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第306話

「ガアァーー!!」


「くっ!! 例のが来るぞ!! 防げ!!」


 俊輔たちがセントロたちと戦っている時、離れた場所ではエルフの兵たちがニーズヘッグと戦っていた。

 王太子であるフェルナンドに任された兵たちは、上空から攻撃を繰り返すニーズヘッグ相手に苦戦していた。

 魔法と直接攻撃で襲い掛かってくるニーズヘッグ。

 魔力量に自信のあるエルフ兵たちは、それに対し懸命の抵抗をするが、竜種であるニーズヘッグの攻撃はどれも超強力。

 数による優位などたいした意味を成さず、なかなかニーズヘッグに攻撃を加えることができないでいた。

 その中でも特に面倒な攻撃を、ニーズヘッグはまたも繰り出そうとしていた。

 ニーズヘッグのその動作を見て、兵を率いる隊長の男は大声を上げて仲間に指示を出した。


「ガアァーー!!」


「「「「「ファイヤーウォール!!」」」」」


 ニーズヘッグの攻撃。

 それは口から吐き出す吹雪だ。

 その攻撃に対抗するべく、兵たちは炎による防壁を作り出した。


「ぐう……」


「耐えろ!!」


 数人の兵による炎の防壁。

 しかし、ニーズヘッグが吐き出す吹雪の方が威力が強いのか、兵たちの衣服が凍りつく。

 その寒さに、思わず声を漏らす兵を鼓舞するように、隊長の男は声を上げた。


「くそ!! 地上に落とせれば!」


 空を飛べるニーズヘッグは、上昇・下降・旋回を繰り返して攻撃を仕掛けてくる。

 エルフ兵達はそれに必死に対応している。

 ただ、彼らも防御に徹しているだけではない。

 幾度となくニーズヘッグに向けて魔法攻撃を繰り出している。

 しかし、跳び回るニーズヘッグにはなかなか直撃を与えられず、たいしてダメージを与えられない。

 せめて地上に落とすことができればもう少し攻撃を与えることができるのだが、打ち落とすだけの攻撃を当てることも難しいのが現状だ。


「このままでは……」


 ニーズヘッグの直接攻撃や吹雪攻撃により、エルフの兵たちが数人ほど戦闘不能になった。

 とりあえずまだ死人は出ていないが、それも時間の問題かもしれない。

 それだけニーズヘッグの攻撃が強力なのだ。


「ガアァーー!!」


「くっ!! またか!?」


 何とか吹雪攻撃を防いだと思ったら、今度は急降下して襲い掛かってきた。

 体が急激に冷えて動きの鈍ったエルフ達に向かって、ニーズヘッグは高速で迫り来る。

 それに合わせるように、エルフ達は魔法攻撃を放つ。


「まずい!!」


 怪我人が出たことによって攻撃の手数が減る。

 そのため、ニーズヘッグは苦も無く攻撃を躱して、その怪我人を集めている所へと接近してきた。

 エルフ達は、怪我を治せばまた攻撃してくる、

 それを絶つために弱点を突いてきたようだ。


「ハーーーッ!!」


「ギャーーーウッ!!」


 あと少しで怪我人のいる所までニーズヘッグ迫る。

 万事休すといったところで、ある者がニーズヘッグに襲い掛かった。

 その者の刀による刺突により、ニーズヘッグの片翼に風穴を空けた。

 攻撃を受けたニーズヘッグは、悲鳴を上げながらフラフラと飛び、地面へと軟着陸した。


「ミ、ミレーラ!?」


「今のうちに怪我人を下げなさい!!」


「わ、分かりました!!」


 ニーズヘッグに一撃を加えたのは、ミレーラだった。

 ミレーラの出現に、隊長の男は驚きの声を上げた。

 着地したミレーラは、また狙われてはいけないため、すぐに兵たちに怪我人を移動するように指示を出す。

 兵たちはすぐにその指示に従い、怪我人の移動を開始した。


「残った者は私の援護をしなさい!」


「了解した!!」


 自分の存在を無視して指示を出すミレーラに文句を言いたいところだが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 ニーズヘッグを倒すためには、ミレーラの力が必要だ。

 隊長の男は指示に従い、援護を引き受けた。


「グルル……!!」


 翼をはためかせるが、片翼では思うように飛べないため、これでは上空からの攻撃ができない。

 自慢の翼に穴を空けられた痛みに、怒り心頭のニーズヘッグはミレーラを睨みつけた。


「ハッ!!」


 強力な殺気を向けられながらも、ミレーラは怯まない。

 吹雪を吐かれては近付けなくなるため、一気に距離を詰める。


「グルアッ!!」


「っ!!」


 迫り来るミレーラに対し、ニーズヘッグは尻尾を振り下ろしてきた。

 その攻撃に気付いたミレーラは、横に跳び退くことで回避した。


「今だ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 ミレーラが攻撃を躱したのを見て、隊長の男は声を上げる。

