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第二十七話:私のための世界

*耕作視点


っつあー……。めちゃくちゃいてぇ。


廉に痛覚鈍くしてもらわなかったらショック死してたなこれ。


痛いことには変わらないけど。鈍くして袋叩きクラスの痛みってんだから推して知るべしだな。


ま、廉に一度殺されたときに比べれば、気にならないといえば気にならないが……。


それはそうとして、ラルウァマヌスの一撃は多分クリーンヒットしたと思う。攻撃を受けた後だからいまいち自信は無いけど。


暫くは起きあがれないだろう。パワーだけなら、そうそう負ける気はしないからな。


全身から染み出るように流れる血に眩暈を起こしそうになりながら、俺は忍さんに振り向く。


……ひでぇ。無関係な奴にここまでやるか。


全身に痣が刻まれ、両肩の関節もはずされている。片目は潰されて……今もまだ痛むだろう。


その表情は普段の毅然としたものではなく、歳相応の、いや、それ以下の怯える幼い少女のようだった。


廉なら治せる、って知らなかったら……。俺、どうなってたかわからないな。


俺は力なくへたり込む忍さんの前で片膝を突き、関節の外れた肩に手をやる。


「ひっ……!?」


痛いのか怖いのか、忍さんは小さく悲鳴を上げて逃げようとするが、逃がさないように背中に手を回す。


せめて、関節は元に戻しておいたほうが良いだろう。でも俺はそんなに上手くないから暴れられると困る。


「……ごめんなさい。ちょっと痛くします」


「きゃっ!?いやぁっ!!……っ!?」


痛いという単語に過剰反応したのか、激しく暴れ出す忍さんを無理矢理抱きしめて動きを封じ、出来うる限り丁寧に関節をはめなおす。


俺の血で汚れちまうが……。これも後で廉にもとに戻してもらおう。


「くぅっ!」


小さく呻き声をあげて忍さんは力尽きたかのように俺の胸に持たれかかる。


……しかし、意外だ。忍さんがここまで弱い人だったなんて。


失望は無い。それよりもむしろ……。


「……忍さんでも、こうなる事もあるんですね」


俺のその言葉で冷静さを取り戻したのか、俺を突き飛ばして顔を真っ赤に染める。


「な、何を言っているんだ!!私は、その、なんだ……。そう、か、か弱い乙女なんだぞ!?鉄なんかで出来てなどいない!!」


「……かわいー」


「うるさぁい!!こんな状況で、泣くなというほうが無理なんだ!」


忍さんの新しい一面を知ったな。


普段の鉄面皮は成りを潜め、俺の目の前にいるのは感情豊かな、忍さんの言葉を借りるならか弱い乙女だった。


……ってそんなこと気にしてる暇はない。今すぐここから逃げないと。


さっきは不意をついて一撃を食らわせる事は出来たが、次があるとは限らない。


あの余裕は単に絶対の防御力を持っているが故ではない事ぐらい、俺にだって分かる。


多分、今まで奴の切っていたカードはそれこそ、大富豪で言う三か四ってとこだ。


エースやジョーカーを使わなくとも、九や十でで二十四分に事足りる。


だが、廉なら、あいつなら何とかしてくれるかもしれない。


他人任せはあまり気分の良いもんじゃないが、俺みたいな凡人には凡人らしい策が似合うってもんだ。


俺の足でどこまで逃げられるかは分からないが……。とことんまで足掻いてやろうじゃないか!ストラグルって名前のようにな!!


