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第十八話:前話のタイトルは疲れていたんだと思います

少々時を遡り、忍が耕作の部屋を訪れる一日前のことであった。


*忍視点


「無断欠勤、か。……ふむ」


私、佐藤忍はそう呟きながら自分のデスクに座りながら斜め向かいの方にある、誰も座っていないデスクを見た。


そこに座っているはずの男、佐藤耕作は昨日からまるで音沙汰が無く、こちらから連絡しても応答が無い。


心配はしているのだが、仕事が押しているために彼の部屋に行く事すら出来ない。


彼の事だから出勤日を間違えてましたとでも言いそうなのだが、私には少々気がかりな事がある。


昨日、私が昼食を摂りに近くの弁当屋に向かう途中の事だった。


人通りの多い道に辟易しながらも前へ進んでいると、遠くから叫び声が聞こえてきたのだ。


その叫びはただの大きい声ではない。様々な感情が入り混じり、人の根源の恐怖を煽るような叫び声である。私も例外無く少しその場に立ち尽くしてしまった。


しかし、おかしいのはこれからである。遠くからとはいえ、充分に届く声量であるにもかかわらず私以外は全く反応しなかったのだ。


私が度の過ぎた臆病であるわけではないし、かといってここに集まっている全員が強靭な肝を持っている訳でもないだろう。


勿論恐怖もあったのだが、怖いもの見たさというのか、私の足は自然にそちらへ向かっていってしまった。


とはいえやはり遠くから聞こえた声を頼りにその発信源に到達するのは無理な事で、結局昼休みの時間が終わりに近づいたために引き下がるをえなかった。


ただ、その帰り道に私は耕作の姿を見たのだ。


広い街道からビルの隙間の路地を、彼は歩いていた。


最初は目の錯覚、次にやはりサボりかと身柄の拘束に向かったのだが、更に次には別の意味で彼の下に駆け寄りたくなった。


精神の平衡を失っているふらふらとした動きと表情、そして喧嘩どころではないくらいにボロボロとなった服、明らかに普通ではなかった。


なんとか人の波をかき分けて追ってはみたが、そのころには耕作はどこかに消えてしまった。


先程の叫び声といい私は不安で仕方なかったのだが……、所詮私は彼の上司という関係でしかない。あまり踏み込んだことは出来ないのだ。


「……そう、私と彼はその程度の関係なのだよな……」


「あれ?課長ったら随分とナイーブなんですね。ほら笑顔笑顔ー」


む、声に出てしまったか。いかんいかん。


私の呟きに敏感に反応したのは窓口業務の花形、上山瑞樹(かみやまみずき)だ。


艶のあるショートヘアに、大きな……そう、くりっとしたという表現が似合うような目、丸い輪郭に柔らかそうな頬とこれで二十歳過ぎなのだから世の中は不公平だ。


身長は百五十未満らしく、百八十を越える私の隣に立つと、最早親子だ。


動きもいちいち可愛らしく、机に手をついて身を乗りだし、首を傾げている姿なんて女の私でも可愛いと思えてしまう。


彼女は常に笑顔で満たされた評判の娘で、何時も仏頂面の私とは完璧に正反対である。


基本的に誰にでも分け隔てなく笑顔を振りまく彼女は、私のような者に恐れなく話しかけてくる数少ない人物である。


……というか、彼女以外にいるのだろうか……。


私だって好きでこんな風になったわけではない。ただちょっと感情を表に出すのが苦手なだけで……。


「かちょー?聞いてますかー?」


っと、目の前に人が居るのに考え込むのは流石に失礼だな。


いつのまにか目の前までに来ていた上山の顔を手で押し返す。


むぎゅー、とへんな声を出しながら上山が姿勢を戻すと、今度は手近な椅子を引っ張ってきて私の隣に座る。


「課長がボーっとするなんて珍しいっすねー。なにかあったんですか」


なにかあったか、か……。ううむ、どちらかといったら何も無いからこそ私は落ち込んで……


い、いや、何を考えているのだ私は。


私は自分の頭を軽くはたき、上山に向き直る。


「……特に何も無いさ。私とて鉄人ではないのだからな」


「ですよねー!だから課長も一緒に行きませんか?」


……は?


