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第三十三話:過去との対話

この度、トリックアームズは一万ヒットを達成いたしました。読んでくださった皆様への感謝は尽きる所を知りません。

……まあ、結局毎週更新は出来なかったわけですが。

実の所なにか短編でも書こうとしたのですが、失敗しました。遅れたのはそのせいです。




*廉視点


あのメモの内容をみんなに言った結果、氷雨は復讐に燃え、東子と楓は複雑そうな表情になった。


伊集院は特に思うところは無いらしく、特にリアクションは起こさなかった。


……まあ、当たり前か。伊集院にとってアームズはむしろ恋のキューピッドだからな。


でも、心配なのは忍さんだ。耕作さんとの関係は未だに良く分からないが、決して浅くない……どころではない程に深い事ぐらいガキの俺でもわかる。


俺達は各々に復讐のための力を持つが、忍さんは無力な人間に過ぎない。


あれほどの感情を、向ける矛先も無いまま耐えきれるのだろうか……。


優姫に関しては、アームズを消して家に帰した。アームズを見ない限り、一般生活に支障は無いみたいだからな。


一緒に戦うとゴネてはいたが、結局説得に応じてくれた。楓曰く『それは説得じゃない』らしいが。


……さて、決戦の日まで日が空いたために、各々にアームズの強化に勤しんでいた。


氷雨は俺と同じのアームズの上半身――いずれなにか名称でも考えておくか――の力を使いこなすために……何を考えたか北国に行くと言い残したまま消えた。……まあ、寒い所に行けば頭にのぼった血も冷えるだろう。


だが、本当に北国にいったところで意味はあるのか?その疑問は尽きない。


既に感情の面でも技術の面でも十二分なレベルにまで至っている伊集院は楓と組み、障壁の精度の強化を手伝っている。


確かあの二人は間接的にとはいえ殺しあったはずなんだがなぁ……。全く、女ってものは良く分からんよ。


東子さんも今回ばかりはやる気らしく、時を止められる時間を延ばそうと躍起になっている。


……そういえば、東子さんに今回は一緒に来なくていい、って言ったら泣かれた。楓には殴られるし、伊集院には説教を受けるし……。別に、東子さんには戦って欲しくないから言ったんだけどなぁ……。一体何が悪かったんだろ。


で、みんながそう言った事をしている中、俺は何をしているのかというと……。


『次は〜潮ヶ浜〜潮ヶ浜〜』


読書をしながら電車に乗っていた。


勿論、遊んでるわけじゃあない。読んでいる本は人体関係の本だし、向かっている先も……まあ、無意味ではない。


しかし……なんだな、学んだ端から実践できるというのがこれほど学びやすいとは思わなかった。下手をすれば医学部にでも入れそうだよ。


この調子でいけば肉体強化できる時間も増えるかもしれない。……時間があれば、の話だがな。


だが、かといってなにも出来ないわけじゃあない。時は金なり、一秒たりとも無駄には出来ないのさ。




































色々な事をして、俺は最後にある町に辿り着いた。


……いや、辿り着いたは違うか、端からここが目的なのだから。


俺は多少懐古の情を感じながら大通りを進み、ある場所目指す。


「……そうだ、ここから俺は始まったんだ」


そこは海沿いの通りで堤防の向こう側には穏やかな波を表す大海原があった。


「ほんの、数週間前の話なんだよな……、なんかもう随分過去のようだ」


歩く俺の前に、何ら変な所は無い。当たり前だ、そういう風に出来ているのだから。


堤防はカビと落書きにまみれ、小さなヒビ程度しかない。


俺は地面に手を、正確にはアービティアリィ・ハッカーの右腕をつける。


「だが、いつまでも過去にしておくわけにはいくまい。今の俺に手段を選ぶ余裕なんか無い」


ゴッ!!


俺が触れたところの地面が盛り上がり、巨大な柱を作り出す。さながら、分不相応な高みを目指して怒りを買ったバベルの塔といった所か。


……よし、こういったことを言う余裕があるという事はまだ緊張はしていないな。


「さあ来いユーディット。もう俺は、逃げるだけの男じゃない――……!!」


これをすれば必ず察してくれるだろう。なにせ、俺達が始めて戦ったこの場所で、俺の能力を感じさせる現象が起きたのだから。


周りはどんどん騒がしくなっていくが、問題は無い。どうせ、いずれ強制的に排除されていくのだから。


ブォン!


