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第十七話:逃げる奴はアームズだ。逃げない奴は良く訓練されたアームズだ!

これでストックは無くなってしまいましたので、もしかしたら周一更新が途切れるかもしれません。申し訳ありませんがご容赦ください。


「ねえ廉、アンタなにしてんの?」


「……一応年上なんだから敬語くらい使ったらどうだい?」


「うっさいなぁ。あんたにゃ関係ないでしょ」


「お、落ち着いて……。」


「大体なんでこんな狭っ苦しいとこにいなきゃなんないのよ」


「悪かったね。俺の安月給じゃこんなもんなんだよ。君も社会人になったら分かるさ」


「お生憎様、あたしの親父は腹立つ事に金持ちで過保護でね。多分就職なんかさせてくんないわ」


「……ふう、人生何があるか分からないんだぞ?」


「なによ、その含みのある言い方。言いたい事があるならはっきりしなさいよ!!」


「……いいや、別に何でもないよ?」


「だったらその顔をやめなさいよっ!!」








「……五月蝿い」


メタンハイドレード並に着火しやすい優姫と、まるで火打石をネックレスにしているかのような耕作の会話は、いつも優姫がいきり立ち、全員がなだめる結果に終わる。


途中に挟まれた東子の台詞が可哀想である。


あの後、落ち着いて話を出来る所で今後の事を話し合おうとしたのだが、まず楓が乱入しかねないので廉の部屋は却下、東子の部屋は恥ずかしいと言う理由で却下、優姫の部屋も同じ理由で却下、結果として耕作の部屋が一番よいという事になったのだが……


「大体きったないのよこの部屋は!!煙草の吸殻がそこらに散らばってるし!服とかも脱ぎっぱなしだし!洗濯とかしてるの!?ああもう靴下がすぐ白くなる!!」


まず第一に汚い。床はビールの缶と吸殻、雑誌等で足の踏み場が無く、部屋の中心に置かれたガラステーブルなどは最早ガラスである意味は無い。


そして第二に狭い。一人暮しのワンルームに四人は入らない事は無いのだが……。なぜか押入れを使わずに巨大なタンスやクロゼットをいくつも置いて更に狭くしてしまっている。


耕作はベットに腰掛け、東子は廉がアービティアリィ・ハッカーで無理矢理ゴミを排除した所に座椅子を作ったおかげで普通に座れているが、廉は窓に腰掛け、優姫にいたってはずっと立ちつづけている。


そんな中、廉は自分の体にアービティアリィ・ハッカーを這わせていた。


「(……アームズの形状を大雑把に変えられる俺の体と、普通のアームズである東子さん、耕作さん、五十嵐、氷雨、そしてアームズとは無縁の鳴神先輩、楓、どれも特徴的な変化は、ない)」


これで何かアームズの発生元が分かれば簡単にアームズを奪う事が出来るのだが、現実はそう甘くない。


「(でも実際、腕が無ければアームズを操る事は出来ない。それは既に実験済みだ)」


廉が試したのは手首を動かせないように固定したら、アームズも同じように動かせなくなるというものだった。流石に、耕作のような馬鹿はしない。


「……つっても、腕を動かさなくてもアームズは動かせるんだよなぁ……。一体なんだ?この違いは」


「どうかしたの?」


気づかぬうちに声に出していたらしく、東子たちが会話を止めて振り向く。


一体どんな会話の応酬が為されたかはもう分からないが、なぜか東子はぎこちない笑みを浮かべ、優姫は顔を赤くしてうつむいている


注目されてしまった廉はとりあえず自分の腕を適当な紐で固定する。


するとアームズも中空のままで固定され、重力にも従わなくなる。


今度は紐を緩めてある程度可動域を増やすと、急にアームズを自由に動かせるようになる。


「この通り、アームズを動かすには『腕』としての定義がちゃんと一致していれば良いみたいです」


紐をきつくしてだんだん可動域を狭くしていっても、完全に指の一本すら振るわせる事すら出来ないほどに動かせなくなるまではアームズは自在に動かす事が出来るのだ。


「どうやら、完璧に固定してしまうと『腕』では無くただの皮膚と骨と肉で出来た棒状のものとみなしてしまうようですね」


廉がその他にもどこまでが腕までか、等の実験結果を報告するが、他三人にとっては目に見えてクエスチョンマークを出している。


その中で東子だけはなんとか噛み砕いて理解しようとしているが、もう既に彼女のハードディスクは冷却ファン程度では間に合わないほどに加熱してしまっている。


腕が腕で無くなればアームズは使えなくなるのだが、どこまで破壊すれば腕ではなくなるのか、流石にその線引きを自分の体で試すわけにはいかない。


「(……試しに、今度説得に応じない奴の腕でやってみるか)」


高性能、それこそアービティアリィ・ハッカーの力を結集させた義手ならどうか、それとも付け根の辺りを別の物体にしてみるか、色々と案を頭の中で巡らしてみる。


デンッ!!


