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第三話:恣意の改変者

第三話  恣意の改変者



意識を失って仰向けに倒れた廉の亡骸の前で、ユーディットは両手で顔を覆い、両膝をつきながら涙をこぼしていた。


「ひっく、う……、あぁ……っ!!」


ユーディットの手に血は無く、代わりにだらりと地面に垂らしているアームズの腕にべっとりとこびり付いている。


「ごめんなさい……!ごめんなさい……っ!!」


本来なら殺人事件としてすぐに通報されるはずなのだろうが、肝心の目撃者が一人としてこの通りを通らない。


よく見てみると、丁度ユーディットが現れた辺りの場所から半透明の揺らぎの壁がある。


さしずめ、殺し合いのコロシアムといったところか。


ユーディットはアームズではない手を廉の頬にあてる。


「こんなつもりじゃなかったの……!でも、でもっ!!」


と、その時、ユーディットは廉の頬に体温が残っている事に気付く。


「え……?」


驚いてその姿勢のまま固まるユーディット。そんな筈はない、確かに腹部の風穴という致命傷を与えたはずである。


目を貫いた腹部に向けてみると、ユーディットはさらに驚愕してしまう。


「な、んで……?」


無いのだ。確かに貫いたはずの傷跡が。


理解の範疇を超え。完璧に混乱したユーディットの頬に、廉の右手が添えられる。


「そんなに泣くな……。お前にだって目的はあるのだろう?」


廉の声は弱弱しいが、全てを包み込む優しさに満ち溢れている。


しかし、次の言葉は違う。


「……けどな、簡単に殺されてやるほど俺の命は軽く無いんだよ……!!」


殺意と戦意と怒りに満ちた、戦士の声である。


「『アービティアリィ・ハッカー』!!」




































「そこをどけっ!!」


廉は地面に横たわった姿勢のまま左手をユーディットの顎めがけて振り上げる。


ユーディットは咄嗟に体をそらして避けるが、バランスを崩して後ろに倒れてしまう。


廉はその隙に後ろに転がりながら立ちあがり、両手のアームズを構える。


「ユーディットの目的は叶えてやりたいとは思う。だけど、それに俺の命が必要っていうのならそれは御免だ」


対してユーディットはまだ混乱しているのか、バランスを崩して倒れた姿勢のまま目を見開いて固まっている。


「全力で抵抗させてもらうよ……!!」


今までの恐怖はない。あれは規格外の力に対するものなのだから、自分のも規格外の力を手にいれれば良いのだ。


無防備な相手に拳を振るうのはそれなりに抵抗はあるのだろう。しかしそれでも廉はユーディットに向かってアームズの拳を振るう。


呆けていたユーディットだったが、彼女とて人に手をかけるほどの目的を持っているのだ。すぐに立ち直ってアームズで受けとめる。


「もういっぱ―――!?」


廉は残った手でもう一撃放とうとしたが、それより先にユーディットのアームズが顔面に迫っていた。


振ろうとしていた拳を引き戻して何とか寸前で止めたが、アームズ自体のスピードもパワーもユーディットが勝っているようで、受けとめたアームズが変な音を立てて軋む。


「もうやめてぇっ!!」


反撃したユーディットの顔は涙に塗れ、悲痛な叫びを上げながらも何度も何度もアームズを振るう。


ユーディットのパワーとスピードは廉の想像を遥かに越え、度重なるラッシュに防戦一方を強いられてしまう。


「(ぐう……!ここまで差があるものなのか……!!)」


だが、アームズによって強化されるのは文字通り腕のみ、喧嘩慣れした廉なら充分に足技でも闘える。


廉は足を振り上げてアームズに保護されていない肩を狙うが。


「何で……、こんな事になっちゃったのよっ!!」


足首はいとも簡単に掴まれ、防波堤まで投げつけられてしまう。


ゴオォン!!


