第二十五話:変わる世界
更新が遅れて申し訳ありません。プライベートで色々あったのです……。
あ、別に悪い意味ではありませんよ?
投げ飛ばされた東子と優姫は途中で減速する事の無いまま隔離空間の中に突っ込んでいった。
ズサァッ!!
「――ぐぅっ!?」
優姫がアングィス・リリィでクッションをつくったものの、衝撃を殺しきる事は出来ずに強い痛みが二人を襲う。
「廉っ!!どこに居るの!?」
だが、東子は痛みを無理矢理押し込めながら立ちあがり、廉の姿を探す。
視界の中に廉の姿は無い。古武術の道場らしき建物も無い。
しかし、それでも廉がどこに居るのかは簡単に分かってしまった。
隔離空間の内部は最早別世界と見まがうほどに荒廃していたのだ。
家々は炭を通り越して灰となり、自分の立つ位置が斜面だと気付くのにいくらか時間がかかるほどの浅く巨大なクレーターが出来あがっていた。
とりあえずこのクレータの中心に向かえば、廉を助ける事は出来るだろう。
……だが、考えてもらいたい。ここまで散々妨害を重ねておいて、ここで無いもしないだなんてあり得ないだろう。
「――残念ながら、金城廉はもう助からない」
駆け出そうとする二人の背後から無機質で硬質な声が響いた。
東子は振りかえらずに突き進むが、優姫は振りかえり、アングィス・リリィで東子を掴まえる。
「は、離して……!!」
優姫も東子の気持ちはわからなくも無い。だが、ここで背を向けたら背中を切られるだけである。
東子をなだめながらも、優姫は前触れも無く放たれた何かをアームズで弾く。
「……アンタ何者よ。まるで三文芝居のような感動シーンを邪魔しようだなんて無粋にも程があるわ」
優姫は足元を見るが、先程放たれた物体の姿は無い。得体の知れない遠距離攻撃を持つ相手に背を向けるのはあまりにも危険過ぎる。
そこに立っていたのは、声と同じ、無機質で硬質な女だった。
科も媚も無い。人である以上自分を良く見せようという願望は少しでもあるはずなのに、その女にはそういったものが欠片も無かった。
直立不動の姿勢に、何の感情も移さない表情、目に光は無く、無感情で無感動な女は最低限の口の動きで言葉を紡ぐ。
「もう無理だ。今から貴方達が行った所でなにも変わらない。ただ、苦しむだけだ」
淡々と語る女は黒の手袋で覆われた手を前に差し出す。
優姫は女の行動に意識は向けず、ただ告げる。
「へぇ……。苦しむ、ね。でも御生憎様、ここにいる人は苦しみ程度じゃあ縛れないのよ」
そして自分の背後に壁を作るようにアングィス・リリィの触手を広げる。
「苦しみなんかよりもっともっと強いものに縛られてるんだからね……!」
背中を撃たれないように壁を作り、そしてその中で東子の背中を押す。
するとすぐに東子は走りだし、残された優姫と女は対峙する。
何かしら東子にアクションを起こすと警戒していた優姫だったが、予想に反して女は何もしない。
全く意思が読めない女に優姫は軽い寒気を覚えるが、無理に自分を奮い立たせてアームズを構える。
「アタシもそんな風に、恋心に縛られてみたいものだわ……。ほんと、羨ましい限りよ」
先手必勝。相変わらず女の意図は掴めないが、だからといって手をこまねいているわけには行かない。
「『アングィス・リリィ』!!」
触手を一度しならせ、鞭の様に女へ襲いかからせる。
殺すつもりは無い。だが、手を抜くつもりは無い。こんな所にのこのこ出てきてザコな筈は無いという考えもあるが。
ガガガガッ!!
