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第十一話:デビュー

「……ふう」


あのまま直行で帰る気がしなかったので、廉は暗くなり始めた街中を歩いていた。


考えている事は二つ。


一つは自分以外にアームズの戦いを嫌う者がいたということだ。


ユーディットや伊集院は勿論、氷雨だって相手が廉でなければ目的の為に戦うだろう。


廉はそのことを批判するつもりは無いが、やはり自分と同じ考えを持つ者がいるというのは安心を感じるだろう。


そして、戦いを好まないというのに戦いの場に姿をあらわし、言葉で解決しようとした。


甘っちょろいことを、とも思うが、廉はむしろ羨ましくも思う。


戦いが嫌いだなんだといっておきながら、結局解決には武力を用いた。行動の伴わない、口だけの平和主義である。


ユーディットや伊集院も、逃げなければ説得に応じたかもしれない。過ぎたことを悔やんでも何にもならないし、実際説得に応じる確率は限りなく低いが、やる価値はあったのだろう。少なくとも、自分の身を守る力はあったのだから。


しかし、廉は戦いたくないから、楓を助けるためと理由をつけて放棄した。


「(もっと、強くなければいけないな……。どうやら俺に平和主義は似合わないようだからな……)」


せめて、戦わなければいけない所では感情を発奮できるようにしなければいけない。


相手を傷つける矛としてではなく、攻撃をすべて塞ぐ盾として。


「……見つけたっ!」


廉が新たな決意を固めていると、背後から聞いたことのある声が聞こえた。


「えーっと、あなたは……そう、東子さん」


振りかえると、そこには先程放置した……もとい別れた南東子が立っていた。


結構走り回ったのか、東子の髪型や息はそれなり以上に乱れている。


東子は廉のそばにまで走り寄ると、膝に手をついて息を整え、手ぐしで髪も整える。


一通り体裁を整えた東子は相変わらずのおどおどとした表情と口調で言う。


「あの……、すいません。何だか考え事していたみたいなのに話しかけちゃって……」


申し訳無く前置きして続ける。


「でも、やっぱりあの時の様子が変でしたから……つい」


あのとき、というのは恐らく「願いを叶えてみたいとは思わないんですか?」と問いかけた時の事だろう。


私、お節介なんで……どうしても気になって、と恥ずかしそうに呟く東子。


氷雨なら放っておいてくれる事なのだが、初対面で廉の事もろくに知らない東子にはそういう気遣いは出来ないだろう。


廉も、その事を知っているので特に敵意は表さず、張りつけた笑顔で答える。


「俺みたいに惰性で生きている人間には、そこまでして叶えようとしたい願いなんて無いんですよ」


それに、あそこまでユーディットを哀しませた者の力なんて借りたくは無い。


「(願いがあるとすれば、それは貴様が消え失せる事だよ……!!)」


しかしその憤りを東子に向けるのはあまりにも勝手な事だ。東子には笑顔を向け、殺意と敵意は胸中に収めておいた。


……はずなのだが。


「……やっぱり、変です。その、なんていえばいいんですかね、金城さんは渇き過ぎているように見えます。すごく」


東子は的確に廉の胸中を見抜き、開かないようにと塞いでいる鍵を抉る。


「(―――っ!)」


絵を描いているせいか、妙に鋭い観察眼を持つ東子に、廉は思わずたじろぐ。


しかし、見抜かれているからといってすべてを話す気にもなれない。


「……そこまで見抜けるんなら、放っておいてくれませんかね。俺にも色々とあるんですよ」


強い拒絶を表す廉に、今度は東子がたじろぐ。


「正直言って、俺はあなたの事を尊敬しています。……だからこそ、謂れの無い怒りををあなたに向けたくは無いんです」


そう言って話は終わりだといわんばかりに背を向ける廉に


「……駄目ですよ」


周りに見えないようにアームズを出す。


「っ!?」


廉は思わず振りかえり、アービティアリィ・ハッカーを構える。


東子は戦いを嫌っているという事なのだが、だからといって氷雨や楓のように廉自身が信頼を置いているわけではない。いつ心変わりをするかもしれない相手に無防備な姿を晒すわけには行かない。