「――随分と凝った演出だな」


今までは音も無く一瞬で空間が隔離されたというのに、今回は音を立て、そしてゆっくりと壁がせりあがっていった。


……そういえば、待ち構えるというのは始めてかもしれない。いつも、振りまわされるように転々と移動しながら戦っていた。


それほどまでに余裕が出てきた……と考えるべきかな。


さて、とユーディットが来るまで装備の確認でも――


「――がっ!?」


な、何が起こった!?


俺の視界が一瞬にして横滑りし、気付いたときには瓦礫に埋もれていた。


――ったく、俺じゃなかったら死んでいたぞ……!!


幸い、痛覚を切っていたために気絶する事は無く、瓦礫に埋もれたために追撃は……


「……っ!!」


……あった。俺のすぐ横を見た事のあるアームズが瓦礫ごと貫いた。


激しく跳ねあがる心臓を抑えながら俺は骨折と筋肉繊維の断裂を即座に治していく。


そして今度はアービティアリィ・ハッカーで瓦礫を蹴散らし、その合間を縫って逃げ出す。


だが、ユーディットの動体視力は凄まじく、飛礫どころではすまない大きさの瓦礫を受けながら俺を見つけてきたのだ。


仕方なく俺は脚力を強化してその場から大きく跳躍する。


水平方向への移動ではいずれ捕まってしまうだろうが、垂直方向への移動ならば少なくとも跳んでいる間は捕まえられる事は無い。


土台が人間である以上、鳴神先輩のような能力を持たない限り空を飛ぶことは出来ない。


出来たとしても何かを投げる程度だろうが、今の俺ならぶつかる寸前に真っ二つに割る事くらい容易い事だ。


……あー、前言撤回だ。いや、一応大丈夫か?


投げてきたわけではないからな。ただ、ビルを丸々武器として振るってくるとは思わなかった。


ゴォッ!!


圧倒的な質量が恐ろしい速度を持ってして襲いかかってくるってのは十二分に肝が冷えるが、だからといって竦んでいるわけにも行かないだろう。


「アービティアリィ・ハッカー。セカンドエディション!!」


結局特に洒落た名前が思いつかなかったんで、俺は適当に叫びながらアービティアリィ・ハッカーの腕輪を砕いて繊維状に分解する。


大気を切り裂く音にひやひやしながらも、向かってくるビルの結合を切り裂いていく。


……なんだこれ、やけに鉄骨が少ないビルだな。


俺に当たる部分だけ分解し、削り取った部分を適当にユーディットめがけて落としておく。……まあ、この程度で死ぬはずは無いだろう。


ついで、アービティアリィ・ハッカーの数本を俺の足に刺し、強化後の調整を済ませておく。


そして再び、今度は全身に強化を加える。


完全にビルを切り裂いた後、今度は振りきられたビルの側面を走り、ユーディットの元へ向かう。


生憎、今は完璧にユーディットのペースだ。少し揺さぶりをかけにでも行こう。


走っていく途中に薄刃の刀を作り、アービティアリィ・ハッカーに持たせる。伊集院ほどの技巧は無いが、それでも無いよりはマシだ。


後で知った事だが、俺みたいな武器の素人の場合は刀はあまり向かないらしい。まあそれもそうか、刀は片刃の上に引き切らなければいけないのだからな。刃筋も真っ直ぐに立てなきゃいけない訳だから、重さで叩き切る西洋の方の剣や、斧のほうが良かったのだろう。


とはいえ、日本人の俺にとって強い武器といったら刀しか思いつかなかったんだよ。


流れ行く景色に多少眩暈を感じながらも、俺はユーディットを捕捉する。


「――やっぱり」


そのユーディットの背中には俺と同じ、アームズの上半身が発現していた。


狼のような顔に人間の上半身を表すその姿は、まるでワーウルフを彷彿とさせる。


女性にしては長身のユーディットだが、その背後にいる威風堂々たる屹立を見せるアームズの前には小柄な少女にしか見えなかった。


……まあ、そんな事はどうでも良い事だ、問題はどんな能力が付加されたかだ。


氷雨のような単純な能力強化か、俺みたいな全く別の能力の付加か、はたまた……。


俺は自分の射程距離ギリギリでビルを蹴り、ユーディットから見たら真横に移動する。


まともに正面からぶつかって勝てる筈が無いのは、既に分かりきっている事だ。いちいち確認すべき事柄でもない。


向こうの制空権がどれほどのものかは分からないが、未だに攻撃を仕掛けてこない事を見るに、思った以上に狭いか、はたまた一度してやられた相手に仕掛けるには信頼度が低いのだろう。