今、私の預かり知らぬ所で話が進んでしまい、彼女はキラキラと純粋な目を光らしながら私になにか期待している。


一体何を……?いや、だからといっているからにはまだ話は決定事項ではない。まだ遅くない。


「りぃちゃーん。課長も行くってさー!!」


「ちょっと待てっ!!」


いま、だからといわなかったか?提案だろう、それは。何時のまに決定事項になったのだ!


一体どこに行くのかは分からないが、私は今までそういったイベントからは程遠い位置に居たはずだ!


ちなみに、りぃちゃんとは、彼女の友人の一人である。


私が静止の声をあげるが、上山はただ首を傾げる。


どう説明しようかと頭を働かせていくうちに、上山は事情を理解し、僅かに頬を膨らませる。


羨ましいな。そういった感情表現が似合うのは……って違う!


「かちょー……。聞いていませんでしたね?」


いや、聞いていなかったわけではないのだ、ちょっと君を意識の枠の中からはずしていただけで……それを聞いていないというのではないか!


と、このように私の内心は乱れきってはいるが、表情は変わらぬ鉄面皮のままなのである。私が鉄の女などと呼ばれるのはこのせいなのだ。


元々私は感情の起伏が大きい少女時代を送っていたのだが、何がきっかけだったかはわからない、確かどこかのアニメのキャラを真似たのがきっかけのような気もするが……。


ともかく、クールな女性に憧れて自分の行動をかえてみた結果、いつのまにか戻れなくなってしまったのである。


年相応に感情の起伏は小さくなってきたものの、相変わらず私の心は乱れやすく、しかし、どうやっても表には出せず仕舞いに終わってしまうのだ。


そのせいで心を許せる友人は出来ず、その事が更に私の一匹狼な気質を強めてしまったのである。


目の前の上山も、私が焦っている事など考えもしていないだろうな。


「いや……すまなかったな。やはり、どこか疲れていたのかもしれない」


そして、私の口から発せられるのは心の乱れとは無関係に落ち着き払った声なのだ。


喜びも、怒りも、悲しみも、私の声は心とは無関係に一定のペースで発せられる。……本当に、嫌になる。


私がもう一度説明を頼むと、途端に上山は再び満面の笑顔になる


「んもぉ、仕方ないですねぇー。課長ったら世話が焼けるんですからぁー」


……私が珍しく無防備な姿をさらしたのが、それほど嬉しいか。


やはり、外側だけとはいえ完璧な人間より少し人間味のあるほうが与しやすいのか、急に上山は距離を狭める。


上山は口を手で隠し、私の耳元で呟く。


「……ふっ」


「――――――――!?」


な、何をするんだぁっ!!


私に耳打ちをする振りをして耳に息を吹き掛けた上山は、驚いて飛び去る私を見て頭を下げる。


「すいませんでしたぁーっ!どうしても無防備な課長を見たら悪戯心が押さえられなかったんです!!」


う、ぐ……。心臓の鼓動がとまらんではないか……!


驚き慌てふためき、言葉を紡げない私に、上山は本格的に危機感を募らせ、表情を曇らせる。


先程も言ったように、表情に全く揺らぎの無い私はただ黙っているだけでも威圧感を与えてしまうのだ。黙っている原因がなんであれ、な。


「……はぁ、気にしなくてもかまわんよ。その程度で怒るほど度量のせまい女ではないのだからな」


「ありがとうございますっ!!」


うわぁ!?


途端、上山は表情を輝かせ、私に抱き着いてくる。


お、怒りはしないが……。心臓に悪すぎるぞ……!!