二人がアームズを出したという事で二人のいる一角が隔離される。


東子は出したアームズをだらりとたらしたまま俯いて呟く。


「……謂れの無い怒りを向けるわけには、って言いましたよね。それじゃあ駄目なんです」


戦う意志の無い東子の姿に、廉は東子の意図を知る。


「金城さんみたいな人はすぐにそういう鬱憤を溜め込んでしまうんです。溜め込んだからといってどうなるわけでもないのに」


黙ったままの廉に、東子は続ける。


「周りを想うがあまり、それはどんどんと積み重なっていって……、何かを切欠にいつかは壊れてしまう。それじゃあ駄目なんですっ!」


初対面であるはずの廉を誰かに重ねてしまったのだろう。東子は異常といって良いほどの熱意で廉に語りかける。


東子が語り終えてしばらく廉は黙っていたが、再び東子が語りかけようとした瞬間に口を開く。


「……全く、俺の周りにはお節介ばかりですよ」


今度こそ偽りではない笑顔を東子に向け、続ける。


「何か勘違いしているようですけど、俺はそんなに追い詰められているわけじゃないんですよ。もうこの事は思い出すのも恥ずかしい程の暴走でひとまずの決着はつきましたし、この鬱憤を向ける相手はもう決まっています」


……あの光の球だ。あれが元凶ではないかもしれないが、少なくともあそこから辿れば黒幕に行きつく筈である。


しかし、廉はそう言ったものの、確かに時々身を焦がすような怒りを感じるのだ。


「……でもやっぱり、溜まっているというのは確かですね。氷雨やその他の友達は近過ぎて遠いんです」


氷雨や楓、鳴神に話すなんて羞恥プレイ極まれり……という冗談は置いといて、ともかく近いからこそ話せないということもあるのだ。


廉は助けを求めるような声で呟く。


「聞いてくれますか……?俺がはじめてアームズを使って戦った事を」


東子は頬を僅かに紅潮させながら頷く。


廉は僅かに微笑むと、ゆったりと歩きながら話し始める。


ユーディットという昔付き合っていた彼女がいた事、数日前に再開した事、そして双方ともアームズを持っていた事。


廉は特に表情を変えず、というか話している内容と感情を結び付けないように話す。


一度殺され、廉の亡骸の前で泣き崩れるユーディット。アービティアリィ・ハッカーで復活した廉を泣きながら殺そうとするユーディット。


相対する事が耐えられず、逃げだし、しかし今度は伊集院に襲われる。


その後の一通りを話し終え、気がついたら氷雨と戦った公園に辿りついていた。


廉がアームズでへし折った木は切り株になっていて、荒らした地面も元に戻っている。


「……そしてここで、あなたのようなお節介に助けられたんですよ」


助けられた、は流石に言いすぎかなと呟きながらベンチに座る。


廉の話を黙ったまま聞いていた東子は、ポツリと呟く。


「意外とプレイボーイなんですね……」


「だからなんでそうなる」


氷雨に向けるノリで東子に突っ込んでしまったせいでまた驚いて距離をあけてしまう。


廉が軽く頭を下げると、東子は警戒を解いてベンチの端に座る。


「だって、ユーディットさんに、伊集院さん、楓さんだって皆金城さんの事が好きなんですよ?モテモテですよ?」


……廉は完全に固まった。


しかし固まったのは一瞬だけで、すぐに立ち直る。


「どう考えたらそういう結論に行きつくんですか……」


伊集院は分かる。あそこまで本当に分かりやすい好意を向けられて気付かない方がおかしい。


しかし、ユーディットと楓はないだろう。ユーディットは好意はあるだろうが、それはあくまで小学生時代に培った愛情の残りだけだろう。4年間の時間の隔たりは感情を風化させるには充分である。


