた奴が必死に命乞いしても許されず無残な姿にされ、ゴミのように打ち捨てられているのを見ると胸がすく思いですよ!」

 「……ソウデスカ」


 この人、ちょっとヤバイ人だわ。


 「それで貴方がテュクスの母親でいいんだな?」

 「あ、申し遅れました! テュクスのママのテュースです!! 助けていただきありがとうございます!!」


 テンション高いなこの人……


 「そういえば、鎖で拘束されてませんでしたか?」

 「ああ、それならあの男が天井に叩きつけられたときに消えました!」


 魔術か何かだったのか?

 今考えても仕方ないか……


 「取り敢えずここから出ましょうか、テュースさん」

 「テュースとお呼び下さい! 口調も崩してもらって構いません!」

 「あ~はい」


 さっきまで弱ってなかったっけ? 凄い元気な人だな……


 「あの男はどうするんですか?」

 「そうだな……」


 どうしようか……

 視線をルベレオの方へと向けると相変わらずの地獄絵図だ。

 因みに【イモータル・サンクチュアリ】はまだ展開中だ。そう簡単に死なせはしない。

 ルベレオの顔を見てると先程のユーティアたんを馬鹿にした発言が頭をよぎり、沸々と怒りが湧いてきた。

 この畜生を許しはしない。

 ユーティアたんを馬鹿にした奴は俺が裁かなくては、ユーティアたんのためなら俺は神にも悪魔にもなれる。


 「ん? 悪魔?」


 ふと、まだ試していない魔術に悪魔召喚があることを思い出した。

 後始末、面倒くさいし悪魔に任せるか。

 そう決めるとアイテムボックスから【上位悪魔召喚書】を取り出した。

 俺は召喚魔術を習得していないがグリモワール、つまり魔術書を使うことで悪魔や精霊を召喚することならできる。

 ただ、グリモワールは作成するのが困難でアイテム市場にも中々出回らず、尚且つ一度の召喚に一冊丸ごと消費するため大変貴重なアイテムなのだ。俺の手元にある悪魔召喚書もこれが最後の一冊だ。

 普段は使うのを渋るが今回はユーティアたんを馬鹿にした畜生の魂を悪魔に食わせることにしよう。 


 「この畜生の始末は俺がやりますから、先に外に出てて貰えますか?」

 「わかりました! 外でお待ちしております!」


 そう言うとテュースさんはテュクスを背負って通路の奥へと消えていった。

 さて、早速召喚するか。

 召喚するための詠唱とか知らんけど多分呼べるだろう。

 

 「悪魔さんおいでませ~」


 ………………何も起きない。

 うーん、どうやって召喚するんだ?