体格の都合上座っていても上山の頭の位置は私よりも遥かに低く、彼女がまっすぐに突撃してきたために上山の顔は私の胸にうずめる事となる。


……まあ、自慢ではないが私の胸は決して小さくない。上山もどこか子供時代でも思い出したのかそのまま眠りに……ってえぇっ!?


腕を私の背中に回してしっかりと私の体を抱きとめながら、上山は呟く。


「おかーさーん……」


「寝言は寝て言いたまえ。……そこっ!こちらを見ていないでとっとと書類でもまとめていろ!!」


完璧に幼時退行している上山を引き剥がし、奇異の視線を向ける周りに睨みをきかす。


全く、君はもう二十歳を過ぎているのだろう。いいかげんに親ばなれしたまえ!


虚ろな表情で私を見ている上山の頬を軽く叩き、眼を覚まさせる


こらっ。嫁入り前の女がよだれなんかたらすんじゃないっ!


「ふにゃー……」


しかし上山が目を覚ます事は無く、再び私のほうに倒れてくる。


猫か!?君の前世は猫なのか!?


仕方なく私は上山を抱き上げ、背中におぶさって応接室に連れて行く。


暫く来客は居なかったはずだ。流石に地面に寝かせるわけにもいかないだろう。


上山をソファーに横たわらせ、私も向かいのソファーに座る。


すると上山はすぐにソファーに備え付けてあったクッションを抱きしめてなにやら言葉にならない寝言を呟いていた。


……羨ましい限りだな。私は最近寝つきが悪くて熟睡なんてした事も無い。


丁度応接室のドアの向こうから人の気配がするが、恐らくただ聞き耳をたてているだけだろう。気にするほどではない。


「……ところで、彼女は何を言いたかったのだろう」


そう呟いて私は上山の寝顔を眺めるが、答えは出ない。


断片的な内容からどこかに行くかどうか、という話だという事が分かるが、肝心の場所が予想できない。


……買い物、ありえんな。悲しいがありえない。


……誰かの家。これもありえんだろう。


……ま、まさか合コン!?いいいいいやいやいや落ち着け。彼女の人脈なら人数には困らんはずだ。わざわざ私を誘う理由は無い。


「なんだか、とても悲しくなっていたよ……」


思い返せば返すほど私が如何に孤独な人間かが思い知らされ、一人静かに落ち込んでしまう。


そうだ、この職場で私に必要以上の会話をする人は……上山と、耕作ぐらいだ。


……いや、耕作は私が一方的に気にかけているだけで、耕作が私との関係を快く思っていない事ぐらい分かる。


ただ、上司というだけで私に文句を言えないだけなのだ。彼との縁は職場が変わればすぐ切れてしまうものでしかないのだ


しかし、それでも……、それでも……!私は手放す事が出来ないのだ。


きっかけはほんの些細な事。でも、私にとってはそれはあまりにも大きな事だった。


新入社員歓迎の飲み会、課長という立場もあって私も参加したが、誰とも会話を交わす事は出来なかった。


元々の社員は勿論、新入社員も私の噂を知っていたのか、はたまた見た目のせいか、近づく人はいなかった。君子危うきに近寄らずといったところか。


『ちわーす、このたび入社いたしました佐藤耕作でーす。まあ、同じ苗字って事でここはひとつ』


そんな中、間違い無く酔っていたとはいえ、なんの隔意も無く話しかけてきたのが耕作だったのだ。


嬉しかった。この程度で感動するとは、よく今まで男に騙されなかったなと思うくらいに嬉しかった。


……しかし、私が今まで望まずに築きあげた張りぼての性格はそんな感情をたやすく叩き潰した。


そこで和やかな態度でいれば、私に対する意識も変わったのだろうが、私が放った言葉はただ一つ。


社会人たるもの酒に呑まれるとは何事かっ!だった。いや、飲み会とはそういうものだろうに。


悔やんでも悔やみきれない。私は本物の馬鹿だ……!!


