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第305話

「ご助力します」


「京子!」


 俊輔の指示を受けた京子とカルメラは、すぐにフェルナンドのもとへと駆けつける。

 援軍に来てくれた京子を見ると、フェルナンドは喜色の笑みを浮かべた。

 京子を賭けての試合で負けたことで父から諦めるように言われていたが、まだたいした日数が経っていないせいか、諦めきれていないのかもしれない。


「……言っておきますけど、ここに来たのは王子のためではないですからね」


 はっきり言って、京子は最初からフェルナンドに興味がない。

 幼い頃から俊輔一筋なので、いつまでも付きまとわれるのも京子としても迷惑だ。

 フェルナンドの視線にまだ何か期待しているような感情が見えたため、京子は突き放しておくことにした。


「そ、そうか……」


 京子からの言葉を受け、フェルナンドはかなり残念そうに呟く。

 アバラの痛み以上に精神にダメージを負ったようだ。


「……私がこっちをやるから、京子はアスルを助ければ?」


 フェルナンドとの関係を考えると、京子はゲオルギウスと戦うよりも、ワイバーンと戦うアスルを助ける方が良い。

 そう考えたカルメラは、京子にアスルの方へ行くことを薦めた。


「そう? じゃあ、お願いするわ」


 たしかにその方がやりやすいと感じたのか、京子はカルメラの提案に乗ることにした。

 そのため、京子はその提案をあっさりと受け入れ、アスルの方へと向かって行った。


「ぁ……」


「…………」


 京子がアスルの方へ行ってしまうことが名残惜しいのか、小さく声を漏らし目で追う。

 脈がないというのに、京子のことを諦めきれない様子のフェルナンド。

 その態度を見て、カルメラは冷めた目を向けた。


「王子は私の援護をしてください」


「あ? あぁ……」


 今は王子のアホを気にしている場合ではない。

 ゲオルギウスを倒さないといけないため、カルメラはフェルナンドに指示を出す。

 動きを少し見ただけなので確証がないが、フェルナンドの動きはなんとなく鈍いところを見ると、どこか痛めているのかもしれない。

 そのため、カルメラは自分が接近戦を引き受け、フェルナンドには魔法による援護を求めることにした。

 それを受け、フェルナンドはようやくカルメラの存在に気付いたようだ。


「行きます!」


「あぁ!」


 ここにいる竜以外にも、兵たちに任せたニーズヘッグが残っている。

 さっさと倒して、兵たちのもとへと向かわなければならないと、フェルナンドは先程の残念な感じから真剣な目になった。

 そして、ゲオルギウスへと向かっていったカルメラの援護をするために魔力を練り始めたのだった。






「ピピ―ッ!!」


「ガアァーー!!」


 京子とアスルがワイバーンを相手に、カルメラとフェルナンドがゲオルギウスを相手にする状況になるなか、上空ではネグロとファイヤードレイクの戦いが再開されていた。

 開始時と同様、両者空中を飛び交い、攻撃を撃ち合う。

 ネグロは氷魔法を放ち、ファイヤードレイクは炎を吐き出して攻撃を繰り出す。


「ピー……」


 何度も撃ち合っているため、どちらが優勢か分かって来る。

 互角のようにも見えるが、はっきり言ってネグロの方が不利だ。

 口から吐き出すような魔法攻撃の応戦とは言っても、100%魔力を使用しての攻撃をするネグロに対し、ファイヤードレイクは体内の熱を利用した攻撃のため、その分魔力の消費を抑えることができている。

