その2
リクリエーション。仕事や勉強での疲れを取るための休養や楽しみ。
たしか小学生か中学生のころにもリクリエーション企画とかあった。別名お楽しみ会。なんで授業の時間に遊んでいたのかと思ったらそんな意味があったのか。
まぁ、ゆとり教育だからこその時間だったんだろうけど。
では、まだ勉強もほとんど始まっていないこの状況でリクリエーションをやる意味とは?
「はーい。では、適当に4、5人で集まってグループを作ってくださーい」
教師はぼっち殺しの呪文を唱えた。
うん。まぁ、分かっているんだけどね。クラスメイトとの交流を深めるための時間なんだよね、これ。
だったらさ。そっちで適当なグループをあらかじめ決めといて欲しいんだけど。めんどくさいからって生徒に任せないでよ。
私のような人間は周りがグループを形成していく中、人が足らなそうなグループができるまでおろおろしていることしかできないんだから。
「おーい! 水蓮! こっちこっち!」
どこからか私を呼ぶ声がする。この元気いっぱいな感じはきっとリコだ。
リコは初対面でも構わずガンガン人と関わって、クラスメイト達と直ぐに仲良くなっちゃうんだろうな。私とは真逆だ。
そんなことを考えながら声がする方へ向かうと、そこにはアオイも一緒にいた。
高校生活初日のお昼休み以降、この2人とはよく一緒にいる。
休み時間はもちろん、移動教室や予定が合えば帰るときも。
最初は仲の良い2人に私がくっ付いて行ってる感じになりそうでちょっと嫌だった。
だって、ほとんど口を開かない私はそこにいてもいなくても同じだから。きっとふらっと何処に行ってしまってもすぐには気づかれない。気づいてもらえない。
そしてそのうち2人の世界に私は必要ないと逃げ出したくなる。そんなことを想像していた。
でも、実際はそうはならなかった。
そもそもリコとアオイはそんなに仲が良いわけではないみたいなのだ。
ユウリとユリアは小学生になる前からの付き合いでずっと仲良しらしいけれど、リコとアオイは昔から知っているだけで友達というわけではなかったらしい。
お互いに嫌っているわけでも一緒にいるのが嫌な訳でもないけれど、考え方が全然違うのか衝突することがちょっと多いみたいなのだ。
1人でいることが多かったアオイが何故か私に興味を持ち、そんなアオイにつられてリコまで私に近づいて来たというのが現状らしい。
つまり私がいなければ2人が一緒にいることはなかったらしいのだ。
「これで3人だね。あと1人か2人連れてこなくちゃ」
「じゃあ、私たちも入れればちょうどいいぐらいだね」
ユウリとユリアも合流した。こっちの2人は私に関係なくいつも一緒にいるので、どっちがどっちの名前だったかまだいまいち覚えれていない。たしかイケメンな方が鉄砲さんだっていうのは覚えている。
いつの間にか私は仲良し5人組の1人になっていたみたいだ。なんかすごくJKっぽくて笑える。
まぁ、喋っているのはほとんどリコとユウリとユリアで、私とアオイはあまり口を開かないんだけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仲良し合宿は新入生の恒例行事らしい。これから共に勉強する仲間との交流を目的としたもので、泊りがけで説明会やらリクリエーションをやっている。
小学生か、とツッコミを入れたくなるような名前だけれど、中身もきっと将来の記憶にはほとんど残らない様な内容だ。
楽しいっちゃ楽しいけどね。人と関わらなくちゃいけないところを抜かせば楽だし。
あれ? もしかして目的を否定してる?
いやでも、リコやアオイとたぶん合宿前よりは仲良くなったし、ユウリとユリアの名前を間違えなくなった。
うん。目的はきっと達成している。それ以外のクラスメイトとはまだほとんど関わっていないけれど。
合宿一日目の予定はほとんど終わった。今は夕食後の自由時間で、お風呂にさえ入ればもう寝てもいいだろう。
各自自由に集まってトランプとかで盛り上がるのかもしれないけれど、私は疲れたから人の少ない所にいたいです。
「だいたい上がって来たみたいだし、お風呂行こうか」
私やアオイはどちらかと言えば人の多い所が苦手だ。それを気遣ってくれたのか、リコだけでなくユウリとユリアもお風呂の時間を皆とずらしてくれた。
気遣いのできるイケメンか。モテるだろうなぁ。同性に。
「大浴場ってやつだよね。どんなところなんだろうね、アオイ」
「ただの大きいお風呂でしょ?」
「だってお湯にみんなで一緒に入れるんだよ! すごくない!?」
「2人は銭湯とか行った事ないの?」
リコのテンションがいつも以上に高い。そしてただのお風呂と言っているけれど、アオイもそわそわしている。きっと楽しみにしているのだろう。
「うん! 戦闘に巻き込まれたことならあるけどね」
うん? テンション任せに物騒な事が聞こえたような気がしたけど気のせいだよね?