本当は酔って判断力が落ちていたのだろう。でも、耕作はそこで逃げなかった。


『……そんな無茶せんでいいでしょうに。壁作っていいことなんて無いですぜ?』


彼自身も覚えてはいないだろう、もしくは意味を持ってこの言葉を放ったものではないのだろう。


『俺たちゃ野蛮人じゃあるまいし、別に取って食いやあしませんよ。ほら、せっかくの可愛い顔が台無しになっちまう』


私の内心を見ぬいていたのかどうかを確かめる術はもう無い。飲み会での彼の記憶は殆ど失われているらしい。


それに、私のことを可愛いって……。


いや、その事は……まあ、置いといて。私に、耕作との間に結ばれた縁をその場限りのものには出来なかった。


彼に生活能力が皆無な事をいいことに会社内外を問わず付き纏った。彼にも不快な思いをさせたが、不器用な私にはそれ以外に彼との縁を繋ぎとめる方法が見つからなかったのだ。


そして今、彼は会社に来ない。


もしかして私に嫌気をさして、辞めた?


そん、な……、まさか、そんな事で辞めるなんて……。


あの時街中で彼を見たのは見間違いの可能性だってある。むしろ、ただ辞めただけのほうが現実味がある。


――――ならこんな所で呆けている場合じゃない!!今すぐ……!!


「かちょー……?随分と怖い顔してますね」


私が負の思考の奔流に呑まれかけた時、上山が目を擦りながら起きあがった。


今にも飛び出しかねなかった私は繋ぎとめられ、落ち着きを取り戻す。


そうだ……、何を馬鹿な事を考えていたんだ。ストーカーにでもなるつもりか私は……!!


「あ、いや……。ところで先程は何を言いたかったのだ?」


ここで落ち着ける自分が嫌いだ。少しくらい、感情に流されてみたい……。


私の問いに、上山は寝惚け眼を擦りながら起きあがり、答える。


「ええそうです!耕作君の見舞いにでも行こうって話になったんですよ」


………え?


「ほら、耕作君って全然掃除とか料理とか出来ないじゃないですか。だからここで好感度アップ大作戦!ってとこですよ」


この女は、何を言っている?


「耕作君ってなんかほっとけないんですよねー。なんか母性本能ってものをくすぐるっていうかー」


「ふざけるなっ!!私はそんな事を許さない!!」


言ってから、私は自分の正気を疑った。


『私』はこんな事を言わないはずだ。心で思うだけにとどめるはずなのに……!!


上山も、まさか叫ばれるとは思っていなかったのか、眼を丸くして驚いている。


なにかが崩れる音が私の中で聞こえた。とても致命的な何が。


「あ、いや……いまのは、そうじゃなくて……!」


今まで嫌いつづけていた仮面がボロボロと崩れ去る。今まで嫌いつづけていたにもかかわらず、失った途端私は得も言えぬ恐怖に襲われる。


顔の色は瞬く間に赤くなっていくのが自分でもわかる。穴があったら入りたい……!!


そんな私を見ていた上山は、私の本意に辿り着いてしまう。


「(にまー☆)」


無邪気で邪悪な、そんな不思議な笑顔を浮かべた上山はそろそろと私の傍に来る。


やめろ!来るんじゃない!!


「おんやぁー?私の勘違いでなければぁー?今の行動から察するにぃー?察するにぃー?察するにぃー?」


五月蝿い!!同じ事を三度も言うんじゃない!!


ちなみに五月蝿いの語源とは「心」を意味する「うら」の母音交替形「うる」に、「狭い」を意味する形容詞「さし(狭し)」が付いた「うるさし」が語源で、何らかの刺激で心が乱れ、閉鎖状態になることを意味した。漢字の「五月蝿い」は、五月のハエは特にうるさいことから当てられた当て字である。


……ってそんな事はどうでもいいのだ!!


ああもう!こんな時くらいまともに働いてくれ、私の頭脳!!


