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第308話

「風魔法を用意しろ!」


「りょ、了解!」


 魔力を溜め込むゲオルギウス。

 その構えを見て、フェルナンドはカルメラに指示を出す。

 その指示に従い、カルメラは両手に魔力を集めた。


「ガアァー!!」


「毒っ!?」


 魔力を溜めたゲオルギウスは、それを利用して口からどす黒い蒸気のような物をカルメラとフェルナンドに向けて吐き出してきた。

 フェルナンドに指示をされていたこともあり、カルメラは風魔法で自身の周囲に風を巻き起こして飛んできた蒸気を吹き飛ばす。

 吹き飛んだその黒い蒸気に触れた石が、嫌な音を立てて溶け出すのを見て、カルメラはそれが毒だと理解した。

 フェルナンドの言うように準備をしていなかったら、危なかったかもしれない。


「奴は毒の攻撃が得意だ。あの牙と爪にも毒があるから気を付けろ」


「なるほど……」


 よく見ると、フェルナンドの服には数か所穴が開いている。

 どうやら、先程の攻撃により開いた穴で、初見であの攻撃を完全に防ぐことができなかったのだろう。

 しかし、その程度で済んでいるというだけでもかなりの対応力だ。

 ただのナンパ王子かと思っていたが、それ以外のことはかなりまともなのかもしれない。


「あの蒸気の毒は少しの溜がいる。その溜を作る間を与えないように攻めるんだ」


「分かったわ!」


 先程までの左右に分かれての攻撃は、ゲオルギウスに効いていた。

 ゲオルギウスも嫌がったために距離を取ったのだ。

 ならば、嫌がることを続けてやればいい。


「グルル……」


「行くぞ!」


「えぇ!」


 蒸気の毒攻撃を防がれたゲオルギウスは、再度魔力を溜め始める。

 それを見て、フェルナンドは行動の合図を送る。

 その合図に合わせ、カルメラは左、フェルナンドは右に分かれゲオルギウスに襲い掛かった。


「ハーーーッ!!」


「セイリャ!!」


「ギャウッ!!」


 それぞれの攻撃は硬い鱗に阻まれるが、何度も攻撃を受けるたびに鱗にひびが入り、傷をつけ始める。

 体の大きさからいってチクチクとした痛みであろうとも、同じ場所を何度も斬られれば痛みが増していくばかり。

 次第にゲオルギウスは痛みで悲鳴を上げ始めた。


「ガアァッ!!」


「っ!!」


 カルメラとフェルナンドが連携して襲い掛かってくるため、ゲオルギウスは距離を取ることができない。

 距離を取ることができないのならば、反撃に出るしかない。

 とは言っても、片方を攻撃すれば片方が邪魔をしてくるため、精彩を欠いて当たらない。

 ならばと、ゲオルギウスは意識をフェルナンドに固定した。

 カルメラに攻撃されようとも、我慢をしてフェルナンドを仕留めることに集中した。

 痛みに耐えながら溜め込んだ魔力により、蒸気の毒攻撃を至近距離から食らわせるつもりのようだ。

 この距離では魔法で防ぎきることは不可能、

 フェルナンドは、その瞬間死の気配を感じた。


「させない!!」


「ギャーーウッ!!」


 フェルナンドに向けて上記の毒を放とうとするのを防ぐため、カルメラは大量の魔力を纏わせた薙刀を投げつけた。

 その薙刀が目に突き刺さった痛みで集中力の切れたゲオルギウスは、溜めた魔力を霧散させて大きな悲鳴を上げた。


「くらえ!!」


 ピンチが一気にチャンスに代わる。

 硬い鱗に覆われていない大口を開くということは、完全に弱点を晒しているのと同義だ。

 悲鳴を上げて開いている大口目掛け、フェルナンドはほとんどの魔力を使った魔力弾を放った。


「ガッ!!」


 フェルナンドの魔力弾が直撃し、ゲオルギウスの巨体が吹き飛ぶ。

 当たった上顎はその衝撃で消し飛んでいる。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


「……すごい」


 いくら鱗に覆われている外側と比べれば弱い部分だとしても、まさか竜種の体を消し飛ばす程の威力をした攻撃を放つなんて思ってもいなかった。

 エルフの持つ大量の魔力。

 それを使っての一撃の威力に、カルメラは感嘆の声を漏らした。


「素晴らしい援護だった。礼を言う!」


「どうも。あんたもただの色ボケ王子じゃなかったようね」


「むぅ……」


 あの状態で生きているとは思えない。