「ぐあっ!!」


防波堤を砕くほどの衝撃が全身を走り、体の芯に怖気が走る。


「(これはやばいぞ……!!)」


このまま追撃されていたらかなり不利な状況に追いこまれてしまうのだろうが、予想に反してユーディットは廉を防波堤まで投げた位置で立ち止まっている。


何とかアームズで瓦礫をどけて立ちあがった廉に、ユーディットは絶叫に近い叫びを上げる。


「何で立ち上がるの?貴方は、廉君は死なないのに……!!」


ユーディットの言葉に廉は違和感を感じるが、今はその事を保留せざるをえない。


別の事を考えながら戦えるほどユーディットの攻撃は緩くない。


しかしそれでも、ユーディットの表情は嫌でも目に入る。最早涙は枯れ、小さく嗚咽を残すだけの表情が。


そこで廉は、あの光の球に出所の判らない、しかし激しい怒りを感じる。


「(あの野郎……!!)」


あの光の球の意図を知った廉は強く歯を食いしばる。


しかし、だからといってユーディットの叶えたい願いとやらの道を塞ぐ理由にはならない。


しかし、だからといってユーディットの背中に十字架を背負わせていい理由にはならない。


いくら願いを叶えてもらえるとはいえ、人を殺そうとしたという事実は後々重くのしかかってくるのだ。


つまり、やることは変わらない。


「(俺も、全力で闘うだけか……!!)」


立ちあがってアームズを構えた廉は不思議な体の軽さを感じる。


今までとの違いを考え、ある結論に至った廉は口角に嘲笑を浮かべる。


「――なるほど、確かにその方が面白くなりそうだ」


さしずめ、強く思えば強く思うほどアームズの力は発揮されるのだろう。


今までの廉はただ単に生き残るため――それにも強い動機はあるのだが――ともかく闘う意志は殆ど無かった。


でも今は違う、矛先がユーディットではないだけで、廉は静かに強い怒りを感じている。


廉はユーディットの顔を見据え


「ユーディット、なにがそこまでお前を駆り立てるのかは知らないけど……。俺も能力を失っては行けない理由ができたんだっ!!」


そう叫んで廉はユーディットに向かって駆け出した。


「『アービティアリィ・ハッカー』!!」


ユーディットのアームズが優れているとはいえ、それを扱うのは喧嘩の素人である。


両手の使えない達人と刃物を持つ素人なら、よっぽどのことが無い限り刃物の方が勝つだろう。


しかし、素手の達人と刃物を持つ素人なら、充分に達人の勝つ余地はある。


今までは体捌きの差程度は圧倒的な力の差に無となっていたが、差を縮めた今なら充分にそれを生かすことができる。


廉は顔目掛けてアームズの拳を放つ。


するとユーディットは過剰なまでに反応してアームズで顔を覆う。


しかし、廉は拳を振りぬくことは無く、ボクシングのワンツーのように一度引っ込めて本命を放つ。


流石に顔や腹、胸は狙えない廉は、手っ取り早く闘いを終わらせる為にユーディットの肩を狙う。


だが、そこでやはりユーディットのアームズとのスピードの差が出てくる。


明らかに視界は自らの両手によって塞がれ、無防備となった場所のはずであるにもかかわらず、廉のアームズが横から殴りつけるように弾き飛ばされた。


「チィッ!」


しかし、ここで退いては男が廃る。弾かれた腕を戻し、全力で両手のラッシュを仕掛ける。


ガガガガッ!!


ユーディットのアームズによって全て弾かれてしまうも、今の廉ならラッシュを続けることで反撃を封じる事は出来る。


「オオオオオオオォッ!!」


「ひっ……!?」


雄叫びを上げた廉に気圧されたのか、A・ハッカーの拳を拳骨のように振り下ろす攻撃をアームズで弾く事はできず、バックステップで避けた。


廉は振り下ろした拳を止めず、膝を折ってそのまま地面を殴りつける。


「う、あああぁっ!!」


ユーディットの足元に跪く格好になった隙だらけの廉に、戸惑いつつもアームズを振るう。


が、その時違和感を感じる。


「……ごめんな、ユーディット」


廉とユーディットの目線の位置が同じなのだ。


アームズを振るうための足の踏ん張りも利かない。


「え―――――!?」


ふと下を見てみると、自分の足下にぽっかりと風穴が開かれていた。


「『アービティアリィ・ハッカー』、能力は組成の変化改変全般というとこだ。拳で殴らなければいけないという制約もあるけどな」


ユーディットが廉の体につけた傷が治ったのも、アービティアリィ・ハッカーで作りなおしたのだろう。


この高さから落ちたのなら骨折どころの話ではない、ユーディットはアームズの爪を壁に引っ掛けてブレーキをかける。


ガガガガガッ!!