「今の行動から察するに、課長は耕作さんの事をぉー?おっとぉー?」


「さ、さて、なんの事だか分からないな」


駄目だったーっ!!


私の声は動揺に揺れ、耕作のような鈍い人でも動揺していることが分かる。


鏡を見れば最早茹蛸のようになっているだろうな。


なんでこんなときに仮面が崩れるんだ畜生!!


「これは大スクープですよぉ?明日の一面はこれですね。『堅物お局、心は純情少女!?』……うぉう、私なら全部買い占めますね」


誰が堅物お局だ!誰が純情少女だぁ!!


もうこの場から逃げ出したくなったのだが、ここで重大な事に気づく。


ここから七十行くらい前で『丁度応接室のドアの向こうから人の気配がするが、恐らくただ聞き耳をたてているだけだろう。』……とあったはずだ。


……にゃー


はっ!現実逃避している場合ではない!!今すぐ奴らの口を封じねば……ってどうやればいいんだっ!!


「みんなー!!大スクープだよー!!」


「ちょっと待て貴様ぁっ!!」


走り出した上山の肩を無理矢理掴んでそのままソファーに投げ捨てる。


今更な気もするが、彼女をこのまま放っておいたら本当に新聞に載せかねん!




































「で、なぜこうなったのだ……?」


「おーっ!!やっぱ課長はどんな服でも栄えますねぇ」


今私がいるのは近くの商店街の服屋だ。……なぜ、ここにいるかというと


「ええ、やはり長身というのはどんな服も着こなせて羨ましいですよね」


「いっそのこと可愛い系で攻めてみるのもありじゃないんですか!?」


「「なるほどー!」」


私の……その、だ。耕作に……所謂好意という物をだな、抱いているというということは、私の部署内だけの秘密となった。上山もそれなりに良識はあるらしい。


しかし、その部署内に広がっただけでも私にとってはもう恥死に等しいものだ。本気で転職を考えてしまった。


上山はあの後二人の後輩を連れて私を半ば強引に服屋へと持っていったのだ。


そして、上山は後輩と話を交わしながら私を着せ替え人形としたのである。


今も、上山は新しい服を数着持ってきて―――――!?


「じゃあ課長。次はこの服を……って何をするんですか!?」


ふざけるなぁっ!!一体なんだその布面積が少ない服は!!まるで水着じゃないかっ!


「うふふー?恥ずかしがっちゃあいけませんよぉー?今まで課長が積み重ねてきたものを取り払う為にはこれぐらいしないと駄目なんです!!」


上山はそう力説するが……、うう、それを着て耕作の家に逝かなくてはならないのか……?


「かちょー?字が違いますよー?」


人の心を読むんじゃない!!


「でも課長、これは逆にチャンスですよ。今まで女と意識しなかった相手が突然女らしくなる。このギャップが萌えへと繋がるのです!!」


燃え……?なんだそれは。俗語の一種か?


燃え……、燃える?何を燃やす気だ一体。


ふむ、今の状況から察するに、恐らく情熱が燃えるとかそんな所から出来た俗語なのだろうが……。うむ


「課長ほど内と外のギャップが激しい人はいません。そんな最強の武器を鈍らかしておいていいんですかっ!!」


こちらが圧倒されるほどに熱を込めた上山の……最早演説は、残念ながら私には全く理解できなかった。


後で後輩二人が感動しながら頷いているが……、これが世代の壁というものなのだな……


「(まあ、流石にこれはやり過ぎだけどねー)」


ちょっと待て!今聞き捨てならん言葉が聞こえた気がするぞ!!


そうか、私で遊ぶ気だったのだな!!


「いやあ、勘違いしないでくださいよ。課長と耕作君のラブラブ大作戦なら協力しますって。……でも、どうせなら過程も楽しみたいじゃないですか」


そんな……ラブラブだなんて……恥ずかしいではないか。


って違う!『過程も』ということは『本番』でも楽しむつもりなのだな!?


