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Re Day toーリデイトー  作者: 荒渠千峰
Date.3 最悪の教祖
44/68

43 処理落ち

「やっと見つけた! こんな大変なときにどこにいってたの!?」


現場は騒然としている。

事件か事故か、それらが起こってしまったことによってイベント会場は只今より現場、そう呼ぶこととなった。

慌ただしかった会場は別の意味で、またごった返している。悲鳴や怒号といった煩い声だった。

誰もが逆方向、つまり入口方面を向かっている最中でひとり私を探すために駆けまわっていたかえでは私を見つけて叱った。

なんというか、少し新鮮だった。

普通に怒られるのとは違う。確かに怒ってはいるのだろうけれど、かえでの怒りには心があった。相手を思う思いやりというもの。


「いやじゃない(ボソリ)」


むず痒い気持ちになったけれど、ただ悪い気はしなかった。


「ごめん、道に迷って……」

「まあこの騒ぎじゃパニックになっても当然だよね。しょうじき私も何が起こってるのかさっぱり」


遠くに見える建物から硝煙が立ち昇っている。

誰にも気づかれないよう、最小に留めようとしてはいたけれど、さすがに不可能だった。

音と地鳴りはどうにもならず会場内の人々は感知したらしく、加えてボイラー室付近の火災探知機が発動したことによりさらに会場は混乱を来した。


「というか麻衣ってば、どうしてそんなに汚れてるわけ? なんか油臭いし」


警備が来る前に建物から脱したことで、私という存在は認識されない確率は高くなった。けれど、予想を超える爆発によって着ていた服に煤埃すすぼこりが付着してしまったことは否めない。さらには焦げたような臭いも恐らく染みついている。もちろん会場を逃げ惑う人々には、そういった変化は一切ない。

つまりこのままだと何らかの理由で火元に近付いた人間だと、周りは認識せざるを得なくなる。

だから一刻も早く会場から立ち去らなければならない。


「あ、いや。ちょっと人だかりに押されて屋台に突っ込んじゃって」


幸いにもこの会場は食べ物系の屋台がほとんど。鉄板だってあるし、臭いに関してはそれらが移ったと勝手に勘違いしてくれたほうが都合いい。

必要以上にこっちから言い訳をしてもかえって苦しくなるだけだから、あくまでそこの部分を聞かれたくないという体でいることが大事だ。


「いくら非常事態だからって周りを見てないとか、とんでもないことをするもんだ!」


どうやら願いは通じたようで観点が大衆に向いてくれたようだ。


「とりあえずここから出よう。服は近くの店で私が買ってくるからトイレでパパッと着替えちゃお」

「そう、ね。さすがにこのままじゃメンタル的にきついかも」


入口に向かうと非常事態にあちこち右往左往するイベントスタッフや誘導案内を出すスタッフと対応に追われて原因追及どころじゃなさそう。

そうして私たちは難なく会場を後にした。




「ごめんね」


駅前トイレの個室で待つこと数十分。

洋服上下を買ってきてくれたかえでが私に謝った。


「なんで謝るの?」


会話を続ける。


「今日さ、私が誘っちゃったから。いやまさかこんな事になるなんて思わなかったんだけど、悪いことしちゃったね」

「かえでは悪くないよ」


悪いのは私だもの。


「また誘ってよね」

「…………うん」


不思議と罪悪感みたいなのはなかった。

たしかにかえでには悪いことをしたと思うけれど、だからといって本当のことを言うつもりなんてさらさらないし、ああは言ったもののできれば今後もあまり何処かへ連れ出してほしくはない。

なんせ私にはやるべきことができたから。

ポケットの中から取り出した一枚の写真を見て私は決心する。

新居だろうか、綺麗な家の玄関先で並ぶ家族写真。表札に書かれた『立川』という表記に思わず見惚れてしまう。

恐らく財布に入れているであろう保険証や運転免許証を取ってしまえばそれが一番楽だっただろうけれど、今回の事が事件性として深く掘り進められないようにするには、なるだけ手を付けないことが条件になってくる。それに爆発してから、すぐに関係者が集まってくることを鑑みても悠長に探っている時間などなかった。