爪をかけた部分からしばらく滑り落ちるが、ともかく止まった場所から上を見上げる。


穴の縁には廉が立っていて、ユーディットを見下ろしている。


何とか這い上がろうとするユーディットに手を振り


「さよならだ……ユーディット」


なにかを叫んでいるユーディットに背を向け、廉は全力で逃げ去った。




































その後、廉は近くの自転車の鍵をアービティアリィ・ハッカーで壊し、あらん限りの力を込め、漕ぎ続けていた。


多少良心の呵責はあったが、自分が生き残る為と割り切った。


廉は自転車の上でユーディットの表情を思い出し、歯を食いしばる。


あんなに人が泣いたところを見たことはない。ユーディットに限らず、今まで会ったどんな人間にも、だ。


そこまで泣かせてしまった理由の一端は間違いなく廉にある。もしかしたら一端どころではないかもしれないが。


いくら廉にも譲れない理由があれども、やはり心は重くなってしまう。


ホテルの前まで辿り着いた廉は預けていた荷物を受け取り、それを籠に入れて再び自転車に跨る。


今の廉の顔は酷いものなのだろう、廉に対応した女性も訝しげな表情を取っていた。


廉は一度人通りのない裏道に入り、ビルによって切り取られた正方形の空を見上げて溜息をつく。


「はぁ……」


腹部に違和感を感じた廉は一度自転車を降り、壁に手をつく。


そして


「ぐ、ガハアァッ!!」


口から大量の血を噴き出した。


血は一度では止まらず、何度も咳き込みながら血を吹いていく。


立っていられずにその場で膝を付き、その事によって廉の噴き出した血がズボンを汚していく。


服はアービティアリィ・ハッカーによって綺麗に出来るから問題はないが、それよりもまず血が止まらない。


アービティアリィ・ハッカーの手を腹に当てると、そこからはずさんな内臓の治癒がなされていた事が分かった。


咄嗟では、内臓ほど複雑なものを作るのは難しいのだろう。切り傷や骨折はすぐに治せるのだろうが。


軽く腹を殴り、そうして細かく内臓を治していく。


「(全く……。逃げなければこっちが耐えきれなかったな)」


ともかく、内臓の体裁さえ整えれば、細かい血管は勝手に体が治してくれるだろう。


吹いた血は再び取り込み、調子を戻した廉は立ちあがる。


しかしそれでも廉の顔は浮かない。


さっき手を当てたビルの壁に、今度は拳を当てる。


「く、」


歯が砕けるのではないかというぐらい廉は歯を食いしばり


「そがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――っ!!」


そして、周りの迷惑を顧みず大声で叫び、後の惨状も顧みずにビルの壁をアームズで砕いた。



廉:……今回は俺だけか、一人で場をつなぐなんて……。無理に決まっているだろうに


廉:まあいい、適当に場を濁させとくかな


廉:まず、このトリックアームズは二つ目の作品であり、女性キャラを書くための練習であったはずなんだが

……


廉:だから、俺や氷雨は一作目の主役級の性格を少しいじってそのまま出しているんだ。俺はともかく、氷雨はそのまんまだな


廉:楓やユーディットはいまだに慣れることができないので、動きが鈍い実感はある


廉:一作目にも女性キャラがいないわけじゃないんだが……、男勝りか、テンプレートそのまんまとか、空気とか……


廉:ちなみに、ユーディットは本来悪女という設定だったんだが……、あれ?


廉:余談だが、俺のアームズ『アービティアリィ・ハッカー』はまんま恣意の改変者と訳せる。ハッカー=改変者は若干無茶があるがな


廉:……さて、これぐらい埋めれば十分だろう


楓:それじゃ次回予告させてもらうわね。

  戦うことができず、ユーディットから背を向けて逃げ出した廉。こんな状況に腹を立て、そしてその状況をどうにもできない自分にも苛立ちを募らせる。あたしに誘われてかいものに出かけても気分は晴れない。そんな中、やはり廉は騒動に巻き込まれる星に生まれたのか、一日も待たずに再びアームズに襲われるのだったっ!!


次回、『使い捨ての恋人たち』

 ねえ廉、あたしの出番って少なくない?


廉:……安心しろ。カテゴリ:ラブコメにおいて幼馴染が空気ということはまず無い……はずだからな

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