0 プロローグ
初投稿です。
至らない点は多々あると思いますが、お手柔らかにお願いします。
VRMMORPG【アトラス・オンライン】
剣と魔法、はたまた銃が存在する【アトラス】という世界でプレイヤーたちが思い思いに遊べる自由度の高い体感型RPGである。
味覚や嗅覚は再現できなかったが、現代では中々見れない美しい景色とリアルと相違ない感触、臨場感あふれる戦闘などの魅力的なゲームシステムに大勢の人がこの世界の虜になった。
河内 宗隆もまたその一人であった。
23歳、大学中退の引きニートだ。
現実世界での人付き合いに疲れてしまった宗隆には、この現実ではない現実に近い世界でどこの誰かも分からない仲間と遊ぶのはとても居心地の良いものであった。
自分のアバターを【ウル・ユーダリル】と名乗り、日がな一日ゲームをしている生活を始めてから早数年、気付けば【弓のやべーやつ】などと呼ばれる有名なプレイヤーになっていた。
このゲームでは、就いている職業と相性のいいスキルを併用することでステータスに大きく影響するシステムになっている。個人のレベルに関しては制限がなく、上げようと思えば無限に上げられることもこのゲームの魅力である。職業は剣士、戦士、弓兵、銃士、神官、魔術師などの戦闘職や錬金術師、鍛冶師、料理人などの生産職と多岐にわたり、職業によって上昇効果が変わってくる。また、上昇効果の比率は以下の通りだ。
小――能力値+20%(能力値の20%を上乗せ)
中――能力値+50%
大――能力値+100%
特大――能力値+500%
極大――能力値+1000%
このように上昇効果が一段階上がるだけでもステータスに反映される数値が大きく変わることにより、プレイヤーの向上心を刺激しゲームの人気に拍車をかけた。特大以上にいたっては元のステータスの数倍に跳ね上がることになる。
これを含めて宗隆のアバターのステータスを見ると……
【ウル・ユーダリル】 Lv 2475 男性
《種族》ハイ・ヒューマン
《職業》弓星――弓攻撃威力上昇(極大)、物理攻撃上昇(極大)、魔術攻撃上昇(極大)、属性攻撃上昇(極大)、状態異常攻撃上昇(極大)、貫通力上昇(極大)、標的自動追尾、反動無効、命中補正(極大)、溜め超短縮、詠唱超短縮、身体能力(HP、MPを除く全パラメーター)上昇(極大)、全属性耐性上昇(極大)、全状態異常耐性上昇(極大)、感知能力上昇(極大)、隠密能力上昇(特大)、MP高速回復、千里眼、限界突破
HP 2475930
MP 1980250
攻撃力 99040+α(上昇効果)
防御力 61900+α
生命力 74280+α
器用度 123800+α
俊敏 86660+α
知力 79230+α
精神力 59420+α
幸運度 49520+α
《EXスキル》弓星術
《技能スキル》
戦闘スキル――弓王術、武王術、拳王術、剣聖術、狩猟術、狙撃術、隠密術、投擲術
魔術スキル――獄炎魔術、大海魔術、暴風魔術、大地魔術、神聖魔術、冥闇魔術、無形魔術、治癒魔術、身体強化魔術、猛毒魔術、麻痺魔術、錬成魔術、複合魔術、魔力操作、属性付与
耐性スキル――物理耐性(極大)、魔術耐性(極大)、全属性耐性(極大)、全状態異常耐性(極大)、即死無効
常態スキル――気配感知(極大)、魔力感知(極大)、危険感知(極大)、鷹の目、暗視、思考加速、超感覚
もはやチートである。
これだけステータスが高ければ有名にならないはずがない。また、不人気職の弓兵であることが更に名を轟かせることになった。
サービス開始当時は遠距離攻撃型の弓兵はそれなりに人気の職業であったが、二度目のバージョンアップで新職業として銃士が出てからは操作性の難度や連射性で劣る弓兵は銃士の劣化職という立ち位置になってしまった。
