プロローグ1
鬱蒼とした森の中、消えゆく命があった。
「ここは・・・」
湿地に広がるおびただしい血と薄れゆく意識。
「大丈夫−−・・」
朦朧とした中、生を諦め起きかけた体を崩れ落ちながら意識を失う。声が聞こえたのは気のせいか。
−−−−−−…
数十万の兵が隊列を組み淀みなく平原を行軍する。歩兵・騎士・法兵・弓兵、主には人間種で構成されるが魔法の力で生み出した精霊やゴーレムといった異形も混じる。それらを先導するのは騎士とも法兵とも判断つかない出で立ちの七人の者。
その大規模な軍勢と対峙するのは−−ただ一人。いや、人ではない。人によく似ているが人間の世界で言うところの魔人に分類される生物。
軍勢と魔人との距離がまだ二百メートル程度あろうかという距離で数十万の兵はまるで決められていたかの様に歩みを止める。規律正しく体を成す様はまるでパレードを観ているかの様である。
直後、先導してる七人は手を掲げる。掲げている手には各々、色の異なる握りこぶしより一回り大きいオーブを持つ。そして、何か呟いたかと思うとオーブは発光し始める。昼間で晴れていた筈が、あたりは暗雲立ち込め、稲光を帯び始める。
そして、発光していた光は一点に収束、魔人を包む。
「オオオォォォォ・・・!!」 魔人の雄叫びがビリビリと空気を震わす。と、同時に五つの大火球が飛来し兵を飲み込み辺りを溶岩流へと変える。数万の命が失われただろうか。
「力を封じてもこれほどの・・・」七人の内の銀色に輝く鎧を着た者が驚きの声を漏らす。「やるぞ!」七人の掛け声のあと、中空が眩く光る。現れたのは直径五メートルほど球形の青白い物体。それを合図とするかのように兵はその物体へ手を掲げる。青白い物体は膨らむように大きくなり、数十メートルになった段階で一際光始める。眩しさのあまり誰もが目を閉じ、光が収まったあとに中空にあるのは一本の黒光りする巨槍。
天候は一層曇天となり雷光が槍に降り注ぐ。バリバリと雷を帯びた槍は爆発的な加速で目標に向かって飛来する。狙いの先は当然、魔人。
槍の破壊力は凄まじく、大地は揺れ、辺りは吹き飛び−−…
−−−−−−…
「人間ども・・・!」激しい怒りとともに、目が覚める。目だけを動かし周りを見渡す。簡素な木造りの部屋だ。調度品は今横たわっているベッドとタンスぐらいしかない。自分の体を見ると肩口から腹回りまで包帯が巻かれている。薄く血が滲んでいる。赤い血が。「赤い血・・・?」疑問を抱きながらクラクラした頭を振りながら体を起こす。ベッドの下にはタライがあり、水が張っている。ふと水面に薄く映った自分の顔を見る。「・・・?」・・・無い、ツノが。ぼんやりとしながらも焦りを感じつつ、ここでようやく自分の命が助かったのを自覚する。
「ガチャ・・・」あれこれ考えていると、ドアを開ける音が聞こえる。そこに入ってきたのは一人の女。