 生きていたとしても、僅かな時間で死ぬことだろう。

 カルメラの援護により、もしかしたら死んでいたところを逆転できた。

 勝利をできたことを喜び、フェルナンドは感謝の言葉と共に右手を差し出す。

 カルメラも見直したことを告げつつその手を握り、握手を交わす。

 自分のせいと分かっているため、カルメラのきつい言葉にフェルナンドは苦笑するしかなかった。






「おぉ、みんなやるな……」


 俊輔がセントロを倒し、僅かな時間差で竜たちも倒されていった。

 それを横目に、俊輔はエステへと近付く。


「おっと!」


 エステの側に来たところでゲオルギウスが飛んできたため、俊輔は横に飛んで躱す。

 先程感じた魔力の高まりからいって、フェルナンドの攻撃によるものだろう。

 上顎が消失して大量の出血をしている。

 もう虫の息だ。

 こんな強力な一撃を隠し持っていたとは思わなかったため、カルメラと同様に俊輔もフェルナンドのことを感心した。


「後はお前だけだ」


「……ハハッ、すごいな。俺の従魔たちを倒してしまうなんて……」


 最後のゲオルギウスまでも倒された。

 これで始末すべき敵はエステだけになった。

 俊輔がそのことを告げると、エスタは弱々しくも笑みを浮かべて従魔を倒した者たちを称賛した。


「これでも一応魔族の中で最強種族なんだよね……」


「……?」


 絶体絶命のはずのエステは、体の痛みをこらえて立ち上がり、側に飛んできたゲオルギウスに近付く。

 死ぬ寸前のゲオルギウスに何をする気なのか分からず、俊輔は訝しみながらエステのことを目で追った。


「がぶっ!!」


「なっ!?」


 ゲオルギウスに近付くと、端正な顔をしているエステの口が醜く裂ける。

 そして、そのままゲオルギウスのことを食べ始めた。

 突然の奇行に、俊輔は気でも狂ったのかと目を見開いた。


「っっっ!? まさか……」


 自分の従魔を食べるという行動に驚いていると、俊輔はエステの異変に気付く。

 そして、慌てて木刀を抜いて、ゲオルギウスを食べ続けるエステに襲い掛かった。


「ハハッ!! 気付くのが遅れたね」


「……チッ!」


 俊輔が接近すると、エステはその場から跳び退き、笑みを浮かべた。

 エステの言葉に、俊輔は思わず舌打をする。

 たしかに、怪我をして弱っているからと、エステの行動を危険視していなかった。

 しかし、まさかエステにこんな能力があるとは思いもしなかった。


「君が油断してくれたことで、充分回復させてもらったよ!」


 そう、エステはゲオルギウスを食べることで、怪我を回復させたのだ。

 ボロボロだったはずのエステだが、通常の状態に戻ってしまったようだ。 


「……いいさ。お前はしっかりと痛めつけるつもりだったんだからな」


「へぇ~……、楽しみだ」


 回復したのは予想外だ。

 しかし、これで弱っているエステを仕留めるだけの作業ではなく、これまで溜め込んだ因縁を晴らすことができるというものだ。

 そう思うと、俊輔は強烈な殺気と共に自然と笑みが浮かんできた。

 その俊輔の殺気を受けて、エステは冷や汗を流しつつ、いつもの軽い笑みを返してきた。


「何なら魔族としての本性を出して戦った方が良いんじゃないか? 何なら、何もしないで待っててやるぞ」


「…………随分と余裕だね?」


 本来の姿に戻った時こそ、魔族は全力で戦える。

 その姿に戻るには少しの時間が必要となるのだが、俊輔は何もしないことを約束しつつ促す。

 そのあまりにも上から目線の態度に、エステはいつもの笑みを消して問いかけてくる。

 どうやらカチンと来たようだ、


「そりゃそうだ。あんなのに体を乗っ取られるような奴なんて、どうせたいしたことないんだろ?」


「……そうかい。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ!」


 セントロの能力は、乗っ取った相手の力を使って戦うというもの。

 その能力はすごいが、本体の力はたいしたことが無かった。

 そんなのに体を乗っ取られるくらいだから、たいした実力ではないのだと、更に上から目線の発言をしてエステを煽った。

 俊輔のあまりにも馬鹿にした態度に、エステはこめかみに血管を浮き上がらせて、力を蓄え始めたのだった。



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