俺は放物線を描きながら地面に向かって落ちていく。そして、その状態で刀を持ったアームズをユーディットに向けて伸ばす。


無論、当たるとは思っていない。ただの牽制だ。


掴まれる危険性もあるが、その時は切り離す準備は出来ている。腕に多少どころではない傷が刻まれるが、その程度なら一瞬で治せるだろう。


――さて、この牽制に対して、ユーディットは俺にとって予想の範囲内であり、予想の範囲外のアクションを起こした。


向かってくるアームズに対して、ユーディットは弾く事も掴む事も無く、一気に距離を詰めてきた。接近戦で勝っている事が明らかである以上、容易く予想できる。


だが、予想外の点とは――


「チ、ィ!?」


――向かってきたのがアームズだけ、という点だ。


ユーディットは一歩も動くことなく、アームズはユーディットの背中を離れて一気に距離を詰めてきた。


「(さっきの奇襲はこれか……!!)」


アームズとしてのスピードとパワーをそのまま機動力としても持ち、始めてあったとき以上のスピードでアームズが拳を振り上げる。


だが、幸いにしてそのぐらいのスピードは見慣れてしまっているのだ。


ガッ!!


防御には全く役に立たない薄刃の刀をしまい、アービティアリィ・ハッカーでそれぞれ放たれた両の拳を防ぐ。


……生憎だが、スピードで言うのならシンほうが速かった。


「情報は力だな……全く!!」


完全にベクトルを殺しきったと感じた所でアービティアリィ・ハッカーを分解し、ユーディットのアームズを抑えこむ。


これで動きを封じられるとは到底思えないが、それでも二秒程度なら抑えこめるだろう。


そして、ニ秒もあれば人を殺すには十二分過ぎるほどの時間である。……無論、殺す気はないが。


「死なないでくれよ?そうすればどうとでもなるんだ。たとえ、どれほど壊れても――」


そう言って俺はニ丁の拳銃を取り出す。……まあ、口径が普通の拳銃に比べて二倍近くあるものを拳銃と呼べるかどうかは怪しいところだが。


その銃が指し示す照準は……ユーディット。


「――俺が寸分違わず治してやる。精神以外はな」


ガオンッ!ガオンッ!!


発射の衝撃で銃身は破裂し、拳銃では有り得ない反動に俺の腕が跳ねあがっておかしな方向に曲がるが、その程度なら一瞬で治せるだろう。


だがその狙いは正確――訓練を受けていない高校生にしては、だが――で、頭と心臓を狙った弾丸は丁度良いくらいにぶれて両手足といった末端に向かって飛んでいく。


当たったとしても当たらなかったとしても、実はどうでも良い事なのだ。


当たったのなら、戦力を削ぐ事を出来るし、当たらなかったのならそれ相応のカードを切らせる事も出来る。


「(さて、どう出る……?)」


少なくとも、生身の体で避けられるという事はないだろう。


……まあ、逆に言えば生身の体じゃなければ大丈夫なのだが。


早い話、ユーディットの姿が消えたのだ


俺は一瞬たりとも目を離してはいない。しかしそれでも、ユーディットの姿はコマ落ちするように消え去ったのだ。


催眠術か何かか?とあたりをつける。いくらなんでも目で追えないほどのスピードは有り得ない。……少なくともそうであって欲しい。


背後に気配を感じたので、俺は腕を無理矢理背後に曲げ、そして適当に修復した銃で撃ちぬく。


ボゴッ!と地面のコンクリートを砕く音が聞こえた事から、当たってはいないのだろう。ユーディットからの攻撃も来ないので避けられたと考えるのが妥当だろう。


だからといって安心は出来ない。目の前のアームズはもう既に俺の拘束を今にも解こうとしているのだから。


千切られても問題はないのだが、だからといって好んで千切られようとは思わない。こちらから拘束を解き、且つ蹴り飛ばして距離を取る。


そこで身体強化のリミットを迎えたため、一度膝を突いて調整する。


無論、そんな無防備な姿をさらすわけには行かないので、アービティアリィ・ハッカーに持たせたアサルトライフルもどきで適当に弾丸をばら撒いておく。


調整を終え、再び辺りを見回すと、かなり離れた位置にユーディットが立っていた。


……まずいな。それこそ本当に身体強化がなされているかもしれない。


だが、それだとユーディットのアームズは三つの特性を兼ね備えている事になる。


圧倒的基礎能力に加え、アームズの遠隔操作に人体の強化、その中でアームズらしい特性なのは遠隔操作だけだが……。


と、思索に耽っていたのだが、ふと違和感を感じる。


――なぜ、攻撃してこない?


