第302話
「ハァー!!」
「くっ!!」
接近と同時に振り下ろした俊輔の木刀を、セントロは必死な表情で躱す。
完全には躱せず、頬を僅かに斬り裂いた。
「おのれっ!」
「フッ!」
傷を受けたセントロは、反撃とばかりに剣を横薙ぎに振る。
その攻撃を、俊輔は笑みと共にジャンプして躱す。
「オラッ!!」
「うっ!!」
ジャンプした俊輔はそのままドロップキックをかます。
攻撃をしたばかりのセントロは躱すことができず、顔面に直撃を受けて吹き飛んだ。
「っ!!」
吹き飛ばされたセントロは、何とか体勢を整えて着地をする。
着地と同時に俊輔を睨みつけようとしたが、セントロは目を見開く。
俊輔がもう目の前にまで迫って来ていたからだ。
「ハッ!!」
先程のドロップキックは直撃したが、感触に違和感があった。
攻撃が当たる瞬間に、セントロは自ら後方へ跳ぶことによってダメージを軽減させたのだろう。
それが分かっているため、俊輔はセントロの着地した瞬間を狙って、距離を詰めて斬りかかった。
「グッ!!」
脳天から振り下ろされた木刀を、セントロは剣で受け止める。
それによって、2人は鍔迫り合いのような状態になる。
両手で剣を持つセントロに対し、俊輔は右手一本。
どちらが押しているかは一目瞭然だ。
「フンッ!!」
「っ!!」
両手を使っているセントロとは違い、俊輔の左手には小太刀がある。
防御用の意味合いが強いが、当然攻撃にも使用可能。
両手の塞がっているセントロに対し、俊輔は薙ぎ払うように小太刀を振るう。
「ぐうぅ……」
迫る小太刀に対し、セントロは咄嗟に右肩へ魔力を増やす。
魔力を増やして右肩だけを強化する。
その部分の防御を高めるのが狙いで、ある意味、攻撃を受けることを覚悟した反応だ。
覚悟したのと同時に、俊輔の小太刀がセントロの右肩へ当たる。
防御力の強化によって斬られることは防いだが、かなりの衝撃を受けたセントロは、痛みに顔を歪ませつつ吹き飛ばされた。
「このっ!!」
「っ!?」
飛ばされることで距離ができたセントロは、左手を俊輔へ向ける。
その行動と魔力の流れから、魔法による攻撃を仕掛けてくると読んだ俊輔は、その場から移動する。
「逃がすか!!」
突き出した手の反対方向である右へ右へと移動する俊輔。
それに対し、セントロも左手を動かし照準を合わせる。
そして、手に集めた魔力を使い、魔力球を連射する。
「シッ!!」
「くっ!!」
動き回ることで飛んでくる魔力弾を躱し、俊輔は少しずつセントロとの距離を詰める。
近付いてくる俊輔に、セントロは表情を歪める。
そして、距離を詰められないように、魔法を放ちながら距離を取ろうとした。
「逃がさないのはこっちの台詞だ!」
「っ!!」
どんどん近付いてくる俊輔に、セントロは魔法攻撃を中断して距離を取ろうと移動に専念しようとした。
しかし、そんなセントロに対し、俊輔はそうはさせまいと一気に加速して距離を詰めて懐に入り、木刀で逆袈裟斬りを放った。
「ぐっ!!」
「やっぱりな……」
俊輔の逆袈裟を、セントロは剣で弾き、またも距離を取ろうとする。
その動きを見て、俊輔は確信したように呟いた。
「お前、さっきの攻撃で右腕に力が入っていないんだろ?」
「チィッ!」
先程からセントロがひたすらに距離を取ろうとする理由。
それは、俊輔が言ったように、小太刀の攻撃を受けた右肩が思った以上に傷んでいたからだ。
あの瞬間、魔力によって防御力を上げたが、俊輔の攻撃が強力だった。
骨は折れなかったが、打撲による痛みで痺れている。
この状態で接近戦になれば、対応できずに大怪我を負う。
そうならないために、魔法で近付かせないようにして、回復する時間を稼ぐつもりだった。
「ハアァー!!」
「ぐうぅ……!!」
セントロの状態に気付いた俊輔は、当然時間を与えて回復させるつもりはない。
逃げるセントロを追いかけて間合いに入ると、両手の木刀で連撃を放った。
肩を痛めて右手に力の入らないセントロは、左手を軸にして剣で防ごうとする。
迫り来る攻撃に対し、セントロは必死に急所を防ぐ。
急所は防げても、片腕の力だけでは防ぎきれず、セントロの体の至るところに傷を負った。
「このっ!!」
傷を負いつつも俊輔の攻撃を防ぎながら、反撃のチャンスを窺う。
僅かに大振りになった俊輔の木刀によるをチャンスとみたセントロは、剣で弾いて反撃に移る。
「っ!?」
「いらっしゃい!」
「貴様! わざと……」
攻撃を防がれて隙ができた俊輔の右脇腹に、セントロはミドルキックを放つ。
しかし、俊輔はそれを待っていたかのように小太刀で防ぐ。
その態度に、セントロは自分が誘き出されたことに気が付いた。
大振りになった隙をついて反撃をしたつもりだろうが、その反撃を防がれたことで今度はセントロの方に隙ができた状態になった。
「ハッ!!」
「うごっ!!」
攻撃を防いだ俊輔は、体を回転させて鳩尾に蹴りを入れる。
その攻撃を防ぐことのできないセントロは、直撃を受けて呻き声を上げた。
「くらえ!!」
鳩尾を蹴られたことで、セントロの体が浮いた。
その状態のセントロに対し、俊輔は両手の木刀による連撃を放った。
「グアッ!!」
迫り来る攻撃に、セントロは剣で防ぎつつ全身に纏う魔力を上げる。
体が浮いた状態では防ぎきることなどできず、とうとうセントロの体に俊輔の攻撃が直撃した。
攻撃を受けたセントロは吹き飛び、砂浜を何度も跳ねて転がっていった。
「お、おのれ……」
攻撃を受けたセントロは、大量の血を流しつつ立ち上がる。
しかし、剣で体を支えないと今にも倒れてしまいそうだ。
「エステの体を乗っ取ったのは、こっちからしたら逆に助かったぜ」
エステの体を乗っ取ったセントロよりも、エステ本人と戦った方が危険だっただろう。
乗っ取って慣れていない状態だからといって、手加減する訳もない。
怪我でボロボロのセントロを仕留めるために、俊輔は木刀を構えた。
「何故だ! この私が人間ごときに……」
俊輔が構えをとっても、ボロボロのセントロは動くこともできない。
魔族最強であるはずの自分が、人間にこんな状態にされるとは思いもしていなかった。
そのため、現状を受け入れることができず、セントロはただ怒りで歯ぎしりをするしかない。
「うっ!?」
「……っ?」
セントロへ接近して止めを刺そうとした俊輔が地面を蹴る寸前、異変が起きる。
何故か急にセントロが苦しみだしたのだ。