「皆と川で水浴びならあるわ」
そしてアオイは意外と野性的だった。私も小さいころは川辺で遊んだことはあるけれど、さすがに川で泳いだことはない。っていうか、それはお風呂ではない。
脱衣所に入ると、まだ人がたくさんいたけれど、みんな風呂上りのようだった。浴室に入ればもっと人口密度は下がるだろう。
せっかくの大浴場なのだから、人の少ないところでリラックスさせてもらおう。
服を脱いでいると、視線を感じた。
「な、何?」
リコとアオイがこちらをじっと見ているのだ。
私なんか変なことしてる? ただ衣服を脱いでるだけなんだけど……。
「気にしないで。なんでもないから」
いや、それは無理でしょ。同性とはいえそんなにじっくり裸を見られるのは恥ずかしいよ。
「人って脱ぐとそんな感じなのね」
やめろぉ! 観察するように見るんじゃない! もっと良い体形の人が近くにいるんだからそっちを見なさい。
「見るならスタイル良いほうがいいでしょ?」
ユウリとユリアのほうに視線を向ける。
高身長のユウリは全体的にスレンダーですらっとした足や身体のラインが美しい。バストは小さ目だけど、ないわけじゃない。女性らしさを持ちつつどこかカッコいい。なんだこのイケメン。
ユリアの方は身長は低めだけれど、ふわふわの髪やちょっと丸みのあって柔らかそうな身体が特徴的だ。でも一番目につくのはその低身長に似合わない大きめのバスト。ロリ巨乳というやつだろうか。けしからん。
「そんなに見られると恥ずかしいよ。それにユリアのように胸があるわけじゃないし」
「おっぱいが大きいのもいいものじゃないわ。男子はいやらしい目で見て来るし、身長が低いから強調される。ユウリの身長を分けて欲しいわ」
2人とも魅力的のように見えるけれど、悩んでいる部分もあるのか。誇れるところのない私にはないものねだりにしか見えないけれど。
平均的な身長。小さくはないけど大きくもないバスト。油断すると出て来るお腹。ある意味、女子高生の見本のようなものだと思う。見た目だけなら平均的。中身はだいぶ残念だけど。
「見るだけ見といて、2人は脱がないの?」
なんか無駄に自身が無くなってきたから、リコとアオイも身体も観察してやる。
じっと見ているとさすがに脱ぎづらいだろうから、いったん視線を外し視界の隅で見るようにする。
2人は持ってきた着替えを空いている篭に入れてようやく脱ぎだした。もしかしたら着替えや脱いだ衣服をどうすればいいのか分からなかったから見ていたのかもしれない。聴けばいいのに。
身長はリコよりもアオイの方が高いけれど、どちらもまだ平均的な範疇だろう。バストは2人とも小さ目。というか全体的に脂肪が少なそうだ。脚には若干筋肉がついているのか少しだけ太め。アスリートみたいな体型だろうか。
私以外の4人は身体つきが恵まれ過ぎだと思ったけど、少し考えてみるとみんな良い所と悪い所があるみたいで、たいして良い所がない代わりにそんなに悪い所もない私も十分恵まれているのだと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あー。気持ちいいー」
終始テンションが高くて落着けないかもと危惧していたけれど、湯船の力は偉大だった。お湯に浸かったリコは今にも溶けてしまいそうだ。
念のため大浴場初心者の様子を眺めていると、いつの間にかリコの髪が二束ほど立っている。
いや、髪の毛というよりあれはケモ耳だ。
リコの頭からケモ耳が生えている!