だから皮財布を開いて咄嗟に落ちたものを拾ってくることが精一杯だった。

でも十分、成果はあった。

そう、私の復讐はここで終わり。

でも目的っていうのは常に達成されたとともに新たなる高みが見えてくるもの。私は本当の意味で普通を手に入れたのだ。

そしたら次は、青春を謳歌しなきゃ。









端的に言えば、中学校を卒業する前に立川家の写真をもとにあの家を探し出すことは叶わないだろう。

あのイベント会場の周辺地位を徹底的に洗い出してみても、私のフットワークには限界が来るだろうし、休みの度に出向くという金銭的余裕もない。


「ふふ」


時々、嫌なことがあればすぐにその写真を眺めるようにしている。めぐるがどんどん私好みに成長している。きっとモテるんだろうなぁ。

いいなぁ、めぐるの近くにいる女子が羨ましいなぁ、恨めしいなぁ。

最近はよく一人で帰ることが多い。

かえでからよく帰りは誘われるけれど、やらなければいけないことがあるからずっと断り続けている。そうすると次第にかえでの方から離れてしまっていった。

でも、それでよかったのだと思う。

私は確かにあの子に救われることが多々あったけれど、私があの子にしてやれることは何もないのだ。それに私から離れたことによってか、かえでにも他の女友達ができたみたいで、私はそのことを喜ばしく思っている。

ながら見ははしたないことだけれど、こうしてよく例の写真を眺めながら私は生徒玄関へ向かっている。比較的にそれをすることによって気分が高まるのだ。


「こらこら、危ないよ~」


肩を掴まれ、やむなく振り返ると事務員が立っていた。


「すみません」

「そんなに熱心に何を見ていたのかな?」


手に持った写真を覗いてこようとしたので私は咄嗟にポケットにしまう。


「あの、もういいですか。一応プライベートですので」


有無を言わさず私は自分の靴箱から靴を履き替えて、小走りで帰宅する。


「ちっ」





家に帰ってからの日課はお茶碗を洗うことと乾いた洗濯物を畳んでおくこと。

これだけは最低限の家のお手伝いとして行っていることだ。今の家の人たちは私にそれ以上も、以下も求めてはこないので現状を維持し続けている。

ただ時折、叔父のほうは私に秘密を握られているというストレスからかあまり家には帰ってこない。だから叔母さんは外で女をつくっているのではと疑っている。あながち間違いではないのかも。

ただ近いうちに離婚などされても私のフィールドワークに支障を来すので叔父はまた別のカタチで脅しを入れようと思う。夫婦仲良くにね、って。


家族で共有しているPCを立ち上げゲストユーザーでログインする。

私自身がさほどインターネットをするわけじゃないので、とくにアカウントも作成していない。だけど今の時代は便利なんだなと、痛感する。

ネットで地図を調べるとある程度の地域を絞り込めて、尚且つ道を辿るようにして見渡せるので時間短縮になる。まあ、それでもすべてを調べ尽くせるわけじゃないので手書きの地図に未探索ポイントとして絞り込んで週末一気にしらみつぶすわけだけど。

さすがにスマートフォンなどあればもっと便利だと思うけれど、こればかりは叔父叔母と双方の同意がないと与えてもらえないし叔母の意向では高校生からなら持たせるという考えだ。

さすがに異論を唱えるわけにはいかないし、叔父を脅したところで契約の時点で叔母にバレるのが関の山。まあ、ないものは仕方がない。使える駒は蓄えている状態だし、今はまだ我慢の時なのかなって思う。使えるから使うのではなく、本当に必要な時に使うのが私のモットーだから。


「はぁ、今日も収穫無しかぁ」


進学校は決まったわけだけど、もし仮に入学する前にめぐるを見つけられたら即座に手続きを進めてもらえるよう、叔父や周辺の男たちを泳がせているわけだけれど。

常に高圧的な無理難題を押し付けることは可能といえば可能だし、それくらいされても逆らえないくらいの事はしでかしたとは思うけれど、万一に暴走されればそれこそ一巻の終わり。これまでの計画も台無しになるし、めぐるを探しているということも露呈されたくはない。