怒涛の連撃を放ってきたのにもかかわらず、かつ不利な状況に陥ったわけでもなく、ユーディットは突っ立ったままなにもしない。


警戒しているのか?……いや違うッ!!


俺にも勝負感と言う奴が身についたのか、得も知れぬ危機感に後押しされてその場から飛び去る。


ガコンッ!!


すると先程まで俺がいた場所に巨大な柱が突き刺さった。


「あんなのが直撃していたら――!!」


痛いじゃ済まされないだろう。下手をすれば即死していたかもしれない。


ただ、ここでも違和感を感じる。何故なら、そこに突き立っていた柱はどこにも無かったはずなのだから。


大理石らしき材質で出来た柱は普通では有り得ない大きさと、有り得ないほどに傷や溝などが無いのだ。


まるで、アームズで作り出したかのように。


その結論に至った途端、俺の全身に怖気が走る。


アレは、ヤバイ。


あの程度の柱ぐらい俺でも作れるし、投げ飛ばすくらいなら出来る。アームズの特性にしてはあまりにも地味だ。


すなわち、そこに付加能力があって然るべき、という事だ。


ガコココココン!!


俺の予想通り、しかし予想したところでどうにもならない現象が柱に起きる。


柱のそこかしこに銃眼が現れ、そこから砲台らしき筒がいくつも覗いていた。


無論、その役割は一つ。


「マ、ズ――!!」


一斉掃射、それだけだ。


モンスターイーターどころではない連続した銃声と共に、文字通り弾の幕、弾幕が襲いかかってきた。


咄嗟に地面を隆起させて壁を作るが、この程度では時間稼ぎにしかならない。


あれほどの数があるのなら、リロードの隙も狙えないだろう。そもそも、リロードがあるかすら怪しい所だが。


火力が段違い過ぎる。……これならこちらもモンスターイーターを持って来るべきだったか。


塹壕を掘り、そしてリアルタイムで干渉して修復しながら少しだけ塹壕から腕を出して反撃を試みるが、一瞬にして蜂の巣にされてしまう。


アームズなら少しぐらい耐えられるのだろうが、拳銃はそうはいかない。


手榴弾を投げ上げるが、放物線を描く前に消え去った。


冗談じゃないぞ……!!なんだこのチート能力のオンパレードは!!


一つでさえ対処に困る能力であるにも関わらず、それを重ねて使ってくるのだから性質が悪い。


今も、上空からユーディットのアームズが降ってくるところだ。


俺の頭上には弾幕が出来ているが、アームズには当たらないようにその部分だけ撃つのを止めている。


二人以上いるという考えもあったが、これで完全に否定された。あれほど精密な作業が出来るほど、人間は意識を重ねられない。


そしてアームズは俺の塹壕の中に入り込み、拳を振るってくる。


……仕方ない。ああ言った手前、出来ればやりたくは無かったんだがな……。


俺は再び深く穴を掘って地面に埋まり、そしてモグラのように地面を掘り進めて進む。


……無論、ユーディットとは逆のほうに。















廉:我ながら、情けないな……。


耕作:まあ、そう気にするなよ。勝てば官軍、という諺もあるだろう


廉:え?なんで耕作さんがいるんです?


耕作:……君、いきなりえぐるような事を言わないでくれ


鳴神:そうよ。死亡組にとってはここが唯一のポジションなんだから


耕作:……まあ、それは置いといて。何故俺らがここにいるかっていうのは、本編で出番が無いってんで、俺らは後書きのレギュラーになったんだよ


廉:わあ、おめでとうございます。さっぱり羨ましくないですね


耕作:……俺になにか恨みでもあるのかい?


廉:いえいえ。まさかまさかそんな事はございませんの事ですよ。


鳴神:……しめるわよ?


廉:大変申し訳ありませんでした


耕作:変わり身速いなー……。おい。


廉:まあでも良いじゃないですか。だって……五十嵐は死亡組じゃないんですよ?


耕作&鳴神:あっ……


(流れる沈黙)



















優姫:……呪ってやる……

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