「水蓮。私たちは先に上がるわ」
ユウリ達はそう言って先に風呂場から出ていった。私はとっさにリコのケモ耳を両手で隠したので、どうやら気付かなかったようだ。
リコのケモ耳はお風呂に入っているというのに濡れてなく、とてももふもふしていた。私の目を盗んで頭につけたというわけではないみたいだ。
そもそも、いきなり現れたのだ。この金色のピンと立ったケモ耳はカチューシャのように頭につけたわけではない。
ん? リコの髪って黒じゃなかったっけ? いつの間にかケモ耳と同じような金色に変わっている。
「あ、その……。離してくれない?」
私は湯船に浸かっているリコの前に立っているためリコは上目使いで私を見上げている。ユウリ達がいなくなったのに、一向に手を離さない私に戸惑っているようだ。
「えっと、ね。これは、え~と……」
恥ずかしそうにそのケモ耳をピコピコさせ何とか誤魔化そうとするけれど、言い訳が思いつかないのか困った様子で目線があっちこっちしている。動いているということは、やっぱり本物!?
「なにこれかわいいー!」
私はたまらずもふもふしたい衝動にかられリコのケモ耳を撫でまわした。
「ちょっ、何を!? きゃっ!」
わしゃわしゃと金色に変わったリコの髪と一緒にケモ耳をもふる。これでもかというくらいもふりまくる。
リコのケモ耳は敏感なのか、とてもくすぐったそうに悲鳴をあげるが私は止まらない。
「ちょっ……やっ、そこは……んんっ! ……優しく、してくれないと……あっ……ダメっ、なの」
抵抗するリコに構わずケモ耳を堪能する。台詞だけ聞くといかがわしくもとれなくないが、ものすごく気持ちよくて止められない。
「水蓮、落ち着いて! そのままだとリコが壊れちゃう!」
異変に気付いたアオイはびっくりしつつも私を止めようとする。リコからケモ耳が出たことよりも、豹変した私の行動に驚いているようだ。
というより、リコからケモ耳が出たことには驚いていたけど、ケモ耳が生えたリコには驚いてなくない?
私はリコをもふりつつ、アオイの方を向く。ちょっと怯えているように見えるのは気のせいだよね?
「ねぇ、アオイ? リコからケモ耳が生えたのに、どうしてそんなに落ち着いているの? もしかして知ってた?」
いったんリコのケモ耳から手を放し、アオイにゆっくり詰め寄る。私のもふもふから解放されたリコはくったりとし、その表情はどこか恍惚としていた。
「し、知らないわ。リコから狐耳が生えるなんて知っているわけないわ」
アオイは私から目を逸らせないようで、後ずさりながら距離を取ろうとする。
「ふーん。あれは狐の耳なんだ」
やっぱり、アオイはリコからケモ耳が生えることを前から知っていたようだ。普通は一目見ただけで、あれが狐の耳だなんて断言できるとは思えない。私はてっきり犬の耳だと思っていたのに。
リコは私のせいで放心しちゃったし、アオイから詳しく話を聞こうじゃないか。
「あ! わ、私先に上がらせてもらうわっ。………きゃ!」
アオイは失言に気づいて慌てて逃げ出そうとしたけれど、もともと滑りやすい上に前も向かずに走ろうとしたため、盛大にビタンッと音を立てて、前のめりにすっころんでしまう。顔面を強打することはなかったけど、あれはけっこう痛そうだ。
「痛たた。……あ」
転んだ拍子なのか、アオイの頭からもケモ耳が生えた! 形は少し似ているけれどリコのとは違ってアオイのは銀色だった。髪の毛も同じように銀色に染まっていく。
そしてアオイのお尻からは、その銀のケモ耳よりももっともふもふしている、銀色の尻尾が生えている!
青ざめるアオイを気に掛けることなく、私はまたもふもふに襲いかかる。
「ま、待って! そこは耳以上にッ! んあっ! ……び、敏感…んっ……なんだからっ……んんっ!」
リコのケモ耳と同じように、全く濡れていないアオイの尻尾は耳の比ではないほどにもふもふだった。
しかも大きいから手だけじゃなく、抱き付いて全身でもふもふを味わうことができる!
いや、全身は言い過ぎか? それでももふもふ度が耳の比じゃない!