 その声に反応し、エルフ兵達は火球の魔法を放ってニーズヘッグを攻撃する。


「グググッ!!」


 翼を盾にするようにして、ニーズヘッグは防御を計る、

 上空を飛び回っていた時なら躱すことができたが、飛べなくなった今では躱しきれないため、受け取めるしかない。

 雨あられのように飛んでくる火球に、守るニーズヘッグは声を漏らした。


「ガァ……」


 抵抗しなければいつまでもこの攻撃が続く。

 そう考えたのか、ニーズヘッグは反撃の吹雪を放とうと力を溜め込む。


「そうはさせないわよ!!」


「ギャーーーウッ!!」


 力を溜め込むことにより、後方の防御が薄くなる。

 そこを見逃さず、ミレーラはニーズヘッグの尻尾に攻撃を加えた。

 それにより、ニーズヘッグの尻尾が根元から分断された。


「よしっ!!」


 拳を握って喜ぶミレーラ。

 これで、ニーズヘッグの攻撃手段の1つである尻尾を奪えた。

 脅威が1つ減ったことになる、


「ガアァーー!!」


「なっ!?」


 尻尾を失った痛みに耐え、ニーズヘッグはその場から飛び上がる。

 片翼に穴を開けたことで飛べなくなったと思い込んでいたミレーラやエルフ達は、驚きで目を見開いた。


「……もしかして、風魔法で無理やり……?」


 バランスの悪い状況でどうやって飛ぶのかと思ったが、ミレーラはその方法にすぐ気が付いた。

 ニーズヘッグは、穴の開いた片翼に風魔法を当てることで無理やり飛んでいるのだ。

 あくまでも攻撃を躱すための付け焼刃だろう。

 前のように縦横無尽という訳ではなく、何とか浮かんでいるといったように見える。


「ガアァーー!!」


「まずい!!」


 攻撃から逃れただけではない。

 ニーズヘッグの狙いは得意の上空からの攻撃。

 先程中断することになった吹雪攻撃を再開するべく、ニーズヘッグはまたも力を溜め込み始めた。

 上空高くに浮かぶニーズヘッグに攻撃を加えようにも、届く頃には威力は半減している。

 防御に徹するか、それともこの場から退避するべきか。

 隊長の男は選択を迫られた。


「任せなさい!!」


「待て!! ミレーラ!!」


 どうすることもできないエルフ達と違い、ミレーラには上空のニーズヘッグに近付く方法がある。

 俊輔が使っていた、魔力の足場を作って跳び上がる方法だ。

 それを使って、ミレーラはニーズヘッグへと迫る。

 何をする気か分からないが、無謀すぎる。

 隊長の男がミレーラに制止の声をかけるが、それを聞き流してミレーラは上空へ駈け上がっていった。


「ガ、ガアァーー!!」


「くっ!! 間に合え!!」


 ミレーラの接近に気付き、ニーズヘッグはそちらへ向けて顎を開く。

 地面のエルフ達よりも、自分に怪我を負わせたミレーラを脅威と感じ取ったようだ。

 この距離でニーズヘッグの吹雪を放たれれば、自分は瞬間冷凍して死が確定する。

 ならば、吹雪が放たれる前に仕留めなければと、ミレーラは距離を詰める速度を速めた。


「ガッ…「ハーーーッ!!」」


 完全に力を溜めきる前に攻撃を放とうとするニーズヘッグ。

 それにより、ミレーラが間に合うことはなくなった。

 しかし、ミレーラはそれでもあきらめない。

 持っていた刀を投げて、開いたニーズヘッグの顎を無理やり閉じさせた。


“ボーーーンッ!!”


「キャッ!!」


 溜め込んでいた力が、顎を閉められたことにより逃げ場を失い暴発する。

 一瞬膨らんだかと思うと、ニーズヘッグの頭部が吹き飛んだ。

 これでニーズヘッグを倒すことができたが、四方に吹雪の余波が舞う。

 距離を詰めていたことにより、ミレーラはその余波を受けてしまった。


「やっ…た……。私は…このために……」


 即死は免れたが、吹雪によって体が凍って動けない。

 自由落下するように地面へと落下しながら、ミレーラは安堵の声を漏らした。

 元々自分はドワーフ王国のダンジョン内で死ぬ運命だった。

 それが運よく俊輔たちによって救われ、その命を国のために使えた。

 生き残った意味はこのためだったと納得し、ミレーラは死を受け入れ目を閉じた。


「「「「「ハーーーッ!!」」」」」


「…………?」


 落下して地面に衝突して死ぬのだとミレーラは思っていたが、そうはならなかった。

 ニーズヘッグを相手にし、みんな魔力切れ寸前のはずのエルフ達が、風魔法を使ってミレーラをゆっくりと地上に下ろしたのだ。


「ハァ、ハァ……、命の恩人を死なせて堪るかよ!」


 地面に横になるミレーラに対し、隊長の男は顔色を悪くしながら話しかけて来た。

 まだ敵がいるかもしれないのに、魔力切れなんて危険な行為。

 自分たちの命を顧みない行為だ。

 それでも、その命はミレーラの無茶に寄手救われたものだ。

 それを皆理解しているのか、指示を出すまでもなく行動していた。


「……、フフッ……」


 無茶をして救ってくれたのは嬉しいが、気絶寸前の顔色では様にならない。

 僅かに残った意識でそれを確認すると、ミレーラは思わず笑みを浮かべてしまった。



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