その事を一通り話し、最後に


「まったく、男女間の友情が無いなんて誰が決めたんですか?……俺と楓くらい近くなると恋愛感情なんて突き抜けてしまうんです」


東子は不満そうにしていたが、やがて納得したように息を吐く。


「……でも、すっきりしましたか?」


「ええ……、やっぱり同じ考えを持つ人がいるって心強いですね」


迷わず笑いながら答える廉に、東子もぎこちなさが抜けた自然な笑みを浮かべる。


廉の吹っ切れた様子に、東子もようやく安心したようで立ちあがる。


「……そうだっ!!」


途端、何かを思いついたように顔の前で手を合わせる。


くるりと振り返り、前かがみになって廉に顔を突き合わせる。


驚く廉をよそに、東子は輝いた目で話し始める。


「作っちゃえばいいんです、そういうのを!」


「……は?」


ついていけない廉を相変わらず放っておいて、東子は両手を廉の肩に置く。


普段の東子の基準ではかなり恥ずかしい行為なのだが、思いついた名案(……なのだろう)に自ら感動し酔っているのか気づく様子は無い。


「いくらなんでも願い事をかなえてもらえるっていったって、もともと私たちは戦いが大好きって人ばかりじゃないでしょう。そういう人たちを集めるんですっ!!」


廉や東子のような人を集めてチームを作り、殺し合いに勝手に介入して止める。そういう団体を作ろうと東子はいっているのである。


「……なるほど」


廉は納得したように呟く。前提として戦うつもりが無い廉には完璧な盲点だった。


それに、目的も果たせる。


東子はテンションがうなぎ上りのまま廉から離れ、『考える人』のようなポーズをしながら廉の前を往復する。


「まず、私と廉は確定として……、氷雨くんは大丈夫かなぁ?」


と、廉に問い掛けてから、自分の言った言葉のおかしさに気づく。


「……ってあーっ!?私ったらいきなり呼び捨てに……!」


顔を真っ赤にして蹲る東子。


恐らく、今までは若干廉に恐れを抱いていたせいで遠慮がちな態度で、テンションがあがるにつれてどんどん素が出たのだろう。


廉は苦笑いを浮かべながら東子の肩に手を置いて話し掛ける。


「別に……、東子さんのほうが年上なんで気にすることじゃないでしょう。そこまでされると逆にこっちが恥ずかしくなりますんで」


そう言われて一応は立ち上がったが、顔は相変わらず真っ赤である。


「うう……、今のは忘れて……」


「無理ですね」


即答する。顔を真っ赤にして目を潤ませている東子を見るとどうしてもサディスティックな願望がむくむくと芽生えてくる廉である。


「そんなーっ!!」


叫ぶ東子に、廉は思わず笑いがこみ上げてくるのを押さえられない。


「(……やべ、楽しい)」


しかし、あまり追い詰めてしまうと本当に泣き出しかねないのでいいかげんにやめて話を変える。


……無論、東子の望み通りに忘れる気は無いが。


「……で、話を戻すとしますけど……。氷雨は誘わないほうがいい」


今までの笑顔を完璧に消して、まじめな顔で言う。


「なんで?」


首をかしげる東子。東子から見た廉と氷雨は親友といっても差し支えが無いほどの間柄に見えたのだろう。


廉は目を伏せ


「だってあなたと二人きりでいたいから……」


ボンッ!と東子の顔が真っ赤になって噴火する。


それを見た廉は再び笑いをかみ殺す。


「くくっ……、冗談ですよ」


またからかわれたとわかった東子は羞恥と怒りで血管が切れるのではないかというほどにさらに顔を真っ赤にする。


「もーっ!年上をからかうなんて……!!やっぱり廉はカウボーイだっ!」


完璧に素が出ている東子は、怒りながら腕を組んでそっぽを向く。


しかし、またしばらくたってから蹲る。


「カウボーイってなんだよう……。プレイボーイじゃないかぁ……!」


廉にペースを崩され、言っていることすらおかしくなってしまっている。


笑いのツボに入ったのか、大爆笑の廉は何とか息を整える。


「あー、笑わせてもらいましたよ。ご馳走様です」


これ以上何か言ったらまた墓穴を掘りかねない東子は睨んでも怖くない視線を廉に向ける。


それすらもまた完璧ドSの今の廉には快感でしかない。


普段楓から迷惑を被っている反動だろうか。


「……と、冗談は置いといて。まじめな理由として、まだ、氷雨は仲間じゃないからです」


もう油断するつもりは無いのか、ずっと睨んだままの東子に廉は笑いかけながら続ける。


「一応恩はあるんであまり悪く言うつもりは無いが、あいつは……そう、所謂同盟状態なんですよ」


今は肩を並べて歩いてはいるが、それは今の氷雨に友人を殺してまで叶えたい願いが無いからである。


非日常に足を突っ込んでいる以上、決定的な決裂が起きない保証は無い。