「……やっぱりねっ!ただのザコじゃない!!」
そしてやはり優姫の予想通り、優姫が差し向けた触手を全て最低限の動きでよけながら、且つゆっくりと一歩ずつ歩いてくる。
隙間の見えないほどに触手を突き出しても、女は再び見えない弾丸を放って触手を弾いて無理矢理にスペースを作り出す。
ほぼ全方位から攻撃を加えても、虚をついて地面から触手を突き出しても、女は片手間のようにやる気すら見せずにしのいでいく。
その圧倒的な余裕に優姫は歯噛みするが、攻撃の手を緩めず、新たな策も練らない。
いくら女の歩みがわずかなものといえど、前に進む事に変わりは無い。いずれ女の攻撃範囲に入ってしまうだろう。しかしそれでも、優姫は何も策を講じない。
一歩、また一歩、女と優姫の距離は縮んでいき、やがて素の手でも届く距離になった。
パアァンッ!!
「――きゃっ!?」
そしてその刹那、優姫の額が強かにうちつけられる。
威力は大したことは無い。少しよろめく程度で全くダメージにはなってはいない。
だが、優姫には何で殴られたのかが全く分からなかった。
腕――まだ出してはいないがアームズをも含めて――を動かした素振りは無い。暗器か?とも考えるが、わざわざこの程度の威力の暗器をしこむ意味は無い。
第一、距離が近くなったとはいえ、二人の間にはアングィス・リリィの触手が幾重にも張り巡らされているのだ。それを掻い潜って攻撃する事自体が難しいはずなのである。
とりあえず優姫はのけぞった体を戻し、今度は本当に隙間が無いほどに自分の周りを触手で囲む。
そしてそこから新たに触手を作り、女に向かって放つ。
しかし、相変わらず女は意に介した様子は無く。再び歩みを進める。
流石に距離が近くなった事もあり、段々捉えられるようにはなってくるが、決定打は一発たりとも与えられない。
「く、そ。なめくさりやがって……!!」
口汚く罵るが、やはり意に介した様子は無い。
優姫の触手が女を捉える事も無く、女が再び攻撃を加える事も無く、硬直した状況のまま二人の距離は段々縮んでいく。
そして遂には密着するほどの距離まで詰め寄られてしまう。ここまで来ると自分の体が遮蔽物になり、余計に当てられなくなってしまう。
見上げる形になった女に蹴りでもかましてやろうかと優姫は考えるが、アームズの攻撃があたらない相手にただの蹴りが効くはずも無い。
しかし、なにもしないわけには行かない。ここまで距離を詰めておいて何もなしというわけがない。
ただ、逆に考えればチャンスかもしれない。攻撃時には多少態勢も揺らぎ、付け入る隙も出てくるだろう。
そう考え、優姫は牽制をしつつも攻撃に対して身構える。
密着した状態から女も一歩を踏み出す。
「……えっ?」
優姫の横へ。
優姫は意味がわからなかった。距離を詰めていたのは、確実に攻撃を当てるためではなかったのか?
戸惑う優姫をよそに、女は東子の後を追うように優姫の後方へ歩いていく。
まあ、早い話……
「この……!!」
端から眼中に無かったのだ。
女にとって優姫の全力を込めた攻撃など、周りに少々五月蝿い蝿が飛びまわっているにすぎなかったのである。
あまりの侮辱に優姫は頭が沸騰しかけるが、怒りに任せて暴れた所でどうなる相手でもない。
幸い、理性を奪う力は優姫相手に使われてはいないようで、拳を砕かんばかりに握り締め、耐える事が出来た。
「(どうすればいい?あのスカした女の顔面にアームズをぶち込むためにはどうしたらいい?)」
耕作や氷雨のように搦め手があまり得意ではない優姫のアームズでは奇策を用いるのは難しい。
かといって、ただの力押しでは意味が無い。全て受け流されてしまうだろう。
「もう一度考えるのよ!アタシの、そしてあの女の勝利条件を!!」
恐らくあの女の目的は東子を追うこと、もしくはこの先にいるであろう廉を邪魔する事。
しかし、あまり急いでいない様子から、それはあまり重要ではない事なのだろう。そこをつく事は出来ない。
逆に優姫の目的はなにか?無論、東子の邪魔をさせない事だ。
あそこまで真摯な愛情を向ける東子の恋路を邪魔する事など、優姫には出来ない。
「(……つまり、手段はどうであれ、進めないようにすれば良い訳ね?)」
ニヤリ、と優姫は歪な笑みを浮かべる。女の鼻っ柱をへし折れないのは残念だが、勝ちは勝ちだ。
優姫は地面を叩くように、両手を地面につける。
地表にはアングィス・リリィは一本たりとも無い。奴にはこちらなど眼中に無いのだから。
だが、無いのはあくまで地表にのみ、優姫は殆どの力をアームズに注ぎこんだ。
「ただでさえ相手があの朴念仁なんだ。これ以上の邪魔は無粋ってもんよっ!!」
メシリッ!!
