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Re Day toーリデイトー  作者: 荒渠千峰
Date.1 まだそれは日常でしかなかったということ
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4 古株ですが?

俺が転校生をたらしこんでいたらしい(噂)。


「100%俺が悪い成分表示なのね」

「遺伝子組み換えでなーい」

「人生うまくいかねーってこった」


マコっちゃんと戸田と学食で昼食タイムな俺に入ってきた情報はおよそ考えうる事態だった。


「うん、まー塚本さんって普通にめっちゃ可愛いし。仮に性格がたとえ破綻してたとしても俺抱ける自信あるし」

「自信があっても機会が訪れねぇなこりゃ」

「より人気がある方が被害者側に崇められるのかぁ、俺古株なのにな」


肉うどんが妙にしょっぱく感じるぜ。柚子胡椒入れただけだってのに。


「あの子まず可愛いしおとなしいし、お前織田さんとの別れ方あり得ねーし、当然だろうな」

「別れ方までとやかく言われたくねーって話だよ、こっちとしては」


んなもん方向性の違いでいいだろーがよ。


「でも最近は一緒じゃないのな?」

「喧嘩したんか?」

「素敵な勘違いだけど別に付き合ってるわけじゃないからね?」


ああ、早く平穏な日常に戻りたい。帰ってFPSでもやって寝よ。




「もうすぐ五月なので席替えしたいと思いまーす」


うちのクラスでは月一程度で席替えが行われる。目が悪い人は自己申告して前三列分のクジを先に引かせてもらえる。残りはテキトーに引いてガヤガヤと動く。机と椅子を動かす制度は小学生の頃しかやっていなかったけど今は多分どこでも荷物と机の中身だけを移動させる楽な移動が主になっているだろう。学校によっては小テストの成績次第で後ろの席にいけるのだとか、それはモチベーションが上がるよなー。テンアゲー。


「真ん中だけは、どうか真ん中だけは」


天に祈る気持ちで俺は四つ折りにされた紙を一枚取り開く。

黒板には座席に指定された番号が振り分けられており、紙に書かれていた数字は廊下側の端の一番前。

人の出入りが多いとされる入口近くの席となった。

ハズレ席かー。

一ヶ月くらいなら耐えられそう、というのがこの短いスパンの唯一の救いと言えよう。


「…………」


背後を振り返って塚本に別れの一つでも言ってやろうかと思ったけど、踏みとどまるように俺は数回瞬きをしておニューな席へ向かう。

男女混合の席替えなのでハーレム状態になるヤツもいれば同性で固まったりと様々な偶然が重なることがある。

もしかしたら塚本が俺の後ろに来るなんてことも。


「あ、よろしくね立川くん」

「よろしく〜」


普通に違う女子じゃった。

もしかして俺は期待していたのだろうか?

少し寂しく感じたのは気のせいでただ人肌が恋しいだけなのだと思いたい。

そういえば戸田がこんなこと言ってたっけな。


「なんかな、死に際が一番性欲強くなるらしいぞ!」


まさかそうではないだろうと思いたい。寂しさというのを感じさせなかった相手がいた事に今更気付いたところでどうしようもない。

爛々としたあいつの顔は夢にまで出てきてしばらく寝苦しい夜に悩まされてたっけ。


「この席ってなんか微妙だよねぇ」

「うーん、教卓の前よりはマシって思うしかないよねぇ」


とりあえず後ろの女子と駄弁ってホームルームが終わるのを待った。

全く喋る相手がいないよりは幾分かマシな環境づくりを今のうちにしておく事が自分にストレスを与えない方法だ。無論、無茶はオススメしない。





「彼女? ないない、今日まともに喋ったくらい」

「そうなんだ」


何故か今日は塚本と一緒に帰っている。

おかしい、途中までは確かに一人だった。相手が自転車に対して俺は徒歩、追いつかれることは当然だけど、わざわざ自転車から降りて隣を歩かなくとも、ねえ?