氷雨の優先順位として、廉はそれほど上位にいるわけじゃないのだから。


こういった説明を一通り終えてから寂しげな笑みを東子に向けると、東子も表情を曇らせる。


「そう、なんだ……」


しかし今度は一転して廉は晴れやかな表情になる。


「あ、もちろん東子さんは俺の優先順位の中じゃかなり上位ですよ?」


むぁっ……!!と奇声をあげて三度真っ赤になる東子。いいかげん慣れるべきだと思う。


廉は微笑ましく東子を眺めながら携帯電話を取り出す。


「赤外線受信できます?これが俺のアドレスなんで……。勿論、愛の告白は大歓迎です」


最早東子はスルーする方針に決めたらしく、赤い顔のまま携帯電話を出して赤外線受信ポートを向ける。


ピロリン♪と、軽快な音がなった後に東子の携帯電話にアドレスが登録される。


同じように東子のアドレスも廉の携帯に登録される。


「(楓に騒がれないように、隠しフォルダにいれておくか……)」


ポチポチと携帯を操作した後に閉じてポケットにしまう。


そこで廉も立ち上がり、数歩歩いてから振り返り、頭を下げる。


「……冗談とか抜きで、今回は本当にありがとうございました」


シリアス的にもコメディ的にも廉の鬱憤は晴れた。感謝してもしきれない。


東子ははにかんだ顔で「……気にしないで」と一言答え、軽く会釈して家路に向かう。


一人、隔離された空間に残された廉は呟く。


先ほどまで東子に向けていた友好的な声とは違う、敵意に満ち満ちた声で。


「……さて、聞こえているんだろう。名は知らんが首を洗って待っていろ、俺はただ、指されるだけの駒じゃない……!!」




































ガシャーン!と水晶の部屋に何かが砕ける音が響く。


「ふフ……、いい度胸じゃないカ」


少年は近くにあった水晶のグラスをグラスを砕き、破片で切り裂かれた手から流れ出る血を舐めながら言った。


その傍らには女性が表情をまったく変えず、微動だにしないまま立っていた。


少年は椅子に座ったまま体の向きを変え、女性に向き直る。


「□□□□……、僕が何をしたいかわかるよネ?」


無邪気な笑顔を向けられ、女性はそこでようやく表情を翳らせる。


「……私にそこまで干渉する権限はございません」


「そんなのはどうでもいいのサー、肝心なのは、僕に挑もうという者を試そうとするだけなのだからサ、ルールはどうでもいいんだヨー」


無言のまま渋る彼女に、少年は眉をしかめる。


「……僕に、逆らうつもりなのかい?」


少年は急に口調と声質を変え、先ほど水晶の破片で傷つけられていない方の手を彼女の目の前にかざす。


「あまり手間をかけさせないでくれよ。君ならわかるだろう」


そのまましばらく目を突き合わせていた二人だったが、女性のほうがふと目をそらし、一歩下がって頭を下げる。


「……わかりました」


そして少年に背を向けて壁に向かうと、水晶の壁が開いて扉となる。


少年は遠ざかっていく彼女に


「信頼してるよ……?期待を裏切らないでくれ」





楓:この浮気者っ!!


廉:………………


楓:あたしの事は遊びだったのね。あんなに弄んどいてぇっ!!


廉:………………


楓:この女たらし、女こまし、女の敵!!


廉:………………


楓:………………


廉:……満足したか?


楓:うん、だいぶ


廉:しかし、東子さんはぶっちゃけチョイキャラだったつもりなのにな……。なんでここまで出張ってしまったんだか


楓;死亡フラグね


東子:えぇっ!私死んじゃうの!?


廉:……まあ、ありえないとはいえませんが……この話ではエログロは極力使わないようにしているんで、死ぬときは恐らく一瞬でしょう。安心してください


東子:安心できないよっ!!


楓:ま、その上この話はバトルを主軸においてるから……南ちゃんはは使いにくい事この上ないだろうねー


廉:……決定的だな


東子:うわーん!!


(東子、逃げ出す)


廉:ああ、ちょっと待ってください。貴方には次回予告をやってもらうつもりなんで、逃げられちゃ困ります


東子:うう……。もうお家に帰して……


廉:はい。カンペ


東子:…………………………


東子:ってなにも書いてないよっ!!


楓&廉:ナイスリアクション!


東子:もうやだ……


廉:まあ、今日くらい次回予告サボっても罰はあたりませんでしょう。……だって死亡フラグ立ってる人が言っても……


楓:次回『侵食』……結構短いよー


東子:ちょっと聞き捨てならな……(フェードアウト)


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