優姫の叫びと共に、大地が悲鳴を上げる。
「『アングィス・リリィ』!!」
メコッ!!
女の立っている場所から半径十メートルほどが一気に陥没して大穴となった。
流石にそんな状況で歩きつづける事は出来ず、態勢を崩して落下していく。
「暫くそこで反省してると良いわっ!!」
ただの触手でどうやって地面を陥没させたのか、答えは今振り上げた優姫のアームズにあった。
普段の触手は大体人の腕ほどの大きさなのだが、今は違う。
丸太どころではなく膨れ上がり、その先端からは土色の液体が滴り落ちていく。
そして優姫が軽やかに指を弾くと、触手の先端が開かれる。
「その前に溺れ死ななければの話だけどね!!」
そこからは大量の土砂が流れ出し、女を埋め尽くして行く。
やったのは簡単な話だ。女の足下の地下水を全て吸い上げただけ。
地下水だけではあまり効果が無かったので土もついでに吸い上げておいたが、どうやら効果は覿面だったようだ。
無論、この程度で仕留められるとは思わない。まだ、女のアームズの能力すら使わせていないのだ。
「さあ――ジョーカーを切れ!」
「ハァッ……!ハァッ……!!」
優姫が戦っている間、東子は走りつづけていた。
元々足の速い方ではない東子だったが、時が迫っている状態なら意外なほどのスピードが出るものだ。あとで筋肉痛に泣く事になるが。
無論、東子がそんな事を気にするはずもなく、全力疾走のまま走りつづけた。
「(―――――ッ!見つけた!!)」
建物が根こそぎ焼き尽くされているため、廉の姿は割と簡単に見つける事が出来た。
そして、あまりの惨状に目を疑った。
最早趣味の悪いオブジェクトにしか見えない氷雨(東子は氷雨と認識できなかったが)に、氷漬けの鳴神、そして……。
「あ、あ……」
虚ろな目で宙を眺め、かろうじて人の姿を為しているだけの廉。
戦いを嫌っていた東子ですら、その姿には怒りを覚えずにはいられなかった。
そしてその怒りは理性を削られた事によって更に燃えあがり、収拾のつかない大火となる。
優姫が理性を削られなかったのも、東子のほうに力が集中していたためだろう。
普段の東子からは想像のつかないほどの凶暴な表情でアームズを発現させ、駆け出す。
東子はまともに物事を考える余裕は無かった。少しでも冷静であれば気付けたはずだ、廉がそんな事を望んでいない事くらい。
今までに感じた事の無い力の充足を覚えながら、東子はアームズを振るう。
いくら東子といえど、今の動きの鈍い男なら一撃で致命傷を与える事も可能だろう。
「『クロック・レイジネス』!!」
……だが、東子のアームズが男を捉える事は無い。
介入が入ったのだ。それも、超弩級の。
「……え?」
東子は呆けて、クロック・レイジネスを振り上げた状態で止まってしまった。
男は綺麗な放物線を描いて吹き飛んでいき、着地前に再び連打が加えられる。
戦いに慣れていない東子には何がなんだかわからなかった。理解できたのは、男の攻撃が止まった瞬間、嵐のような乱舞が男の体に叩き止まれ、吹き飛んでいった事である。
男に数えるのも億劫なくらいの打撃が加えられた後に、ようやく台風の目を視認する事が出来た。
ここで廉の意識があったのなら、どんな表情をするだろうか。
顎が外れるほどに驚くか、ひくつくほどの苦笑いを浮かべるか。
「多分今の廉ならこう考えてたでしょうね……『後で倍殴ってやる』ってね。ま、考えてなくてもやってたけど」
巻き毛ののポニーテールを払い、快活な、しかし怒りに満ちた表情で男を睨み、叫ぶ。
「あたしの世界に傷をつけて、ただでいられると思ってんじゃないわよ!!」
水晶のように透き通ったアームズを掲げ、唐傘楓はそこに立っていた。
廉の知り合いが悉くアームズを持っている事から、最早これは必然だろう。