「――!?」


深い思考の海に沈んでいった廉の意識が主にパソコンが鳴らす警告音で一気に引き上げられる。


廉が驚いて音の発信源を探すと、そこには廉以上に慌てふためいている耕作の姿があった。


その手には携帯電話が握られており、恐らく先程の音は着信音か何かなのだろう。


「なんでそんなの着メロに「頼む、今すぐクローゼットに隠れてくれ!!」


疑問を優姫がぶつけ終える前に焦燥した耕作が叫ぶ。


そのただならぬ様子に優姫を始め誰も何も言えず、言われるがままにクロゼットに押し込まれる。


そして押し込まれ後、ばたばたと走り回る音の後に缶や雑誌の束をひっくり返す音がする。掃除でもしているのだろうか。


「(う、わわ……!?廉、ちょっと近いって!)」


「(無理を言わないでくださいよ……)」


廉と東子は密着した事によって双方ともに赤くなり、そして優姫は一人身の孤独にさらされていた。


「……羨ましいねぇ」


……そして数分後、それぞれのベストポジションを見つけた頃に、チャイムも無くドアが開かれる。


「佐藤、調子は……訊くまでも無いようだな」


その後に聞こえたのは落ち着きのあるハスキーボイスの女性の声で、多少裏返りながら耕作が返事をする。


「全く、休むのなら事前に電話をいれたまえ。多少古いがホウ・レン・ソウともいうだろうに」


口調はむしろ男らしく、もっとしゃがれていれば男といっても通用するだろう。何に通用するかは知らないが。


「大体なんだこの部屋は、私が少し目を離した途端これだ。君にはもっと社会人らしい生活力を身につけてもらわないと困る。そしてゴミは分別する、掃除は毎日に越した事は無いが少なくとも一週間に一回、寝煙草は火事の原因だと何度も言っているではないか。ああもう、手作りとまでは言わんが、インスタント食品でもせめて何か一品付け足さないとバランスが偏ってしまう……聞いているのか!?」


「はい効いていますとも!!」


「字が違う!このような簡単な漢字を間違えるのは社会人として恥ずべき事だろう。パソコンの普及によって漢字を覚える機会はどんどんと減ってきてしまっているが、君の間違いは最悪だ。パソコンでもその間違いは直接出てしまうのだからな。全く、君は本当に……」


「えー……」


いつ息継ぎをしているのかといわんばかりに怒涛の説教を受け、耕作はげんなりとした声を出す。


クロゼットの中で二人の会話に耳を傾けていた三人は首を傾げる


「(……恋人か何かか?)」


「(うーん……家族とか兄弟っぽいけど……。にしては耕作さんは他人行儀だよね)」


「(ふん、会社の上司とかその辺りじゃない?)」


「(ふむ……流石に上司が家まで押しかけてくるのは無いんじゃないか?)」


「(そうよね……。でも聞いた感じすごい世話焼きみたいだし……、耕作さんって意外と駄目だし……)」


「(色々酷いわね。あたしもそう思うけど)」


と、耕作にとっては不本意な憶測が飛び交う中、目に見えて耕作の意識はどこか遠くへ飛んでいった。




































*耕作視点


うう……、最悪のタイミングできやがって……。少しは空気を読んでくれないかなぁ……。うん、無理だな。


俺の目の前にいるのは、うちの市役所の課長で、直属の上司にあたる佐藤忍(さとうしのぶ)さんだ。


女性ではありえないほどの長身で、基本的に一部を除いて何事も標準を自負する俺よりも頭一つどころでなく高いんだからどれくらいかは予想できるだろう。


腰までの髪をほんと適当に結んでんだけど、それでもなんていうか綺麗な光沢ってのがある。ほら、天使の輪ってやつさ。


足はすらりと長く、出る所は出て出ない所は出ない……だったか?ともかくその長身に見合ったスタイルをしてるんだが……忍さんはいまだに独身を貫かざるをえないのだ。


勿論、長身の女ってだけで男は寄り付かないんだろうけど、忍さんはそれだけじゃない。


原因は眼鏡程度では押さえられないほどに鋭い眼光で、それが悉く男を遠ざけているんだ。


こうやって相対してるだけでも……今はすっごい眉間にしわ寄せられているけど、背筋に冷たいものが通る感触を実感できる。


その上、この長身から一気に見下ろされたりなんかしたら、どんな奴でも色んな意味で昇天しちまうだろうな。


普段はグレーのスーツにタイトスカート、フレームの無い眼鏡とテンプレートを地でいってる人なんだが、今は黒目のジーンズにタンクトップとい薄手のジャケットの前を思いっきり開けて着ている。……似合わないなぁ。


