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第311話

「そら、そら!」


「くっ! つっ!」


 エステの精密な魔力コントロールによる高速移動攻撃が、俊輔へと次々襲い掛かる。

 上下左右長短を織り交ぜての移動攻撃により、俊輔はタイミングが合わせられず防戦一方となっていた。

 翻弄される俊輔に、エステは上機嫌だ。


「ハハッ! 回復を見逃したのは失敗だったね?」


 上機嫌のエステは、移動をしながら話かける。

 俊輔は何とかギリギリのところで防いでいるが、それもいつまで持つだろうか。

 このまま甚振り続ければ勝てると判断したエステは、高速移動による攻撃を続けた。


「くっ!」


「諦めたら? ギリギリで躱しているけど、少しずつ傷ついて行っているよ」


「……うるせえ」


 エステの言う通り、俊輔は両手の木刀を使用してギリギリの所でエステの攻撃を防御・回避しているのだが、あまりの速さに僅かに遅れる時があるため、エステの剣によって所々斬られて傷を負い始めていた。

 そのことを指摘された俊輔は、服を血で染めつつ言葉を返す。


「言葉に力がないね。分かっているんだろ? 勝てないって……」


「…………」


 直線的とは言っても、方向転換されては攻撃を合わせづらいため、防御と回避以外に俊輔がとれる行動がない。

 そのことは俊輔も分かっているはず。

 その証拠に、返す言葉も弱くなっている。

 そこを指摘された俊輔は、無言で動き回るエステを目で追うしかなかった。


「図星で言い返せないようだね? もうちょっと楽しませてもらえると思ったんだけど、所詮は人間だね。さっさと殺して、また魔王の復活を目指そうかな……」


「くっ!」


 話しながらもエステの攻撃は続く。

 様子見をして、人間離れしている俊輔に期待をしたのだが、やはり自分が本気を出せば、人間では付いてくることができない。

 そのことを理解したエステは、つまらなそうに呟いた。

 そうなると、やはり自分を満足させてくれる相手は、封印されている魔王しかいない。


「セントロに乗っ取られていたけど、ちゃんと意識は残っていたから知っているよ。君が僕の魔法の指輪を持っているって……」


 本来なら、セントロ、オエステ、スル、ノルテという、魔族の中でも傑出した実力を持つ4人を殺し、その死体を魔王復活の養分にするつもりだった。

 魔族の幹部であるノルテは、純粋にガチンコ勝負で勝利し、多少仲が良かったスルは、不意撃ちを突くことで比較的楽に殺すことができた。

 エステの中で、一番手こずるのはオエステだと思っていた。

 しかし、この目の前にいる俊輔によって痛めつけられていたため、その手間も省けた。

 残るはセントロと思い戦ったが、まさか肉体を乗っ取られるとは思わなかった。

 何とか意識は残すことができたが、せっかく苦労して3人の幹部を殺したというのに、セントロのせいで魔王復活の計画も台無しになってしまった。

 だが、まだ可能性は残っている。

 奪われた魔法の指輪を俊輔から奪い返せば、オエステたちの死体は取り戻せる。

 それを使えば、魔王を復活させることができるはずだ。

 魔法の指輪を取り返すため、エステは俊輔を殺すために攻撃の手を強めた。


「ガッ!!」


 殺意が強まったことにより、エステの移動速度がわずかに上がる。

 ただでさえ速いのに、そこから加速されては対応しきれない。

 そのため、エステの攻撃が木刀のガードを弾き、俊輔は完全に無防備な状態にされてしまった。


「じゃあね……」


 ノーガード状態の俊輔に迫ると、エステは別れの挨拶と共に攻撃を放つ。


“フッ!!”


「っっっ!!」


 放たれた突きにより、エステは俊輔の心臓を貫くと思っていた。

 しかし、実際はそうはならなかった。

 攻撃が当たると思った瞬間、俊輔の姿が目の前から消え失せたのだ。

 当然攻撃は空振り、エステは慌てて俊輔の姿を探した。


「ハッ!!」


「ヘブッ!!」


 周囲を見渡したところに俊輔の木刀が直撃し、エステは変な声を上げて吹き飛んだ。

 空中で体勢を整えることで地面に体を打ち付けるようなことはなかったが、先程俊輔のおこなったことを理解して、エステは目を見開いた。


「な、なんで……」


「……お前が使えるんだから、俺が使えても不思議じゃないだろ?」


「な、なんだと……」


 エステが驚いた理由。

 それは俊輔が自分と同じ技術を使用して、高速移動をしたからだ。

 驚くエステに対し、俊輔は当然のことのように返答した。


「そんなバカな! 人間の体で耐えきれるわけがないだろ!」


 自分の使っている技は、魔族としての強固な肉体があってこそのものだ。

 というのも、高速で移動する際に、強烈な反動が来るからだ。

 人間が同じようなことをすれば、足が耐えきれるはずがない。


「確かにお前の技術をそのまま使用したら無理だろうな」


 足裏からジェット噴射のように魔法を放つことで、高速移動するエステの技術。

 これだけの高速移動が使えれば、戦闘において有利に戦えるのは身をもって分かった。

 だが、それが魔族であるエステだから使えるものだというのは、見ただけで理解した。


「だから俺が使いやすいように改良した」


 だったら、自分が使えるように改良すればいい。

 そう考えた俊輔は、防御一辺になりながら、頭の中で自分が使う上での問題点、その改善方法を考えだした。

 そして、ようやく先程実行に移すことに成功したのだ。


「……戦闘中だというのに、別のことを考えていたというのか?」


「その通り」


 戦闘をしながら見た技を改良するなんて、とても信じられない。

 一瞬の防御ミスで死ぬかもしれないというのにそんな事をしていたなんて、どれだけ豪胆な持ち主だというのか。

 エステの問いかけに、俊輔は薄っすら笑みを浮かべながら返答した。


「それだけ余裕があったことかい?」


「まあな。お前を殺すには、お前自身の技術で殺した方が愉快だろ?」


「舐められたものだね……」


 昔、にやけたエステによってダンジョンに閉じ込められたことを、俊輔はまだ根に持っている。

 その時の恨みを晴らすためには、エステの悔しがる状況に持って行きたかった。

 そして、自分の技術を真似されての敗北を味わわせるために、エステに有利な戦況からの逆転劇を演出することにした。

 先程エステは回復させたのは間違いではないかと聞いてきたが、無言でいたのは図星などではなく演出の一環だ。

 怪我をしていたから負けたという言い訳もできないよう見逃したのだ。

 俊輔の説明を受けたエステは、珍しく腹を立てたように真面目な表情になった。



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