東子は大して驚かずに再び走りだし、廉に駆け寄る。
楓は走ってくる東子にアームズを構えたが、その表情を見てアームズをしまう。
流石に、傍目からも分かるほどに悲しい顔をしている人間を威嚇するほど、楓は人を信じていないわけではない。
東子はクロック・レイジネスで廉の時を止め、呼びかける。
「廉!御願い、目を覚まして!!助けにきたの!!!」
だが、反応は無い。それを見た楓は東子の肩を掴み、代わりに自分が前にである。
「ああ南ちゃん違うわ。廉にはこっちのほうが効くのよ」
猜疑的な目を向ける東子に「物心がつく前から私と廉は一緒にいたのよ?」と声をかけ、廉に近づく。
何故自分の名前を知っているのかなど、疑問は絶えないが、今は楓を信頼するしかない。
楓は廉の顔に顔を近づける。東子はある事を思い浮かべて青ざめるが、楓は東子が予想した位置よりも先に唇を進める。
かぷ。
「ひっ――!?」
流石に目覚めのキスとまでは洒落こまなかったが、楓は廉の耳を甘噛みした。
その効果は覿面で、引きつらせた表情で廉は意識を取り戻す。
「廉ってば耳が弱いのよ。この情報はいつか役に立つと思うわ」
実際役に立せる場面を思い浮かべてしまった東子は状況を忘れて顔を赤くする。
対して廉は周りの状況をすぐに把握し、掠れた声を張り上げる。
「東子さん!俺より氷雨……この奇怪なオブジェクトの時を止めてくれ!!」
指示を受けた東子は顔を赤くしたまま従い、氷雨の時を止める。
そこからの廉の動きは迅速だった。アービティアリィ・ハッカーを両手合わせて十個ほどに分裂させ、一気に自分の体を治し尽くし、どこからともなく取り出したハリセンで楓を軽くはたいた。
「ちょ……!?」
驚く楓を無視して今度はアームズを伸ばして先程楓が吹き飛ばした男を引き寄せ、気付けをする。何をしたかは訊くな。
「鳴神先輩の誕生日パーティを台無しにしやがった事、こんな自体を招いた事、パーティが始まる時刻まで殴りつづけてくれやがった事と散々晴らしたい恨みはあるが……、今だけは貴様の力に頼らざるをえないんでな。働いてもらう」
そして廉は男の襟首を掴んで氷雨のほうを向かせ、続ける。
「この男に変化しろ。そうすれば貴様の体も治してやる」
廉はただ殴られていたわけではなかった。
アービティアリィ・ハッカーの制御に大半のメモリを使っていた廉だったが、残った思考力で氷雨を治すにはどうすれば良いかを考えつづけていた。
途中からはそれも難しくなったが、幸い、その前に名案は浮かんでいた。
「(やはり、奴らは完璧じゃあない。演出ばかりにこりすぎて、完全に逃げ道を断つことを疎かにしている)」
氷雨の体の設計図が無いのなら、作ってもらえば良い。幸い、ここには完璧なコピー機があるのだから。
この男のアームズで氷雨に変化してもらい、それを元に氷雨の体を再構築するのだ。
材料に関しては未だに解決していないが、そこはこの男から多少拝借して、後はできるところは武器用の金属で補えば良い。後でいくらでも治す事は出来るのだから
男は特に廉に逆らう事は無く、寸分違わぬ氷雨の姿に変わってくれる。なんと、脳の構造まで氷雨と酷似(実際氷雨の脳を覗いた訳ではないので断言は出来ない)している。
ここまで都合良く行くとむしろ作為を感じてしまうが、だからといってこれ以外に道は無い。
体の内側から人が構築されていく姿は吐き気を催すには充分なほどにグロテスクだが、目を逸らす訳には行かない。
東子だって、目を逸らさずに時を止めつづけているのだから。
後ろで楓がなにやら意思表示をしているが、無視しておく。どうせ、あたしに感謝の言葉は?といったところだろう。
壊されかけていた心にはきつすぎるリハビリだが、それでも廉は今まで以上のスピードで氷雨を治し終えた。
