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第296話

「グルル……!!」


「ニーズヘッグだと……」


 目の前に現れた魔物に、フェルナンドは驚きを隠せない。

 エルフ王国内には、初代国王の時代から戦闘訓練用ダンジョンが存在している。

 そのダンジョンで訓練を重ね、この国の騎士は実力を上げる。

 王子であるフェルナンドも当然そのダンジョンで、様々な魔物との戦闘訓練をおこなってきた。

 なので、大抵の魔物との戦闘は訓練してきたが、竜種となると別だ。

 竜種の魔物は滅多なことでは出現しない。

 それだけこの世界において強力な種族ということだ。

 いつどこで生まれどこに生息しているのかは分からず、姿を現した時は巨大な被害をもたらす天災のような存在。

 それが竜種の魔物だ。


「地獄竜……」


 フェルナンドが呟いた通り、ニーズヘッグには別の呼び名も存在している。

 大昔に姿を現した時、いくつもの国を消し去ったと言われていることから、地獄竜という名を付けられている。

 図鑑に載っている伝説の魔物で、翼の生えた四足竜。

 それが目の前にいるのだから、驚かない方がおかしいというものだ。


「グルァ!!」


「っ!!」


 セントロの指示を受けたニーズヘッグは、背中の翼をはためかせ上空へと飛翔する。

 飛び上がる時に巻き起こった風の威力だけで、魔闘術を使えない人間は簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。

 その強風に耐え、フェルナンドは舞い上がったニーズヘッグの動きに注視する。


「ガアァーー!!」


「くっ!!」


 ただ跳び回る速度だけでもとんでもないというのに、ニーズヘッグは落下による加速を利用するようにフェルナンドに迫る。

 地上スレスレを水平飛行しつつフェルナンドに迫ると、ニーズヘッグは右前足を振ってその爪で攻撃してきた。

 その攻撃を、フェルナンドは横へ跳ぶことで回避する。


「グルル……」


 攻撃を躱されたニーズヘッグは、一気に高度を上げて旋回し、またフェルナンドへと狙いを定める。

 そして、すぐに先程と同じように落下をし始めた。


「同じ手が通用するか!!」


 先程と同じように、落下から地上スレスレの平行飛行へ移ったニーズヘッグ。

 また同じ攻撃をしてくるのを、フェルナンドは銃の引き金を引いて迎え撃った。


「ガウッ!!」


「なっ!?」


 フェルナンドの攻撃が当たると思った瞬間、ニーズヘッグは僅かに飛空している体を傾ける。

 それだけで飛んできた攻撃を避け、そのままの勢いでフェルナンドに攻撃をして来た。


「ぐっ!!」


 攻撃を躱されたことで僅かに反応が遅れたが、フェルナンドはニーズヘッグの爪攻撃をギリギリのところで躱し、巨体が通り抜ける時の強風に備えるために足に力を込める。


「ガウッ!!」


「っ!!」


 先程と違い、ニーズヘッグはそのまま通り抜けるようなことはしない。

 通り抜ける時の強風に備えるために踏ん張ったことによる僅かな停滞を見逃さず、フェルナンドに尻尾を振ってきたのだ。


「グアッ!!」


 まさかの攻撃に、フェルナンドは驚きつつも反応する。

 刀を盾にして、尻尾攻撃の直撃を避けようとした。

 エルフの中でも膨大な魔力量を有するフェルナンドだからこそ、魔闘術による身体強化によって反応できたと言ってもいいだろう。

 しかし、そのフェルナンドの魔闘術であっても、ニーズヘッグの攻撃に耐えきれず、その場から吹き飛ばされて行った。


「くっ!」


 吹き飛ばされたフェルナンドは、何度も地面を弾んで転がることで勢いが治まる。

 倒れたままでは追撃を受ける可能性があるため、フェルナンドはすぐさま立ち上がる。

 フェルナンドが顔を上げると、ニーズヘッグは高度を上げて旋回している最中だった。

 この場が砂浜で助かった。

 もしも、地面が硬かった場合、もっと大怪我を負っていてもおかしくなかった。


「無傷じゃないけどな……」


 自嘲気味の笑みを浮かべつつ小さく呟く。

 刀を使って防いだことで、大怪我を負わずに済んだ。

 しかし、無傷ではない。

 脇腹に感じる痛みから、恐らく骨にヒビが入っていることだろう。

 この程度の怪我なら、フェルナンドは回復魔法を使ってすぐに治せるだろうが、敵がそれおこなうだけの時間を与えてくれそうにないため、痛みを我慢して戦うしかないようだ。


「グルァッ!!」


「この野郎!!」


 フェルナンドに狙いを定めるように、上空を旋回するニーズヘッグ。

 どことなく余裕を見せるその態度に、フェルナンドはいら立ちを覚える。

 上空にいるニーズヘッグに銃を向けて、魔力弾を連射する。


「グルル……」


「チッ! でかいのに速いな」


 ニーズヘッグは翼をはためかせることで上空を移動し、迫り来る回避する。

 口角を上げて声を漏らしている所を見ると、嘲笑っているようにも見える。


「そう言えば、伝説では多くの人間を嘲笑いながら殺したと言われているんだっけ……」


 ニーズヘッグの笑みを見て、フェルナンドは思いだした。

 昔現れた時、ニーズヘッグは今と同様上空で有利な立場に立ち、多くの人間を殺して回った。

 まるで楽しむかのようなその姿から、嘲笑い殺戮する竜とも言われるようになった。

 本でしか見たことなかったが、空の飛べない人間からすると、これほど戦いづらい相手はいないかもしれない。


「さて、エルフはニーズヘッグに任せて、私は魔王様の封印解除に向かうか……」


 ニーズヘッグを召喚したセントロは、気配を消して完全にフェルナンドの意識から外れた。

 一緒になってフェルナンドの始末をしても良いかもしれないが、それより目的は魔王の復活だ。

 この間に行ってしまおうと、セントロは封印の地へと足を向けた。


「っ!! 貴様!! 行かせるか!!」


 ニーズヘッグにばかり気が行っていて、セントロのことを忘れていた。

 そのことに気付いた時には、セントロはもうこの場から離れていっていた。

 狙いは魔王封印の地だと判断したフェルナンドは、セントロを止めるべく追いかけようとした。


「ガアァーーー!!」


「っ!! くっ!! 邪魔な……」


 セントロを追いかけようとしたフェルナンドに、ニーズヘッグが阻止するように攻撃してくる。

 まるで、自分を無視するなと言っているかのような行動だ。

 邪魔するだけのような攻撃のため躱すことには成功したが、その間にセントロが離れていってしまう。

 そのことにイラ立ちつつも、ニーズヘッグも放っておく訳にはかないため、フェルナンドはどちらを優先すべきか考える。


「「「「「殿下!!」」」」」


「おぉ、来たか!!」


 この海岸へ向けて足音が迫ってくる。

 エルフ王国の兵たちが援軍に来たようだ。

 これで少しの間どちらかの足止めをしてもらうことができる。

 ピンチの状態だったフェルナンドは、若干光が差したような気がした。



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