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第三十七話:受け継がれるもの


「……悪い夢だったら、どれほどよかったものか」


佐藤忍はぞんざいに敷かれた布団から上体を起こし、辺りを見まわして溜息をついた。


そこは見なれた自宅ではなく、その傍らには耕作が横たわり、静かな寝息を立てていた。


本来なら驚き戸惑うべき状況であるが、忍の記憶の中にある光景がそんな事を出来なくしていた。


「……なあ、耕作。君は朝には弱いといっていたが、もう、昼、なんだ、いい加減、に……」


耕作の頬に手を添えると、ちゃんと暖かい体温が伝わってくる。胸に耳を当てれば心臓の鼓動も聞こえてくる。


……だが、決して耕作が目覚める事は無い。忍は耕作の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らす。


「目覚めて、くれよ……!!」


耕作が死んだ日から、忍は一度も自宅に帰っていなかった。廉の家に泊まりこみ、甲斐甲斐しく耕作の世話をやいていたのだ。


いくら死んだといえど、体の機能はまるで失われていないのだ。代謝もあれば栄養も必要となる。


点滴なんていう大仰なものをもっているはずも無く、廉がいるうちは廉が逐一栄養補給していたが、廉がいない今は忍が流動食を作って口の中に流し込んでいた。


ついでにと隣に眠る鳴神の世話もしているが、割合は殆ど七対三ぐらいである。


暫くしゃくりあげていた忍だったが、ふと顔を上げ、目をこすって無理矢理涙を止める。


「……だれも、いない……?」


ここ廉の家には東子と楓、そして伊集院がいたはずだが、今は誰もいない。


不安を覚えた忍は立ちあがって探しに行こうとするが、ふとテーブルの上に一枚のメモが乗っているのに気付いて足を止める。


少しかがんでメモを手に取った忍は、メモに目を通す。


そこには本当に急いで書いたような走り書きでこう書かれていた。


『あの女を逃がした 捕まえてくる』


忍がシンを捕らえていた台所をのぞくと、そこにはシンの胴体も両手両足も無かった。


すぐにでも自分も探しに行きたかったが、そうもいかない。忍が行ったところで足手まといにすらなれないのだから。


忍はふらふらと頼りない足取りで台所に入り、冷蔵庫を開ける。


そこには忍が初日に作った死人用の流動食をいれたボウルがあり、忍はそれを持って耕作の下に戻る。


右腕で耕作の上体を起こし、左手に持ったスプーンで耕作の口に流動食を入れる。


ごくりと飲み下したのを見てから再びスプーンで口に流動食を入れる。


そんな気の遠くなるような作業を何度も繰り返し、忍は一回分の食事を済ませる。


近くのテーブルに流動食を置き、忍は再び耕作を寝かせる。


そして、鼻が触れてしまうのではないかというほどまでに顔を近づける。


「……こんなに、夢見たほどに、望んだほどに、耕作が近くにいるのに……」


気付かぬうちにまたこぼれていた涙の雫が耕作の頬に滴る。物語の中でなら、涙の力によって目覚めるといったこともあるのだろうが、この世界はそれほど甘くない。


耕作の右手を握る。自分を守ってくれた右手が、再び動いて握り返してくれる事は、無い。


忍は顔を上げ、涙を拭わぬまま隣に眠る鳴神を見やる。


「彼はいいな……。この苦痛を力に代える術と心を持っている。」


鳴神を一番思っている氷雨は、鳴神が死んだという事実にも膝を突くことも無く、いや、膝を突いても再び立ちあがった。


そして得た復讐の舞台で存分に力を発揮するために、修行とやらに出かけていった。


それに比べて自分はどうだ。一度折れた膝と心は再び立つ事は無く、眠るように地を這っている。


アームズが無いから、という言い訳も出来るだろうが、こんな自分ではアームズを持ったところで何も出来ないだろう。