忍さんを抱き上げ、叫ぶ。


「さあ、逃げますよっ!!」


「ど、どこを触っているんだ馬鹿者ぉっ!!」


……この非常時でそれを言いますか。ま、役得だってことで許してくださいな。






































廉は東子を後ろに下げ、楓と肩を並べて一歩踏み出した。


東子は戦いにおいて全く役に立たず、この相手に説得が意味を為すはずも無い。


だが、東子はそれを分かっていても心の奥底から湧き上がる不満を抑えきれなかった。


「羨ましい……」


当たり前のように肩を並べる廉と楓の姿は、東子にとってはどう努力しても到達できそうに無い高みに見えたからだ。


突然の闖入者である楓も、廉は簡単に受け入れてしまったのだから。


無論、東子は廉を助けてくれた事は感謝しているが、それとこれとは話が別である。


「楓。……一つ訊きたいが、戦えるのか?」


「愚問よん♪もしかしたら廉よりも強いかもねー?」


二人は目も会わせることなく言葉を交わす。表情を見なくとも、考えが分かるかのように。


楓のアームズは万華鏡のように煌びやかに光る腕に鎖と茨が絡まっているようなアームズである。


物凄く派手なアームズなのだが、東子にはそのアームズはどうもどこか物悲しそうに見えた。


小気味いいリズムで廉との掛け合いを続けていた楓だが、女が一歩踏み出し、二人の攻撃範囲に入ると、今までの笑顔を消し、うってかわって鋭い表情になる。


この劇的な変化も、廉は既に知っている事なのか、特に驚く事は無い。


「安心して。もう二度と、私達の世界は傷つけたりはしない……!!」


「……気にするな。どちらにせよ、傷ついた世界は全て治し尽くしてやる!!」


二人の間にしか通じないような何か良く分からない掛け合いをした後、二人は同時に駆け出す。


特に目配せやサインを交わすことなく、しかし二人は同じ速度、歩幅で構えすら取らない女に肉迫する。


「『フォーミー・ザ・ワールド』!!」


「『アービティアリィ・ハッカー』!!」


二人同時に放たれた拳を、女は柳の葉さながらにすり抜け、二人の背後に回りこむ。


「ここまで戻ってきたのか。……だが、もう遅い」


そしてステップを踏むかのように振りかえり、目にもとまらぬ速度で腕を『消した』。


瞬間、廉と楓の二人は何か衝撃を受けたかのように吹き飛んでいく。


くの字に体を曲げて吹き飛ぶ廉は鳩尾に軽く拳の形に跡が残っており、口の端から僅かに血が噴き出している。


恐らく、消えたように見えた腕は、廉と楓に凄まじい速さで攻撃を加えたためなのだろう。


楓は咄嗟に防御する事が出来たのか、体の前で十字にアームズを構えて吹き飛んでいた。


「……全く。チート性能もいいところだ」


着地した後も地面を削りながら数メートル滑り、停止した後に廉はそう吐き捨てる。


滑った事による擦過傷と打撲を治し、廉と楓は立ちあがる。


「そうね……。なんか、RPGのイベントバトルを彷彿とさせるわ」


「あながち間違ってはいないがな。ただ一つ違うのは、死んだらそこで終わりという事だが」


女は鳴神や東子のほうへ向かう事は無く、またゆっくりと普段のペースで一歩ずつこちらへ向かってくる。


だが、次の瞬間にはもう既に廉の目の前にまで移動していた。


「ちっ!?」


驚くのもおざなりに、廉はアービティアリィ・ハッカーの肘を叩きこむが、やはりあたらない。


まるで煙に拳を放っているような感覚に廉は苛立ってくるが、苛立った所でどうなる相手でもない。


アームズすら出すことなく、華奢な、しかし恐るべき速度と威力のこもった拳が廉の顎めがけて放たれる。


「(まずっ――!!)」


顎はまずい。肉を潰されても、骨を折られても、それこそ心臓を貫かれたとしても廉はアービティアリィ・ハッカーの力を駆使して復活する事は出来る。


だが、顎への打撃、脳を揺らすような攻撃はまずい。


どれほどの力を持っていうようとも、命令を出す脳が沈黙しているようでは意味が無い。


向こうもそれがわかっているのだろう。心臓より何よりも、頭部を狙ってきた。


ガッ!!


「……甘い甘い。その程度で傷つけようだなんて片腹痛いわね」


「楓……助かった!!」


女の拳は、廉の顎に触れる寸前でプリズムのように虹の揺らぎを示す壁によって遮られていたのだ。


そして、それはただ女の攻撃を防いでいるわけではなく、半ばまで拳をめり込ませ、引きぬけないようにしていた。


「フォーミー・ザ・ワールド。ここはあなたの世界じゃない。あたしのためだけの世界なのよ……!!」


楓が掌を女に向けると、女の周りから虹の揺らぎを示す棒状の壁が体を貫かんと伸びていった。


「あたしがトラブルを起こし、霧霜が馬鹿をやって、なる先輩が廉に入部を迫って、廉が疲れたように溜息を吐きながら対処する……。そんな、かけがえの無い平和な日常を……。よくも、よくも壊したなァッ!!」