なんかいつもはガッチガチの露出ゼロのかったーい服を着てるんだけど……どういう信教……いや、心境の変化だろう。もしかしたら本当に信教の変化かもしんないけど。


ちなみに、忍さんとの馴れ初めはこうだ。別に佐藤なんざとこにでもいるんだが、一応同じ苗字ってんで親近感を持っちまったのが運の尽き、佐藤耕作一生に一度の大失敗だった。


新入社員歓迎の飲み会で、酒の勢いもあって話しかけたんだが、返答の第一声が『社会人たるもの酒に呑まれるとは何事かっ!』だった。いや、飲み会はそんなもんだろ?


まあ、本当に酒に呑まれてたんだろうな、何を言ったか覚えてないけど翌日から妙に絡まれる事になっちまった。


本人にそのつもりは無いんだろうけどさ、机の整理整頓に始まり、私生活にまで口を出すのはもう『絡む』といっても仕方ないだろう?


今日はなんかいつも以上に饒舌だし……。なんか嫌な事でもあったのかねぇ。


一応廉たちの靴とかは隠せたけど……、みつかんないでほしい。


今の忍さんに廉達、ってか優姫ちゃんと東子さんを見られたら何言われるかわっかんないからな。


へたすりゃ速攻で警察につれていかれるかも。流石に中学生は拙い。


「……とりあえず、テーブルの上のゴミと床のゴミ、一通りまとめておきなさい」


俺が背中を汗だらけにしている事なんて露知らず、忍さんはバックを持ったまま部屋の奥に消えていく。


……何をする気だろう。ま、忍さんに逆らわないに越した事は無い。適当に掃除でもするか。


「手抜きは許さんぞ!」


サーイェッサー!!


……心でも読んでるんじゃないだろうな。



































「(うわー……可哀想だな)」


途中どうしても気になった廉たちはクロゼットを少しだけ開けて隙間から一部始終をのぞいていた。


「(……はぁ。ほんと、どこまでも情けない男ね)」


幸い二人からは完璧に死角になっていたようで、多少無茶をしても見つかる事は無かった。本当に、見つかったらどうすつもりだったんだろう。


「(……仕方ないさ。俺には耕作さんの気持ちはよく分かる)」


「(なにかあったの?)」


妙にしたり顔な廉の呟きに、東子が首を傾げるが、廉は俯いて一言呟くだけである。


「(……聞くな)」


女性に振り回されるという点では廉も負けてはいない。


むしろ、距離が近すぎる分楓のほうがよっぽど性質が悪いかもしれない。


「……耕作、掃除は終わったか?」


「サーイェッサー!!」


「馬鹿者!サーは男性に対して使うもの、女性にはマァムだ!」


「Aye, ma'am!」


耕作がまるで某ハー○マン軍曹に命ぜられたかのような機敏さで部屋の掃除を続けていると、部屋の奥に引っ込んでいた忍がパタパタとスリッパを鳴らして現れる。


「全く、台所が無駄にきれい過ぎて驚いたぞ。てっきり洗い物で一杯だと思ったが……皿すら使わんとはな」


忍が言うように、耕作家の台所は殆ど使われておらず、使われるといえば二日酔いを覚ますために水を飲むときぐらいである。


なので、洗い籠は勿論、シンクについている汚れは水垢のみという状態なのである。


その代わり、インスタント食品のゴミがすごい量になっているのだが。


「あー……。だって俺料理できませんもん」


「そういう問題ではない。まずどんな事も意思を見せる事から始めるのだ。出来ないと最初から決め付けてしまえば出来るものも出来なくなってしまう。…………君が、望むのなら私が料理を教えてやってもいいのだが……」