彼を人質にされてしまえば、私という人間は終わるから。


「早く会いたいなぁ」


自分を律するのもとうに限界を超えている。

今一度、写真を見返す。

父、母、兄、妹。

四人家族かぁ。いや、今は三人で暮らしているんだっけ。彼のお父さんは私が復讐した。もうあれから何日経つっけ。

そういえば、死んだらニュースとかになるんじゃないっけ。

うちはご飯時はテレビ見てはいけないし、新聞も頼んでないからそのあたり知らないんだっけ。それに、なんとなく自分のことがニュースになっているんじゃないかって、どこかで下手を打って事件にされてるんじゃないかって少し不安になるんだよね。


「テレビテレビ」


思い立ってテレビを点けてチャンネルを変えてもそう都合よくあっているわけではなかった。


「週刊誌とかなら載ってたりするかも」


コンビニは封をしてあることが多いので近くの図書館に出向いてみることにした。

普段、というかこっちに引き取られてからまともに町中を散策したことなどとくになかったし、図書館に来るのもこれが初めてだった。

幸いにも今日は休館日ではなかった。とくに受付というのは必要ないらしく、閲覧するだけなら誰でも自由にできるみたい。

そこまで大きい図書館ではなかったのであまり期待はしていなかったものの、新聞の取り置きもあるし、雑誌もかなりそろっている。さすがに新刊の雑誌は貸し出ししていないようなので一足先に座り読みしていたおじさんの近くに座り、いつ次の番がきてもいいように数日分の新聞記事を見ながらスタンバイ。

ちらちらとこちらを伺うおじさん。ま、こんなに大量の新聞記事を見る女子も珍しいかな。

記事を見ていると、やはり新聞そのものによって地元に密着している内容だったり、全国的なニュースだったりはっきりと分かれている。

ついついその日のトピックスや豆知識の欄へ目がいってしまい、集中力を削がれてしまうけれど一通り見る限りそれらしきものは見当たら無さそうだ。

一番可能性があるとすれば事故の翌日や翌々日の新聞記事だろう。

それでも真っ先にそちらの方から確認しないのは、やっぱり少し恐怖心があったからなのだと思う。バレているのではないか、ひょっとしたら今も捜査が続いていて今頃家の前まで警察が来ているのではないか。さすがにそういった途中経過は新聞などには載らないだろうけれど、一番危惧している部分が週刊誌あたりなんじゃないかと私は考えている。新聞にはない先入観が入り混じるのがそれだからだろう。

つまり私は恐れている。

それは計画性がなかったことが一番の原因だ。

咄嗟に立てたものとは言え、現場の下調べも不十分なうえに喫煙所にいた人間から物色したジッポーライターも見つからないことを祈るほかならない。我ながら稚拙なものだと肩をすかしたくなる。


「は――――――」


とある記事を見て私は思わず笑い声をあげそうになった。如何せんここは図書館でここは静かにして然るべき場所だということを、ほんの一瞬でも忘れそうになるくらい、それくらいに私は心が躍った。文字通り計画に躍進したというべきか。ただ周りには一瞬でも声が漏れたというだけで、視線を集めてしまった。だがそれが困ったことになってしまう。

普通、図書館に人が入ってきたことはそれこそ『普通』であるべきだ。利用するのが人間以外にありえないからだ。だからほとんどの人は誰かが来てもさも気に留めない。あるいは存在を認識していても視線を向けることなんてあまりしない。だってここは集中を散らすところではなく集中したい人間が来るべきところだから。受験のため、勉学のため、読書に勤しむため、どれもこれも集中力が試される。

だから違和感以外には人間、よほど暇がない限り視線を向けたりはしない。

そう違和感。

私はほんの一瞬だが声を漏らした。それがここじゃ違和感と呼ぶには相応しかった。周りの人間が私という存在を認識した。

そう、見てくれだけでかなり苦労をしてきた私がまさに今、視線を集めた。注目の的と呼ぶようなスーパースターを気取ったつもりはないけれど、それでも男だろうが女だろうが一度私という存在を視界に入れるとそこから意識をしてしまうのだ。