「別にみんなとお友達になろうなんて考えてないさ、重要なのは不審がられないこと、敵意を与えないことだからそりゃコミュニケーションくらいとるよ」


そもそもどうして俺が浮気を疑われてる彼氏のような言い訳がましい言葉を並べ立てなければならないのだろう? 塚本自身が問い詰めてくる態度ではない限り、ただの好奇心の一貫だろうなと思える分にはまだいい。相手に悪気が無いと思えば大抵のことは許せるものだ、多分ね。


「そうなんだ? でもあの光景を彼女さんが見たら嫉妬するだろうねぇ」

「嫉妬をしてくれる相手なんていないよ。今はフリーの高校生ってわけ」


自分で言ってて少し虚しくなるね。


「え、意外! てっきり一人か二人いるものだと」

「二人は確実におかしいよね!?」


思わず声を荒くしてしまった俺を見て塚本はクスクスと笑う。そんな幼稚な罠に引っかかる俺ではないよ? 昔「ねぇ、ちゃんと風呂入ってる?」というネタに引っかかったのを最後に誓ったのが懐かしい。


「……少し前なら付き合ってた彼女はいたけど、でも別れたからなぁ」


「へぇ」


たった息を吐く程度の返しなのに、まるでどこかにチクリと刺さったかのような冷たい声を塚本は出していた気がした。


「それって同じクラスの子? もしかして学外にいたりするの?」

「俺のことより塚本はどうなのよ」


あまり蒸し返したい話でもない。

それよりも気になったのは塚本の恋愛観だ、見た目はともかく性格だって悪いとは思えない。彼氏がいるかは分からないけれど狙ってる輩も少なくはない。だけど仮にもし彼氏なる相手がいたとしたら、今一緒に下校している俺は逆恨みされるのではないだろうか、だろうか!?


「私はいないよ。そもそも男運が良くないから気になった人はきちんと品定めしてから好意を寄せることに決めてる」


それはそれは殊勝な心掛けでござんすね。


「みんながみんな、そういう志だといいよな」


中にはルックスだけ好んで付き合うってカップルも少なくはないからね。ただのヤリモクなのは明白だからそういう人達の破局は目に見えるけど。中身を把握したつもりでも長続きしないカップルだっているんだから。


「立川くんは違うの?」

「俺は……」


なんだろう。

恋愛に対する方向性が路頭に迷っていると言うべきか、感情で動いてしまいがちなのに何故か答えの見つからないような思案を繰り返してしまって、異性に対しての魅力やパートナーの必要性が分からないと思っているのに、ふと寂しくなっては後悔しそうになったり。


「今は、誰のことも考えたくないかな」

「んん?」

「自分の心とか、相手の気持ちとかに振り回されてナーバスっていうか。人間の嫌な部分ばかり見ちゃうなって感じでさ」


それでも性欲などに逆らえない自分に余計に腹が立ったりね。


「つまり最近その彼女さんと別れて今はとても誰かを好きになれる状況じゃないってこと?」

「まー平たく言うなれば」


それを聞いて分かりやすいように鼻歌で返事を返す塚本。それは機嫌が良いとも見て取れた。

そうしている内にもう我が家に到着。なんだか久々に喋りながら帰ったので帰路が短く感じた。


「それじゃ、俺はこれで。ゴールデンウィークは羽目を外し過ぎないように」

「なんか教師くさいね」


しかし、ゴールデンウィークって何をするでも無いんだよね。塚本あたりは仲良くなった女子グループとお買い物とか色々とやるんだろうねぇ。それに比べると俺って多分今年は人生最大級に惨めなGWになるのでしょう、まぁなんてことでしょう。

沙希が暇なら狩り三昧すっかな。いい加減に彼氏とか作ればいいのにな。いや、それやられたらとうとう家に居場所無くしそう。


「お互い、無事故を心がけましょってことで」

「うーんそれもまた教師くさい……」


んにゃろう、人の親切心を踏みにじる気か。


「それじゃ」

「ん。またね」


埒が明かないと互いに察したのか、別れ際だけは妙にフラットな感じになった。見送ろうと玄関前で立って見ていると少し歩いた後に自転車に跨りそのまま漕ぎ出し、やがて見えなくなる塚本の後ろ姿に少しムラっとした。

塚本のことをこのままいけば好きになったりするのだろうか。いや、倍率高そうだからやめておこう。そもそも俺に好意を寄せる意味がわからんしな。

恋愛はしばらくいいやって言い放ったばかりだし。


家に着けばいつものように飯だ風呂だ一通りドタバタやって自室に(こも)る。


「あ、ログインボーナス」


ソシャゲの連続ログインボーナスをここで途切れさせるわけにはいかぬとスマホを手に取り開くと一件の不在着信が入っていた。

そこには『織田明羽(元)』と表示されている。(元)というのは元祖という意味ではなく元カノという意味合いで付け加えている。連絡先を消す勇気が無かったのでとりあえず名称だけ書き換えていたのだけど、そもそもなぜこのタイミングで電話なのだろう? というか向こうも連絡先消してなかったのね。


