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第312話

「「………………」」


 無言で睨み合う俊輔とエステ。

 これまで苦戦していた俊輔がエステの使っている戦闘技術を使用できるようになり、仕切り直しといったところだろうか。


「「ハッ!!」」


 無言の睨み合いの後、2人は同時に動く。

 示し合わせたかのように高速移動技術を使用したことで、お互い一瞬にして距離を詰めてぶつかり合った。


「ぐうっ!!」「クッ!!」


 一直線に突き進んでの武器同士の衝突により、両者は反発するようにが弾かれる。

 正面衝突による衝撃により、2人はお互い空中で体勢を立て直して着地した。


「……おかしい。何で無事なんだ……」


「さあね? 何ででしょう?」


 この衝突で、俊輔が高速移動の技術を使用できるようになったのは確実だと確信できた。

 それにより、自分の動きについてこれることも理解できる。

 しかし、自分の攻撃には速度上昇と共に生み出されたエネルギーもプラスされているはず。

 魔族である自分でも結構な衝撃が来ているというのに、人間でしかない俊輔が耐えている。

 その疑問を口にするエステに、俊輔はその理由を軽い口調で誤魔化した。


「……君のその態度。何だか段々とイラついてきたな……」


「それは良かった」


 これまで自分以上に強い人間を見たことが無いためか、エステはどんな相手も下に見ている。

 それを人間でしかない俊輔にされ続け、最初のうちは我慢できたが、段々そうもできなくなってきた。

 イラ立つエステに、俊輔は嬉しそうだ。

 ニヤケ面したエステに煮え湯を飲まされた経験から、俊輔はいつか必ず同じような思いをさせてやると考えていた。

 エステの態度からそれが成功したことが窺え、俊輔は内心スッキリした気分だ。


「ハッ!!」


「っ!! 種族によるものか……?」


 俊輔の態度が耐えきれなかったのか、エステは火球を放つ。

 発動まで一瞬だというのに、巨大な火球が飛んできたことに驚くが、竜種の魔族であるエステ特有のものだろうと分析し、俊輔はその場から横へと飛んで回避する。


「ハーッ!!」


 避ける方向を読んでいたのか、エステは高速移動で俊輔へ急接近する。


「フッ!!」


「チッ!!」


 エステの急接近に対し、俊輔も高速移動をする事で対応する、

 攻撃が不発に終わったエステは、残念そうに舌打ちをする。

 そのまま、俊輔とエステの攻防が継続する。


“ババババ……ッ!!”


 能力の低い者からすると、射線にしか見えないだろう。

 2人の攻防は目にも止まらぬ速さで進んで行った。






「ハッ!!」


「くっ!!」


 互角だった俊輔とエステの攻防に差が出始める。

 僅かずつだが俊輔の方が押し始めたのだ。

 エステの方が多かった攻撃数も、今では正反対になっていた。


「くそっ!! 何で……!?」


 同じ高速移動を利用しての攻防なら、オリジナルである自分の方が上のはず。

 それなのに、何故このようなことになっているのか分からず、エステは困惑していた。


「教えるかよ!! ハッ!!」


「グッ」


 理由は簡単。

 種族から、エステは火魔法の才に恵まれている。

 それは俊輔よりも上だろう。

 しかし、俊輔は全属性を使いこなせる。

 火魔法による高速移動に他の属性を合わせ、更に加速力を上げているのだ。

 そんな事を教える訳もなく、俊輔はエステの脳天へ両手の木刀を振り下ろした。

 強力な一撃に、剣で防いだエステの顔が歪む。


「シッ!!」


「うぐッ!!」


 上に意識が向いた分がら空きになった腹に、俊輔は蹴りを撃ちこむ。

 直撃を受けたエステは、腹を抑えて俊輔から距離を取った。


「このまま俺の恨みと、お前によって理不尽に奪われた命の仇を討たせてもらう」


 エステにやられた恨みは、はっきり言っておまけに過ぎない。

 危険ダンジョンに送り込まれたことも許しがたいが、それ以上に、あの時一緒の船に乗っていた者たちの命を奪ったことが許せない。

 彼らはただいつも通りに過ごしていたに過ぎない、

 それなのに、魔王復活なんてくだらないことのために、奪って良い訳がない。


「人間も同じだろうが! 食べるために、魔物を殺す!」


「……そうだな。人間と魔物は互いに殺し合うしかないようだな」


 エステの言うように、人間も自分たちの都合で魔物を殺す。

 人間と魔物の関係は、今更変わることはないかもしれない。


「しかし、お前ら魔族は違うだろ? お前たち魔族は、人間のように知能がある。それに魔物たちを統率する力を有している。それを使って平和に暮らすという道もあるだろ?」


 人間と魔物の関係はそうでも、人間と魔族は違う。

 魔物から進化し、知能を持った存在。

 それが魔族だ。

 人間が他人を大事にするのと似た感情を魔物に持っているのなら、魔物を率いて人間から離れた場所で生きるという選択もできたはずだ。


「そんなこと……」


「できないか? エルフの初代国王は、たった1人からこの島を発展させたんだぞ」


「~~~っ!!」


 人間の味を知ってしまった魔物をたった1人で保護することは、力と知能を持とうとたった1人でできることではない。

 そんな事をするよりも、好き勝手に人間を襲う方が簡単だ。

 考えもしなかった案を告げられたエステは、不可能だと反論しようとする。

 しかし、その反論が言い終わる前に告げられたことにぐうの音も出なかった。


「やる前から諦めているなんて、根性無しが!」


 エルフ王国は、たった1人のエルフが国を興し、今では多くの人間が住む国へと発展している。

 当時は生きる人形とまで言われていた弱い人種ができたことだ。

 力のある魔族ならそこまで難しいことではなく感じるため、エステが反論できないのも当然だ。

 そんなエステに対し、俊輔はやる前から諦めていることに、怒りを込めて責め立てた。


「黙れっ!!」


 反論の余地をなくしたエステは、それ以上好き放題言われることに耐えられなくなる。

 そのため、感情に任せて、俊輔へと襲い掛かった。


「そんな攻撃通用するかよ!!」


「グハッ!!」


 加速もしない焦りに任せた攻撃。

 そんな攻撃が今更通用する訳もなく、俊輔は小太刀の木刀でエステの攻撃を防ぐと、右手の木刀で胴を撃ち抜いた。

 硬い鱗と魔力によって防がれたことで斬り裂けなかったが、骨が折れる感触が俊輔の右手に伝わる。

 攻撃を受けたエステは吹き飛び、何度も地面に体を打ち付けてうつ伏せに倒れた。


「止めだ」


 殺すつもりで放った一撃で生きているのは、敵であっても流石と言わざるを得ない。

 それでも、もうまともに動けることもないだろう。

 倒れているエステに止めを刺すべく、俊輔はゆっくりと歩を進めた。



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