第299話
「ギャウ!!」「ガアァーー!!」
「おわっ!! っと!!」
セントロの指示受け、ゲオルギウスとワイバーンが襲い掛かってくる。
前足の爪による攻撃が迫るが、俊輔はそれを左右へと跳び退くことで回避した。
「グルアァーー!!」
「むっ!?」
翼をやられた2頭が俊輔に攻撃をしている隙に、無傷のファイヤードレイクは上空へと舞い上がる。
そして、空中で停止すると、俊輔へ向けて口を開いた。
「ブレスか!?」
ファイヤードレイクの開いた口に、魔力が高まるのを感じる。
それを見て、俊輔はブレスを吐くつもりなのだと判断する。
「ピー!!」
「ネグッ!?」
俊輔がファイヤードレイクの攻撃に警戒した所で、ネグロが上空へと飛んで行く。
ネグロは、空を飛べる自分がファイヤードレイクの相手をするつもりなのだろう。
「グルッ!?」
「ピー!!」
ファイヤードレイクも、ネグロが寄って来たことに気付く。
本来、魔物の中でも最強種である自分が、丸烏なんて羽虫ごとき相手にしない。
しかし、この丸烏は仲間の龍を傷つけた。
その報復をするため、ファイヤードレイクはネグロを先に始末することにした。
「ガアァーー!!」
「ピ――ッ!!」
ファイヤードレイクは、俊輔に放つ予定だったブレスをネグロに向けて吐き出す。
その名の通り、ファイヤードレイクの得意な火炎放射だ。
得意なだけあって、その火力はとんでもない。
直撃すれば、どんな生物も黒焦げになること間違いない。
その火炎放射に対し、ネグロも水魔法で対抗する。
“ドーーンッ!!”
ネグロの水魔法と、ファイヤードレイクの火炎放射がぶつかり合い、小規模ながら水蒸気爆発を起こす。
それだけ、ファイヤードレイクが吐き出した炎の温度が高いということだろう。
「グルル……!!」
「ピィー……!!」
魔法とブレスの打ち合いは互角に終わり、ファイヤードレイクはネグロを睨みつける。
自分の攻撃が、弱小魔物の丸烏なんかに止められたことが気に入らないのだ。
ただの魔物なら、その睨みつけだけでも戦意を喪失したり気を失うだろうが、ネグロは反対に睨み返した。
「何なんだあの丸烏は……、まるでキュウ様のようだ……」
竜を相手に戦う弱小魔物。
エルフ王国の者ならその構図に心当たりがある。
初代国王の従魔で、ケセランパサランのキュウのようだ。
その伝説と同じように竜と戦うネグロに、フェルナンドは驚きが隠せないでいた。
「ナンパ王子! お前もこいつらの相手しろ! 俺はセントロの奴の相手をする!」
「わ、分かった!!」
ファイヤードレイクはネグロが相手してくれる。
上空の敵を相手にするのは苦だろうが、残ったゲオルギウスとワイバーンはネグロの魔法によって羽をやられて飛べなくなっている。
1度対戦した経験から、俊輔はフェルナンドの実力なら2頭相手でもなんとかなると判断し、相手をするように指示を出す。
「アスル! ナンパ王子と共に戦え!」
「…………【了解っす】!!」
フェルナンドだけでもゲオルギウスとワイバーンの相手はできるはず。
しかし、どうもフェルナンドの表情が優れない所を見ると、どこか痛めているのかもしれない。
そんな状態だろうと、自分はセントロを相手にしなければならない。
アスルは、鳥の魔物でもアベストルースと呼ばれるダチョウの魔物のため、ネグロのように空が飛べない。
そのため、俊輔はアスルにフェルナンドの援護をさせることにした。
主人の指示に対し、アスルは念話で答えを返した。
「行くぞ! アスルとやら!」
「…………【うっす】!」
自分を倒した俊輔の従魔だ。
あのキュウと言う丸烏同様、このアベストルースのアスルもただの魔物ではないのだろう。
俊輔にセントロの相手を取られるのは癪に障るが、エルフ王国や世界のことを考えると、そんな事を言っていられない。
むしろ、自分に勝った俊輔に戦わせた方が確実だ。
そう考え、フェルナンドはアスルと共に、ゲオルギウスとワイバーンに向かって走り出した。
「チッ!! ふざけた従魔を使役しやがって……」
「俺からすると、それは褒め言葉だね」
竜たちの相手はネグロたちに任せ、俊輔は元凶となるセントロを相手にすることにした。
他の魔物の邪魔がなくなった俊輔は、セントロと対峙する。
ファイヤードレイクを相手に、互角の空中戦を繰り広げる丸烏。
セントロは、そんなネグロのことを忌々しそうに呟く。
そう言われることは、幼少期から育ててきた俊輔としては、鍛えた甲斐があるというものだ。
「なあ……、その体エステのものなんだろ?」
「その通りだ。だから何だ?」
どういった方法かは分からないが、セントロがエステの体を乗っ取ったらしい。
そのことを、俊輔は確認の意味も込めて再確認した。
問われたセントロは、その質問の意味が分からないため質問で返した。
「中身がどっちでも関係ねえな。エステの奴に東の危険ダンジョンに送り込まれた借りを返してやる」
幼少期、大陸へと向かう途中、船が沈没して東の危険ダンジョンに流される結果になった。
その船を沈没させたのは、エステだと俊輔だけは分かっている。
流されたその日から、危険な魔物から生き残るために地獄の日々を送ることになった。
その状況に陥れた時の恨みは、晴らさないと気が済まない。
「……送り込まれた? 東のダンジョンに入ったことがあるような言い方だな?」
「入ったよ。んでもって攻略した」
「っっっ!!」
俊輔の言葉に引っかかりを覚え、セントロはその意味を問いかける。
その問いの答えを聞いて、セントロは目を見開いた。
「貴様か……。貴様がダンジョン攻略をした奴か!?」
「当たり前だろ? ここにいるんだから」
実力を考えると、セントロはフェルナンドが攻略したのだと思っていた。
しかし、それは自分の勘違いで、目の前にいる俊輔が魔王復活を阻止していた張本人だと分かり、セントロは怒りが沸き上がった。
そんなセントロに対し、俊輔は平然と答える。
あのダンジョンは攻略しないと脱出できない。
なのに自分がここにいるというのだから、聞かなくても分かるはずだ。
「じゃあ、北と西も……」
「あぁ、俺が攻略した」
あの危険なダンジョンを攻略できる人間が、そう何人もいるとは思えない。
そうなると、セントロはもしかしたらと北と西のダンジョンのことも尋ねる。
その質問に、俊輔は当然と言いたげに返答した。
「貴様!! 殺す!!」
俊輔の返答を受けたセントロは、更に怒りが膨れ上がった。
そして、この場で俊輔を始末するため、全身に魔力を纏った。