 このまま戦い続ければ、ネグロの魔力が先に尽きる。

 そのことが分かっているため、ネグロもこのままでは良くないと考えていた。


「グルル……」


 攻撃手段を変えなければならないと悩むネグロとは対照的に、ファイヤードレイクは有利な立場に笑みを浮かべる。

 このまま戦えば、負けることはないと分かっているからだろう。


「ピピッ!!」


「グルッ!?」


 勝つためにはリスクを覚悟で攻めるしかない。

 ならばと、ネグロはファイヤードレイクとの距離を詰めることを決断した。

 ネグロのその行動に、ファイヤードレイクは首を傾げる。


「ガアァー!!」


 何が狙いかは分からないが、接近させるつもりはない。

 ファイヤードレイクは、向かって来るネグロに対し、火炎を吐いて迎撃を図った。


「ピッ、ピッ……!!」


 空中での移動は小柄な分自分の方が小回りが利く。

 その機動力を利用して接近を図るが、近付くほどにファイヤードレイクの攻撃を避けることが難しくなる。


「ピッ!!」


「ガアッ!!」


 接近しての魔法攻撃を狙っていたネグロだが、あと少しまで接近した所で体勢を崩す。

 そこを見逃さず、ファイヤードレイクは前足を振ってネグロに攻撃をして来た。


「ッ!? ビッ!!」


 前足の攻撃を何とか躱したネグロ。

 しかし、ファイヤードレイクの攻撃はそれだけではなかった。

 反撃に魔法を打ち込もうとしたネグロに対し、ファイヤードレイクは尻尾を上から振り下ろした。

 その攻撃を躱すことができず、尻尾攻撃を受けたネグロは地面へと落下していった。


「グルル……」


 異常な威力の魔法を使うが、所詮は丸烏。

 一撃を加えれば、もう勝ちは確定した。

 そのため、ファイヤードレイクはネグロの結末など気にせず、次の標的を誰にするか地上を見渡した。


「ピーーッ!!」


「っっっ!?」


 ファイヤードレイクが次の標的へ向けて攻撃を開始しようとしたところで、ネグロの声が聞こえてくる。

 驚いてその声の方向に目を向けると、自分に向かってネグロが一直線に飛んできていた。


「ピーー!!」


「ガッ!!」


 ファイヤードレイクの尻尾攻撃を受ける直前、ネグロは身に纏う魔力量を増やしたことによって防御力を上げて即死を免れた。

 そして、打ち付けられる前に体制を整えて着地すると、反発するようにファイヤードレイクへと飛び上がったのだ。

 別の方向を見ていたファイヤードレイクは、超高速で接近したネグロへの反応が遅れる。

 両前脚の防御をかいくぐり、ネグロはそのままファイヤードレイクの顎に体当たりをした。


「グア……ッ!?」


「ピーーーッ!!」


 顎を打ち上げられたファイヤードレイクは、空中でありながらたたらを踏んでよろけ、意識を保とうとするように首を振り、すぐにネグロの姿を探す。

 その時にはもう魔法の準備ができており、ネグロは至近距離からファイヤードレイクに向かって巨大な氷柱を発射した。


「ゴアッ!!」


 ネグロが発射した巨大氷柱は、狙った通りファイヤードレイクの喉を貫くように突き刺さる。

 これで得意の火炎も吐くことができない。


「ピピピピピーーーッ!!」


 炎を吐かせないようにしたのはあくまで保険。

 この機を逃すわけにはいかないと、ネグロは大量の氷の矢を作り、血を吐くファイヤードレイクに追い打ちをかけた。


「ッッッ!!」


 ネグロの氷の矢が、ファイヤードレイクに豪雨のように降りかかる。

 その巨体では躱すことも出来ず、何本もの氷の矢が突き刺さっていった。

 強力な痛みが全身に襲い掛かるが、喉に氷柱が突き刺さっているため、ファイヤードレイクは悲鳴を上げることすらできない。

 翼も穴だらけになり、そのまま地面へときりもみ状態で落下していった。


「ピーーっ!!」


 頭から地面に落ちたファイヤードレイク。

 それでも絶命するとは思えない。

 そのため、ネグロは更なる追い打ちをかける。

 渾身の氷柱を作り出し、上空から撃ち落とした。


「ッッッ!! ガフッ!!」


 なんとか立ち上がろうとしていたファイヤードレイクだが、その前にはもう巨大な氷柱が迫っていた。

 その攻撃に目を見開いた時にはもう遅く、ファイヤードレイクは抵抗する間もなく背中から腹まで貫かれた。

 体中を穴だらけにされた上に止めを刺され、ファイヤードレイクは大量の出血をして絶命した。


「……ピーーッ!!」


 ネグロ自身も、尻尾の一撃でボロボロだ。

 それでも動かなくなったファイヤードレイクの上に降り立ち、ネグロは片翼を上げた勝利のポーズをした。

 弱小の丸烏が最強種のドラゴンを倒すという、超大番狂わせな一戦だった。



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