特に異常は無い。心臓等も今まで通りに動いている。いずれ目を覚ますだろう。
用済みになった男を片手間で殴り飛ばし、楓に向き直る。
「……これで今までの借りの半分は返してもらった事になるな」
「え、ちょ!?命を救っておいて半分なの!?」
驚く楓に、廉は事も無げに言う。
「アームズを手に入れる直前、お前のせいで死んでたんだからな。それがゼロになっただけだ」
「なによそれぇ!むちゃくちゃじゃないのー!!」
「お前がそれを言うか。今までのお前の悪行、忘れてないだろうな」
「あたしは過去を振り返らないのよ!」
小気味良いテンポの良い会話に、東子は嫉妬する心を抑えられない。
「(うー……!助けてって言われたのは私なのに……!!)」
無論、優姫曰く『朴念仁』の廉が気付く事は無く、代わりに楓が気付いてしまう。
「ああ南ちゃん……って年上だけど敬語苦手だからやらないけど……ちょっといい?」
廉との会話を切り上げ、東子の首に腕を回して顔を近づける。
東子は驚いて身を引くが、首に回した腕がそれを許さない。
「(あなた……廉の事好きなんでしょ)」
「(な、なんでそれをっ!?)」
東子は赤くなった後に青くなったが、楓は気にせず続ける
「(いやぁ……ばれてないつもりだったの?多分廉だって気付いてると思うけど)」
呆然とする東子を微笑ましく思いながら、安心させるように笑いかける
「(大丈夫よ。廉だって多分あなたのこと好きだから。歳と同じくらいにまで腐れきった縁を持つあたしが言うんだから間違い無いわっ!!)」
あたしは別に廉を男としてみてないから気兼ね無くいちゃついてオッケーよと太鼓判を押す楓にむしろ東子は戸惑ってしまう。
一番の障害は楓だと思っていたのに。
「(……ただ。今、廉をオトすのは難しいかもね。あたしの若さ故の過ちのせいで)」
ボソっと聞き捨てならない言葉を呟いた楓を東子は追及しようとするが、逃げるように廉の下へ向かっていってしまった。
「で、なる先輩は大丈夫?治せそう?」
「……ああ、まだ診てないからなんとも言えないが……この程度なら簡単に治せるだろうさ」
治した体にまだ違和感を感じるのか、軽くストレッチをしながら廉は立ち上がり、鳴神に触れようとする。
「と、言いたい所だが……。まだ、無理そうだ」
廉は金属で槍を作り、ノーモーションで後ろに投げ放つ。
その先には優姫と戦っていたはずの女が無傷で佇んでおり、廉が放った槍を半歩右に歩くだけで避けた。
優姫が戦っていた事を知らない廉は女を睨み、言う。
「ようやく見せた尻尾を握り、引きずり出して引き千切るのが先のようだからな……!!」
楓:あたしかっこいい!!
廉:いや……微妙じゃないか?
楓:なぜに!?廉のピンチに颯爽とかけつけ、オーバーキルなまでの力を見せ付ける。どこぞの少年漫画よ!的な登場じゃない!
廉:いや、まず遅いし。手遅れだし。せめて俺の意識が飛ぶ前に来やがれ
楓:無茶言わないでよ……。なる先輩の誕生日パーティは昼からなのよ?早く来過ぎなのよ。あんたら
廉:それは氷雨に言え
楓:あの奇怪なオブジェにどう文句を言えと?
東子:妬ましい……!!
廉:うわっ!?
楓:いやいや南ちゃん。そこでその発想はおかしいってば
廉:俺らは別に恋人同士でもなんでも無いんだぞ?
伊集院:それは違いますわ廉様ぁっ!!
廉:こら、楓逃げんな
伊集院:恋する乙女の心はとても不安定なもの。無いとは分かっても納得できないものなのです。そう、女友達は勿論、腹を割って離せる男友達にすら嫉妬をしてしまうのです!!
廉:……で、俺にどうしろと
伊集院:わたくしだけを見てくださいませーっ!!
廉:……はあ、やっぱりこういうオチか
……後五分で明日だ