ただの他人ならそうはいかない。

よくも悪くも私という存在は目に留まる。それを覚えている人間が現れ始める。そしたらあとは好奇心がどこまで行動に及ばせてしまうか。『あのひとは今、何をあんなに一生懸命読んでいるんだろう』そう思った周りの人が私の行動ひとつひとつを覚えていて、もしパズルのピースみたいに繋ぎ合わせて、合わさってしまったのなら。

迂闊に行動を起こすのは、やはり間違いだったと認めざるを得ない。イベント、パニック、あのときは周りに目を取られていたせいで気付かなかった。それは幸か不幸か周りもおんなじだ。


「こう目立ったんじゃ、いずれじゃないにしてもいつか、全てを知ろうとする人間が現れてしまう」


小さく呟いて、私は大量の新聞をもとの棚に戻して図書館をあとにする。

だが成果はあった。私は再び心の中で高らかに笑った。

だって、詳しく表記はしていないけれど、それでも被害者の住所を記載するだなんて。


「今の時代、見つかったも同然じゃない。プライバシーなんてあったものじゃないよね」






次の日。放課後が待ち遠しかった。

いよいよもってフィールドワークも大詰め、というにはまだ早いけれどかなり核心まで迫っていると手応えを覚えている。

何事も経験とは聞こえのいいものだと常々思っていたけれど、辿り着いてみればあながちそうなのかもしれないと先人の言葉に感銘を受けている次第だったりなかったり。

そして帰りのホームルームを終えて生徒各々が帰り支度や部活動の道具をまとめたりしている中。


「~~♪」


これ見よがしにスキップでもしながら私は教室を出る。

今まで周りのことなんて眼中になかった私としてはそれが奇行と思われたところで別段痛くも痒くもないわけだ。


「ね、なんか今日の塚本機嫌よすぎない?」

「ねー。いつも表情変えないくせに、よほどのことなんだろうね」

「うおー! 麻衣ちゃん可愛すぎんだろぉ!」

「男子クソうぜー」


それぞれが反応を見せる中で一人だけ。


「………………」

「かえでー、どしたの?」

「なーんでも」




「ふーんふふん」


意味はとくにないスキップ。そしてさらに意味もなく回転してみる。スカートが風で舞おうがとくに気にならない。中学生はただでさえスカートが長いのだからパンツが見えるだとか気に留めたこともない。さすがに高校生になってからはそういった人目を憚らなくてもよい行動というのは非常にとりづらくなる。早く大人になりたいと思っていたけれど、子どもでいるうちもせいぜい華なのかもしれない。

ただ、文字通り舞い上がっていたせいで余計な邪魔が入ることになってしまう。


「や、やあ麻衣ちゃん」


聞き覚えのある声がして私の恍惚としていた表情は瞬時に曇った。

振り返ると、やはりあの事務の男がいた。


「どうしてそんなに嬉しそうなのかな?」

「……いえ、とくに理由はないです」


またこの男か。

いつもいつもいい加減にしてほしい。無視とかすると礼儀がなってないとか言いふらされそうだから無下にしてこなかっただけで本当なら今すぐにでもお前など振り切ってめぐるに会いに行きたいところだ。

いや、逆か。

徹底的に無視をしていればコイツがここまで付けあがることなんてなかったのかもしれない。易々と名前を呼んでいるけれど、それで仲良くなったつもりだろうか。


「さきほど、君のブレザーの胸ポケットから落ちたコレが原因だったりするかな?」


事務員の男は一枚の写真をこちらへ向けた。

私が唯一の手掛かりとしている、めぐるの写真。

瞬間、嫌悪と憎悪が溢れ出た。

いや、こっちの失態だ。本来なら歩いたり走ったりしている如きの動きでは胸ポケットから何かが落ちるなんてことはありえないはずだからだ。

それが起こってしまうくらいに私は舞い上がっていた。


「へぇ、イケメンだね。ボーイフレンド? これから会いに行くの?」

「関係ないですから、返してください」


詰め寄って写真を取り返した瞬間、後ろに回り込んできた事務員が私の鼻にガーゼを当てた。

気付く前に、私は意識を奪われていた。


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