弓兵は弓とMPがあれば矢を作成し、ほぼ無限に矢を射続けることができる。上限はあるがチャージ時間に比例して攻撃威力が上がるため同レベルの戦闘職の中でも一撃の重さでは一、二を争う程である。
また、魔術矢と属性矢という特殊技能を持っている。魔術矢は魔術を矢の形に変形させて射るものであり、威力は高めだが連射性は低い。対して属性矢は矢に属性付与を施し射るものであり、魔術矢よりも威力は低めだが連射性が高い。という特色があり、使い分けることでより強力な攻撃手段となった。
更に射る角度と魔術の併用で標的を追尾することができる柔軟性の高さも売りであったが、チャージ時に大きな隙ができたり操作難度が高いという欠点も持ち合わせていた。
銃士は弓兵と違いMPを消費して銃弾を作り出すことができないため予め用意しなければならないので弾数に限りがある。弾の種類は通常弾、貫通弾、散弾や属性弾、麻酔弾などがあり、攻撃にMPを一切使わないため、魔術を併用することで同レベルの弓兵よりも長期戦に向いている。また、弓と違いダメージが一定で連射性に優れており、スコープを装着することで標的に命中させやすくなるなどの扱いやすさがある。
このように弓は隙はできるが重い一撃を射ることができ特殊技能もあるが、状況によって威力が変動し、銃より連射性が低く操作難度が高い。対して銃はMP消費を必要とせず命中させやすい扱いやすさがあるが、威力は常に一定で弓ほど柔軟性がない。というふうに互いに長所と短所を持ち合わせていた。
しかし、追尾弾や爆裂弾、所持弾数の上昇装備が実装されたことにより、扱いやすく装備によっては弓を上回る威力を出すことができる銃の方に人気が出てしまい弓は不遇職扱いにされてしまった。
そんな中でもウルは圧倒的ステータスに物を言わせて超遠距離からの精密な射撃や、スキルや魔術矢での広範囲内の敵を一掃、PKを仕掛けてきた者への執拗なまでの過剰攻撃などを行っていた。これが彼が【弓のやべーやつ】と呼ばれる所以である。
その日、パーティーメンバーとダンジョン攻略をしていた宗隆の前にそれは突然現れた。
それは直径10メートル程の巨大な穴であった。
目の前の異様な光景に彼らは呆気に取られていた。
「なんだこれ?」
「バグかなんかじゃないかな?」
「でも、なんか嫌な予感がするわ……」
「同感です……」
「新しいダンジョントラップじゃね?」
「取り合えず、もう少し離れて様子を見た方がいいだろう」
彼らがその場を離れようとしたとき、突如として穴が周囲のものを飲み込みながら膨張し始めた。
「「「「「「なっ!?」」」」」」
再び呆気にとられた一行を無視して、穴はその体積を増し彼らに迫る。
周りの景色がノイズが入ったようにブレ始め、自分の身体が引っ張られるような感覚が明らかにゲームとは違う異質な気配を放っていた。
「あれ、絶対ヤバいぞ!!」
「早くここから離れましょう!」
この場から離れようとする一行だが、穴は逃がさないとばかりに膨張する勢いを増していく。
「駄目だ! 吸引力が売りのダ〇ソンよりも強いぞ!」
「こんな時に詰まらないボケかましてんじゃないわよ!?」
「イチャイチャしない! 兎に角逃げるよ!」
「「イチャイチャしてねーよ(ないわよ)!?」」
意外と余裕そうである……
そうこうしているうちに前方に巨大な魔方陣が見え始めた。
「転移陣が見えましたよ!」
「あと少しだ、急げ!」
しかし、穴は必死に逃げている彼らを嘲笑うかのように瞬く間に到達した。
「くっ!? 飲み込まれるぞ!!」
「きゃあ!?」「うわぁ!?」
彼らの声を掻き消すように穴はその場の全てのものを飲み込んだ。
視界が闇に包まれた瞬間、ウルは意識を失った。
誤字脱字がありましたら、教えて下さい。