「勘弁してください」


速攻で土下座と共にお断りした耕作に、忍は色々な思いのこもったため息をつき、再び台所に戻っていく。


耕作は忍がいなくなってからも暫く頭を上げなかったのだが、暫く経ってからある事に気づき、顔を上げる。


「この匂いは……?」


忍のいる台所から、言いようの無い良い匂いが漂ってくるのである。


そして、耳を澄ますと、これまた食欲を誘うジュー……という音とトントンと小気味いいリズムが聞こえてくる。


耕作は首を傾げる。基本耕作はその日の食事はその日に弁当でも買って消費するために備蓄というものをしない。


そのため、冷蔵庫は勿論、冷凍庫や諸々の収納に食品は入っておらず、ましてや生鮮食品なんて買った事すらないのである。


加えて包丁やフライパンといった調理器具もありはするものの、一度も使ったことなくどこか奥底にしまわれていたはずである。


特に、包丁なんかは恐らく使い物になら無くなっているはずなのだが……?


耕作が不気味に(不思議に、では無い)思って台所を伺うと、想像を絶する光景が広がっていた。


埃をかぶっていた台所がまるで新築のように光り輝き、忍がまるで何年も使っていたかのような滑らかな動きで料理をしていたのである。


耕作が我が家でそんな光景を見たのは、まだ実家にいた頃の母親くらいである。


耕作は何度も目を擦り、目の前の光景が幻ではないかと確かめる。


ドンッ!!


「(ビクッ!?)」


と、耕作の気配に気づいたのか、忍が一際力をこめて食材を両断し、ゆったりと振り向く。


ちなみにそれは煮物にするための大根だったのだが、片手で無造作に両断したのには、普通に耕作の心臓は恋とは無関係に大きく揺さぶられた。


「……いつから見ていた?」


「はいついさっきですとも!!」


別に忍の声に咎めるニュアンスは無いのだが、片手に包丁を持ちながらゆらりと振り返られると必要以上の恐怖を感じてしまう。


忍は暫く顔を伏していたが、耕作の顔を無表情で見ながら本当だな?と念を押す。


もう一度勿論ですとも!と叫ぶと、忍も一度ため息をついて調理に戻る。


耕作としては地雷を踏まないために忍が何を考えているのか、その一端ぐらいは掴みたかったのだが、完全に背を向けてしまったので表情すらうかがえない。


「仕方ない……触らぬ神になんとやらだ」


一抹の不安を覚えながらも耕作は居間に戻る。


その時に三人が隠れているクロゼットと忍へと視線を巡らすが、彼らを逃がせるチャンスは無い。


一度ならずとも生死の狭間を行く戦いを経験した耕作には分かる。今の忍に一瞬の隙すらない。


背を向けて調理をしているにもかかわらず、忍はこちらへの注意を切らしていない。なんのつもりかは分からないが、今変な行動を起こせば間違い無く気づかれるだろう。


しかし、忍が料理を作っているということは暫くこの部屋にいるということとなる。それまで三人をクロゼットで隠しきるにも限界がある。


どうすりゃいいんだ……と耕作は思い悩むが、解決策は浮かばない。


「(ま、なるようになれだ……な)」


見つかりそうになったら、力ずくで気絶させるってのもありだよな……と物騒な考えを浮かべながら、廉が残していった座椅子に座り、目を閉じた。








廉:はい、ツンデレなんて無理っ!!


優姫:あたしの存在意義の否定!?


廉:もともと女性キャラすら苦手だっていうのに……。無茶はするもんじゃない。


優姫:……………


耕作:ん?急に黙り込んでどうした。


優姫:ガタガタガタガタガタガタガタガタ………………………………!!!!


耕作:どど、どうしたんだ本当に。大丈夫かっ!?


優姫:やだ、やだよ……!!絶対あのスペースには行きたくないよぅっ!!


(指を差した先)

   ↓

氷雨:はっはっは……。随分な言いぐさだな


楓:慣れるとここも楽しいもんだよー?


鳴神:そうよ?何時だって歓迎するわぁ……!


耕作:……………


廉:……………………


耕作:俺も、何れあそこに行くのかなぁ


優姫:ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ………………!!!


耕作:いいかげん落ち着け


廉:そうだぞ、お前らはまだ再登場の予定があるから良いじゃないか。伊集院(本気で名前を忘れかけた)やキング・アックアを見習えっ!!


伊集院:呼びましたか廉さまぁぁぁぁぁ―――――!!


廉:お呼びではないわぁっ!


(強制退場)


廉:……とまぁ彼女に関しては別として、ユーディットに至っては名前すら出てないんだからな。












忍:……あの、次回予告をするって事で呼ばれたんだが

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