まず、アームズが無いからと言っている時点でもう駄目なのだ。


「……出かけよう」


このままここにいたら、下手をしなくとも耕作の後を追ってしまいそうだ。忍は立ちあがり、最低限の身だしなみを整えて出かける。


マンションの扉を開けて外に出る。久方ぶりに見た気がする日光は目の中に強く飛び込んできた。


当ても無く町を巡る。目的は無い。そもそも、忍にあるのは今着ている服だけなのだから。


通りすがる人々の笑みに苛立ちを感じ、壊してしまおうかと思い立ってしまうが、寸でのところで耕作を思いだし、踏みとどまる。


「あっ!かちょー!一体どうしたんですか!?」


そんな忍の下に、明るい、しかし心配という感情がふんだんに込められた声がかかる。


忍が振りかえると、そこにはレディススーツに身を包んだ上山がいた。


「課長も耕作さんも全然会社に来ないし!一体何があったんですか!?」


その表情は不安に彩られている。上山も最初のうちは駆け落ちかと甘く見ていたのだが、三日四日と過ぎるうちに段々危機感を覚えてきた。


忍は精一杯の虚勢で表情を作り、答える。


「……ああ。なに、問題は無いよ。ただちょっと二人して風邪をこじらせてしまっただけさ」


「嘘は止めて下さい!……それとも、私には言えないような何かがあったんですか…?」


だが、上山にはすぐに見ぬかれてしまう。無理も無い。今忍の目にまるで生気を感じられないのだから。


はは、と忍は乾いた笑い声を上げる。


「何も無い。なにもないのさ。なにも、なにも、なにも、何も出来ないんだ……!」


「か、課長……!?」


ふらりと柳の葉のように頼りない歩調で忍は再び歩き出す。


上山は追ってきながら何度も声をかけるが、忍は答えない。


明らかに正気を失っている事が分かる忍に、上山は半ば青ざめる。


「一体何が……!?」


これは放って置けないと、家にまで押しかける心積もりさえ持った上山だが、次の瞬間驚きに目をむく。


「えっ――!?」


忍の姿が、消えていたのだ。


見失うよう程の煩雑とした人ごみではない。そして、近くに身を隠せるような路地も無い。


危機感にさいなまれて走りだし、忍の名を叫ぶが、反応は無い。


乱れた息を整えなおし、電柱に寄りかかりながら上山は呟く。


「何があったってのよう……!」


訳の分からない、夢を見たんじゃないかと思えるほどに異常な事態のオンパレードに、上山は頭を抱える。


「働き、過ぎなのかなぁ……」




































結論から言って、忍はその場から一歩も動いてはいなかった。


ただ、アームズの空間に隔離されただけである。


「ひっ――!?」


見覚えのある、思い出したくないほどの苦痛と認めたくない現実を突きつけられたこの空間だと気付いた忍は恐怖に引きつった声をあげる。


気を失うほどの痛みと、光を失った耕作の瞳を思い出してしまった忍は四肢から力を失い、その場にへたり込む。


「な、に……?また、なの?もういやぁっ!!」


ヒステリックな悲鳴を上げ、忍はその場で頭を抱える。


廉達から事情の説明は受けていて、アームズを持たない限り戦いには巻きこまれないと、そのはずだったのに。


だからこそ忍は精神の天秤を、危うい所とはいえ保つ事が出来たのだ。


その天秤は傾くどころか破壊され、忍は言語にもならない悲鳴を上げる。


「――そんなに怯える事は無いじゃないか」


最早恐慌状態になってしまった忍に、とても穏やかな少年の声が届く。


「え……?」


忍が涙に濡れた顔を上げると、そこにはこの世のものとは思えないほど美しい、天使とも賞せるほどの少年の姿があった。


まるで絹糸のような銀髪に、染みやできものなどはまったくないきめの細かい白磁のような肌。ミロのヴィーナスもかくやというほどに黄金率を再現した肉体。どれもが、人間のものとは思えなかった。


