第2話
「おい龍、俊輔はどこ行ったか知ってるか?」
「んー? さぁー? 朝早くからずっと見てないよ」
「また農作業から逃げやがったな?」
最近よくあるやり取りである。
「まあまあ、あいつもまだ子供なんだから……」
「兄ちゃんの言う通りだよ父ちゃん……」
俊輔の父である田茂輔が俊輔の兄二人に俊輔の居場所を聞いて兄達がなだめるのが恒例になっている。
「お前ら……」
父は目を細めて二人をにらむ。
「な、なに?」
「お前らあいつがいつも、鳥やら兎なんか狩ってくるからわざとほったらかしたんだろ!」
この村から少し離れた小高い山は、魔物が出ることはあまり無く小動物が生息している。
最近はここで狩りをしてから帰るので、兄達は俺が出かけるのを見過ごしてくれている。
何故なら兄達は今15才と14才で食欲も増えてきている。
その為、野菜中心の食事では少々物足りないなか、動物を狩ってくる俺のことをよく両親に内緒でほめてくれる。
転生してからよく思うようになったのは、異世界とはいえまた新しく人生をやり直すことになったのだから、興味を持ったことにまっしぐらに生きようと思っている。
そして今興味を持っているのは、魔力の操作である。
京子の家で見つけた本にはたいした魔法は書かれていなかったけれど、魔法があると知り覚えておきたかったのが鑑定する魔法だ。
食材の鑑定は元より、魔物の能力を鑑定できることは、この世界では生きて行くのにとても重要だと思っていたからだ。
本に簡単に書いてあったのは、魔力を操作して目に集中させて鑑定の呪文を唱えることで鑑定することができるようになるらしい。
さらに魔力の操作は魔獣などと戦闘する時にとても重要な能力になる。
この国、日向の国は魔力を体に纏って戦う技術、魔闘術が使えることでこの世界で名を馳せた国である。
京子が読んでくれていた物語の中にも書かれていた。
この世界は魔人が住む魔人大陸、獣人が住む獣人大陸、人族が住む人族大陸の三つに別れていて、三つ巴の状態である。
その中で、獣人族との戦いの時、身体能力がとても高い獣人相手に劣勢だった人族を、魔闘術を操り獣人以上の戦闘力で戦況を五分にし、休戦に持ち込んだのが日向の国の侍達である。
「さてと、今日もやりますか……」
俺は両親には注意されていたけれど、小高い山のさらに奥の魔物が出る森に入っている。
年齢が5才になってから漸く、魔闘術と鑑定術がある程度使いこなせるようになった為、少しずつ魔物と戦うようになり今は7才になった。
“ガサガサッ……!”
「おっ?」
「ゲギャギャ……」
生い茂った草の間から醜悪な顔をした身長は1メートルちょっとの小鬼が現れた。
「何だまたゴブリンかー」
RPGでお馴染みのゴブリンである。
安全確保の為、まだそれほど森の奥深くには入らないようにしている為ゴブリンやスライムなどの低級の魔物しか現れない。
最近では、魔闘術を使わなくても少数なら相手にならなくなってきた為ちょっと飽きてきている。
「ハッ!」
「ギャッ!!」
俺は自分で削って作った木刀で胴打ちを行い、あっさりとゴブリンを絶命させる。
最初は多少の躊躇があったけれど、その躊躇が命取りだと思ってからはできる限りさっさと倒すのが一番だと思っている。
「今日はいつもより森の奥に行こうかなぁ」
森の奥深くには醜悪な豚の顔をした人型の魔物のオークや狼のウルフなど大人でも危険な魔物が出る事があるので村人はまず入って来ない。
今ではそれらの魔物が出ても魔闘術を使えば苦にはならないので、人気の無いこの辺りで魔法などの練習をして暇を潰している。
「今日も特に変わらないなぁ、ん?」
いつも通り森をブラブラしていたのだが、生まれてから今まで見たことがない二人の人間が遠くを歩いているのを見つけた。
「あっ! 外国人だ……」