第301話
「グウゥ……!!」
「へへっ!」
俊輔のトリックプレイを見抜けず、左腕を斬り飛ばされたセントロは痛みで顔を歪ませながら俊輔を睨みつける。
逆に、俊輔はしてやったりと得意げに笑みを浮かべた。
「おのれーー!!」
「っ!?」
痛みと怒りで頭に血が上ったのか、セントロはすぐさま俊輔へと斬りかかる。
怒りで制御を間違えたのか、かなりの魔力がこもった攻撃が俊輔へと迫る。
しかし、威力は合っても速度はイマイチのため、俊輔は難なくその場から跳び退いた。
“ドンッ!!”
俊輔に躱されたことにより、セントロの攻撃は地面を打ちつける。
それにより、大量の砂が巻き上がった。
「そんな大振りが当たる訳ないだろ?」
大量に巻き上がった砂が、そのまま巻き上げた本人であるセントロに落ちる。
その光景を見ながら、俊輔は冷めた目でツッコミを入れる。
怒りによるものとは言え、今の攻撃はあまりにも短絡的過ぎたからだ。
「フフッ……」
「……?」
砂まみれのセントロは、俊輔のツッコミを受けてなぜか笑い声を上げる。
気でも触れたのかと、俊輔は首を傾げた。
「腕を斬り飛ばしただけでいい気になりやがって……」
「それが狙いか……」
被った砂を払いながら、セントロは笑みを浮かべて右手に握った物を俊輔に見せる。
それを見て、俊輔は納得したように問いかけた。
「斬り飛ばすだけでなく、きちんと焼却処分しておけば良かったものを……」
セントロが手に持った物。
それは、俊輔が斬り飛ばしたセントロの左腕だ。
先程の攻撃は怒りによる短絡的なものではなく、この左腕を取り戻すための攻撃だったようだ。
「斬られた腕を取り返しさえすれば、この程度の怪我すぐに治せるわ!」
腕を取り返すことに成功したセントロは、笑みを浮かべて左腕を元の位置に押し付ける。
そして、切断部分に対し、回復魔法をかけ始めた。
その魔法により、セントロの左腕はみるみる回復していく。
「ハハッ!! せっかく斬り飛ばしたというのに、これで振り出しに戻ったな!?」
セントロが回復魔法をかけてから数秒で左腕がくっ付く。
そして、左手を動かし、何の問題もないことを確認したセントロは、俊輔に見せびらかすようにして笑みを浮かべた。
トリッキーな攻撃により片腕を斬り飛ばしたことで俊輔が優位に立ったが、その優位性もこれで全く意味をなさなくなった。
斬り飛ばした腕を焼却するなりしておかなかった詰めの甘さを、セントロは嘲笑ったのだ。
「たしかに、回復魔法でくっ付けさせないために、処分して再生魔法を使わせた方がよかったかもな……」
欠損した腕を治す場合、2通りの方法が存在する。
1つは、今セントロがおこなったように、切断面をくっ付けて回復する方法。
もう1つは、再生魔法により腕を生やすという方法だ。
しかし、再生魔法の場合、どんな魔法の天才であろうともすぐに治すことなんて不可能。
すぐに治すというのなら、どちらの方が良いかは分かりきったことだ。
俊輔自身、両方の魔法で回復した経験があるため、当然知らない訳ではない。
セントロの言うように、腕を治させなくすることはできた。
「……何だ? その余裕は……」
セントロからすると俊輔の反応が気に入らない。
まるで分っていてその選択をしなかったかのようだ。
「気付かないのか?」
「……何?」
俊輔が何を言っているのか分からず、セントロは不思議そうに周囲や自分のことを見回す。
しかし、自分や周囲に罠が仕掛けられているようには感じない。
そのため、セントロはただのハッタリではないかと疑い始めた。
「俺の狙いはこれだ」
「…………?」
種明かしをするように俊輔は右手を上げるて説明する。
しかし、少し離れているセントロからは見えにくい。
というのも、持っている者が小さくて、俊輔が何を持っているのか分からないのだ。
「っ!! 貴様……!!」
少しの間俊輔の手に持っている物が何なのかを見ていると、セントロは声を失う。
俊輔が持っている物に気付いたからだ。
「お前が付けてた魔法の指輪だ」
戦う前に、セントロはこの魔法の指輪から武器を出していた。
そして戦闘を開始してから、俊輔はセントロのことを観察していた。
ポケットに隠しているという可能性もあるが、貴重な物は肌身離さないのは人間でも魔族でも変わらないはず。
それにより、セントロが付けている魔法の指輪はこの1つだと判断した。
「これに魔王復活の材料が入っているんだろ?」
「おのれーーー!!」
本来はエステを想定相手としていたことだが、セントロと戦うにあたり俊輔は最初からこれを狙っていた。
ドワーフの国で遭遇した時、エステはオエステを殺すのは魔王復活のためと口にしていた。
魔王復活を狙うなら、可能性が高いのは攻略されてから一番期間の長いこのエルフの国のダンジョン。
しかし、ここのダンジョンにどうやって復活させるのか。
それを考えた時考えられるのは、栄養価の高い生物の死体をダンジョンに吸収させるということだ。
そう考えれば、エステがオエステに言っていた意味が繋がる。
では、どうやってオエステの死体をここのダンジョンにまで運ぶのか。
答えは簡単。
魔法の指輪に収納して運べばいいだけだ。
ならば、その魔法の指輪を奪い取ってしまえば、魔王復活を阻止できるということだ。
狙い通りに奪うことができた俊輔は笑みを浮かべ、奪われたセントロは悔しそうに顔を顰めた。
「殺す!!」
「ハッ! やってみろよ!」
俊輔から魔法の指輪を奪い返そうと セントロは怒りと共に地を蹴る。
しかし、俊輔はすぐにその魔法の指輪を収納し、木刀を構えた。
「貴様!! 私の計画を何もかも潰しやがって!!」
「知るかよ! バカ!!」
先程と同様に魔力を込めた力任せの攻撃。
しかし、そんな攻撃は通用しない。
俊輔は余裕で躱しながらセントロの文句に返答する。
「はっきり言って、お前じゃ俺に勝てねえよ!」
「何!?」
距離を取った俊輔は、挑発するような言葉をセントロに投げかける。
自信ありげな表情で話す俊輔に、セントロは僅かに怒りが収まり訝しむ。
「お前からはエステと対峙した時のようなヒリつきを感じない。体を乗っ取ったのかもしれないが、まだその体を使いこなしていないんじゃないか?」
「…………」
戦い始めた時から感じていたことだ。
エステの体なのかもしれないが、セントロからはそこまで脅威を感じない。
戦ってみて確信したが、やはり攻撃の1つ1つが荒い。
恐らく、まだコントロールできていないのだろう。
図星なのか、セントロは俊輔の質問に閉口した。
「そんなんで勝てると思ったら大間違いだ!」
これまでわざと後手に回っていたが、そうと分かればなんてことない。
セントロを倒すべく、俊輔は自分から攻撃を開始することにした。