 ゲームの時はアイテム消費するだけで召喚できたんだけどな、悪魔召喚は諦めた方がいいか。

 だとしたらこの畜生の始末はどうしたものか……

 そんなことを考えながら何気なくグリモワールを開くと悪魔の種類や好物、召喚方法が書かれていた。


 「お? 召喚方法書いてある」


 何々、まず指定の魔方陣を血や魔力の籠った物質を溶かしたもので描く。

 次に対象を召喚するための呼び水を用意し魔方陣の中央に置く。呼び水は召喚対象によってそれぞれ違う。

 最後に指定された詠唱を行うことで召喚することができる。


 「なるほど、面倒くさい」


 もう適当でいいだろう。

 最初は魔方陣だったな、血はそこら辺のを使って五芒星で良いだろう。描きやすいし。

 次に呼び水? 湖で捕った魚にするか。

 最後が詠唱か。

 グリモワールに一通り目を通したが詠唱のところだけ何語? 状態だった。

 詠唱だけ読めないようにしてるとか不親切だな。


 「それっぽい詠唱すればいいか……悪魔よ、呼びかけに答え、我が下へ顕現せよ」


 なんちゃって詠唱が終了すると血の五芒星が光り輝き、陣の中心に黒い衣を纏った山羊の角が生えた中年の男性が現れた。


 「我が名はバフォケス、十の悪魔の軍団を統べる地獄の子爵なり。お主が召喚者か、随分と強引に呼び出してくれたな」


 おおー、如何にも悪魔って感じのが来たな。


 「して、どのような願いで我を呼び出した」

 「願いか……」


 畜生の処理しか考えていなかったから、願いなど決めていなかった。

 何にしようか……


 「言っておくが願いには代償がつきものだ。我への供物は用意しているのか?」

 「ああ、供物ならそこに転がってる畜生の魂でどうだ?」

 「ほう魂とな、どれどれ……うわぁ」


 畜生を目にした悪魔バフォケスは何故か引いていた。


 「こ、これはお主がやったのか?」

 「そうだけど? もしかして身体も無事の方が良かった?」

 「い、いや我は魂を貰えればそれで良い。これだけ酷い状態だと身体は使い物にならないしな……」

 「じゃあ、とっとと魂食べちゃって下さいな」

 「あ、ああ、了解した」


 そう言うと畜生の前に移動した。


 「おい、良かったな。こちらのバフォケスさんがお前の汚れ切った魂をおいしく食べてくれるってよ」

 「あ……うぅ……ひひひひっ」

 「駄目だな、心も壊れたか? まぁ、いいや。 バフォケスさん、どうぞ~」

 「あ、ああ……哀れな魂よ、我が糧となるがいい、いただきます」


 悪魔も「いただきます」するんだ……

 畜生の身体から光の玉が出てきてバフォケスさんの下へと飛んで行った。

 バフォケスさんはその光の玉を食べるとこちらを振り返った。

 心なしかバフォケスさんの存在感が増した気がする。


 「供物は確かに受け取った。お主の願いを言うがよい」

 「願い……神界の行き方を教えてくれ!」


 一番の願いはユーティアたんに会うことだが、それは自分自身の力で会いに行きたいからな。

 神界の行き方さえ教えてもらえればそれでいいや。


 「し、神界の行き方とな? す、済まぬ、我ら悪魔と対極の存在がいる世界の行き方は知らぬのだ。他に叶えたい願いはあるか?」

 「えー……他に願いなんて無いんだけど」

 「しかし、供物を貰った以上それに見合う願いを叶える必要があるのだ。でないと、我は悪魔の制約を破り滅びることになってしまう。このままでは帰れないのだ」

 「そう言われても無いものは無いし……俺の用は済んだし帰っていいですよ」

 「このまま帰れば滅びると言ったであろう!? で、では、我を何時でも呼び出せるようにするのはどうだ? 財宝が欲しければ用意しよう、操りたい人物がいれば我がそうしよう、禁忌魔術が知りたいならば教えよう、我のできる範囲のことなら何でもやろう! だから、我と契約しようではないか!」

 「嫌だな、悪魔のような恐ろしい存在と契約なんてしたら危ないじゃないか」

 「その悪魔を呼び出したのはお主ではないか!!」

 「仕方ないじゃないか、悪魔に用があったんだから……もう帰って下さい」

 「ま、待て! ……よかろう、お主にはリスクが無いことをここで我が名にかけてここに誓おう。だから、どうか契約してくれ!」


 見た目も年齢も恐らく上の悪魔が俺に対して頭を下げて頼み込んでいる。

 必死過ぎて少し引いてしまった。

 ここまでしているし流石に嘘ではないだろう。裏切られても何とかできそうな相手だしな。

 でも一応怖いから釘は刺しておこう。


 「わかったよ」

 「本当か!」

 「ただし、騙したりしたらその時はどうなるか分かってるな?」

 「もちろんだ。誓いを破ることはしない。それに我ではお主には勝てないからな」

 「それならいいんだが……」


 成り行きとはいえ悪魔と契約することになるとは思いもしなかったな。

新キャラに悪魔のバフォケスさんが登場しました。五芒星はいいけど魚で呼び出される悪魔とはこれ如何に……

誤字脱字がありましたら、教えてください。

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