「もちっ!」


いい笑顔で親指を立てるんじゃない!!


その指をへし折ってしまいたい……!!


「……さてと、遊ぶのはこの程度にしておいて……。課長は家事全般いけますよね?」


急に真面目になった上山に圧倒されてしまい、文句を続けられなくなってしまう。


「あ、ああ……。社会人としての嗜みだからな」


……本当は、少女時代に恋人へ手料理を振舞う姿を想像(もうそう)をしながら学んだのだが……。まあ技術は技術だ。


それよりも、これ以上過去の滅すべき歴史を掘り返したくない。


今度母さんに文集とかを全て焼却処分しておいてもらおう。


「なら、ラブラブ大作戦の概要はこうです。りいちゃん、耕作君役おねがい」


すると、上山は後輩の一人と向かい合い、私を真似ているのか急に強張った表情になる。


なるほど、彼女からはこう見えているのだな


「耕作、調子はどうだね」


ついで、後輩がわざとらしく咳き込み、続ける。


「ええ……あまり芳しくありませんが……。貴方の顔を見れば元気が沸いてきますよ」


ちょっと待て!!一体なんだその会話はぁっ!!


「ふふ……君も言うようになったな。どれ、ご褒美だ。甘いあまゴキュ!?」


メキィッ!!


「……三途の川の渡し賃は三羽烏で貸してやる。安心して逝ってきたまえ」


「課長っ!?親指で頚動脈を押さえたら本気で落ちちゃいますよ!?」


彼女らが創り出すどす黒い桃色の空間に耐え切れなくなった私は、両手でそれぞれの首を吊り上げた。


後でもう一人の後輩がなにか喚いているが。はは、聞こえんな。


と、まあ冗談はこの程度にしておいて、一睨み効かせてから地面に下ろす。


「うへぁー……。三途の川って意外と冷たいんですねぇ……」


「ならこの夏の日には丁度良いな。もう一度逝ってみるがいい」


「すいませんでしたぁっ!!」


反省の色が見えない上山をもう一度吊り上げておいて、なぜか怯えるようになった後輩二人をなだめる。


「(……課長はサド、と。耕作君ご愁傷様……)」


ネックハングブリーカー!








廉:仏さんの死因はなんだ?


耕作:恥死ですね。凶器は……


忍:何をやっているのだ貴様らはっ!!


氷雨:全くだ、それは俺の位置のはずだろうがっ!!


忍:………ふっ


(強制排除)


廉:俺よりもえげつないな……


耕作:だろ?俺も苦労してるんだよ……


忍:なにか言ったか?


廉&耕作:なにも言っておりませんとも!!


東子:れ、廉?どうしちゃったの!?


廉:いやぁ……、なんかだんだんここでのキャラが壊れかけてきているなぁ、と


東子:……ま、まだ大丈夫なはずだよ?


廉:間が空いた上に言いよどみ、最後に疑問系になったんじゃあ流石にへこみますよ……


東子:ああっ!!ごめんってばぁっ!


忍:…………………………


忍:(……羨ましいな)


耕作:ん?なにか言いました?


忍:なんでもないといっているだろうっ!!


耕作:ごふぁっ!?まだ一回目でしょうに……!


忍:(はっ!こういうことをしているから嫌われてしまうのではないのかっ?)


忍:……すまなかったな。大丈夫か?


耕作:お、俺何か悪い事しましたかぁっ!?


(耕作、逃亡)


忍:……………………………


東子:……………………………


廉:……………………………


東子:……元気出してください。ほら、気を取りなおして次回予告を


忍:……うん


忍:上山が選んだ格好で私は耕作の部屋まできたのだが、耕作の様子がどこかおかしい。はっ!?まさか調子が悪いのに私が来たからといって無理をしているのでは……?くそっ!!なぜその可能性を考慮に入れられなかったのかっ!!


廉:……落ち着け


忍:……あ、ああ。次回、『悪姫来襲』……ってなんだこのタイトルはっ!!



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