叫ぶ楓に同調するように棒状の壁はどんどん増えていき、廉すらを巻き込みかねないほどに増えていく。


それを見た東子は声をあげて駆け出そうとするが、あるものを見て、足を止める。


「……そうだな、ばたばたとして、ごちゃごちゃとしたそんな日常を。……よくも壊してくれたなっ!」


全く不安や恐怖を微塵も見せない廉は、楓を信頼しきっているかのように振り向きもせず、アービティアリィ・ハッカーを女に放つ。


それを見てしまった東子は、自分の出る幕など無い事に気付き、力無く膝を突く。


「だが、俺はそれを元に戻して見せる。元は貴様らの力である。このアービティアリィ・ハッカーを使ってでもだ!!」


最早ゼロ距離に近い女に向かい、廉はできうる限りアービティアリィ・ハッカーを分散させて襲いかからせる。


「俺のアームズの名は恣意の改変者。貴様らの道理に従うつもりなど、最初から無い……!恣意のまま、道理すらも作り変えてくれる!!」


全方位からそそがれる、大小様々な攻撃を前に、ようやく女はアームズを出す。


「………いな」


ぼそっと、聞き取れないほどに小さな声で何事かを呟き、女はアームズを振るう。


「私のアームズの名前など、とうの昔に捨てた。だがあえて名を冠するのなら……そう『アエテルヌム・シン』」


瞬間、女の周りのもの全てが消え去った。


文字通り周りのもの『のみ』が、全て消え去ったのだ。


棒状の壁は半ばまで削り取られ、アービティアリィ・ハッカーは弾き飛ばされた。


だが、問題はそれを廉たちは気付く事が出来なかったのだ。


アービティアリィ・ハッカーにも触覚はあり、触れた事ぐらいなら分かるし、弾かれたのならいうまでもない……はずなのに。


女がやったのはとても単純な事、アームズを薙ぎ払っただけなのだ。


しかしその速度と力は廉たちのアームズとはまるで格が違うのだ。


「眠れ……。もう二度と、狂気に囚われる事など無いように」


廉が何かする前に、廉の視界は全て黒に染め上げられた。


「――――――がっ!?」


そして次の瞬間には全身、特に背中に激痛が走っていた。


めまぐるしく視界は流れていき、まるで竜巻にでも巻き上げられたかのよう体がどちらを向いているのかさえ分からない。


ようやく止まったかと思えば、何やら周りが騒がしい。


ここにいるのは廉と楓に東子、後は喋れない氷雨と鳴神しかいないはずなのに。


廉は周りを覗おうとするが、体が動かない。


「(な、何が起こったんだ……!?)」


戸惑うを越え、最早混乱している廉だが、次の瞬間、事態を理解する。


『だれか……早く救急車を呼べ!!』


『な、なにがおこったの……!?』


『うえぇぇーん!!ママー!!』


慌てふためく見知らぬ人達。さっきまで活気にあふれていたはずの町並み。……そして、ビルに大きく穿たれた人間大の大穴。


そう。ただ、廉は殴られて吹き飛ばされただけなのだ。それも、隔離空間の外にまで。


「(くそっ……。動け!!それでも、俺の体か!!)」


廉は叱咤するように体に力を入れるが、ピクリとも動かない。


あの時の、東子たちを殺してしまったあのときは体が動かなくともアームズは動かせたというのに、今はアームズに命令を送ることすらできない。


「(くそっ!くそっ!!畜生!!!こんな所で終わりだなんて、認められるか、畜生!!)」


そんな廉の意思がアームズに通じたのか、自分の視界の端に見慣れた色の紐が入ってくる。


だが、出来たのはそこまで、アービティアリィ・ハッカーが自分の体に施した効果が発動する前に、廉の意識は闇へと沈んでいった。




































「……チェックメイトだね」


二人が既に向かっているため、一人残された少年はチェス板を閉じ、一人ごちた。


あそこまで状況を引き戻されたのは驚いたが、これで、本当の詰みだ。


万が一のときの為に、セーフティもある。この状況に落とされたのなら、例えこの少年だとしても全てを戻す事は出来ないだろう。


少年は無邪気な笑みを浮かべ、言う。


「君と遊ぶのは本当に楽しかったよ。また、会おう」







るーるる、るるるるーるる、るるるるーるーるーるーるーるるー


廉:どうもこんにちは。金城の部屋へようこそ。今日のゲストは耕作さんの上司で、最近キャラが保てなくなってきている佐藤忍さんです


忍:……君は何か私に恨みでもあるのかね?


廉:いえいえ。でも、強いてあげるとするならば……


忍:あるのか


廉:私のキャラは処女作のキャラの性格を流用したものだという話は知っていますね?


忍:あ、ああ……。


廉:しかし、話が進むにつれて私はそのキャラとはかけ離れてしまったのですよ


忍:良くある話ではないのか?


廉:ええ、そこまでなら良いとしましょう。でも……


忍:でも……?


廉:それをいいことに、そのキャラを元にもう一人キャラが作られてしまったのですよ。


忍:……なるほど、それが私という事だな。


廉:その割に執筆速度は貴方が出ているときと私が出てくるときでは雲泥の差!一日程度では済まないんですよ!?


忍:……そんなの、私に言われても知るわけが無いだろう


廉:なんかもうそのうち耕作さんに主人公の座を奪われそうだよ……


忍:……それも良いかも


廉:あん?ちょっと聞き捨てなら無い言葉が聞こえたんですけどー?


忍:こ、こら、始めとキャラが変わってきているぞ?


廉:いいんだよんなもん。なんだかんだ言って俺のキャラが一番定まってないんだからよ。あんたみたいに……


忍:……alt+F4強制終了!!


廉:はぐぁっ!?












忍:……ここに出てくる廉は、フィクションであり、実際の人物や団体とは何ら関係無いのでご注意ください。



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