「むぅ」


かと言って折り返し電話をするのはなんとなく気が引けるというか、緊張で心拍数上がりそう。

そうだ、チャットアプリsignalのほうでメッセだけは送ることにしよう。


『着信入ってたの気付かなくてごめん。急用?』


と、まあ相手を突き放すような文面は避けて送信してみる。

再び着信。

天井を見上げ深呼吸してから応答。


「ぼしぼし」

「ドナ●ドの空耳みたいな声になってるけど?」


マニアックなネタを被せられて噎せた。


「で、なんだ、一ヶ月ぶりくらいに話すな……」

「うん」


掛けてきた明羽本人も緊張しているのか声が上ずっている。


「すぐ掛けてきたってことは重要系?」

「ん、まぁそう……いうことになるのかな」


おいおい、自分から掛けといて話題を切り出さないってのはどういう了見だ。

……まさか。


「ゴライアスのライブのこと?」

「あ、たり」


ゴライアスというのは『ご来店どうもありがとうございます』というバンド、略してゴライアス。デビュー曲のキングオブクレーマーというガラの悪い客に対して綴った歌詞が共感を呼んでオリコンチャートに食い込んだことで爆発的な人気を誇った。

俺と明羽はゴライアスのファンでGWに行われるライブチケットを購入していた。

明羽と別れてからは一人で行こうと思っていたので、その件で電話されたのには少し驚いた。


「誰も行く人が、居なくてさ……。迷惑じゃなきゃ、一緒にい、行かない?」

「…………いいよ」


一瞬、何かの罠かと警戒した。だってあの明羽が下手に出てることが俺の中では想像のできない光景だったからである! なんならビデオ通話にしてアイツが今どんな表情をしているのか確かめてやりたいくらい指をワキワキさせるほどもどかしい!

そして一人でライブに行くことの辛さを考慮すれば、まぁゴライアス仲間としてならいいかなーって。今までは明羽のワガママ横暴ご機嫌取りに労力を費やしてきたけどもノンフィルターノータッチでいいわけだろ? ありのままの自分になれるのでしょ? そういうの大好きだ!


「明日のほうでいいんだよね?」

「うん、ありがとう。待ち合わせはどうする?」

「そこはあとで送っとくよ」


ホッとしたのか、明羽の声音はいつもと同じ通りに戻っていた。


「それじゃ」

「うん、また明日」


電話を切ったあと、俺は心臓の鼓動が速かったことに気付き深く息を吐く。

今更だけど元カノとライブって……どうよ? 何かの仕返しだとか、行ったら女子グループが待ち伏せてて罵詈雑言浴びせられるだとか罠を仕掛けてないとは言い難い。

だって女子、怖いもん。

なんだか別の意味で緊張してきたぞ。


「助けて沙希えもんぬ!」

「どーしたキモキモ太君ぬ」


涙目と鼻水を垂らしながら妹の部屋を勢いよく開け放つ。ベッドに転がり壁に足をペターと付けるあまり行儀のよろしくない姿でスマホをポチっていた。

かくかくしかじか。


「なんと愚かで浅はかなことをしたんだ兄よ……。最早キモ太君を通り越してキモ仙人だよ、キモキモ波だよ」

「すまない、理性がちんちんに勝てなかったのだ」


言い訳の余地もないので頭がおかしくなりつつある俺に沙希様は先程から溜息の連続だ。


「いいかい兄者よ、女の生態を舐めちゃいけない。もちろんその辺の女の人も無作為にペロペロと舐めている兄にはオッペケペーな話だろうけど」

「おい、誰が飽くなき性の追求者だこんにゃろ!」

「どんなにサバサバした女と付き合っても必ず訪れる症候群がひとつあるのだよ。メンへーラシンドロームというものが」


俺の悲しい言及もサラリと流した沙希は何やら陰気臭い表情に陥る。


「たらし、スケコマシはだいたい刺される。それはもう愛が深ければ深いほどメッタ刺しですわ」


ごくり。


「人殺しは罪だからね、奴らはありとあらゆる方法で男を殺害するよ。無言電話や誤情報発信、家に手紙を送りつけたりリスカした写真をアップしたり」


みるみる俺の顔は青ざめていく。呼吸が辛い。


「彼女達は心に傷を負わせた者を許さない。復讐としてお前の未来を奪いに来るのだぁああ!」

「うひぃぃいいい!! ……いやそこまでいくか普通」


国家犯罪か宗教団体にまで匹敵するじゃないか。


「まーそれくらいの警戒心を持てってことよ、あんちゃん」


相談する相手を間違えた。

明日、服の中に少年誌でも仕込んで行こうかと小一時間悩んだ。




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