「ひゃあっ!? だ、ダメっ……私も……おかしくなっちゃうぅ!」
その後、私は満足するまで存分にもふもふを堪能した。その結果2人とも直ぐには動ける状態じゃなくなり、湯に浸かっていたリコは危うくのぼせるところだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「公共の場でそうゆうことするのは止めといたほうが良いと思うわ。どこで誰が聞いてるかもわからないもの」
そうゆうことってどうゆうこと?
脱衣場に戻ると、ユウリ達は向き合ってお互いの髪をドライヤーで乾かし合っていた。仲が良いのはわかるけど、自分でやったほうが楽じゃない? それ。
どうやら浴室からの声がここまで聴こえていたようで、誤解された上にユリアから注意を受けてしまった。我を忘れていたとはいえ、たしかに配慮がなかった。
「いや~。リコとアオイが可愛いくてつい熱くなっちゃった」
だからと言って本当のことも言えないので誤解させたまま話を合わせておく。
「ふふっ。2人とも動物的な可愛さがあるからね。独り占めなんてずるいじゃないか。今度はぜひ私も混ぜて欲しいところだ……って痛い痛い。冗談だよ、冗談。優理愛の方が可愛いよ。だから許して?」
ユリアがユウリの脇腹をつねっている。あれはそこそこ痛そうだ。
しかし、ユウリの言う通りだ。ケモ耳は2人にとても似合っていた。ぜひこれからも見ていたい。
「もう。ほんと結梨は見境ないんだから」
「でも一番は優理愛だよ」
「当たり前でしょ? じゃなかったら許さないんだから」
イチャイチャとまるで恋人のような会話。そういえば女子の友情は恋愛と紙一重だなんて誰かが言っていた気がする。私は人付き合い苦手だからよく分からないけど。
「あ、結構空いてそう。時間ずらして正解だったね」
「……そうね」
女の子が2人脱衣所に入ってきた。クラスの中で特に身長が低い紅と光だ。光も人が多いところとか苦手そうだから、空いている時間を狙ってきたのだろう。
ユウリはリコとアオイを動物的な可愛さがあると言ったけれど、あの2人もそーゆーとこがあると思う。
「生えるとしたら猫耳かなぁ」
元気いっぱいな猫とクールな猫。タイプは違うけれど、どちらも猫耳がとても似合いそうだ。
そんなことを考えていると、両脇腹をつねられた。痛い。
左右からリコとアオイがちょっぴりお冠な様子で私を見ている。
「私たちにあんなことしといて、もう浮気なの?」
「敏感なとこ、あんなに玩んどいてそれはないんじゃないかしら?」
あらら。どうやら調子に乗った代償を払うときが来たようだ。復活するのが意外と早かった。
「いやー、あははは。……ごめん、許して?」
こっちはごまかせそうにないので素直に謝る。許してくれそうにないのは分かっているけど一応ね。
「目には目を」「水蓮も同じ思いをするべきだわ」
いつもは反発し合うことも多い2人だけど、こんなときばかりは息ピッタリで、私を両脇から挟んで逃がさない。
「わたしはケモ耳や尻尾はないよ?」
ユウリ達には聴こえないように配慮してアオイの耳元で囁くと、「ひゃうっ!?」と可愛らしい声がした。
アオイは羞恥で顔を真っ赤に染めてゆく。
あれ? なんかまた失敗しちゃった?
アオイは真っ赤な顔のまま、私の脇腹を思いっきりわしゃわしゃしてきた。さっきの私のもふもふに匹敵するほど、執拗にわしゃわしゃわしゃわしゃ。
堪えきれないこそばゆさに、変な声が止まらない。
私にもふもふされた2人もこんな感じだったのか。
ごめんなさい。調子に乗ってました。だから2人がかりで襲うのはやめてぇ……!
「じゃあ、先戻ってるよ」
薄情にもユウリはユリアを連れて部屋へ戻って行ってしまった。この状況にコメントすら無しなんですか?
「1人で楽しんだ罰よ」
ユリアも最後にそれだけ言って止めようとはしてくれなかった。
その後、お互いにへとへとになるまで制裁は続いた。
もみくちゃにされて汗をかいたのでもう一度浴室に向かうことにした。
そういえば、家族以外にこんなに触れたのって初めてかもしれない。