第307話
「ギャウ!!」
「……ッ!!」
俊輔の従魔であるアスルは、ワイバーンと戦っていた。
竜種において空では最高の機動力を誇るワイバーンだが、ネグロの魔法によって翼に穴を空けられ、その機動力は完全に失った。
元々は空からの攻撃を得意とするワイバーン。
そのため、飛べなくなって戦闘力が落ちたかと言うと微妙なところだ。
というのも、ワイバーンはアスルに対して魔法を連射して来たからだ。
風魔法が得意なのか、ワイバーンは穴の開いた翼を振って魔法を放ってきた。
その魔法を、アスルは必死になって避けていた。
「……ッ!!【近付けないっす!!】」
同じ俊輔の従魔といっても、アスルはネグロのような魔法攻撃ではなく、身体強化して蹴り技による接近戦が最も得意な戦闘方法だ。
蹴り技に自信があると言っても、接近できなければ話にならない。
そのため、アスルは魔法攻撃を躱しつつ接近を試みるのだが、ワイバーンの魔法の手数が多く、なかなか近付けないでいた。
「ハッ!!」
「ギャッ!?」
アスルに向かって魔法を放っていたワイバーンだったが、突如殺気を感じてその場から跳び退く。
「大丈夫? アスルちゃん」
現れたのは京子。
ワイバーンに攻撃をする事で、アスルの救助をおこなった。
「……!!【どうもっす。女将さん!!】」
「その呼び方は……って言っている場合じゃないわね」
俊輔を旦那と呼ぶためか、アスルは妻である京子のことを念話で女将さん呼ばわりしてくる。
それが納得できない京子は、何度も違う呼び方をするように注意をしている。
しかし、アスルはすぐ忘れてしまうのか変えようとしない。
またもいつものように話しかけてくるアスルに、京子もいつものようにツッコミを入れようとするが、今はそれどころではないとひとまず置いておくことにした。
「……!!【あいつ魔法攻撃ばっかしてくるっす!】」
「アスルちゃんの苦手な相手ね」
アスルは、京子にワイバーンの特徴を簡単に説明する。
それを聞いて、京子はアスルが苦戦している訳が分かった。
接近戦を得意としているのは、アスルは魔法攻撃が得意ではないからだ。
「ギャウ!!」
「っと!」
「……!!【ハッ!!】」
京子とアスルが話し合っているところに、ワイバーンは風魔法による風刃を放ってくる。
距離を取った状態なら、そこまで脅威になるような物ではないため、京子とアスルは難なく躱した。
「私もそこまで得意じゃないけど、何とかしてみるわ。その間に、アスルちゃん、よろしく」
「……!!【了解っす!!】」
元々日向の人間は、魔闘術を使っての剣術勝負が基本で、魔法を使っての戦闘はおこなわない。
そのため、遠距離での戦闘が得意なタイプと戦うのは苦手な方だ。
しかし、俊輔と旅を続けるうちに、京子は色々と訓練を重ねてきた。
今ではある程度の魔法なら使いこなせるようにはなっている。
それを使って、ワイバーンの魔法攻撃を止めることにした。
上手くいったら隙ができるため、京子はその時アスルが攻め込むように指示した。
「ギャウ!!」
京子たちが策を話し合っていることなど気にせず、ワイバーンは魔法攻撃を放つ。
「ハッ!!」
迫り来る風の刃に対し、京子は魔力を纏った木刀で魔法を斬り裂いた。
「ギャウー!!」
「このっ!!」
魔法攻撃を防がれたが、それならその防御が間に合わないくらいに数を増やせばいい。
そう考えたのか、ワイバーンは防がれるのを気にすることなく魔法を連射し始めた。
魔法で相殺するつもりでいたが、これでは魔法に集中することができない。
竜種とは言え、魔物のくせに頭を使って攻撃してくることに、防御に手を割かなければならない京子は少々苛立ちを覚えた。
「だったら!!」
「っ!!」
魔法での魔法相殺が無理でも、京子にはまだ策があった。
木刀に纏った魔力を斬撃として飛ばす方法だ。
連続魔法攻撃を防ぎながらタイミングを計り、京子はワイバーンに向けて斬撃を放った。
「ギャッ!!」
京子の飛ばした斬撃は、ワイバーンの魔法を吹き飛ばしつつ突き進む。
そして、そのままワイバーンに直撃した。
「……あれっ?」
「……【女将さん……】」
京子の斬撃が直撃したワイバーンは首を斬り裂かれ、大量の出血をして倒れた。
そして、そのまま動かなくなってしまった。
予想外の結果になり、京子とアスルは顔を見合わす。
竜種ということでもう少し頑丈だと思っていたが、どうやら思っていた以上にワイバーンの耐久力は低かったようだ。
「け、結果良ければすべて良しって事ね」
「……【そ、そうっすね】」
本当は自分の蹴りで仕留めたいところだったが、結果が大事。
京子の言うように、アスルもこれで良しとすることにした。
「ハッ!!」
「ガウッ!!」
京子をワイバーンの方へ行かせたカルメラは、ゲオルギウスと戦っていた。
俊輔から貰った特製の薙刀を使ってゲオルギウスに攻撃を放つカルメラ。
その攻撃を、ゲオルギウスは前足の爪を使って防ぐ。
小さくすばしっこいカルメラを、本当なら上空から一撃放てば倒せるのだが、ネグロによって翼に穴を空けられてしまったため飛ぶことができない。
そのため地上で対応しなくてはならないことに、ゲオルギウスは面倒臭そうに対応していた。
「まだですか?」
「すまん。すぐに済む」
ゲオルギウスと戦いながら、カルメラはフェルナンドに話しかける。
一緒に戦ってもらいたいところだが、フェルナンドは怪我をしている。
なので、まずは回復魔法で怪我を治してから参戦してもらうことにした。
自分の攻撃で、ゲオルギウスの硬い鱗を突破するのはなかなか難しい。
逆にゲオルギウスの攻撃を受ければ、一撃で大ダメージを負うことは間違いない。
そのため、カルメラは必死に動きまわった。
「よし! 行くぞ!」
回復魔法によってあばらの痛みも治まり、フェルナンドはカルメラの援護に向かう。
カルメラは左から、フェルナンドは右からの攻撃を仕掛ける。
「セイッ!!」
「ハッ!!」
「ガ、ガウッ!!」
カルメラは薙刀で、フェルナンドは刀による攻撃をゲオルギウスへと放つ。
左右から来られては対処が間に合わず、ゲオルギウスは2人の攻撃を受ける。
1人で相手をしていた先程とは違い、カルメラは1撃1撃にしっかりと魔力を込めて攻撃できる。
いくら硬い鱗に覆われていようとも、2人程の実力者が魔力を込めた攻撃を防げることはなく、ゲオルギウスは少しずつ傷を負い始めた。
「ガアァ!!」
「「っっっ!!」」
このままでは勝てないと判断したのか、ゲオルギウスは一旦その場から跳び退く。
そして、身を屈めて魔力を溜め始めた。