そんな出来すぎた少年はまるで光が溢れ出すかのような笑顔を浮かべ、言う。


「大丈夫。何もしないから……。ほら、涙を拭いて?」


そう言って取り出したハンカチで忍の涙をふき取り、再び微笑みかける。


忍が一通り落ち着いたとみた少年は本題に入る。


「さて、――君にはご褒美をあげようと思うんだけど……どうする?」


ドスを効かせているわけではない。少年の声質は相変わらず穏やかなままだ。しかし忍は目の前の少年に改めて恐怖を感じてしまった。


呆気に取られる忍をよそに、少年は続ける。


「心当たりが無いのは当たり前だろうけど……。君にはとても楽しませてもらったからね。そのお礼をしたいのさ」


そう言って少年が腕を振ると、忍の全身に悪寒が走る。


その悪寒に驚いて飛び跳ねる忍を少年は面白そうに眺める。


「君は悩んでいただろう?自分に力が無い事、戦えない事を……」


その悪寒は全身をくまなく回りながら右手に集中していく。


「さあ、その名を呼ぶがいいさ。君を守った剣の名前をね……!!」


吹き出る力に恐怖を覚えながらも、どこか懐かしいものを感じてしまう。


右手に集まった力は形を為し、見覚えのある、いや、忘れられない姿が発現する。


「ラスウァ……マヌス……!?」


そう、それはかつて耕作の右腕にあったもの。忍にとっては圧倒的な敵を薙ぎ払ってくれた、巨人の腕そのものだった――。




































「おかえりー。首尾はどうだい?」


とある水晶の部屋。部屋に入ってきた少年に爽やかな声がかかった。


少年はその声に笑いかけ、答える。


「うん。丁度人数が合わなかったからね。彼女じゃあ力不足だから、ま・さ・に、渡りに船だよー」


相変わらず、少年に邪気は無い。……邪気が、無いだけだが。


「だよな。俺もやられっぱなしじゃあ後味が悪いってもんだからなぁ……。でも、あいつで大丈夫なんかぁ?正直、戦う気のあるだけまだあの子の方がマシな気もするけど……」


「……さあてねぇ?でも、面白くはなると思うよ?だって、この戦いにおいては『思いこみ』こそ、最強なんだからね……」














忍:……喜ぶべきか、苦しむべきか


廉:苦しむべき、でしょうね。生憎、ヒロイックな願望でもない限り無駄な力なんて必要無いんですよ。


忍:君には……そういったのは無いのか?


廉:……あったらこんなに苦しんだりしませんて


耕作:へぇ、俺は結構あったけどな。一応、死ぬ間際になってようやくだけどさ、そういうこと出来たし


忍:こ、耕作!?


耕作:う、うわぁっ!?急に跳びついてこないでくださいよ!


忍:耕作!耕作……!!


廉:……ほーら五十嵐。キャラを立てたいんだったらあれぐらいするべきなんだよ


優姫:……無茶言わないでくれる?


廉:君ぐらいの年だったら色んなことが出来るぞ?例えば……


優姫:あー!あー!あー!あー!きーこーえーなーいーっ!!


廉:……まあ、それも一つの道か。ならあそこにいくといい。ほら、先輩が手招きしているよ


りょうすけ:……名前の字すら忘れられたよ


優姫:私が悪かったわ


廉:変わり身早いな。……まあそれならまずこれを


優姫:……一発殴っていい?


耕作:うーん……。殴る前に一言いれてくれるのはありがたいね。そうは思わないかい?


廉:結局殴られたら同じだと思いますがね……


優姫:……はぁ。だ・い・い・ち……あんたそんなこと言うキャラじゃないでしょ!?


廉:そうでもなかったりする。俺だって騒ぐのは限度を越えない限り好きなほうだし


優姫:……もういいわ。あんたと話してるとほんと疲れる



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